回生のライネル~The blessed wild~   作:O-SUM

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○前回のあらすじ(意訳)

『声』の人「リンクェ!! お前はハイラルにとっての新たな光だ! 」




敗残者の矜持と人族の遺物

 

 

   * * * * * 

 

 

 ――勝者を称える名目で騒ぎに騒いだ宴会がとうとう終わり、参加した者達がそれぞれの寝床へと戻ってしばらく経った頃。

 俺は約束していた物を受け取るために、族長の棲家たる大岩を訪れていた。

 

 入口から見える場所にいたのは族長1人で、ボコナは既に寝入ってしまったのか姿は見えなかった。族長はやってきた俺の姿を見るなりこれみよがしな溜息をついてみせたが、それでも族長は大きめの見慣れた、木を張り合わせただけのみすぼらしい木箱を持ってきてくれた。

 子鬼の体格からすれば一抱えもある大きさではあるものの、持ち運ぶ族長の足は軽やかだ。

 俺の目の前に落とした時にも大した音を立てず、中身が空洞のように小さく跳ねてすらいたことから、箱の内容物を見たことがない者がこの場にいたとしても、中は何も入ってない空箱か、入っていたとしてもそれは非常に軽い品であることが察せられるはずだ。

 

 ……本来、勝者には可能な限り望みのままを約束するという『最優の雄』の賞品として請われる対象は、もっぱら次期族長の座であるらしい。この集落は大所帯ということもあり、世襲によって後継者が選ばれることも珍しくはないということだったが、そこはやはり力で集団を統率する魔物の常といったところだ。今回の儀は都合良くその未来を兼ねられるということで、現族長の娘であるボコナ目当てを公言する戦士が多かったに過ぎないのだろう。

 恐らくはあの赤い月の光―― ここでは『祝福』と呼ぶらしい―― の恩恵もあって、若い戦士達が日々の狩りの失敗や怪我によって死なず、俺が知る世界の常よりも多く頭数を擁していたことも、彼女を求める声を大きくさせていた要因の1つなのかもしれない。

 

 そうしてたびたび、『最優の雄』の決定を節目とした族長の交代劇が起こってきた歴史がそうさせたのか、いつしか()()()()()()()()()()()()()()()()()を渡すのは当代の族長の最後の務めとなった…… という薀蓄(うんちく)を目の前の族長、まさしくその当人から、いつかの夕食を共にした時に娘自慢を兼ねた話として聞かされていた。

 

 (あれだけ誇らしげに語った仕事の最中だというのであれば、もう少し丁寧に渡してくれても良かったのではないだろうか? )

 

 万が一壊れていたのに気付かず中身を使ってしまった場合、間違いなく自分は2度目の死を迎えてしまうのは確実なのだ。

 「壊れてしまっても構わん 」と言わんばかりに地面に投げつけられ、それでもし本当に壊れてしまっていたら、その中身をわざわざ求めた俺としては流石に笑って流す訳にはいかないのだが。

 

 (……とりあえず、持ち出す前に状態を改めた方が良さそうだな )

 

 そう思い、箱のフタを外して中身を取り出した俺に族長が語り掛けてくる。

 

 

 「『最優の雄』の褒賞…… 本当にコレで良いのか? 」

 

 

 この場で賞品の状態を確かめさせて足を止めさせたいがために、どうやら先程の暴挙に及んだらしいが…… 口で言ってくれれば話相手くらい、いくらでも応じるつもりだった。

 何せこれが族長と言葉を交わす、最後の機会となるかもしれないのだから。

 

 再確認してくる言葉の裏には、隠している意図もあるのだろう。

 しかしそれ以上に、表向きに押し出されている雰囲気には多分の呆れが含まれているようにも感じられた。恐らく用途云々は別にして、最強の戦士としてこんなモノが欲しいのか? と純粋に訝しむ感情もあるらしい。

 

 事実として箱の中身は、この隙間だらけのぞんざいな造りの箱からも察せられるように、ここに暮らす子鬼達からは大した評価が与えられていなかった。

 それは彼らが使い方や価値を知らぬ故、という訳ではないのだ。

 かつての世界でたまたま、これが人共によって使われている場面を見たことがある俺にしても、「そうだろうな 」という感想を持ってしまう程度には、この代物は使い道が限定され過ぎており、加えてこの地ではその限られた用途すらが不要だったというだけの話なのである。

 

