回生のライネル~The blessed wild~   作:O-SUM

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○今回のあらすじ

 ※今話は前話の場面より少しだけ時間と場所が経過しています。
 『最優の雄』を決める決闘後、開かれた宴会翌日のボコブリン集落での話となります。

 『ゼルダの伝説 夢をみる島』ァァ! 
 Switch版発売おめでとうございますぅ!
 けどクリボーやカービィが出せるんならぁ!
 ライネルだってスポット参戦してくれても良かった気がしますぅ!!




負け惜しむ青鬼

   * * * * *

 

 

 【空の台地】、とあるボコブリン集落の広場にて。

 地面にうつ伏せで横たわる青肌の戦士を、3匹の同族が取り囲んでいた。

 ただ一様に呆れの表情を浮かべている彼らの顔に、倒れるがままにされている同族を心配している様子は一欠けらもない。

 戦士が一晩で周囲に散らかしてみせた酒樽、食べカスの惨憺たる有り様に、彼に対して普段向けていた敬意や昨夜の興奮への感謝

 

 

 

 

 ――ゆさゆさ

 

 ――ユサユサ

 

 ……中々起きねぇな、コイツ

 ……あら? そこで寝てたヤツってベコリーだったの?

 ……確か昨日ナナシと戦ってたろう? もしかしてまだ目を覚ましてなかったのかい?

 

 ――ゆさっゆさっ

 

 ……いんや、宴会が始まる頃には普通に起きてたんだが

 ……『最優』をナナシに取られたからねぇ…… ヤケ酒かしら?

 ……あー、そうなのかい? いつもより喧しく騒いでいたもんだけど、気付かなかったよ

 

 ――ユサッ! ユサッ!

 

 ……アレだ、ホレ。『最優』と一緒にボコナも掻っ攫われちまった訳だろ? 振られ男が隅っこでジメジメとしてたってワケさ

 ……んまぁ! 図体の割りに肝っ玉の小さい男ね!

 ……しっかし反応ねぇなー? 実は死んでんじゃねぇか?

 ……馬鹿言うんじゃないよ、こんなにデカいイビキをかける死体がどこにいるんだい。ホラ! いい加減起きなっ! 片付けの邪魔だよベコ坊!

 

 ――ゴンッ!!

 

 

   *   *   *

 

 

  ――目が覚めた。そして頭が痛い。

 

 「……頭がイデェ 」

 

 どうにも薄ぼんやりとした意識のまま、のっそりと頭を持ち上げる。

 普段の寝起きは、それほど悪いつもりはないんだが。

 

 「あーチクショウめぇ…… こりゃ飲み過ぎたかぁ? 」

 

 頭を起こした途端、胸元からこみ上がってきたモノに思わず唸ってしまう。

 喉の渇きが随分と酷い。いつもならば雄らしさに溢れる太さで遠くまで響く自慢の声もまた、ガラガラと割れて濁っていた。

 何とも言えない気持ち悪さが、頭の奥から湧いて頭蓋骨をガンガンと叩いてくる。

 

 とりあえずまずは喉を潤そうと、眠りこける直前まで手元に置いていたはずの酒盃を抱え込もうと腕を伸ばした―― が、手は何かに当たることなく空振りしてしまった。

 寝返りの拍子にでもどこかにやってしまったのだろうか?

 薄目を開いたぼやける視界には、酒盃の影はどこにもない。

 

 (探すか――)

 けれど、身体を動かすのが億劫だ。

 

 (もう面倒だし、いっそもうひと眠りしてしまうか――)

  いやいや、この喉の渇きはどうにも耐えられそうにない……あぁ、けれど……

 

 まどろみ混じりの逡巡を、何度か繰り返す。

 そうしている内に、段々と水を飲みたい気持ちの方が強くなってくる。

 やがて、泥に沈み込んでいたかのように重い上半身を、それなりに苦労してからのっそりと持ち上げ、辺りを見渡す。

 

 その途端、くらりと揺れる視野。

 ネバついて、中々開かないまぶた。

 普段の半分も働いていない頭ではあったが、それでも段々と周りの状況が飲み込めてくる。

 

