回生のライネル~The blessed wild~ 作:O-SUM
【悲報】この作品の姫様、行動も言動も全て裏目【無才の姫】
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大陸の北と南に別れた場所で発生した、大量の魔物同時襲撃事件は、英傑達が率いる人族側の戦力によって無事に終結した。
辺境に位置する場所に作られた村、特に南部に点在していたモノにおいては、事件発生の初期段階において魔物達の襲撃に見舞われて少なくない犠牲者を生んでしまった。
しかし、その後迅速に行われたハイラル王国主導の手厚い補償がもたらされたことで、生き残った者達は悲しみを抱えながらも絶望を長く引き摺ることなく、今は愛した村を一日でも早く復興させようと身体を動かしていた。
北の地にて遺物調査を行っていたゼルダ姫は、魔物の大集団に襲われるも英傑のリーダーが傍にいたことでこれを無事に撃退し、難を逃れたとのこと。その際に挙げられた報告の中には「出会うことは死を意味する」と言い伝えられるライネル族の最強種をはじめ、まず人の世界では目撃されなかった強力な個体の登場も確認されている。
いよいよ厄災復活の時が迫っているのかもしれない―― そう結ばれた報告書には、かつてその出現を預言した占い師の言葉を裏付けるような、不穏な真実味が宿っていた。
しかし、それでも人々の目に諦めや絶望の色が浮かぶことはない。
北でそうした強靭な魔物との遭遇が起こっていたのを余所に、時を同じくして異なる人種2000人で構成された四英傑が率いる人族連合軍と、200を数える魔物の群れによる大規模な合戦が、大陸は南の地で行われていた。
人族と魔物。この両者間で行われる闘争は小競り合いを含めれば膨大な記録が存在するが、【厄災ガノン】が地上に顕現していない環境に限定すれば、これは過去類を見ない人数が動員されたものだった。
……しかし従来であれば多くの死傷者が見込まれただろう、そんな規模の戦場ではあったが、蓋を開けてみれば圧倒的な人族側の勝利に終わったのだ。
その結果は言うなれば、この時代の人族が魔物の力を完全に上回ったという証。
古代の先人達が現代に遺した強力な兵器群。
今を生きる技術者達が心血を注ぎ作り上げた、どんな魔物も斬り裂ける武具。
そして、当代最強の英傑達。
これらを擁して見事魔物の大群を退けたという事実が、例え相手が【厄災】であっても自分達は戦えるという確かな希望を人々に与えていた。
――いざ【厄災】が復活する、その時までは。
かつて占い師が預言したその時が来たのは、唐突であった。
多くの民にとっては何でもないその日。
【厄災】本体に確かな効果を挙げることが期待される超大型の古代兵器『神獣』の調整が一通り終わり、その操縦者である4人の英傑達が修行から帰還する"姫巫女"をラネール山の麓で出迎えるべく集まっていたその日。
英傑が出迎える中、もし目覚めるとしたら最も確率が高いと縋っていた『知恵の泉』での祈りを以ってしても自分の血に眠っているはずの封印の力は覚醒しなかったと、姫巫女が無言で首を振るしかなかったその日。
最後の賭けとして赴いた『知恵の泉』から消沈して戻ってきたならば、10年間の長きに渡って王家の責務を強制してきた娘と、父の顔で話し合ってみようと決心していた王が待つハイラル城―― その人間国家最大の都市を呑み込むようにして、【厄災ガノン】は顕現したのである。
事の始まりを告げたのは、僅か5秒にも満たない地震。
前震や余震を伴わない揺れは、山を崩し地面を裂く―― などといった天変地異を伴うものではなかったが、それでも武の頂きに君臨する英傑達のバランスを失わせるほどの震えをもって、大陸中を駆け抜けた。
地に足をつけて生きる人間達のほとんどは地に跪かされたその震動が収まる頃、多くの者は頭上の安全を確認するべく『上』を見上げた。例えそこに何はなくとも、落下物の有無を反射的に確認することは生物として当たり前の行動だった。
……その時、屋内にいた者は幸せだったと言える。
例え僅かな時の逃避に過ぎないとはいえ、安穏とした日常に終わりを告げるモノが世界に滲み出てくる絶望の様を、その眼に焼き付けられることだけはなかったのだから。
