回生のライネル~The blessed wild~   作:O-SUM

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○前回のあらすじ

 ハイラルの勇者(だった青年)、目覚める。





∴ 青年と謎の老人

   *   *   *

 

 

 懸念していた服と靴は、幸いにも扉を抜けたすぐ先の空間で見つけることが出来た。

 

 かなり昔に作られていたようで所々ほころんでいたり、(たけ)(すそ)がちょっと短かったりしてはいたものの、着心地に大した違和感はなく、まだまだ普通に着られる代物だった。

 無造作に転がっていた箱の中から見つかった衣類であり、本来の持ち主がまだどこかにいるのかもしれないので多少の抵抗があったものの…… 肌着のみで歩き回るという現状は文明人としていささか容認し難く、箱自体もかなり痛んで放置されている様子であったために、有難く使わせてもらうことにした。

 目覚めた場所と繋がるまでは、この部屋も同じく密室であったにもかかわらず、風化したように朽ちた樽がいくつも転がっている様子から、どうやらこの地に長らく他の人が立ち入った様子はないらしいことも、ボクの無断拝借を後押しさせた理由の一つだった。

 

 そうして下着一つだった姿からようやく落ち着けたことで、多少の余裕が出来たのか。高い天井を持つこの空間の先にそびえていた一つ目よりも大きな二番目の扉も、最初よりはスムーズに『声』の導きに従ってシーカーストーンをかざし、滞りなく解放することが出来た。

 

 ゆっくりと開く扉。

 そしてその先から飛び込んできたのは、人工物に囲まれた室内では生まれようはずもない、圧倒的な輝きに満ちた陽の光だった。

 

 一体何年、この光を浴びていなかったのだろうか―― そんな不思議な思いを抱いてしまうほどにその光は鮮烈で。単なる眩しさだけじゃない、何かが込み上げてくるような感慨も相まって、思わず陽を遮らせた手の下の眼を細めてしまうのを止められなかった。

 

 そんなボクの心を知ってか知らずか、『声』が再び語り掛けてくる。

 ――お前は、このハイラルを再び照らす光なのだ、と。

 ――今こそ旅立ってくれ、と。

 

 暗闇の世界を漂い続けた先に、過去を失くしてしまったボク。

 僅かな照明に包まれた室内に差し込む、ただの陽の光に魅せられて立ち尽くしているボク。

 

 ……そんなボクなんかに『声』は、ハイラルという国を照らす光になれと望んでいる。勘違いでなければ、これはとてつもなく大きな期待を向けられているような気がするのだけど。

 果たしてかつてのボクは、それほど大それたことを期待されるほどの大人物だったのだろうか? とてもそうは思えない…… もしかすると衰えてしまったボクに頼らなければならないほどに、ハイラルという国は追い詰められている、なんて事態だって考えられるのが少し怖い。

 

 光が降り注ぐ穴は外へと続く出口でもあるようで、幸い素手で掘らなくても悠々と、十分幅や高さに余裕のある道ともいえる大きさを確保している。何をするにしろ、頼まれるにしろ、まずは外に出てからだ。

 ……『声』の主が自分に語り掛けてきた理由が、頼れる当てのない精神的にも孤独な人間に後ろ暗い仕事をさせるため―― とかじゃなかったら良いなぁと、穏やかな気配を漂わせる恩人が悪人であるかもしれない漠然とした不安を抱えつつではあったが、いよいよボクは光の先に広がっているはずの外の世界に向け、誰かが残して行った靴を履いた足を踏み出した。

 

 

   *   *   *

 

 

 ――どうやらボクが今まで寝ていたのは、どこかの洞窟の中だったらしい。

 歩いて来た方向に振り返った先にあるのは、岩壁の根本にささやかに開いている、今出てきたばかりの黒い穴。あそこから這い出したボクは、そのすぐ傍に切り立っていた崖の突端に立っている。

 

 ……改めて、後ろに向いていた顔を正面に戻す。

 この衰えた身体では、この崖から落ちてしまっては決して助からないだろう。それほど此処と、下の地面までの距離は離れていた。目覚めたばかり、ようやく外へと踏み出した脚でこんな崖の縁に留まっていては、何の拍子に転がり落ちてしまうか分からない。誰に言われるまでもなく、早々に身を引くべきなのは理解していた。