 夜闇に冷えた空気がじんわりと温まり出す、1日の始まり特有の冷ややかで暖かい風に肌を撫でられたうえ、何度かの瞬きを繰り返してようやく、暗い夜空が薄白の混じる朝焼けの空に変わっているらしいことに気付けた。

 

 つまり、朝だった。

 宴はもう終わっていた。

 常ならば軽く飯を食い、森へと狩りに出掛ける準備をしたりしている、とっくに起き出していたはずの時間だった。

 ……それが分かってなお、きびきび立ち上がって動く気分にはどうにもなりそうになかったが。

 

 さて酒盃はどこだと思っていたところ、フッ、と感じた胡乱な視線。

 ぼんやりと動かしていた頭を正面に固定する。

 

 そこはやや離れた先、木の幹と枝を雑に組んで作った机を並べた場所であり、はたして視線を俺に投げていたのは、1匹の年嵩の雌だった。昨夜の宴の片づけをしているのか、手にはいくつもの空っぽな器を重ねている。

 戦士に対して余りにも無遠慮な視線を寄越してきた者に何事か言うべきかもしれなかったが、俺の注目はすぐさま、その手に重ねられたモノに引き寄せられていた。

 

 積み上げたソレのてっぺんに置かれているモノ。

 それはまさしく、いつの間にか寝てしまうまで俺が抱えていた酒盃に違いなかった。半分寝ている頭であっても、一晩中己を慰めてくれた酒盃の姿は印象深く覚えていられるモノらしい。 

 全ての酒器を下げられる前に折よく目覚め、気付けた幸運に少し気分が上向く。

 

 後は話が早い。「酒をがえぜ。残ってないなら水でもいいぞ」と、雌に声を投げた。

 それは俺のだ。勝手に持っていくな。

 

 ……しかし片付けの最中であるらしかったところの彼女が、熟練の狩人にして歴戦の戦士な俺の呼び掛けに応えることはなく。

 朝になっても抜け切らないほどの酔いを持ち越して苦しむ俺の様子を鼻で笑い、その両手に高く積み重ねられた食器の山を崩すことなく、悠々と洗い場に歩き去ってしまった。

 

 ようやく持ち上がろうとした気分が、勢いをつけて沈み込んでしまう。

 

 なんてこった。

 この偉大なるベコリー様の頼みをあっけなく断るなんて、なんて酷いババアなんだ。

 昔からそうだったが、いつまで俺をその辺の悪餓鬼扱いするつもりなんだ。

 酒を持って来いとはこの際言わないから。

 水だよ水。水をくれ。

 喉の渇きが全然収まらないんだよ。

 しっかも、ボコナのような張りのある後ろ姿を見せるならまだしも、そんな肉の垂れ下がった尻を見せつけられては、ますます調子が悪くなるじゃねぇか。

 

 「アダマが痛いぞぉー…… ダレがー、みず~~ 」

 

 起き抜けには何やら硬いモノが頭にぶつけられた気がしないでもなかったが、そんなモノが既に気にならないくらい、ただただ気持ち悪い。目覚めてから段々と強さを増しているような気すらしてきた不快感を、再び伏せた頭を抱えながら悶え続ける。

 時折目の前を通る雌連中に声を掛けるも、残念ながらまともに取り合ってくれる者はいなかった。

 

 やがて、いよいよ自分で動かねば水を得られないのかと苦い決断を迫られた時。

 

 「……あのー。良かったらコレどうぞ 」

 

 誰かが目の前に立ち止まった気配。

 朝日を隠すように差し込んできた影を感じて億劫ながら顔を上げてみれば、そこにはまだ年若い雄の狩人が、雫を器の淵から滴らせた器を片手に抱え、心配そうにコチラを見下ろしていた。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 「あ゛~話したなぁ……。大体こんなモンか? 」

 

 