 ただ高い場所から低い場所へと、緩やかに滑空して降りることを目的として人共の手によって作り出されたモノ。特殊な加工を施された木の棒を両端とし、その間に風を通さない特殊な布を張り渡しただけの道具――『(たこ)』。 それが箱の中身の正体だった。

 鳥のように空を舞い、地上を眼下に滑空することが可能なこの道具は、低所に構えて対立する敵が十分な対空の備えをしていなければ、非常に有用な偵察道具として用いることが出来るだろう。あるいは、翼を持たぬ者にとっては鳥の如き俯瞰風景を味わえる、優れた娯楽としても利用出来るのかもしれない。

 

 しかしこれは地上より空高く(そび)える台地、その頂上に構える集落に住まう子鬼達にとってみれば、魔物が最も尊ぶ〈力〉における最高の名誉としている『最優の雄』に釣り合う宝とは到底ならなかった。

 

 まず周辺の環境を脆弱な自分達にとって都合の良いように変えなければ生きていけない人共と違い、周辺の環境に合わせて自らを適応させていくことが可能な我ら魔物は、同族同士で本気の争いを起こすこと自体が滅多にない。

 

 そして魔物という生き物が、日々生きていけるだけの暮らしが出来ればそれだけで満たされる精神性を持っている以上、糧が多い環境ならば相応に増えるし、少なければ相応に減るだけである。

 土地に対する征服欲と言うか、必要にして十分な規模の縄張りを超え、周辺の自然や同族を飲み込んでまで己の生活圏を広げたいという野望を持つ魔物は、俺の2度に渡る生の中でも出会ったことはなかった。

 天敵となり得るヒトが去ったこの地であっても好き勝手に頭数が増えることはなかったようで、(人共と比べれば繁殖力が弱いという側面もあるのだろうが )その暮らし方は俺の知る地上の彼らと変わってはいなかった。

 つまり人共のいなくなったこの台地において、戦略的な戦いに用いられる道具の需要が皆無に等しいのである。

 

 そして高所からの眺めを楽しむ娯楽としての使い道だが、そこは【空の台地】と自らの土地を称し、かつて俺が暮らしていた地上を【下界】と呼ぶ彼らである。わざわざ道具を使ってまで高い場所からの景色を楽しもうとする憧れめいたものが、そもそも彼らに芽生えるはずもなかった。

 加えて雲よりも下に広がる【下界】。仮にそこへ降りたとして、子鬼の手足でどうやって途方もない岩壁を登ろうというのか。『凧』で地上まで滑空して行くことが出来たとしても、生半可な手段では台地まで戻ることは決して出来ないだろう。

 箱に遺されたまま放置され続けた『凧』を見るに、およそ百年もの間、人のいない楽園を飛び出し、未知の危険が待っている【下界】へとわざわざ冒険に飛び出す魅力に取り憑かれた変わり者は、日々をつつがなく暮らせれば満足出来る魔物からは生まれなかったということだ。

 

 せめてこの地が高低差の激しい山間部だとかの立地であれば、移動手段として多少の評価は得られたのかもしれなかったが、あいにくと集落周辺は比較的なだらかな平野で構成されていた。高低差の少ない広く続く平野に、立体となる上空からの視線の重要度は低い。そして、平野内に点在する森や川から得られる恵みのみでも生活の全てを賄えてしまう点が、この『凧』の価値を著しく下げていたのだろう。

 

 その証拠に族長の背後にはより頑丈な造りをした宝箱に加え、この大所帯の集落でも価値が高いとされる武具や鉱石を納めた、魔物の顔を模した宝箱も用意されていた。もし俺がそちらを希望したならば、すぐにでも交換してやろうというつもりらしい…… 俺の希望する褒賞は前もって伝えていたにも関わらずそれらも準備していた辺り、出来ればそちらを受け取らせ、集落に留まらせたく思ってくれているのか。

 そうだとしたらその好意は素直に有難い。

 しかし、受け取れない。

 このみすぼらしい木箱の中身こそ、今の俺にとっては最も必要な宝なのだから。

 

 

 「お前が元は異種族だったと語った話は、今も覚えている 」

 

 

 実のところ製法が分からない戦利品であったからこそ保存はしつつも、集落において大した価値を認められていなかった『凧』だったからか、俺はこれまでも何度となく気軽に、この道具を借り受けることが可能だった。

 鍛錬が終わった後。狩りが終わった後。集落に暮らす者として果たすべき1日の務めを終えた後―― その度に俺は『凧』を借り受けては、あの人共が遺していった建造物を登り続けていた。

 

