回生のライネル~The blessed wild~   作:O-SUM

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○前回のあらすじ

 この作品の守られる姫ポジ = 厄災ガノン

※姫様視点のお話。
 この話から、『ウツシエの記憶』を含むネタバレが登場し始めますのでご注意下さい。




∴ 姫巫女の嘆き

   *   *   *

 

 

 「皆の者、今日のために各地より集まってくれたことを感謝する。ハイラルの王として、これまでのそなたらの働きぶりには満足しておる。……だが諸君らがもたらしてくれる成果にも関わらず、世界を覆わんとする闇、かの占い師が告げた厄災復活の予兆。その預言は未だ覆ってはおらん」

 「かつて何度もこの地を襲った災いを未然に防ぐことはできぬのかもしれん。だが、今日の平穏を明日のハイラルへと繋げるため、そなたらの変わらぬ忠勤を期待する。……では、始めるがよい」

 

 ――上座に相当する玉座より立ち上がっていたハイラル王の労いの言葉と共に、開始宣言が下された。それは今日の定期評定の始まりを告げるものである。

 豪奢な意匠を凝らした長方形のテーブルは、宣言を受けて上げられた顔を見渡すためには首を巡らせる必要があるほどに長く伸びている。

 謁見の間に集まり、それを囲むように座っている面々には、各部門の大臣をはじめとしたハイラルの重臣や地方より派遣された特使、遺跡の研究者、近衛の隊長、そして4人の英傑達が揃っていた。

 

 「全国主要穀物の生産状況の途中報告からさせて頂きます。ハイラル米は前年比より―― 」

 「続きましてカカリコ村からの報告です。前々回の報告にありました、新しいカボチャ品種についての栽培状況ですが―― 」

 

 報告は各地における作物生産高の前年比との増減報告から、東南部開拓村の進捗状況など、各地から挙げられる内容は様々なものに及ぶ。ゲルドの街にて発生している例年より多い干ばつの被害は頭が痛くなるが、ゲルドキャニオンを通してハイラル中央からの輸出量を増やして対策とすることになりそうだ。

 しかし、国を運営していく上で処理すべき産業や国政について案を出し合うことが、この評定の目的ではない。

 箇条書きのような形式で国内の動きを報告しているのは、これから行われる議題に対する枕詞のようなもの。世界最大の関心事のためにこそ、特殊機関の長や各国の使者達は出席している。

 

 『厄災ガノン』

 

 この約束された伝説の災いを水際で回避、もしくは発生した場合の対処法を決定するために世界の意思が集められた会議が進む。

 各機関での研究結果が発表される。

 古い書物に、厄災に関して未発見な伝承の一説が確認された。

 新素材による、武具の強化案の提出。

 神獣の機能調査と調整の進捗状況は――。

 

 ……次々と挙げられた日進月歩の勢いを感じる頼もしい報告の中、とうとう私が関わる案件の成果を報告する順番が回ってきた。

 自信を持って報告できる案件と言えば考古学の観点から研究した古代兵器復活の進捗状況だが、残念ながらそれは、担当する研究所の所長が報告するべき内容であり、私がすべきことではない。

 そして私がしなければならない報告の是非は「厄災に関する重要度」という点において、先に挙げられた成果達をして余禄と言わねばならないほどには中核を成すモノである。

 期待される結果もまた、重い。

 

 立ち上がる私に向けられる視線。外国から参られている方々にはまだ僅かに期待の色も感じられるが、事情を詳しく知る家臣達からは憐憫、焦燥、あるいは冷ややかな熱を伴う感情が、その視線には込められているように思えてならない。

 そんな視線を意識しながら、私は努めて感情を込めないように発言する。そうしないと、申し訳なさで語尾が震えてしまいそうになるから。

 

 先日、王妃の側に長く使えていた者から彼女の修行風景、その一部を聞き及べたこと。

 今はそれに習った修行を行っていること。

 各地方によって少しずつ形が異なる女神像。それらを収集、あるいは訪れてその全てに祈りを捧げていること。

 勇気の泉に続いて、力の泉にも(おもむ)いたこと――。

 

