修了任務の人影、錯乱したレダ、マターボード……。気になる事は、挙げれば切りがない。じゃが、今は全て、頭から追い出そう。悩みを抱えたままで戦場に出ては、命を落とすだけじゃ。
アサインカウンター前は、人でごった返しておった。これだけの人数を捌く為か、アンネローゼ殿も、レベッカ殿と同じカウンターに来ておられる。そして、その二人の真ん中に立つのは、管理官、コフィー殿。なるほどのぅ。こりゃ確かに、大掛かりじゃな。
「集まったようですね。それでは、次の任務について、説明します」
管理官御自らの説明とは、この任務、余程重要らしいな。
今回の任務は、全アークスシップから、アークス戦闘員を一斉投入するらしい。目的は、ナベリウス沈静化の仕上げ。
昨日からの任務で、侵食された原生種の討伐は、あらかた終了。その過程で、ダーカー因子も減少し、周辺のフォトン係数も、元の数値に戻りつつあるんだとか。このまま事が進めば、ナベリウスは、ダーカー不在とまでは行かずとも、修了任務開始時くらいの状態までは、回復するらしい。
しかし、そうは問屋が卸さぬのが、ダーカーの厄介なところ。過去の記録を鑑みると、ダーカー因子が減少した場合、ダガンが大量に現れ、汚染地帯を拡大する。看過しては、これまでの苦労が、水の泡。ぱぁになってしまう。
「皆さんには、これからナベリウスに降下し、出現したダガンを一掃して頂きます。担当エリアを隅々まで踏破し、見付け次第、殲滅して下さい。また、今回のナベリウスと似たケースでは、ブリアーダの出現も報告されています。ダガンよりも強力な、ダガン・ネロのキャリアーですので、最優先での撃破をお願いします」
ダガン・ネロは、戦闘能力が高く、ダガンの親戚程度だろう、と高をくくっていると、瞬く間に、八つ裂きにされる。そんな厄介な輩を、ブリアーダは運んでいる。空中で産み出された卵――ダガン・エッグは、ゆっくりと降下し、周囲のダーカー因子を吸収。それを糧に、急速に成長し、孵化する。幸いな事に、卵の耐久性は極めて低い為、破壊は簡単じゃ。なのじゃが、ブリアーダの周囲は、他のダーカーが守りに入っており、産み出された卵全てを破壊するには、困難な状況が多い。
よって、ブリアーダの最も確実な対処法は、産む前にやれ、じゃな。常に飛行してはおるが、高度は低く、移動速度も鈍い故、ハンターであっても、十分に狙える。
「なお、本任務は、実績評価の一環として、少々変則的なパーティで当たって頂きます。各自の端末に、パーティメンバーの内訳を送りますので、アサインカウンターで登録し、キャンプシップに搭乗して下さい。以上です、吉報を期待します」
話の締めに敬礼したコフィー殿に、みな一斉に、敬礼を返した。オラクル船団が一丸となる、この任務。ナベリウスの帰趨は、妾たちに掛かっておる。奮起せねばなるまい。
さて、ともかく、身内を確認しなければ始まらぬ。端末を開き、届いていたメッセージに、目を通す。真っ先に目に入ったのは、アフィンの名前じゃった。
「うむ。相棒がおってくれるのは、嬉しいのぅ。やはり妾たちは、二人揃ってこそ、じゃからな。それで、同行して下さる先輩お二人は、と……」
妾とアフィン、その隣に書かれていたのは、"パティ"と"ティア"と言う名前。ふむ。名前の感じからすると、お二人とも女性のようだが――
「はいはいはーい! 楓ちゃんとアフィン君は、どこにいるのかなー!? 聞こえてたら、あたしの所に、おいでー!」
「ちょっ、パティちゃん、恥ずかしいから、大声出さないで!?」
――元気と陽気と能天気に塗り潰されたかのような声に、名を呼ばれた。これは……、うむ。負けておれぬな。
「パティ殿にティア殿ー! お探しの楓は、ここにおりますぞー! アフィンやー! そなたも、こっちゃ来ーい!」
「あ、相棒!? お前、そんなキャラだっけか!?」
はて。あのように呼ばれれば、元気良く返すのが礼儀じゃろう。違うかえ?