――そして不幸にも屋外にいた者は、その光景を見てしまった。
晴れ渡る柔らかな夕刻の空、輝く朱金色に染まる空間を塗り潰すかのごとく漆黒の闇色が広がり、腐肉から滲み出る分泌液を思わせる薄汚れた紅の輝きが稲光となって、汚れた空に満ちていく。
そんなモノによって覆われた空を見上げる地上もまた同様の気配が溢れ、絢爛豪華にして荘厳な佇まいを誇っていたハイラル城は一瞬にして、おぞましい地獄さながらの雰囲気を湛える影に包まれた。
……この瞬間より。
後の世で挙げられる【厄災】を逃れた生存者を確認する報告書の中に、当時城内に詰めていたとされる三桁を越える人間達の名前が挙げられることはなかった。それは、権力の頂点に君臨していた王にして"姫巫女"の父、ローム・ボスフォレームス・ハイラルの名も例外ではない。
それは生贄なのか食事だったのか、それともただ近くにいたから殺されただけなのか……ただ分かっているのは、その汚染された空と地にかつてあった多くの命は、完全に失われたということだけ。
瘴気と死に満たされた宙を
城下に住まう者達は、国の中心にいきなり出現したその姿を目の当りにして、その生物の本能を強く刺激する恐怖に竦み上がる。神話を知らない子供、伝承に明るくない一般人であっても、その吠え猛る様子は世界を呪うモノであり、とても良くないモノであることを理屈抜きで直感させられた。
その姿を直視してしまった彼らの行動は実に様々であった。たまらずその場にへたり込んでしまったまま動かなくなった者もいれば、ひたすらに女神の名を唱える者、力の限り金切声を叫ぶ者、老人や子供を押し退けながら我先に逃げ出そうとする者などが城下の中に溢れ返る。およそ考えられるだけの『混乱』を身体全部を使って表現する彼らの様子は、人ではなく獣の群れを思わせるモノだった。
……しかし、勇敢に立ち向かうことを選ぶ者達もいた。
その者達こそ、突如現れたその影が【厄災ガノン】であることを知れるだけの知識を持ち、その対策を任されていた者達。
英傑、姫巫女―― そしてこの国に住まう者を守護する役目を持った、大勢の兵士達であった。
先の魔物達との戦いを経て、自分達がどれだけの力を蓄えるに至っているのかを実感していた彼らは絶対の恐怖を前にし、それでも踏み止まれるだけの精神を獲得していた。
1万年の間ただ変わらず封印されていた過去の怨霊に、発展を積み重ねた自分達が決して負けるはずがないのだと己を鼓舞するその心の在り方は、護国の戦士と呼ぶになんら恥じる点などありはしない。
一兵の末端に至るまで宿ったその勇気は、彼らに握る武器の握力を弱めることを許さなかった。必ずや1万年前の先人が成し遂げた偉業に続くと、震える脚を叱咤してみせたのである。
だがその『勇気』が美しく輝いていられたのも、僅かな時間だけであった。
彼らが頼みとした先人達の遺産である古代兵器。
そのことごとくが【厄災ガノン】が持つ恐ろしい力の前に屈し、制御の全てを奪われてからは、瞬く間に人々の行動は儚い『抵抗』へと姿を変えてしまった。魂なき兵器達は憎悪と怨念の意思に満たされ、破壊と絶望を撒き散らす殺戮の化身となったのだ―― それも兵士達が【厄災】と対峙するべく築いた戦線の内側に抱え込まれた状態で、である。
ハイラルの勇者を護り、姫が持つ封印の力を支えるはずだった4つの『神獣』は、操縦者としてその身に収めたはずの四英傑を、巣食われた厄災の化身に従って皆殺しにした。
無数の『ガーディアン』はその攻撃対象を【厄災ガノン】から【人】へと変え、
予想だにしなかった混沌に包まれる事態の中、それでも必死に抗うべく胸に勇気を宿し続けた者達がいなかったわけではない。特に「近衛」と呼ばれる王国の最も大事なモノを守るために存在していた騎士達などは、最も迅速に事態への対処に動いた集団の1つだっただろう。構成する人員のほとんどは王城に詰めていたためにその数を本来より多く減らしていたが、残っていた彼らは魔物との戦場でも猛威を振るった黒い武具を手に、暴走する古代兵器から民を守るべく王都を走り回った。
……しかし、それこそが儚い『抵抗』の象徴だったのかもしれない。
太古の王国を支えたシーカー族。
今は失われてしまった彼らの技術によって造られたのが『神獣』や『ガーディアン』と呼ばれる古代兵器である。
