回生のライネル~The blessed wild~   作:O-SUM

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○前回のあらすじ

 ・南西東の魔物混合軍、敗北(原作に無い捏造戦)
 ・賢者の走馬灯タイム継続中



賢者のバラッド ~祝福と夢の終わり~

   *   *   *

 

 

 ――長い月日が過ぎた。

 

 

 (……あぁ、いや。どうだっただろう? )

 

 時間にすれば恐らくは、季節が数十回と巡ったほどの年月が経っていたはずだが。

 

 いつの間にか回想していた私の主観としては、あの日出会った小僧と共に過ごしてきた時間は、それまで【ライネル】と名乗ってから一人で過ごす中で感じていた時間と比べて、遥かに速く流れていたように思えてならなかったのである。

 

 どういう事情か、小僧が生まれ持ったらしい高い魔力と強靭な肉体。

 それらの備えた力によって、本来ならば大人の戦士であっても悲鳴を上げかねない教育であっても、効率良く己に取り込ませることが可能であることに気付けたのがその始まりだった。

 

 当時の小僧はまだ、幼児とも言える外見であった。

 ある程度の年齢に育つまでは、本格的な修行には耐えられないだろう。その時点の我が身の衰えを考えれば、恐らく完全な技術の伝承は難しい…… そんなことを覚悟していた私にとって、この事実は紛れもない福音であった。

 それからの小僧との共同生活において、この者が子供であることを前提とした様々な配慮を辞めよう、そう決意できた。

 これは早く強くなりたい、認められたいという願いを持った小僧にとっても、望外の幸運であったに違いなかった。修行の密度を高めると告げた時の、震える歓喜の表情はなかなかに印象的だったのを覚えている。

 

 ……それ以来、里々に立ち寄るたび「これは虐待ではない、弟子に対する修行だ 」―― そう言って同族達にいちいち説明しなければならなくなったのだけは、何とも鬱陶しかったが。

 

 剣を振らせれば振らせただけ、矢を撃たせれば撃たせるほど強くなった。

 知識を学ばせれば砂漠の平原のようにそれを吸収し、教えた技術を体格の違う自分にどうやれば馴染ませることが出来るかを考える応用の力も持っていた小僧は、日々激しくなる修行にも喰らいついてみせた。

 そして出会った時から心の中心に据え続けている、強者が持たなければならない勇者の精神が日々まっすぐ育まれている様子が折に触れ覗くことが出来る瞬間が、私の心を躍らせ続けたのだった。

 

 充実していた。

 楽しかったのだ。

 

 そうすることが当たり前のように。

 そうなることが決まっていたかのように。

 小僧は逞しく成長し、武を極め、持つべき心構えを形成していった――。

 

 

 

 

 

 そして今日。

 

 既に成人を迎えて久しい小僧は、「小僧」ではなくなっていた。 

 武力と智性は小僧の中でしっかりとした根を張り、正しい強者の形を持った大輪の華を咲かせていたのだ。

 あとは咲き誇るその希代の華に相応しい名前を、私が授けるだけである。

 

 いよいよ迎えられた、収穫の時。

 同族達に広く知らしめるために執り行われた今日の『決闘』こそが私にとって、満願成就を果たす『命名式』であった。

 

 

 「……私の勝ち、ですか? 」

 

 「……そうだな。お前の勝ちだ 」

 

 私の撃ち込んだ3本の矢を全て斬り落とし、そのままの勢いで突っ込んできた小僧の剣が今、私の首筋に添えられていた。矢筒へ収めていた総数と同じ数だけ吐き出された矢は、小僧の持つ剣によって阻まれ、その身へは一つとして届いていない。

 【ライネル】の矢が放たれるたびに、挑戦者は体から血を流し、地面に膝を着く――。それがこの永い年月を掛けて行われてきた、私が関わる『決闘』の光景であった。

 

 しかし今回、【ライネル】の矢は挑戦者の剣によって、その全てを地面に転がる残骸にされた。

 撃ち出された矢は衝突の際、往年と変わらぬ轟音を持って見守る同族の鼓膜を震わせてみせたというのに、百を超える数だけ空にその炸裂音を響かせてなお、挑戦者は立っていた。

 そして残っていた最後の矢をも迎撃して見せた後、武器を持ち替えさせる間を与えないほどのスピードで持って【ライネル】に肉薄。抜刀させることなく勝負を決着させたのだ。

 

