出来損ないの最高傑作ーNT   作:楓@ハガル

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本文よりもサブタイトルが難しい。何かコツとかないかな……。


第十一話 修了任務の爪痕

 少々、危うい場面もあったが、アフィンのお陰で、どうにか免れた。緊急試験も、時間内の殲滅に成功した事で、無事に合格。コフィー殿が褒めていた、と、ブリギッタ殿から伝えられ、みな、安堵の吐息をもらした。

 

 船には、アサインカウンターとの通信端末があり、それを介しても、任務やクエストに登録出来る。次の任務もナベリウスならば、それを使おうか、と思っていたが、その次の任務には、特殊な装備が必要であり、受領の為に、一度アークスシップに帰還して欲しい、と連絡があった。

 

『お疲れ様でした。それでは、帰還して下さい』

 

「了解いたした。楓パーティ、これより帰還しますぞ」

 

起動したテレポーターに入り、船に戻る。後は、アークスシップに着くのを、待つのみ。

 

「ザウーダンは、とにかく力が強いと言う印象だが、フォンガルフは、頭の良さが、一番厄介だな」

 

「うむ。妾たちのような新人が単独で挑めば、抵抗する間もなく、彼奴らの胃の中じゃろうな」

 

「ガルフとウーダンの群れに、一人で突っ込んだのは、誰だっけなー」

 

「むぐ……。ほ、ほれ、あの時は、ザウーダンもフォンガルフも、おらんかったではないかっ」

 

「そう言う問題じゃないと思うなぁ……」

 

まぁ、無茶をしたのは認めるが、昨日の話じゃし、きちんと謝ったではないか。今になって、蒸し返さずとも、良かろうに……。

 

 

 

 帰還後、小休止を挟んでから、アサインカウンターで合流となった。昼のように、自室へ戻り、マターボードを確認。ログ通りに、新たな偶事が提示されていた。

 

「次も、やはりナベリウスかのぅ。敵討伐の報酬か、それともまた、誰かと会うのか……、お?」

 

目的は、ゼノ殿と会い、『クライアントオーダー』として『経験は力』を受諾し、達成する事。さらに、今までにない変化が見られた。その偶事を囲む、三つの偶事もまた、同時に提示されておる。ナベリウス原生種討伐の報酬として、武器を得よ、か。

 

「次の任務で、全て達成しろ、と言う事かの。まぁ、手間は省けるわぃ」

 

ともかく、まずはゼノ殿から、クライアントオーダーを受けねば。マターボードの情報によると、場所は……、ふむ。

 

 先輩方と新人が入り乱れ、賑やかなショップエリア。そこかしこから、互いの健闘を称え合う声や、良い報酬をもらえたと自慢する声が、聞こえてくる。情報通りならば、この中に、ゼノ殿がいらっしゃるはずじゃが……っと、見付けたぞ。

 

「ゼノ殿、先程はどうも」

 

「おぉ、楓か。さっきの任務も、無事に終えたみたいだな」

 

「みなの力があればこそ、でしたがの。妾一人ならば、喰われておったでしょう」

 

「……腹ん中で暴れそうだな、お前なら」

 

「何か、申されましたかな?」「空耳じゃねぇの?」

 

しっかり、聞こえておったがな。しかし、ゼノ殿との、この小気味良い言葉の応酬、実に、愉快じゃ。アフィンも、もう少し経てば、こうなってくれそうじゃの。

 そんなゼノ殿じゃが、こうして会えたのは良いものの、何故、こんな所で、暇そうにしておるのかのぅ。

 

「手持ち無沙汰に見えますが、どうされたのですかな?」

 

「あー……。情けねぇ話だが、エコーの奴に、追い出されちまってな」

 

「ほぅ、夫婦喧嘩」「誰が夫婦だ」

 

むぅ、否定が早い。脈があるならば、何かしらの変化が見て取れるのじゃが、ゼノ殿(朴念仁殿)は、妾の目を以てしても、何も変わっておらぬように見える。エコー殿……。心中、お察ししますぞ。

 

「冗談はさて置き。追い出された、とは、穏やかではありませんな。何かあったのですか?」

 