すったもんだありつつも、集合。アフィンと、先輩二人の内一人が、顔を真っ赤にしておるが、はしゃぎ過ぎたかの?
ところで。この二人、見覚えがあるな。
「あっ、さっきの! ほら、パティちゃん、早く謝って!」
「えっ、この子だったの? さっきは急いでて、顔とか見てなくて……」
「わたしが、代わりに謝ったんだから、間違いないよ。ほら、早く!」
「あー、その、えと……、ごめんなさい」
そうか、思い出した。ゼノ殿からオーダーを受けてすぐに、ポータルでぶつかったのが、パティ殿だったのか。そして、彼女を追って現れ、謝罪してくれたのが、ティア殿、と。
「いえいえ。こちらも、周りを見ておりませんで。申し訳ありませぬ。随分と急いでおったようですが、間に合いましたかな?」
「うん、大丈夫! あたしの足は、伊達ではないのだよっ!」
「気にしないで。そんなに重要な情報じゃなかったし」
「ひっどいなぁ。アークスいちの情報屋の前には、重要じゃない情報なんて、ないのさ!」
「勝手に妄想して、脳内補完してるだけでしょ……。ごめんね、二人とも。うるさいでしょ?」
「いや、むしろ混ざりたいですな」
「やめてくれ、ストッパーが足りねーから」
「むぅ。つれないやつじゃ」
止められてしもうた。けちんぼめ。
しかし、見れば見る程、一部を除いて、外見は瓜二つじゃな。先に抱いた感想通り、性格は、真逆じゃが。双子、と言うやつかの。実際にお目にかかった事はないが、こうして目の当たりにすると、同じ顔で、違う表情をするのじゃから、実に不思議なものじゃな。
「それよりも、パティちゃん。早く、パーティ登録しようよ。ここで話し込んでても、何にもならないよ?」
「おーっとぉ、そうだね! ぱぱっと登録して、出発だーっ!」
ティア殿に窘められて、パティ殿は、一目散にカウンターへ走った。
「何ともまぁ、元気な方じゃな」
「頼むから、見習わないでくれよな」
「枯れたような事を、抜かすでないわ」
「いや、わたしも賛成するよ。あのバカ姉みたいには、ならないで欲しいな」
おや、随分と、辛辣な事を申される。じゃが、ほぅ、ふむ、なるほどのぅ。そうは言いつつも、満更ではなさそうですな、ティア殿。
「やはり、姉妹ですな」
「ん? 何の話?」
「いや、失礼。こちらの話です」
口に出すのは、無粋か。お二人の尊い姉妹愛は、胸にしまっておこう。他人が言葉で表せば、たちまちに陳腐なものになってしまうからの。
ふと、カウンターを見てみると、パティ殿が手を振りながら、船への搭乗ゲートを指差している。どうやら、出発準備が、終わったらしい。
この、アークス総出の大舞台。華麗に、舞い踊って見せようかの。
そう言えば、先程偶事を達成した際に、新しい自在槍を入手し、装備登録しておったのだった。ナベリウスに到着する前に、ワイヤー伸縮機能を、封印しておかねば。
新規装備、『ワイヤードゲイン』。ワイヤードランスよりも、攻撃用フォトンの許容量が高く、また形状が二又になっている為、特にダガンの爪なども、片手で受け止めやすくなっている。
「おっ、相棒、新しい武器か?」
「うむ。先程の捕獲任務の報酬じゃよ。これで、より一層、抉りやすくなったわ」
「うん、それは良い事だけど、言い方考えような」
「かかか。事実を述べたまでじゃ」
カバーを開き、ワイヤー機構を露出させ、ちょちょいと細工。アフィンを離れさせ、軽く振り回してみる。ワイヤーは、伸びぬな。これで、良し。
「ねぇねぇ、楓ちゃん。随分変わった事してるみたいだけど、どうしてっ?」
「見たところ、ワイヤーを伸びなくしたみたいだけど、何か理由があるなら、教えて欲しいな」
素振りを終えると、パティ殿とティア殿に、質問を投げ掛けられた。情報屋を自称するだけあり、変わった事には、敏感に反応するのじゃろうか?