 

 けれど、出来なかった。

 

 変哲もなくありふれた、洞窟の中から見上げた陽の光にすら感動していたボクなのだ。

 今、この目の前に広がる圧倒的な色の洪水。見渡す限りの生の気配を前に、もっと感じたいと身を乗り出さなかっただけでも奇跡だったとすら思う。

 もちろん今も膝下をくすぐり続けている草花や、辺りに立ち込める緑の香りも大いに心を奮わせられているのだけれど、やっぱり人間とは、視覚から得る印象に最も影響される生き物なのだろう。暗闇の穴に差し込んだ光の筋に誘われて出口を求め、やがて視界一杯に光が広がった時―― ボクは思わずより遠く、より様々な色彩を見渡せる場所を求めて駆け出してしまったのだから。

 ……この崖上から眺められる空と山、大地が織り成す絶景の視野を、ただ目に焼き付けたくて堪らなかった。例え命を保障してくれる崖の縁だとしても、景色を遮るほんの僅かな余白となるのであれば、それを視界に入れたくはなかった。

 

 しかし、何故だろう。

 

 ギリギリまで踏み出して見渡す情景のどこにだって、かつてボクがいた世界である暗黒などは見当たらない。この世界のキャンバスには一切の手抜きなく、隅から隅まで、考えられる限りを超えた生命の色彩が詰め込まれているようにしか、ボクには思えなかった。

 

 (……凄いな……本当に、凄い…… )

 

 だからこそ、思う。

 何故『声』はあんなにも切実に、ボクの目覚めを願ったのだろう、と。

 

 (……この輝きに溢れた世界のどこに、ボクが光となって照らす余地があるのだろう? )

 

 

   *   *   *

 

 

 背後の洞窟を除き、恐らくは人の生活圏から遠く離れた土地にただ一人きりである、という自給自足を強いられそうな現状にようやく思い至ったのは、景色にしばらく見惚れ、夕暮れを迎え始めた空の色合いの変化に気付いた後のことだった。

 

 結構な時間を過ごしていたのだろう。

 けれど、洞窟を出てから崖の突端で景色を眺め続けていた間、左後ろの腰に下げていたシーカーストーンなるものに変化はない。そして、一切の『声』による導きも聞こえてはこなかった……これはもしかすると、まだ今は危急の時ではなく、とりあえずボクが旅立ちさえすればそれで良いということなのだろうか?

 

 やや拍子抜けを感じつつ、目についた足元に落ちている木の枝をおもむろに拾い上げてみる。まさに何の変哲もないただの小枝ではあったけれど、片手で握り込んで振り回すぶんには、思っていた程には重心が酷くない。

 

 何の構えもなく、ただ宙を縦に一振り。…… 枝に残っていた葉が一枚落ちた。

 腰を引きつつ落とし、上半身を回すようにして横に一閃。…… 握っていた部分がミシリと音を立て、しつこく枝にしがみついていた残りの葉が幾枚も空中に踊る。

 大きく振り上げ、地面に振り下ろす。…… 向けられた地上に生えていた幾本もの雑草を風圧で掻き分け、その根本に潜んでいたバッタを吹き払い――ぶつかった地面に触れるや否や握り込んでいた根本を残し、枝先は脆い堆積岩を叩きつけたような有様に裂け、砕け散った。

 

 手の中にある枝の残骸を放り出し、手のひらを打ち合わせて残った破片を払いながら思う。

 

 (うん……動ける )

 

 ひどい虫食いのようにあちらこちらが抜け落ちてしまっているボクの記憶の中にあって、それでも確かに覚えているモノがある。

 敢えて一つを挙げるとするなら―― それはこの身に刻み込まれた ”武芸” だろう。

 誰から教わったのか、幾つの頃から励んでいたのか。それがハッキリと思い出せないのがもどかしく思うものの、この世界に突然目覚めて以来、未知の環境を極度に恐慌しないで己を保っていられているのは、自分の身体がどんな瞬間でも間違いなく『動ける』という確信を持っていたからだ。

 

 ただ頭の中に残っているかつてのイメージ通りなら、あの程度の枝なら空を叩いて裂けていたはずであり…… それが叶わず葉を散らせるばかりだった事実にムキになってしまい、うっかり地面に叩きつけてしまうくらいには、どうしようもなく今の自分がかつてと比べて衰えていることも、また実感してしまえてもいた。