さては、着替えか入浴に出くわしたか? 妾の祟りなしで、そのような場面に遭遇するなど、余程の体質でない限り、不可能なはずじゃが。

 

「報告書が雑だ、って、怒られちまってな」

 

「報告書? もしや、任務の?」

 

「あー、心配すんな。お前たち新人は、まだ免除されてっから」

 

 本来であれば、任務やクエストから戻ったら、その経過をまとめて、提出せねばならんらしい。新人は、実戦を数多く経験させる為に、報告書の義務は免除されており、管理官の実績判定や、オペレーターのログを、代わりに充てるそうな。

 

「昔っから、書類仕事ってのは、どうにも苦手なんだが、今日のは、特に酷い出来でな。それがエコーに見付かって、大目玉食らって、代わりに書いてもらってる、ってわけだ。その間、邪魔だから外に出てろ、とさ」

 

「な、なるほど。それは災難でしたな……」

 

エコー殿も、一緒に書けば良いものを……。いや、逆に、私情を挟まずに仕事をやる模範的なアークス、と言えるじゃろう。

 それよりも気になったのは、今日は特に酷かった、と言う点か。

 

「特に酷かった、と言うと、エコー殿に追い出されたのは、今日が初めてで?」

 

「まぁな。普段なら、提出すんのに問題ない程度には、書けるんだよ。今日は、てんで駄目だった。内容が、全くまとまらねぇんだ」

 

「ふむ……」

 

これも、マターボードの影響か。クライアントオーダーを受けるに当たり、ゼノ殿がまともな報告書を書けない、と言う偶然を、マターボードが確定させたんじゃろうな。でなければ、この小休止の間に、会えなかったやも知れぬ。

 

「しかし、こうして待ってるだけってのも、暇で仕方ねぇ。何か、良い暇つぶしはねぇかな……。お、そうだ」

 

後頭部の辺りを、ぽりぽりと掻いていたゼノ殿が、妾の顔を見て、何か、思い付いたようじゃな。まぁ、マターボードに書かれていた、クライアントオーダーなんじゃろうけど、この流れだと、妾を暇つぶしに付き合わせようとしている、とも取れるな。

 

「せっかくだ、先輩らしい事でもしようかね。楓、端末出しな」

 

妾に促しつつ、ゼノ殿も端末を取り出し、何やら操作している。

 

「オーダー名は……そうだな、『経験は力』、ってしとくか。これでコフィー嬢ちゃんに申請して、と。……よし、通った。送信すんぞ」

 

手元の端末が、受信音を発した。画面には、『クライアントオーダー『経験は力』が届いています。詳細を確認しますか?』との表示。

 

『VRでどれだけ戦えても、実戦じゃあ、役に立たねぇ事も多い。モノを言うのは、経験、場数だ。プログラムとは違うナベリウスの本物を、二十匹仕留めて来い。数は少ないが、何事も一歩目が肝心だ』

 

「クライアントオーダーってヤツだな。管理官を通した個人的な依頼で、実績として、正式な評価の対象になる。今回の依頼は、敵の討伐だが、サンプル採取なんかを依頼される事も、ままあるな」

 

「なるほど。確かに、先輩らしい暇つぶしですな。クライアントオーダー、確かに受領しましたぞ」

 

「お前が戻って来るまでは、適当に理由付けて、ここにいるからな。報酬は、俺の『パートナーカード』だ。それと、安くて済まんが、100メセタ」

 

「ぱぁとなぁかぁど?」

 

「依頼とかクエスト専用の連絡先だ。いつでも、ってわけには行かねぇが、ソイツをアサインカウンターで見せれば、同行を依頼出来る」

 

おぉ、それは素晴らしい。修了任務の担当官、と言う縁はあったが、こちらから、何かの折にお誘いするのは、気が引けておったのだ。

 

「随分な貴重品ですな。期待しておきます。それでは、失礼しますぞ」

 

「おぅ、頑張って来いよ」

 

 これで、準備は整った。早速合流して、ナベリウスへ出発しよう。

 

 ポータルに入ろうとしたら、背中に、誰かがぶつかった。

 

「おっと……?」「……っとお! 危ない!」

 

誰かの進路を、邪魔してしもうたのかも知れん。謝ろうとすると、

 