それらの性能は後の世に培い、今も日進月歩で進む技術で生み出す機械よりも遙かに優れていたために、現代の技術者は古代の技術力を凌駕する兵器を求めるのではなく、それらを補う形で戦いをサポートすることに主眼を置き、その英知を注いだ。
そうして古代の技術を可能な限り吸い出し、現代のそれと混ぜ合わせて求めた試みの中に生まれた1つの成果こそが、「近衛」が擁する黒い武具。耐久力を犠牲に過去類を見ない攻撃力を発揮する『近衛武具』であった。
しかしその「矛」が持つ絶大な威力を十全に発揮させるためには、「盾」となる『ガーディアン』の存在が不可欠であり。
その「盾」そのものが敵に回った以上、技術力の格差と圧倒的な耐久力の差は故事にある矛盾の結果を演出することなく、「矛」をただ砕くだけの戦闘が王都のそこかしこで生まれ、消えていった。
解放の喜びと世界への憎しみに
憎悪と怨念の根源を食い止める2つの力の片割れが欠けたまま、それを補う4人の英傑も既に亡い。現代の技術の粋を凝らそうとも及ばない古代の力も丸ごと奪われてしまった以上、人間達に【厄災】を跳ね除ける術などありはしなかった。
……抗う者がいなくなる。
そして守られていた者達にも、破壊と絶望の爪は躊躇いなく振り下ろされた。
そこに分け隔てなどはない。
ソレは【厄災】と呼ばれた存在なのだから。
だからこの日に王国を襲った悲劇の結末は、以下の一文によって締められる。
――ハイラル王都は、【厄災ガノン】によって滅ぼされた。
* * *
……やがて国そのものが厄災の猛威によって滅びた後、"剣"の勇者が致命傷に倒れる姿を切っ掛けに、とうとう"姫巫女"は封印の力を目覚めさせるに至った。
力に覚醒した彼女は己の務めを果たすべく再び崩壊した王都に現れ、王城に君臨する【厄災】と対峙したという。
――その結果"姫巫女"が自らを媒介にして施した封印の枷に掛けられ、【厄災】は再び女神の力によって縛られることとなった。
封印を掛ける者と掛けられたモノ。
両者の姿がこの世界から消えたことにより、ようやく訪れた平穏に生き残った人々は安堵する。
……しかし、それは封印の力の片割れを担う"剣"を欠いたままにもたらされた、不完全なものに過ぎなかった。1万年もの間【厄災】を縛り続けた前回よりも遥かに脆いその封印では、地上に影響を及ぼす悪意に満ちた魔力の波動を、完全に抑え込むことは不可能だったのだ。
それゆえに。
蒼さを取り戻したハイラルの空は時折、憎悪と怨念に満ちた咆哮に震えていた。
* * * * *
――時は【厄災】が復活を迎えるその日までに遡る。
オルディン峡谷。
そこに連なる山々の一つでかつて行われた戦場には、野晒しのままに放置される大量の魔物達の死体が名残となって転がっていた。
"剣"に討たれ、絶命したその日よりそのままであったそれらの多くは、獣や鳥にその身を啄ばまれるままにされたことで、今では元の形を保っている亡骸を見つけることは難しい。四肢はバラバラに千切られ、白骨を覗かせるままに捨て置かれている。
あと少し時間が経てば、腐臭すらも火山から流れる熱風に紛れて消えることになるだろう。
原型を留める例外は、山頂付近に転がされた一つの亡骸だけ。
かつて魔物達に【ライネル】と称えられた存在だったモノのみが、未だ往年の姿を想像させる形状を留めていた。
彼だったモノだけが四肢を保ったまま今も残っている理由は、単純にして明快である。
その死体は―― 硬かった。
死んでなおその肌は、あらゆる獣の爪牙で傷付けることは叶わなかった。肉体の活動が止まってから幾日と過ぎ、死後の筋肉硬直は既に抜けきっているにもかかわらず、今も筋肉は生前の鋼の如き堅牢さを保ち続けている。他の同族達の死体はとうの昔に蓄えていた魔力を霧散させ、ただの肉と化してしまっているというのに、その死体に充溢する魔力は薄れることを拒む意思が込められているかのように、生前と変わらず留まり続けていた。
だが、それは間違いなく死んでいる。
"剣"によって貫かれ、大きな穴を開けた胸はそれが死体であることに十分な説得力を持たせるものであったし、その穴から少しずつ、少しずつ獣に肉を掠め取られ、じっくりと体積を減らし続ける様子を見て、それが生を宿す存在であると勘違いする者はいない。