 結果を先送りに。明言を避けて経過を報告し続ける展開に既視感を覚えた参加者達は、悩ましげに目を伏せていく。私自身、この針のムシロのような状況を続ける徒労感を強く感じていたが、世界中から集まった知恵者が私の行動のどこかから、改善へのヒントを見つけることが出来るかもしれない。

 何より厄災封印の大きな要となる二つの力の内一つの現状が世界の要人達に正しく把握されていなければ、緊急の際に国家の舵取りを誤ってしまう可能性もある。

 そう思えばこそ、説明を怠ることは決して出来なかった。

 

 虚無感が漂う報告を結ぶ、最後の言葉。

 参加者全員が予測していただろう、評定の場に馴染みとなってしまった言葉が響く。

 

 ――未だ、姫巫女の力に目覚めることは叶っておりません―― 

 

 ……会場に、決して短くはない沈黙が満ちる。

 報告を終えると共に着席した私の耳に入ってくる、小さく抑えた溜息の音。聞こえてきた方向なんて確かめたくもなかった。それは家臣、あるいはこの場に詰めた研究者達からだろうか。各地の使者からだろうか。それとも、……御父様からだろうか。

 英傑達、そして背中を向けた壁に控える彼からわずかに向けられる、痛ましそうな気配。これに反感を覚えるほどに愚かなつもりはないが、自らの至らなさをみじめに思う心を止めることは出来ない。

 

 

 私の最も嫌な時間は、いつも通りの後味を残して終わった。

 

 

   *   *   *

 

 

 ……自分の感情を抑えることには慣れていた。目頭に籠りかけていた熱も今は無い。進行していく報告も、頭の中で滞ることなく処理できている。

 

 私が気にしていた遺跡調査の報告だが、『(ほこら)』の解析による成果は未だ得られてはいないようだった。あのシーカーストーンが鍵になると予想されるが、どうしてもその起動方法が分からず、ガーディアンや神獣達との進捗具合と比べれば進展は何もないに等しい現状。

 しかし書物に書かれた、あの遺跡を開放することによって得られるはずの勇者への恩恵を考えると、諦め切れるものではないので引き続き調査を続けなければ。

 

 驚いたのは近衛からの報告だ。なんと部隊の装備に、あの漆黒の武具を正式配備することにしたらしい。あれは攻撃力という点で従来の武具とは一線を画す性能を発揮するが、比例するように下がってしまった耐久性が問題となって欠陥品のような扱いを受けていたはずである。その問題が解決されたという報告もまた聞いていない。……そのことを疑問視したのは私だけではなく御父様も同じだったようで、その採用理由を尋ねていた。

 すると壮年の隊長は「あのガーディアンの装甲は堅固であり、将来的に技術班の報告通りの機動力を発揮するのならば、これと連携することで装備の耐久性はカバーできるかと。破損しても防御をガーディアンに任せている間の交換は容易です。近衛の役割は盾であり剣。ガーディアンがその盾の役割を担うならば、我らは剣としてガーディアン達の届かぬ足元、王室に這い寄る影を打ち払う力となりましょう」と御父様に答えつつ、最後に私へ微笑んだのだ。

 その言葉を聞いた時の喜びと言ったら! 彼は未だ砲台としての機能がギリギリの、満足な稼働をしていないガーディアンを通して、古代兵器の性能を正しく認識していた。そしてそれだけではなく、その発掘調査と技術の復活に心血を注いでしまっているこの無才の姫に、理解を示してくれたのだ! 求めてやまなかった突然の肯定に、口から飛び出ようとした感謝の絶叫を抑えられたのは奇跡だろう。

 評定が終わったら、すぐにでも近衛の兵舎を訪ねて武具の耐久値を調べさせて貰うべきかもしれない! ガーディアンに予備の武具を担がせるラックみたいなものを増設できないか、取付けるとするならどんな形にすべきかも、隊長達と協議しなければ!