 

 (動けそうとはいっても、やっぱり丸腰のままなのは道中マズそうかな? )

 

 折良く傍にあった、先程砕いた小枝よりもやや一回り太い枝をもう一本拾い上げ、それを右腰の後ろ、シーカーストーンとは反対側となる場所のベルト部分に縫い付けてある、小さなポーチに差し込む。

 ズブズブと、既にポーチを貫通しているはずの長さ以上が入っているにも関わらず、ポーチは破れず枝を飲み込み続け、やがてボクの片腕ほどの全長はあるはずだった枝の全てを、手のひら大のその中身へと収め切った。

 これはボクが覚えていた記憶の中に残っていた道具の1つ、「魔法のポーチ」だ。

 

 シーカーストーンを手に入れ、その傍に置かれていた専用らしいベルトを合わせて見つけた時、これがそのベルトにくっついていたのは驚いたけれど、旅に出る身としてはこれほど有難い道具もない。

 取り出し口は伸縮自在で、手に持てる程度のサイズであれば何でも収納することが叶ううえ、中に入れてさえしまえばどんな重量物であっても一切所有者に影響を与えず、時間経過と共に変化するようなナマモノも時を止めたかのように保存もしてくれる優れモノなのだ。

 

 そんな知識が残っていたものだから、密かにシーカーストーンと共に何か旅に有用な品―― 例えば肉や飲料、この世界の通貨など―― が少しでも用意されているのではないか……と思ったのだが、その中身は清々しいほどに空っぽだった。

 こうして機能自体は問題無く生きていることが分かった以上、これから先の旅には大変心強い道具であることは間違いないために、そこに文句を言うのは流石に浅ましいとは思うのだけれど、やっぱりちょっとガッカリしてしまったのは否定出来ない。 

 

 

 ……とりあえず、生きるためには食糧と水を確保する必要があるだろう。

 そう思って夜になる前に歩いていけそうな近場の森や川を探すべく改めて身近な周辺を見回してみたところ―― 崖から沿うようにして下る山道の半ば、何故今まで分からなかったのだろうと不思議に思えるほど見晴らしが効く場所に人が1人、こちらを窺うようにして立っていたことに気付く。

 

 眼が合ったかと思えばその人は(きびす)を返し、これまたいつからそこに用意されていたのか、背後で赤々と燃える焚き木の元へと、片手に持つ杖を突きながら離れていった。

 ここが人里離れた山であることは、先程まで見回していた景色の様子からも十分に分かる。であれば、そんな場所に登山向けの装備もなく1人でいる様子のあの人物は、余程の変わり者か、人が嫌いで世俗を離れた世捨て人なのかもしれない…… もしくは、人目を避けて暮らさなければならない事情を抱える者なのか。

 

 しかし、どんな人物であれ今の自分よりもこの土地や、世情に疎いということはないだろう。

 ならば接触しないという選択肢は、今のボクには選べなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杖を突いて歩きこそすれ、杖そのものに重心を預けない歩き方をしていた様子から、まだまだ若い世代の人物なのだろうと何となく思いつつも声を掛けてみれば、焚き火に当たって休まんとしていた人の正体は、なんと老年を迎えているのは明らかな男性だった。

 

 しかし肩幅が広く、背中に1本の筋が通っているような姿勢の良さからは、自然体ながらも他者を圧するような風格が漂い、フードに隠された影から時折覗かせる眼光もまた、強い意志と自負を感じさせる力に満ちている。恰好は失礼ながら、今の自分が着ているくたびれた衣類に近しい質の装いであるはずなのに、とても朽ちるに身を任せた隠者が(かも)せそうにはない覇気のようなものを見え隠れさせていた。

 正直、顔に深く刻まれた厚みのある皺と、顎から胸にかけて豊かにたくわえられた立派な白髭がなければ、第一印象で彼を老境の人物であると察することは出来なかっただろう。

 