だからその日、【厄災】が復活して大陸中をその魔力が満たしても。
その時、天空にかかる満月の月光が、妖しく禍々しい紅に染まって地上を照らしても。
ソレは間違いなく死体であった。
『ブラッディムーン現象』―― 復活した【厄災】が人類の希望を根こそぎ呑み込み、世界が魔に染まる1つ手前の状況で無才の姫によってかろうじて保たれてからも、一定の周期でその輝きを変質させてしまった月の状態を指す言葉。
不変であるべき青白い静謐な夜陰は、不完全な封印では縛ることの出来なかった【厄災】の魔力によって侵された。穢れを纏って散った魔が再び現世に戻って産声を上げる、そんな悪夢のような光景が、魔の力を帯びた紅の月光が地上を照らすたびに大陸のそこかしこで生まれるようになっていた。
【厄災】の魔力が地上に蔓延するようになって以来、命を失った魔物は肉体の大部分を魔力そのものへと変え、それに包んだ魂と共に宙を漂うようになった。そしてその魂が赤い月の光を浴びて、再び現世に肉を得るのだ。
……だが【厄災】復活前に死んでいた魔物は、その限りではない。既に死んで消滅している魂は、【厄災】の加護が及ぶところではなかった。腐肉の欠片やバラバラに散乱する骨には、魔力の名残すら残ってはいない。
しかし。
【ライネル】だった物は、死後もその肉体に消えない魔力がこびりついていた。体積をすり減らしながらも、ソレは肉片や骨の残骸ではなく、確かに『死体』であり続けた。
……魂がそこに未だ存在していたかどうかは、誰にも分かることではなかったが。
魔力を宿した死体だったのだから、オルディン峡谷を照らす穢れた月光が雲の中に消えた時、光を浴びていたその死体が僅かな残滓を残して消失しても不思議ではなかったし…… 魂の有無が不明であったから、その時に【ライネル】が周辺に再誕しなかったとしても、取り立てて不自然なことではなかった。
【厄災】の魔力を持ってしてもオルディンの地で散った魔物達の中に、再びこの世に生を受けた魔物は存在しなかったのである。
――それから何年と過ぎ、何度となく赤い月がその空を汚しても、やはりその周辺に魔力と共に消えた肉体を再生させた【ライネル】が生まれ直すことはなかった。
――5年が過ぎ、10年が過ぎても、やはり結果は変わらない。
――20年、50年、75年。
――そして99年経っても、やはりライネルの上位種が新たに地上へ蘇ることはなかった。
99年後の地上を照らした赤い月は、それまでと同じように天寿を全うした魔物を除き、全ての魔を宿した生命を復活させる。
……けれど同時にただ1つだけ、余分な命を地上に再誕させてもいた。
その時の月光が地上に蘇らせた命は、人族への影響という点を考えれば取るに足らない魔物でしかなかった。
おこがましくも魔物の頂点に立つ【ライネル】と呼ばれた個体とは、まさしくあらゆる面で天地の差がある種族だったと言えるだろう。
赤い肌、短い
「始まりの台地」に生を受けたその魔物は、ハイラル全土の至るところに広く分布しながらも、徒党を組まなければ決して強い脅威にはなり得ない魔物であると人族に認識されていた。
この存在がもし人族と出会ったならば、相手は安堵と共に魔物を指し、こう呼ぶだろう。
――赤色のボコブリン、と。
今宵はダァレーがー 生ーまーれ変ぁわーるぅー♪(ディ○ガイア感)
1章完結。
「全部完結させるまで30話くらいかなぁ」と1話目時点では軽く考えてましたが、無計画にもほどがありました。今後1章より長い話数を費やす章は無いはずですが、全5章予定とか書いてちゃってる昔の自分に変な笑いが出ます。
原作が面白くて「ここどんな場所だったっけ? 」とプレイし直すたびに書きたいシーンがところてんみたいに沸いてきちゃうのが問題なんですよね。
初投稿&亀更新にもかかわらず、1万を超えるUAを重ねて頂いた読者の皆様、ここまでお読み頂き本当に有難うございました。今後とも気が向いた時にお読み頂けるようボチボチ更新していきますので、どうぞよろしくお願い致します!
あらすじの内容もようやく全回収出来ました。
せっかくなので、ここにおねだりを一つ置かせて下さい。
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