 器に注がれていた液体は酒でこそなかったが、片手で持つにはやや大きいほどの器になみなみと溢れていた水だった。

 けれども奪うようにして受け取ったソレは乾いた喉を大いに潤し、頭にこびりついていた不快感の大部分をも拭い流してくれたので、文句などつけようもない。

 加えて目覚めてからコッチ、散々年増の雌達に訴えを無視されていた経緯もあって、普段はそれほど気前の良い性格をしていない自覚のある自分ではあったが、この時ばかりは感謝の念しか湧きようがなかった。

 

 そうした経緯で正しく恩人となった若者に対し、せっかくだから何か俺にして欲しいことはあるかと訊いてみれば―― なんと「昨夜の『最優の儀』の決闘について話が聞きたい」のだという。

 

 ()()()ではない。このベコリー様に、だ。

 

 正直これを言ってくれたのが”優勝の褒美(ボコナ)”であればなお嬉しかったのに、と思いはしたものの…… それを置いても中々見どころのある雄じゃないかと、酔いから醒め始めた頭ながらに強く感心したことを覚えている。

 

 それから――今までの間。

 

 周りをウロチョロとこれ見よがしに片付け始める雌共から向けられた、起きたならさっさとどこかに行けという視線を軽く尻目にしてやりながら、

 この未来ある若者に!

 俺様が強敵相手に次々と勝ち上がった今回の戦いの数々を!

 とくと語って聞かせてやった。

 

 どうやって他の戦士達に先んじて立派な猪を狩ってみせたのかという、前々日の狩りに遡り、初戦の実力差ある格下の相手に、いかに余力を残して堅実に勝ってみせたか。それから自分より経験を積んだ老練な戦士とぶつかった準決勝で、どれほど勇敢に戦ってみせたかまでを語り終える頃には、朝日がハッキリと山の向こうから顔を出す頃合いとなっていた。

 

 潤したばかりのはずの舌に再びの渇きを感じて、少し感謝が過ぎてしまったかなと、この場を良い感じに切り上げようと立ち上がる。

 

 ――だが、それまで周りの雌から向けられていた無遠慮な視線に気が散っていた様子だった若者が、立ち上がった俺をさも意外そうに見上げてくる。その顔には『ここで話が終わる』ことをまるで考えていなかったと、ハッキリと表れていた。

 

 

 そんな表情を見たからだろうか。

 束の間忘れていられた、不快感を思い出す。

 

 無言のまま、話の続きを催促する視線。

 どうするか少し迷った。

 

 しかしこんな期待に満ちた顔と目を合わせながら、なおそれを振り切り立ち去ってしまっては、そんな行為をした自分自身に嫌な意味を持たせてしまいそうだった。

 そして、それを認めるのはどうにも癪に障るのである。

 

 結果は既に出ており、先延ばしにしていた格付けも済んだ。

 だが、昨日の今日でそれを認めるのはまだ、どうしても、嫌なのだ。

 

 ……恐らくは最初から目の前の雄が聞きたがり、そしてさっきまでの自慢話の中で俺があえて話さすに省いていた「決勝戦」。

 渋々座り直した俺は、必要も意味もない意地を張るためだけに、その内容を話すことにした。

 

 

   *   *   *

 

 

 聞きたい話をしっかりと聞き出せたことに満足したらしい若い雄が、大きな声で感謝を告げてくる。もう酔いはすっかり醒めたはずだったが、その声はなんだか耳に重かった。

 

 話している内に分かったことであるが、目の前の赤肌であるコイツは、あの野郎に強く憧れていた。

 何でもつい最近、森で狩りに失敗して死にかかったところをヤツに助けられたらしく、その時に獲物を屠った一撃と、決勝戦で見せたあの決まり手は同一のモノだったという。

 命を救われて以来、何とか自分もあの技を真似するべくこっそりと練習してはいたもののまるで上手くいかず、実際に木剣とはいえ受けた者の話を聞きたかったということだ。

 本人に聞かないのは助けられただけで接点がなく、他者を寄せ付けない孤高な雰囲気に引け目を感じて二の足を踏んでしまうということらしい。何だその理由は。

 

 ――しかしハッキリと言える。

 アレを真似しようなんて、頭が可笑しいのか、と。

 