 そんな何かしらで一角を成したであろう謎の人物ではあったのだけど…… いざ話してみれば、随分と友好的な口調でボクとの会話に応じてくれる好々爺然とした人でもあった。

 残念ながら会話中も厳めしい顔を崩すことだけはしなかったものの、もしかしたらただ顔に威厳が有り過ぎるだけで、本来は人好きのする良い人なのかもしれない。

 

 とにかく何も知らず、質問に質問を重ねるほどに焦ってしまったボクの無礼を嘆きながらも、こんな山奥に独りで住む自身もまた変わり者であると称したご老人は、ゆっくりとボクの知りたいことに答えてくれた。

 どこから来たのか、どうやってこの地で生活してきたのか、山の1人暮らしでの楽しみは何か…… 世間話混じりの会話は時々答えに窮することもあったが、それでも得られた多くの玉石混合の情報は、これからこの地で過ごす上でとても有用なモノとなるはず。

 焚き火の足元に転がっていた、こんがりとした焼き色のついたリンゴを思わず拾い上げてしまった時は「ワシの焼きリンゴじゃぞ! 」と一喝されたものの、その拍子に鳴ったボクの腹の虫の音を聞いた後は笑って食べさせてくれた。

 うん、やっぱり優しい人だ。

 ……最後にいつ食べたのかも思い出せないリンゴの味は、ひたすら香ばしくて甘く、そして美味しかった。

 

 

 「ここは【始まりの台地】……遠く、ハイラル王国の発祥の地と言われておる 」

 

 しかしそんな和やかな会話の中で生まれた、当然知りたかった情報の1つ――『ここはどこなのか? 』を尋ねた折に返ってきた答えを聞いた時には、それまで彼が語った言葉を全て嘘だと断じ、貰った情報の一切合財をひっくるめて捨ててしまいたくなるほどのショックを受けた。

 ……淡々と世間話の延長であるかのように、歴史の事実をありのままに語るだけの彼の言葉には、虚偽の気配や露骨な抑揚の変化など、何一つとして見つけることは出来なかったというのに。

 

 曰く、僕達がいる此処は『声』がボクに光となって照らして欲しいと願っていたハイラル王国、その発祥地らしい【始まりの台地】と呼ばれる場所だと言う。

 立ち上がった彼が杖先を掲げ示す向こう、夕焼けに包まれた空の遠景に鎮座する影があった。その正体は建築物であり、あれこそがかつて、王国の祭事に使われていた神殿であると。

 ……そしてそれは100年前という大昔、王国が滅んで以来放置され、すっかり荒れ果ててしまっているとも。

 

 (あぁ、どうしよう…… 聞き間違いじゃなかった )

 

 現代を生きる人に忘れられた土地。

 ハイラル王国。

 滅びた国。

 

 (既に過去の存在となっている国をどうにかする―― どうにかしたいのか、あの『声』の人は? そんな途方もない行いに協力させるために、何も覚えていないボクは目覚めさせられたのか……? なんでボクなんだ……? )

 

 ――もう終わっているらしい歴史の事実をただ聞かされ、混乱し始めたボクの頭。

 その空白にゆっくりと、滑り込むようにして。

 

 あの『声』が、再びささやいてきた。

 

 シーカーストーンの地図に示された地点、その場所に向かえ…… と、ただそれだけを。

 言われるがままにシーカーストーンを覗いてみれば、そこには今まで浮かんでいなかった簡単な地図らしき表示と、目的地を示しているらしき光点が灯っている。

 どの行動が引き金となったのかは分からないが、ボクの旅立ちを望んだ『声』はこうやって、この先もボクが向かう行き先を示し続けるつもりなのか。

 ……本当にこの声は、一体何をボクに望んでいるのだろう。

 

 

 どうした、大丈夫か?―― 訝しがりつつも労わるような口調で声を掛けてくれたのは、目の前のご老人だった。

 やはりというべきか、彼には『声』が聞こえてはいないらしい。世間話の途中で突然固まって黙り込んでいたボクを、ただ純粋に心配してくれているのだろう。

 何でもありません、そう答えて顔を上げて視線を合わせ直す…… その時フードの奥からこちらを見つめる瞳に、何かを見透かしているような雰囲気が(たた)えられているように感じたのは、落ち着かない心が思わせた錯覚だろうか。

 

 それからというもの、和やかな雰囲気を嘘のように萎ませるように黙ってしまったボクではあったが、彼はそれでも邪険に扱わず、時折焚き木に小枝をくべる時を除き、みだりに何かを語り加えようとはしないでいてくれた。