「次は、キチンと避けてよね、そこのアナタ! さぁ、調査、探索、収集ーっと!」

 

その誰かは、一方的にまくし立てて、ポータルに入ってしもうた。

 

「何とも……、元気の塊のようじゃな……」

 

「不肖の姉が、すみません。お怪我は、ありませんか?」

 

呆けたように、そのポータルを見ておったが、背後からの声に振り向くと、そこには茶色の髪を二つに括った、ニューマンの少女がいた。見覚えがない、と言う事は、この少女も、先輩なのじゃろう。

 

「えっと、ごめんなさい。急いでいるので、これで」

 

「あぁ、いえ、お気を付けて……」

 

随分と急いておるようで、特に引き止める理由もない故、当たり障りのない言葉で、見送った。

 不肖の姉、と仰っていたが、あの二人は、姉妹なのじゃろうな。まるで性格は違うようじゃが、まぁ、妾とあねさまも、正反対と言えるからの。気にする事でもあるまい。ともかく、合流場所に、向かうとしよう。

 

 

 

 アサインカウンターで、アフィンたちと合流。次の任務を受けようとしたところ、レベッカ殿が、お話があると言う。

 

「パーティメンバーは、この四人で、間違いないね? それじゃ、ちょっと待ってて。次の任務、今までのと違って、捕獲任務なの」

 

捕獲任務、とな。確かに、任務名は『ナヴ・ラッピー捕獲任務』、となっておる。

 緑の星と砂漠の星、極寒の星と灼熱の星など、まるで違う環境であっても、全く姿を変えず、当たり前のように存在する、鳥のような外見の、可愛らしい生物、ラッピー。そのラッピーがナベリウスに定着し、独自に進化したのが、ナヴ・ラッピーと言われておる。諸説あるが、それはまぁ、今は重要ではないな。

 重要なのは、本来はダーカーによる侵食を受けないラッピーが、ナベリウスで進化した途端に、侵食されるようになった事。その調査の為に、ナヴ・ラッピーを捕獲して欲しい、と。

 

「よし、準備完了。皆の装備に、スタンロッドを登録したわ。捕獲専用の武器だよ」

 

 捕獲に際しては、そのスタンロッドとやらを使うらしい。

 

「先端を押し当てると、フォトンを変換した電流が流れて、相手を麻痺させるの。肉体的なダメージはないから、あくまでも、捕獲専用。間違っても、他のエネミーに使っちゃ駄目だからね。今回は、ナヴ・ラッピー用に調整してあるから、相手によっては、怒らせちゃうかも知れないよ」

 

ふむ。ナヴ・ラッピーを捕獲する為の装備か。確かに、小柄なあやつらに効く程度の電流なら、ガルフ種やウーダン種に使えば、逆上してしまうかも知れんのぅ。

 

「スタンロッドは、今日から、君たちの物。今後も、捕獲任務があれば使うから、大事にしてね。壊したり、分解したりしちゃ、駄目だよ?」

 

「承知しました。では、戦果を期待していて下され!」

 

「スタンロッドって事は、格闘戦かー。レンジャー科に入ってからは、ろくにやってねーんだよなぁ……」

 

「考え過ぎちゃ駄目だよぉ。ガバッと来たら、すぅっと避けて、グイッとやっちゃえば良いんだよぉ!」

 

「分からん、もっと具体的に頼む……」

 

分からんじゃろうなぁ。妾も、分からんわ……。

 

 

 

 任務は、どうにか終わった。と言うか、これまでで一番、苦労した。汚染地帯のナヴ・ラッピーは、他の原生種同様、侵食の影響で、好戦的になっておる。しかしあやつらは、どう言う理屈でかは分からぬが、妾たちの目的を悟っていたかのように、発見した瞬間に逃げ出しよった。

 ぐるぐる、ちょこまかと逃げるあやつらの捕獲は、想像以上に手こずった。あの小さな体で、無軌道に走り回るものだから、何度、アフィンたちとぶつかりそうになったか。

 場所も、段差や高台があり、蹴躓く、ぶつかる、落っこちる、と、一通りやらかした。戦闘では、ここまでどうにか無傷だったと言うのに、こんな事で痛い目に遭うとは、何とも、締まらない話じゃ。