 まず俺達が狩りや闘いの場の臨む時、基本的に1撃で相手を殺すことは意識しないのは常識である。野生を生きる逞しい命を屠るのに、俺達の種族は非力に過ぎるのだ。

 熊のような体格も、猪のような分厚い皮膚や脂肪も持ち合わせていない。背丈の倍以上を飛べる脚力があるとは言っても、それはスカスカの骨と肉で構成された軽過ぎる体だから出来ることだ。

 しかもそうして飛び上がったところで攻撃に乗せられる体重は知れたものなのだ。逆に致命的な隙を晒してコチラの命を危うくするだけである。

 

 だから俺達の先祖が代々築いた戦闘法は、体重を掛けず、肩から先しか動かさないような隙の少ない連撃を重要視するモノなのだ。

 全力で得物を振るっていいのは最後の最後。間違って反撃を受ければすぐに痛む脆い身体を自覚すればこそ、俺達は相手を少しずつ弱らせる戦い方を磨いた。

 そしてそれが正しかったから、この部族は今日まで安定的な糧を得られ、この森における生存圏を少しずつでも広げることを成し遂げているのではないか。

 

 (だというのに、なんなんだアレは )

 

 そうした血で塗り固めて積み上げた確かな歴史に、アレは正面から喧嘩を売っているとしか思えない。

 

 なぜヤツは跳ぶ?

 闘いや狩りで我を忘れた未熟者が時折そうするような、我を忘れた様子でこそないが、ヤツには跳躍に対する忌避がない。時折見かける修練の時にだって、ヤツは何か理想があるようにして、一定の形を反復して跳ね回っていた。

 確かに体重は乗るだろう。

 ただ跳ねるだけではなく、最も重い頭を躊躇なく振り回すことで勢いをつけ、空中で何回転もした末に放つ斬撃。それに同族らしからぬ威力を込め得ることは、それを受けて木剣ごと身体を弾き飛ばされた俺

自身認めざるを得ない。

 

 確かにあの回転の勢いが乗り切った攻撃は重く、強い。体格や体重も全く違う熊や大猪だって、当たり所が良ければ一撃だろう。

 しかしそんな種族が抱える弱点を解決してくれるような剣ではあったが、ヤツを除いたどの戦士にしても、ふざけて真似することくらいはあるものの、決して命や名誉の掛かった、実際の狩りや闘いに用いようとする者は皆無だった。

 

 理由は簡単だ。当たらないのである。

 

 まずあんなに回転しながら跳ね回れば、あっという間に自分の前後左右なんて分からなくなる。遊び半分で試した連中はせいぜい何回か前転した後、尻餅をついて笑っていただけだったし、こっそり一人で試してみた俺だって、宙返りを繰り返すことが精一杯で剣は握っているだけしか出来なかった。

 

 しかも当然ではあるが、剣を向ける相手は動かない木偶ではない。

 敵意を持って動くのである。

 避けもするし、防いだり、隙を見つければ反撃だってしてくるのだ。

 

 とてもじゃないがあんな景色と内蔵がぐるぐる回転している状況で周りを認識しながら、そんな敵を相手に剣を振るなんて、正気を投げ捨てていないと無理だろう。

 

 そしてそんな全力で身体を振り回す攻撃なので、当然外そうものなら隙だらけの死に体だ。

 戦士相手なら間違いなくその瞬間に勝敗が決するだろうし、野生の獣だって、フラフラの馬鹿に致命傷を与えることは難しくないだろう…… ヤツは一体、外れた時にどうするつもりなんだ?