 血をもって代替わりすることが通例である決闘において、圧倒的な力の差によってなされた無血の決着であった。 

 時代が変わる瞬間を目にした周囲の同族達が、思い思いの咆哮を轟かせる。

 そこに否定の感情は皆無であり、新たな継承者を『認める』叫びに奮えていた。

 

 「……【ライネル】 」

 

 私の首元に添えていた剣を引き、目の前の男が正面から声を掛けてくる。

 周囲の喝采を受け、精悍な顔に静かな喜色を滲ませた青年の、とうの昔に声変わりを果たした低い声が、あの頃を思い出していた私の意識を引きつけた。

 

 あぁ、呆けている場合ではない。

 今は彼を、力の限り祝福してやらねばならない。

 

 「皆がお前を認めている。ここまでお前が強くなってくれたことが、私には本当に嬉しいよ。……もっとも『炎』を使った上での殺し合いなら、まだまだ負けるつもりはないのだがな? 」

 

 ……あぁ。

 なぜここで、負け惜しみが出るのだ……。

 散々決闘で若い者達を蹴散らしてきた過去を、目の前の彼に釣られて思い出してしまったせいだろうか?

 もう私に、【ライネル】の名への未練など一欠片も残っていないというのに。

 

 彼は私の子供染みた言葉に苦笑しつつも、

 

 「殺傷が目的ではない決闘が『炎』を使わない取り決めであることは、貴方と戦う上でどうしても俺の有利が否めませんでした。……仕方ないですが、ルールに負けたと思って頂ければ 」

 

 炎の扱いに関してはまだまだ及びません(など)と、こちらを持ち上げた返答を寄越すのだった。

 

 

 ……頭の固い考え方をしがちな点が玉に瑕だったはずの小僧が、何とも気遣いに満ちた言葉をひねり出してきたものである。これではまるで、私が駄々をこねる子供のようではないか。

 

 高い魔力と強靭な肉体に奢ることなく、剣に槍、弓に盾と、あらゆる武器と肉弾による格闘を含めた戦闘術を極めて高い純度で身につけた彼の戦力は、もはや全盛期の私と比べてなお優れたモノであることを、私は知っている。

 コチラが持つ最強の武器が弾数に限りがある弓矢であり、それをわずかな負担で捌くことが彼の剣は可能とした以上。例え『炎』を用いて殺し合ったとしても、最後に軍配が上がるのは間違いなく彼だろう。

 

 「決闘」の場が血に染まらず、先代が意識を持って幕を閉じた記録は、ほとんどない。

 なぜならその時代の最強に君臨する者こそが【ライネル】であり、そんな存在に打ち勝つ者が現れるにせよ、その時両者の戦闘力は限りなく接近している場合が圧倒的に多いからだ。

 

 自らが相手を上回っていると思えたならば、何を置いてもその至高の座を奪い取る。

 それこそが魔物の強者というものであり、戦士の本懐であった。

 私の先代も私自身も、そうした欲求に従って頂点に挑み、そして最強の底力に予想以上の接戦に持ち込まれ、それでも血に塗れた手で頂点を奪ったのだ。

 

 今回のように、『怪我をさせたくないから圧倒的な力の差が開くまで挑戦を控える 』という選択をした挑戦者などは、恐らく前代未聞に違いない。もう随分と前には私への勝算があったはずの彼が私に挑まなかった理由など、恐らくこんな所だろう。

 これをもって、弱肉強食の理に生きる強者の心構えが出来ていないと叱責することも闘う前には考えていたが、それも決闘で自分が勝っていた場合に初めて垂れることの出来る類の説教だった。

 

 結果は出たのだ。

 圧倒的強者が手を抜いて、それでも弱者を優しく倒してみせた。

 ただそれだけのこと。

 武の頂点を争って負けた戦士が、勝者に向けて勝ち方の講釈をするなど、滑稽に過ぎる。

 

 ――そう。

 彼は今間違いなく、この場に集まった誰からも認められ、尊重されるべき『強者』となったのだ。

 

 

 

 (……本当に、私は老いていたのだなぁ )

 

 今ほど切実に、自身の『老い』を感じたことはない。

 

 私より強い同族が、目の前にいる―― 【ライネル】として、これ以上に胸を掻き毟られるような屈辱は無いはずという状況のただ中にいるというのに。

 胸の中には悔しさなどの負の感情は僅かもなく、複雑に混ざり合った正の感情が昇華した独特の喜びが詰まっているばかりであったし。…… そんなものによって押し上げられ、目の下に込み上げてくる熱を浮かび上がらせないよう、必死に意地を張る作業しか出来なくなっていたのだから。