 そうして繰り返し、その頂上から飛び出しては『凧』の操作習熟に励んでいたのだ。

 

 なにせこの『凧』、いくらかつて飛ぶ様子をこの眼で見たことがあり、人共が使用していた様子を細かく言い伝え、世代を超えて伝承していたらしい子鬼達から聞き及んでいたとしても、その造りはあまりにも単純で、頼りないモノであったのだ。

 粗末な木の棒だけを握り締めて、薄い布きれに命を託さなければならないこの道具。そんなモノで落ちれば落命間違いなしという高所から飛び出すという無茶を、練習無しで挑むのは流石に二の足を踏まざるを得なかった。

 

 繰り返し人の残した遺物を持って、人が作った建造物に登る俺の様子を見て、過去を知らない多くの子鬼達は不思議がったり笑ったりしてくれたものだったが…… その積み重ねがあるからこそ、俺は『凧』がどんな状態であれば正しく飛んでくれるかを知っている。

 

 棒が折れていないか、あるいは歪んでいないか。張り渡す布に穴がないか、あるいは糸などにほつれはないか…… そうした点を見直し、具合を確認する作業にふける俺は生半可な相槌を返すだけであったにも関わらず、族長の言葉は止まらない。

 

 

 「だが今日までお前は共に我らと暮らし、飯を食べ、身体を作り鍛えてきた。そうして培った力を以って肉を狩り、時には恐ろしい獣からこの地を守ってもきた…… 今や俺を含めた誰もが、お前を垣根(かきね)なく同じ子鬼の友であり仲間だと認めている 」

 

 「ならばそれで良いのではないか? 『最優の雄』となって最強を示したお前を外様に扱う者などいない。最早ただの降って沸いた余所者の防衛戦力としてではなく、集落の一員としてこの地で暮らすこと

に、何の(とが)があるというのだ 」

 

 「――生まれ直した今のお前が、かつての生の因果を引き摺る必要はないだろう? 」

 

 

 それは『最優の雄』の儀が執り行われる前、既に決着して終わった話だった。

 優勝したならば『凧』を譲り受けて集落を離れることについては、既にボコナを含め、長老達と主だった戦士達にも了解を得ている。恐らくは族長も、今更俺が前言を翻すとは思っていないだろう。

 それでも、あえて蒸し返してまで引き留めようとしてくれている族長の言葉を 、(わずら)わしいと思うはずもなかった。

 

 族長だけではない。

 ボコナやベコリー、ヨクーシャらの戦士達。他にも多くの子鬼達が、俺の旅立ちを諌めようとしてくれた。事情を知る者は不毛であると言い、知らぬ者もこの地に何の不満があるのかと説いてきた。彼らの言うことに理はあったし、子鬼として生きるなら天敵のいないこの場所以上の環境は、前世を含めて無いと断言出来るだろう。

 それでも俺には、【下界】に行かなければならないと思う心を抑えることが出来なかったのだ。

 

 

 

 ……何故なら、俺はかつて【ライネル】を名乗った敗残者だからだ。

 

 多くの同族や魔物達を巻き込んだ戦を起こした。

 目的を達成させるために大勢を死なせ、見捨てたにも関わらず、絶対に果たさなければならなかったはずの"剣"を打ち倒すことが出来なかった。

 暗闇の中、永遠に続くかのような怨念の渦の中では、責められる安堵と怒りを抱えていた。これが罰なのだと受け入れつつ、戦ったこと自体を罪だとされることには憤り続けた。

 

 (突然暗闇から返され、この100年後の世界で示されたあの光景には、どうしようもなく心を(くじ)かれたものだったがな…… )

 

 あの敵の本拠地であったはずの建造物から吹き上がる、荒々しい魔力の渦。

 その源が、かつて感じていた魔王の波動と同じものであると、頭の中で言い訳する間もなく直感出来てしまった。

 

 魔物の未来を守ることに繋がると信じて、その魔物の集落を襲い、戦士を徴収し、人共と戦わせ、友を見捨てた…… その挙句に"剣"を倒せなかったという過去の事実。

 その敗北の結果は、魔王の封印と魔物の世に暗雲が訪れるという結末以外にはなかったはずなのに、未来たるこの世界では魔王は無事復活し、魔物は祝福を受けて生を謳歌していたという今の現実。

 

 ――魔王は蘇っていた。

 ――"剣"を滅ぼさなくとも、魔王が封印されることはなかった。

 ――俺が魔物達に強制した犠牲の全ては無駄で、愚かな勇み足に過ぎなかった。

 