 

 ある程度周囲が見えているとして、いや出来てないとますます意味が分からんが、仮にそれが出来るとしても、回転した勢いを殺さないままに正確な一撃を相手に当てられる技量が無ければ、特攻にすらなりはしないのだ。

 

 恩恵と言えるモノはただ1つ。

 『種族の壁を超えた強い一撃を繰り出し得る』という1点のみ。

 

 『身体のバランスが取れなかったらまず技を出せない』『バランスが取れても周囲が分からない』『技量がべらぼうに高くないと剣が当たらない』『外したら死ぬ』などなど――

 頭の中がどうなっているか知れたものではないが、ヤツはなんで欠点塗れな馬鹿な発想だと切り捨てず、こんな狂気の欠陥技を大真面目に身に付けたのか。

 

 

 ……もっとも。

 思い返してもヤツは跳ね回りながら回転を繰り返すまま、緩急をつけたりしつつコチラを牽制してさえいたが。しかも反撃の機先を制せられたまま、絶対に受けに回らないといけないように追い詰められたような気がする。

 

 回転して跳ね回りながら、である。

 訳が分からなかった。

 

 体格では勝っているし、筋量も負けていない。狩りや闘いの駆け引きだって、1年に満たない経験しかないヤツに劣るはずもなかった―― が俺は前評判通り、圧倒的に惨敗してしまった。

 本当に意味が分からない。

 

 ……そうだ。

 あの野郎は訳が分からないヤツなのだ。

 

 初めて出会った時のヤツは、自分で自分の身体を思うように動かせないような存在だった。一体何をして今まで生きてこられたのかと思うくらいには、この集落の雌や子供を含めた誰よりも弱いとしか思えない程度の雄だったのだ。

 それなのに忌々しくもボコナに世話をされ、何があったのかひょっこり身体が動くようになった途端、『強かった』ことが分かったのである。

 成長した、強くなった、ではない。

 ようやく走り回れる程度になった姿を見た翌日、広場で行われていた戦士の訓練に乱入したヤツが、あっさりと現役の『青肌』を打ち倒した時は本当に、本当に驚いた。

 

 その時に思い知らされたのだ。

 『赤肌』に関わらず、ヤツは俺より強い戦士だったのだと。

 

 ……だというのになぁ。

 だからこそ、分からねぇんだよなぁ?

 

 (あのクソ野郎は、普通に戦えばもっと強いんだよなぁ!! )

 

 ホンット、本当に。

 その事実が本当に意味不明だ。

 集落随一である歴戦の戦士ですら手玉に取るような駆け引きの巧みさ。更には見たこともない剣の振り方の数々。認めるのは甚だ、甚だ癪ではあるが、ヤツの振る剣に思わず目を奪われてしまったのは1回や2回ではない。正直に言ってマトモに剣を交わせばまるで勝てる気がしないほど、ヤツは強いのである。

 欠点だらけの博打技に頼るまでもなく、ヤツは最強なのだ。

 

 なのに「ナナシがあの技を使ってくれれば、避けることさえ出来たら俺が勝てる 」などと格下の戦士達にも妙な希望を持たせてしまうせいで、本来なら棄権されるような組み合わせも取り下げられることなく行われた。

 真面目に戦うなら、文句はない。もし今回の決闘だって正面から()()らしい剣と剣を正しく打ち合わせた上で優劣が決まったならば、俺もこれほど腐ってはいなかった。

 

 だというのにヤツは狩りや訓練の最中がそうだったように、最も大事な瞬間をあの「回転切り」で決める悪癖を今回もやらかした。

 何かを確認するように毎試合必ずソレを絡めながら、父祖や俺の積み上げた剣を鼻で笑うようにして『最優』をかっさらっていきやがった。

 

 素のままで戦えば誰よりも安定して強いというのに、何故必要のない尖らせた力を欲しがるのか…… それは彼女を手に入れられる"最優"より大事なのか。それが俺には分からないし、納得出来ないのだ。

 

 

 昨夜の痛飲は実のところ、そんな『全力ではない』かのような振る舞いをしやがる野郎に次期族長の座と、何より”褒美”を持っていかれた悔しさを紛らわせたかったが故の暴挙だった。

 

 ……水を飲み、親切で無神経な若造と話している内にその酔いがすっかり醒めたのは良かったが、そのせいで忘れたかった苦々しさと、決勝戦でヤツから受けた、肩のじんわりとした痛みがぶり返すのを自覚してしまう。

 

 「あー痛ってぇクソ、まぁだズキズキしやがる……。これなら、酔っ払って頭抱えてた方がまだマシだったかチッキショウ…… 」

 

 もう今日の狩りは辞めよう。

 うっかり野郎の顔を拝む前にさっさと帰って不貞寝するか―― そう思い、これだけ語らせてもまだ未練を捨て切れてなさそうな目の前の赤肌と別れようとした時。

 

 

 

 ――カン、カン、カカン!