 

 

 ……多分、そんな自覚のせいなのだろう。

 自身の感情を宥めることに精一杯であったにもかかわらず、本来なら勝ち名乗りと共に拳でもさっさと突き上げていれば良いのに、こちらをじっと見たまま微動だにしない彼の目の奥。そこに「期待」に類する感情が灯っていることに気付けたのは。

 そしていつまでもしかめっ面のまま動かない主役のせいで、いつの間にか周囲に沸いていた祝福の咆哮が尻すぼみに消えていた場の空気を、再び今度は私の手で沸かせてやってもいいかと思えてしまったのは。

 

 この場に集まった誰からも認められた男が、それらを脇に置いて私の祝福を待っている。

 自分で名乗を上げるのではなく、最初に私に呼ばせて『私に認められる』ことを、望んでいる。

 

 これは強者の振る舞いではない。

 ただの、子供のおねだりにしか見えなかった。

 

 

 (甘えたガキめ…… )

 

 やはりまだ、心の修練は続ける必要がありそうだった。

 

 

 

 ――それでも結果は結果だ。

 私が求めた『命名式』の締め括りでもある。

 

 あの日に出会ったかつての小僧だった男の腕を取り、そのまま天高く掲げる。

 全ての同族達に、新しい勇者の誕生を知らしめるために。

 最後の試練を見事に越えてみせた大輪の華に向け、私はかつて自らがそう呼ばれてきた、至高の称号を高らかに贈った。

 

 

 「見てくれ、世界よ! 伝説に語られし戦士の始祖達よ!!

 この者こそが私の後継! 最強を継ぐ者! 魔物の守護者!!

 

 今この瞬間ただの戦士となった我、ネメアンの名において認めよう! ――――が、新しき【ライネル】であると!! 」

 

 

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 ……かつて私が全盛期を過ぎてもなお、彼に敗れるまで最強の地位に居座り続けることが出来たのは、【ライネル】として偶像化されてしまったことによる挑戦者の減少だけが理由ではない。

 最も大きな要因は、老いに左右されにくい技術を使いこなし、若い戦士達に勝る武力を晩年まで保持し続けた点にある。

 

 一つは弓。

 遠く離れた対象をあらゆる軌道をもって確実に貫く、複数本からなる変幻自在の矢。

 この戦場に投入され、何体もの血気盛んな同族達をも屠った2つの自動兵器を破壊出来たのは、長年の修練で研ぎ澄ませてきたこの技術があったからに他ならない。

 

 そしてもう一つが―― 魔力を元に「火球」を生成して吐き出す一族の中にあって、他者には決して真似出来ないほどの超々高温にまで魔力の炎を圧縮可能な、極めて優れた炎熱操作の能力であった。

 

 

 

 

 

 

 ……もう、いいだろう。

 暖かい記憶を振り返るのは、ここまでにしなければならない。

 

 あの日の決闘では使わなかった『炎』。

 思い出すことは、集中することはそれだけで良い。

 

 この技を見せたことがあるのは、そのとき後ろで見ていた彼だけだ。

 それ以外にこの『炎』を見たことがある者は全て相対していた敵であり、そしてその者達は例外なく焼き尽くされて、全てこの世を去っている。

 

 対戦者にも、そして己自身にとってもリスクが高過ぎる技だからこそ、同族に対して行う『決闘』では、決して使うわけにはいかなかった。

 

 

 

 これは相手を殺す時にしか使えない技。

 

 ――必殺を誓う時にのみ、使うのだ。

 

 

 

 




 次回、原作ライネル族最強の「初見殺し」登場。

 見た目や弓と並んで強烈な印象を誇るアレは、ライネルを語る上で外せませんね。
 原作未プレイの方にも伝わるように文字で表現出来ると良いのですが。

 ……本当は今話に含めたかったのですが、設定盛り盛りで書いてたら文字数アホみたいに増えてしまいましたので、今回は短め分割投稿です。

 ※現【賢者】にして先代【ライネル】の『ネメアン』=キタッカレ平原のライネル
  名前元ネタはギリシア神話に出てくる「ネメアの獅子」から。
  他のモブライネルと比べて、ちょっと特別扱いしています。
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