 おまけに、そんなてんやわんやの状況に、あの憎きアギニス共が乱入したものだから、余計にややこしくなった。同じ鳥同士、守ってやろうとでもしたのか。アフィンとアーノルドが、即座にライフルで迎撃してくれたが、その間は、ただでさえ手を焼いていた捕獲作業を、二人で進めねばならなかった。

 しかし、いくらイライラしていたとは言え、

 

「えぇい、この鳥共め! 焼き鳥か唐揚げにして、食ろうてしまうぞ!?」

 

などと、つい声を荒げてしもうたのは、我ながら、華麗ではなかったな……。ちと、反省。

 

 ともかく、任務は完了した。ゼノ殿から受けたクライアントオーダーと、マターボードの偶事も、その過程で達成出来た。結果は上々。

 そして今度こそ、船の端末から、次の任務に登録しようとしたのじゃが、そこでまた、連絡が入った。次の任務は、少々大掛かりなものになる故、編成の為、一時帰還して欲しい、と。まぁ、そう言う事情なら、致し方あるまい。残念では、あるがの。

 

 新人二人と先輩二人のパーティで出撃する事になるらしく、その人員割りをする為、しばし待機となった。丁度良い、ゼノ殿に、クライアントオーダー達成の報告をしに行くとしよう。

 

 探すまでもなく、ゼノ殿は、先程の場所におられた。隣には、エコー殿もおられる。と言う事は、例の報告書代筆は、任務の間に終わったか。

 

「もう戻ったのか、早かったな。……随分と苦労したみてぇだが」

 

「……お分かりになりますか。当分は、鳥は遠慮したい気分です」

 

おや、見抜かれてしもうた。男女の機微には疎いと言うのに、妙なところで、目敏い御仁じゃな。

 

「あぁ、ナヴ・ラッピーの捕獲かな? 研究が全然進まないらしくて、定期的に出される依頼なのよ」

 

「あいつら、ケージの床をブチ抜いて逃げるんだとさ。見た目は丸っきり変わってんのに、そこは、ラッピーと変わらねぇらしい」

 

「つまり、今回の苦労は、研究部の怠慢が原因と……」

 

「やっちまえよ、塩ぶち撒けるアレ」「何のことやら」

 

「あれは、ゼノの不注意が原因でしょ? 楓ちゃんに擦り付けちゃ、駄目じゃない」

 

「かかか。ゼノ殿、お気持ちは察しますが、妾のせいにされても、困りますぞ?」

 

「こ、こんにゃろ、抜け抜けと……」

 

口元に、意地の悪い笑みが浮かびそうだったので、扇子で隠した。ふふん。真正面からぶつかっても、妾は、はぐらかすだけですぞ?

 

「……いつか、吠え面かかせてやるからな。それより、オーダー、終わったから来たんだろ?」

 

「えぇ、首尾良く済みました。これは、端末から報告申請をするので?」

 

「そうだな。……っと、来た来た。……問題は、なさそうだ。どうだった?」

 

クライアントオーダーの内容が、経験を積んで来い、じゃったしな。中身のない返答なぞ、期待されておらんじゃろう。

 

「捕獲任務に限らず、知能の高さに、肝を冷やすばかりでしたな。地形や、自身の特徴を活かした攻め方など、VRの敵は、仕掛けて来なかったゆえ」

 

「なるほど。それなりに危ねぇ目に遭いつつ、しっかりモノにしたみてぇだな」

 

うんうん、と頷きながら、ゼノ殿が、佇まいを正す。修了任務、降下直前を思い出し、妾も、背筋を伸ばした。

 

「過去の戦闘記録が全部反映されてる、っつっても、所詮は過去のデータだ。それに、ガッコのVR訓練じゃあ、地形や天候までは再現されねぇ。大事なのは、交戦して、テメェの中で更新し続ける事だ。本物を見て、戦って、頭に叩き込め。それが、一番の武器になる。そんで、とにかく、生き残れ。怪我しても、生きてさえいりゃ、次に活かせる。良いな?」

 

「心得ました。その教え、決して忘れませぬ」

 

「ん、いい返事だ。期待してるぜ?」

 

引き締まった顔から一転、にかっと笑ったゼノ殿が、また妾の頭を、くしゃくしゃと撫でた。だから、妾の髪は、気安く触って良い物ではない! 次に撫でたら、金を取ってやろうか!?