 ――カン、カン、カカン!

 

 

 

 集落の外れ、山側に設けられた櫓から、金属を打ち合わせる音が集落全体に響いた。

 

 拍子の符号は"緊急"。

 部族を別にした同族がそちら側にいるから、という理由で設けられはしたものの、普段はろくにその用途に使われることのなかった建物が、貴重な鉄具を用いて知らせる"緊急"。

 

 その答えは一つだった。

 

 「……『敵』が来るぞぉー! 戦士達は北側に集まれ! 女子供は家から出るな! 狩人は森に入れ! もし出払っている戦士がいるなら、すぐに集落へ連れ戻すんだ! 」

 

 族長の怒声が集落に轟く。

 周囲にいる片付けをしていた雌達も慌ててはいたが、混乱までは起こしていない。散り散りに、しかし取り乱すことはなく、飛ばされる族長の指示に従って集落が動き出す。

 

 こうした襲撃は頻度こそ低いが、初めてではなかった。

 まとまった数による他部族の襲撃であれば厄介だが、前触れもなくそんな異常事態は早々起こりはしない。食料の心配をする時期でも無ければ、近頃は台地に流行り病が起こっているなんてこともなかったはずだ。

 

 つまり今回の突発的な『敵』も前回と同様、大型の獣の接近である可能性が高いだろう。

 今までほとんどそうだったし、それを集落に住まう者全ての知るところだ。彼女達もそれは理解しており、俺達戦士がこれまでのように追い払ってくれると信じているのだろう。

 

 前回の『敵』は野郎にその手柄を取られたが、何も戦士はアイツだけではない。

 

 (丁度良いじゃねぇか )

 

 最近、どうにも俺に対する雌達からの敬意が薄れてきたみたいだったからな。

 ここらで一つ、ベコリー様の剣でこそ集落を守れることをキッチリ証明してやって、ケツの良い雌達の視線を独り占めしてやるぜ。

 

 「おう、テメェもついてこい! 前に出るんじゃねぇぞ!? 決闘とは違う俺の力を見せてやるから、しっかり目ん玉ひん剥いてみてな!! 」

 

 

 間違っても実戦で、奇天烈な剣を使おうなんて思わなくなるよう、正道の剣ってのを教えてやる!

 

 ナナシの出番はねぇぜ!!

 

 

 




 イッタイ ナニガ セメテキタンダー! 
 テキ ハ ケントタテ ヲ モッテイルゾー!メストコドモ ヲ ニガセー!ムラ ヲ マモレー!
 ――――……
 ――…
 ―…
 ゴマダレ~♪






 お久しぶりです! からの幕間&幕間。

 戦闘中に回想挟んだり別キャラ視点を語らせたりして、突然それまでなかった主人公の全く新しい力が解禁される流れはかなり使い古されている王道感がありますが、それだけに良いモノはとても良いと思います。 

 ……ちなみに原作ではモンスターの集落を全滅させると、不思議な力で宝箱が出現してリンクの装備や懐を助けてくれます。
 進め方にもよりますが、道端に落ちてる装備や換金アイテムよりは有意義なモノを手に入れやすいということもあり、プレイヤーの多くは宝箱を求めて集落を襲い、砦の影に隠れているような最後の1匹に至るまで探し出し、執拗に殺戮の限りを尽くすのです。
 特に序盤で手に入る武器の耐久性は低く、調子に乗って振り回しているとすぐ壊れてしまうために、宝箱から手に入るちょっと強い武器は結構嬉しいモノがありました。

 「次も魔物を頑張って滅ぼそう!」
 前向きに、そんな気分を抱く―― 勧善懲悪を楽しく学べる、それが私達のBotWなんだ!


 ――つまり、そういうことです。


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