 【ライネル】として、『大厄災』を防ぐことは出来なかった……慚愧(ざんき)の至りのままに死んだはずの俺が、どうして生まれ直してしまったのか。

 魔王が我々魔物の神であるならば、どんな意味を持たせてあの戦いで死んだ者達の中で俺にだけ、この子鬼の身体による二度目の生を与えたのか。

 俺が何もせずとも、魔王は人に勝っていたのだという事実を教え、俺の行為を全て無駄だったと思い知らせたかったのか。

 ……それとも何か、まだ俺に為すべきことがあるというのか。

 

 この転生に魔王の意図があるのならば、それを知りたい。

 生まれ直してしまった自分の存在意義を求める心を、抑えることが出来なかった。

 

 (俺はもう【ライネル】ではない )

 

 魔物の守護者、最強の者―― 誇りを持って呼ばれるべきその称号を名乗る資格が、今の俺にあるはずもない。名を明かさなかった俺をこの地の皆は「名無し」と呼ぶが、何者でもなくなった俺にとってはそれが相応しいとすら思う。

 だが知恵持つ魔物としては最弱である子鬼の身体に、かつての愚かにも自らを【ライネル】であると思い込んでいた魂を吹き込まれたことの意味、それだけは意識し続けていた。

 

 生まれ変わった初めこそ、満足に立てもしない自分は群れの中でも最弱だった。

 4本の脚で駆け回った記憶を持つ己にとって、2本の脚しかない子鬼の身体はとにかく違和感がつき纏い、初めは日常生活にすら難儀していたのだが…… 特別な外敵のいないこの地の環境は、単純に身体を鍛えるには打ってつけの環境だった。脳裏に焼き付く()()()()()()()()()()の動きを追って鍛えていくうち、集落の中において最強を確信するまでそう長い時間は掛からなかった。

 

 そうして十全に動ける五体を獲得し、周辺で最も危険視されていた獣が集落を襲った際に返り討ちしてみせた直後。獣によって一部を破壊された宝物庫の石壁から、みずぼらしい木箱が零れて中身を晒した時―― 俺は小さな、けれど確かな運命を感じたのである。

 

 人目に付きにくい、小柄で小回りの利く体格。

 "剣"の形状から特徴を細かく把握している、過去の記憶。

 そして目の前にもたらされた、【下界】へ行く手段。

 この3つが合わさったことで可能となる、かつての【ライネル】が果たすべき責務が、その時ようやく見えたような気がしたのだ。

 

 その場ですぐにでも『凧』を奪って【下界】を目指さなかったのは、ただその扱いに不安があったことと、この集落に対して、まだ助けられた義理を果たし終えていないと考えたからに過ぎない。

 

 ……しかし今や集落には幾度も行った狩りによって十分な食糧を収め終え、正当な手段で持って獲得した『凧』が手元にあり、それを十分に扱えるだけの習熟も終えている以上、躊躇う必要は何もない。

 

 ――【下界】に存在する魔王。かの存在に再び人共の魔の手が忍び寄らないとは限らない。

 古の伝説によれば魔王は滅びず、復活と封印を繰り返す存在であると語られてはいるものの、そのまま居座り続けてくれるのならばそれに越したことはないのだ。

 ならば、その封印に要すると思われる人共の力の片割れである"剣"を破壊、もしくは人の手より離すことで魔物はより多くの時間、あるいは悠久の時を『祝福』と共に過ごすことに繋がるだろう。

 それが出来る魔物はこの時代、"剣"の形状と気配を詳しく把握している魂を持ち、潜入や潜伏に適した体格を持つ俺をおいて他にいないはずだ。

 

 ならば俺はそれを成す。それくらいは成さなければならない。

 かつて勇者を自称した者として、果たすべきだと思い込める責務を今度こそ完遂させるために、俺は今一度【下界】へ行くのだ。

 

 

 

 

 ……それからまもなくして。

 

 俺が『凧』の状態を確認し終えたことを察した族長は、最後に「餞別だ 」と、背負っていた『鋼鉄の剣』と『木に革を張った盾』を投げ渡してきた。思わず受け取ってしまったが、放ってきた集落の長はそれ以降、むっつりと押し黙ったまま再び口を開くことはなかった。

 

 だから俺も、言葉を重ねることはしなかった。

 ただ一度深く頭を下げ、『凧』と合わせてそれらを身に纏った俺は、そのまま外に通じる岩壁の縁に手を掛けたのだった。

 