 やがてお互いが会話をせず、静かに火を見つめ続ける時間が大部分を占めるようになり、ただパチ、パチッと、火に炙られて弾ける木の音だけが耳の奥に響き続ける時間が過ぎていった。

 

 ずるずると伸ばすままになっていたその一時を終わらせたのは、突然の風だった。

 気紛れにフイと焚き木に吹き込んだ風が火勢を一瞬弱め、完全に陽が落ちた故の周囲の暗さをボク達に知らせたのである。

 ……かつてのボクという人間は、もう少し気を張って生きていたような気がするのだけれど。どうにも目覚めてからこっち、周囲への注意力が散漫になっているのかもしれない。

 

 陽がほとんど沈みつつある時刻になろうかということもあって、このまま飯でも食べるかと彼は誘ってくれたけど、これ以上1人山暮らしをしているご老人の世話になりっぱなしで、蓄えを削らせるというのも居心地が悪い。

 加えて自分が何者であるのか、そしてこの懐かしさと安らぎを覚える『声』が何を自分に期待し、求めようとしているのか…… 目的地を伝えられて状況が動いた以上、その答えを得るために一刻も早く行動を起こすことが、今のボクにとって何より大切なことだと思わずにはいられないのだ。

 

 こうして、ボクはこれから向かう所があるのでと断りを入れ、彼に感謝を伝えて別れることになった。

 こちらから会話を求め、こちらの都合で話を切り上げてしまったものの、何か聞きたいことがあればまた訪ねてくれて良いと言ってくれるこの人が、この世界で最初に会えた人物であったのはボクにとってとても幸運なことだったのだろう。

 また会えた時には、是非とも何らかのお返しをしてあげたいと思う。

 

 更に別れの際には餞別として、木こりが用いる鉄製の斧を手渡された。この山を下った先には魔物が出没するらしく、武器となる物は携帯しておくべきだと。

 

 焚き木の傍に置いていた松明も合わせて持っていって構わないと言われたが、これから先はどんどん暗くなる時間帯だ。まさか老人がこのまま何もない山の中腹で、夜を明かすとは思えない。

 どこかにあるらしい家に戻る道中、杖の先に括り付けられたカンテラのみでは足元を照らす明かりに乏しいかもしれない。それにずっと長い間をこの地で1人暮らししているという話だったから、魔物が出没しない道を心得てはいるのだろうけど、それでも山の獣に出くわしでもしたら一大事だろう。そんな時、獣を追い払いやすい火元の有無は、安全を確保するための大きな要素だ。

 幸いボクは夜目が効くし、どうしても明かりが必要となればポーチに入れている木の枝がある。そもそもこれからシーカーストーンが示す場所に向かいつつ森に立ち入る以上、燃材には事欠かないはずだった。

 松明はボクより、彼にこそ必要だろう。

 

 そう断って斧だけを有難く受け取り、お礼に家まで送ると提案した言葉に「まだこの場に残る、ワシのことなら慣れているので心配無用 」と返した逞しいご老人と、ボクは今度こそ別れたのだった。

 

 




 老人の株を原作以上に全力で持ち上げる反面、リンクの記憶が無いことを良いことに『声』の人をめっちゃ不穏な存在に仕立てあげてしまった。何故だろう。これがキャラ愛でしょうか。

 ※主人公勢の台詞は、今後も機会があれば原作に出てきたモノを拾っていく方針です。
 予定している物語の最終章辺りで、どうしても引っ張ってきたい原作台詞があるのですが、そこだけ引用すると変に浮いちゃって違和感を覚える方が出てこられるかもしれないので、「原作台詞が出てくるゼルダ二次なんだな」と軽く考えて頂くためです。

 ※26話あとがきでも触れましたが、『魔法のポーチ』が超技術過ぎてヤバイ。工務店なのに薪の束も満足に用意出来ないサクラダファミリーや、大荷物抱えまくってるのに毎回僅かな品しか商品を用意出来ない行商人テリーがこれを持っている様子がないのは、100年後には失伝しちゃった技術なんでしょうね…… モッタイナイ。

 次回は、再び【ライネル】に話は戻ります。

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