 

「うわぁ、ゼノが、先生っぽい事を……」

 

「茶化してんじゃねぇよ。……そうだな、ではエコー君。先輩から後輩へ、送る言葉はないかね?」

 

「それやめて、鳥肌がすんごいから」

 

「同感じゃな、似合っとらん」

 

「うるせぇよ! んで? 何かねぇか?」

 

促されたエコー殿は、人差し指を唇に当て、少しばかり唸り、「ゼノの言った事に便乗するけど」と前置きしてから、こう言った。

 

「勝てない、倒せないと思ったら、絶対に無理せずに、逃げる、かな? 相手の情報は得られないけど、自分を鍛え直す時間は得られるからね。逃げるのは、恥じゃない。ありきたりだけど、あたしから言えるのは、これくらいかな」

 

そして、無理をして帰って来なかった人を、何人も知ってるから、と、小さな声で添えた。

 

「その一人になるつもりなど、毛頭ありませぬよ。お言葉、胸に刻みました」

 

「そ、そう言われると、何だか、照れちゃうな……」

 

「間違った事は、言ってねぇんだ。照れてねぇで、胸張っとけ。ともかく、オーダー達成、お疲れさん。報酬の100メセタとパートナーカードは、もう送られてるはずだ。改めて、よろしくな」

 

「あ、パートナーカード渡したんだ。それなら、あたしのも渡してくおくわ。頼りないと思うけど、よろしくね」

 

端末を見てみると、パートナーカード受信のメッセージが、二件表示されている。これを、アサインカウンターに見せるのじゃったな。

 

「とんでもない。アーノルドを狙うダガンを、的確に貫いた、あの腕前。期待させて頂きますぞ」

 

「も、もぅっ、褒め過ぎだよ……!」

 

むぅ、顔を真っ赤にして、俯いてしもうた。実に、可愛らしい仕草じゃ。そんなエコー殿を見ても……、ゼノ殿は、呆れたような視線を向けるのみ。……ん?

 

「ゼノ殿は、もしや男しょ――」「張っ倒すぞ」

 

おぉ、おぉ、否定が早いのぅ。表情は……ふむ。図星を突かれた、と言う様子はないか。にっこり笑顔が、ちと怖いが。ならば、エコー殿にも、いずれは好機が訪れよう。……いつになるかは、分からぬがの。

 

「おぉ、怖い怖い。では、妾はこの辺で、退散するとしましょうかの。馬に蹴られては、敵いませんので」

 

「か、楓ちゃん!?」「何で馬に蹴られんだ?」

 

全く、最後まで、予想通りの言葉を吐きおって……。内心で溜息をつきながら、扇子をひらひらと振り、その場を離れた。

 

 

 

 一々、マターボードを確認する為だけに、自室へ戻るのも、些か面倒になって来たな。

 あのように、奇妙奇天烈な現れ方をするやつが作った物じゃから、恐らくは、他人からは見えないのではなかろうか、とも思う。しかし、仮にマターボードが見えないとしても、傍から見れば妾は、掌を凝視し、指で何かを突っつく、危ない薬か何かをやっている危険人物、と取られかねん。

 どうにかならんものか、シオンに聞いてみる必要があるか。じゃが、これもあやつの演算に含まれている、と考えると、何となく、癪じゃなぁ。

 

「そこの君。確か君は、楓君、だったか?」

 

「む? お呼びですか?」

 

 とりあえず、人目のない所を探し、そこで確認するか、とうろついていると、老練な雰囲気を感じる声に、呼び止められた。

 

「ああ、済まない。ちょっと困った事があってな。つい、呼び止めてしまった」

 

こちらへ近付いてきたのは、岩のような顔に口髭を蓄えた、中年の男性じゃった。背丈は、見上げる程に高い。

 

「いえ、構いませぬ」

 

「まずは、名乗らねばな。私は、ジャンと言う。長い事レンジャーをやっている、老いぼれだよ」

 