 

 ……お腹の底からこみ上げてくるような熱は、御父様が隊長の言葉を是としながらも、酷く不快げに見える視線を私に向けられたことで、まもなく冷まされてしまった。私の研究は御父様にとって、姫がするべきではない努力としか、受け取って下さらないのか。

 学問による貢献を求められていないのは知っていたが、考えていた以上の認識の隔たりに口の中が乾いていくのを感じる。テーブルの下、いつの間にか両膝に置かれた掌は握り締められていて、その緊張をほどくためにはしばらくの時間が掛かった。

 

 叩き落とされた気分に追い打ちをかける事件もある。ここハイラル城の周辺で確認されていた魔物達による人への無差別な襲撃事案が、今日の英傑達からもたらされた報告によって、ハイラル各地にも及んでいるということが発覚したのだ。

 今までも街道を通行する旅人への散発的な襲撃事件はあった。しかしそれは、およそ魔物の数は1~3匹程度のボコブリン、もしくはモリブリン達の小さな規模で、いずれも街道を歩く旅人や行商人達が相手の、いわば不幸な遭遇の事故として扱われてきたはずだ。

 しかし報告される物の中には、組織化されたとしか思えないような集団。5匹以上で構成された上位個体を含んだボコブリン等が、人の集まる場所を能動的に襲撃しているような事件が散見されている。これは、例年には見られない兆候だ。

 

 魔物の活発化。それが一体何を示唆しているのか。

 厄災の復活が噂されるこの時期に起こっていることが、嫌な想像を膨らませてゆく。無関係だと楽観視することは決してできないだろう。

 もし厄災復活の前兆だと言うなら、猶予はあまり残されてはいない可能性すらある。

 

 遺跡の調査や神獣の復活、そしてガーディアンの発掘。厄災復活に備えて私達は様々な準備を進めてきた。しかし最も重要な柱として封印に求められるのは、勇者と聖なる姫の持つ封印の力なのは伝承の記述から見ても疑いようがない。

 今代の勇者はその類まれなる才能に努力を積み重ね、若くして退魔の剣の主に選ばれた。

 完成され、今なお研磨され続けるその実力に不足はないはず。

 

 

 ――では姫は?

 

 

 幼い頃よりどれだけ修練を積んで、女神ゆかりの地で祈りを捧げてなお、封印の力を宿すことの叶わなかった私は?

 ならばと奮起し、封印の助けとなるはずの古代遺跡の調査と研究を、ひたすら重ねてようやく得られた成果を示しても、王や家臣達の失望しか受け取れない私は?

 

 (……どう行動すれば、正しいことに繋がってくれるの……? )

 




※ゼルダ姫は宮廷雀の方々にはかなり低評価を受けていましたが、王国崩壊後にリンクと二人で逃げ落ちていた時でも、シーカー族の戦士が助けに現れました。
 封印の姫巫女としての是非はありますが国が滅ぼされるような窮地なら、いくら上からの命令でも自分の身を優先して、無能の姫は放り出されそうなものですが。全自動殺戮兵器ガーディアンが複数突っ込んでくるような土壇場にも救いの手が駆けつけるほどには、下の者に慕われていたように思います。

 そんな解釈の元、継戦能力が重視されそうな近衛としては不良品としか思えない上、武具説明にすら「実際の戦いには使われなかった」と書かれるほどに脆いネタ装備が、姫様の関わった仕事を評価する経緯で近衛の名前を冠する武器として採用された設定を作っております。
 (これによりガーディアンを奪われたことで生まれる「抵抗続かず壊滅する近衛」という悲劇の何割かを、姫様の行動結果の影響だと捏造することに成功。拙作の『ウツシエの記憶』で流れる自責の涙は、きっと原作よりも美しく輝いておられるはずですぞ……! )
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