 

   * * * * * 

 

 

 「……やっぱり行っちまったな 」

 

 出入口を潜って先程出て行った、圧倒的な力で此度の『最優の雄』を勝ち取った雄の背中を思い出す。

 初めて会った時、ボコナやベコリーに引き摺られるままにされていたヤツの姿は、全く力の宿らない眼も含め、完全な負け犬の姿にしか見えなかった。それがたった一年後の今夜、全ての対戦者をほぼ一撃で倒してみせるという前代未聞の快挙を持って『最優の雄』を勝ち取ってみせたというのだから、全くその成長ぶりには驚かされた。

 それなのにあんな粗末な道具1つを持って集落を出て行くというのだから、アレは本当に我々とは根本を別にした魂を持った存在なのだろう。

 

 せめてもの餞別と、俺達の誇りを蔑ろにしてくれた少しの意趣返しを含めて渡した「族長の剣」を受け取りながらも、それでもヤツは旅立った。戻ってくるつもりがあるのかは分からないが、恐らく野郎はあの剣に武器としての価値以上を認めることはしないだろう。

 尋常でない魔力を伴って生まれ直した、謎の多い子鬼。胡散臭いと思い続けながらも、今では身内と思える程度にはその働きを評価していたのだ。正直ヤツが族長の後を継ぐというのであれば、今後の集落は安泰だと思えるほどに。

 このままこの集落に残ってくれれば…… と思わないでもなかったが、あれ以上闇雲に決意を抱えた雄を、ただ集落の事情で引き留める真似をする気にはなれなかった。

 

 (ただなぁ…… )

 

 岩壁の向こう側、離れていく足音が聞こえる。

 先程見送った者とは違って砂を蹴る音は軽く、歩幅による音の間隔も比較的狭い。長年(そば)で聴き続けたせいか、最早誰の足音なのかがはっきりと分かるソレ…… その持ち主が、今入口から去って行った野郎の消えた方向へと駆けていく。

 ……まだ寝ていないのは知っていたが、どうやらいつの間にか家の裏で息を潜め、ヤツを追い掛けるタイミングを伺っていたらしい。

 

 「まさかアイツまで、集落を抜けようとはしとらんだろうな…… ちゃんと返してくれよ、ナナシ…… 」

 

 

 

 

 

 父親の顔を覗かせて大きく溜息をついた子鬼の長はその後、少し焦った表情を浮かべながら、自らの後ろに積み上げていた宝箱の山を漁り始めた。

 勢いで投げ渡してしまったのは「族長の剣」。

 恰好付けた手前、今更取り替えてくれと、自分まで追い掛ける訳にはいかなかった。

 

 ……その代わりと成り得る刀剣を人目につく朝までに、彼はどうにか見繕わなければならかったのである。

 

 




 元【ライネル】がモブリン達に負けるはずもなく、勝敗の分かり切っている『最優の雄』 の進行模様は全カット。
 

 ※BotWの世界を楽しむのに欠かせない重要アイテム『パラセール(空を滑空出来るようになるグライダーのようなもの)』ですが、あれって渡す人が渡す人なだけであって、実際の価値としてはそれほど高いモノではないのでは? と思います。
 木の棒に布を張り渡した程度の造りのモノが、古代技術を有する王家の秘宝とは捉え辛いですし、100年後の世界ではサブクエスト『鳥人間チャレンジ』なんてものに取り組む発想を持った一般人がいる以上、人族にとって空を滑空することが世界的な禁忌であったり極秘の技術として扱われていることもなさそうです。
 そんな考えでこの拙作ではパラセールを、残されてるところには普通に残されてる程度のアイテムに位置付けました。決してリンクが得ることになるパラセールが世界に一つだけの代物、とは扱いません。人が去った土地である【始まりの台地】であれば、箱に遺されたままのモノがあってもいいかなぁと。

 ちなみに。
 誰かさんが「ホッホーイ! 」とかはしゃげてるのは、リト族との友好の行事に使われていたとか云々で、馬術に近い嗜みとして王族も飛び方を習っていたのでは、と妄想したりしなかったりするのですが―― 超人的な握力とバランス感覚がない限り、命綱や操作用のワイヤーもないあんな代物で、リンクの目の前に狙って着陸するほどに自在な滑空をすることは不可能なような……勇者はまだしも、ローム・ボスフォレームス・ハイラル…… 彼は武力で王国を支配していた覇王だったとでもいうのでしょうか?
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