老いぼれ、と言う言葉は、恐らくは本気だろう。しかし、戦闘服の上からでも分かる。その鍛え抜かれた肉体は、今なお衰えていない、と。

 

「これは、ご丁寧に。妾も、名乗らせて頂きましょう。本日より、正式にアークス戦闘員に任命されました、ハンターの楓と申します。どうぞ、お見知りおき下され」

 

「ははは、昨日の振る舞いを見ては、そうそう忘れられないよ。堂々としたものだった」

 

「ありがとうございます。ところで、困った事、と言うのは?」

 

「あぁ、済まない。この年になると、どうにも話が長くなって、いかんな。昨日の、ナベリウスの事だよ」

 

「昨日の……? 修了任務の件ですかな?」

 

はて。修了任務の事で、今さら何か語る事など、あったかの?

 

「君は、昨日の修了任務で、アークスではない誰かを見たかね?」

 

アークスではない誰か。そこでようやく、ピンと来た。もしや、昨日の、レダの話か?

 

「いえ、妾は見ておりませんが、その話は、本人から――レダから聞いております。ダーカー発生後に、人影を見た、と」

 

「そうか。と言う事は、ある程度の事情は、知っているのだな」

 

「えぇ。本当に、ある程度ではありますが」

 

「昨日、オーザ君から指示を受け、ナベリウスに降下したのだが、それらしい人物は、発見出来なかった。今も、見付かったと言う話は、聞いていない。その事を、今しがた、レダ君に話したのだが……」

 

奥歯に物が挟まったように、言いにくそうなジャン殿。この様子だと、何かあったな?

 

「あやつも、普段の振る舞いが鳴りを潜めて、落ち込んでおりましたからな。取り乱しでもしましたか?」

 

「……いや。錯乱してしまったんだ。今は、鎮静剤を打って、メディカルセンターで安静にしている」

 

錯乱したじゃと? 昨日のあやつは、明らかに尋常ではない様子じゃったが、それ程までに、気にしておったのか?

 

「アークスであれば、人の生き死にとは、決して無縁ではいられない。私も、仲間や民間人の死を、多く見て来た。非情な話だが、慣れねばならんのだよ」

 

「いえ、理解はしておるつもりです。それを極力減らす為に、努力を重ねる腹積もりも、出来ております」

 

「いい心掛けだ。レダ君の気持ちも、無論、分かる。だが、割り切らねばならん。その事に、彼は、いつ気付いてくれるだろうな……」

 

確かに、これは困り事だ。どうにかしなければ、あやつは今後、もう二度と戦えぬであろう。関わった身として、あやつが落ち着いた頃に、一度、話を聞いてみる必要があろう。

 

「そうやって、人の死に心を痛める者も、戦場には必要です。後で、顔を出してみます」

 

「新人同士なら、彼も落ち着いて、話せるかも知れんな。済まないが、よろしく頼む」

 

こくりと頷き、そろそろマターボードを確認しに行かねば、などと考えていたところで、耳元で、通信の受信音が鳴った。

 

『アサインカウンターより連絡です。次の任務の編成が、完了しました。至急、アサインカウンターに集合して下さい。繰り返します。――』

 

むぅ。時間切れになってしもうたか。出撃前に、次の偶事を、確認しておきたかったが……。致し方あるまいて。お呼びが掛かったのなら、向かわねばな。

 

「申し訳ない、招集が掛けられました。レダの見舞いは、その後に」

 

「私も、連絡が届いたよ。では、一仕事、行くとしよう」

 

 ゲートエリアへ向かうジャン殿。付き従うように、妾も、その後ろを歩く。その背中を見ながら、しかし意識は、別の物に向けられていた。

 

――鍵となる偶事、『ショップエリアにて、ジャンと会話する』を達成。次の偶事を提示する。

 

 鍵とは、何であろうな? また一つ、シオンに聞く事が、増えたか。




ゼノのCOは、本作中におけるナベリウスの状況及びゼノの改変部分と噛み合わない為、名前を変更しています。原作では『暇つぶしにナベリウスへ』ですね。ここは初プレイ中も、そんな状況か、と疑問を抱いた箇所でした。

また、本作には、経験値の概念は存在しません。この辺は、後々描写致します。
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