「ワイヤーが伸びると、妾では、扱い切れぬのですよ。武器同士が絡まったり、自分を縛り上げてしもうたり、と」
「ふむふむ。でも、自在槍のフォトンアーツって、どれもワイヤー伸ばさないと、使えないよ?」
「然り、ですな。ですが、フォトンアーツがなくとも、急所を突けば、それは短所足りえませぬ。ま、これでも少々長過ぎますが、これが一番、しっくり来るのですよ」
「うーん。そんな風に自在槍を扱う人は、聞いた事がないなぁ。パティちゃんは、聞いた事ある?」
「んーん。初耳だから、あたしも聞いたんだよ」
でしょうなぁ。訓練校の古株の教官殿からも、妾のような扱い方をする者は、見た事がない、と苦言を呈されたからのぅ。曰く、どう教えたものか、まるで分からぬ、と。
故に、今の妾の戦い方は、教本に載っておらぬ、我流じゃ。それでも、これまで十分に戦えているのだから、プリセットに感謝する他ない。……どうせなら、ワイヤー込みでも戦えるようなプリセットであって欲しかったがの。
「でもでも、ちょっと気持ちは分かるかも。あたしは長槍を使ってるけど、なーんか、しっくり来ないんだよねー。あたしも、楓ちゃんみたいに、改造しちゃおっかな? こう、長槍を二つくっつけたら、ズバーッ、バシーッ、って、上手く行きそうな気がする!」
「壊しちゃうだけだから、やめときなよ?」
「でも、意外っすね。先輩でも、武器がしっくり来ないとか、あるもんなんだなぁ」
「わたしたちは、第二世代のアークスだから、クラス傾向に従うしかないの。パティちゃんがハンターで、わたしはフォース。けれど、クラスに適正があっても、武器を扱えるかは、また別のお話だから、パティちゃんみたいに、慣れない武器で戦ってる人も、それなりにいるんだよ。……って言ってるわたしも、
舌をぺろりと出しながら、控え目に
「何考えてんのかは分かんねーけど、やめとけ。ろくな事にならねーのは、空気で分かる」
「……ほぅ。以心伝心じゃな。昨日の今日で、ここまでに達するとは、妾たちは存外、相性が良いらしいのぅ。……覚えておれよ」「すんませんっしたーっ!」
うむ。以心伝心。一言で察して、謝りよった。
「昨日のゼノ先輩、俺も見たんだよ、こえーよ! あんな風になりたくねーよ!」
「なに、心配するでない。躓いて、
「否定はしねーけど、後が怖過ぎんだろ!」
「かかか。そなたも、男子じゃのぅ。良い、良い。素直な子は、妾は好きじゃぞ――」
――何なら、妾の胸に、飛び込んでみるかえ?
唇をぺろりと舐め、しなを作りながら、閉じた扇子で、己の胸元――と言っても、戦闘用故に硬質じゃが――を、つつ、となぞる。その動きに、アフィンの目が釘付けになり――
「だめだめだめ! えっちなのはだめー!」
パティ殿が、妾とアフィンの間に、割って入った。顔が、火を噴かんばかりに、真っ赤に染まっておる。と言うか、当のアフィンよりも赤いぞ。
「むぅ。これからが面白いと言うに……」
「だ、だから言ったんだ! ろくな事にならねーって!」
目玉が飛び出しそうな程に凝視しておった、そなたが言うか。
「そ、そそ、そう言うのは、大人になってから! あたしたちには、まだ早いの!」
命懸けで戦場に出ておるアークスに、大人も子供も、ない気がするがのぅ……。
「楓ちゃんって、いくつなの? わたしたちよりも、年上っぽいんだけど……」
「ぴちぴちの6歳ですぞ!」
胸を張って答えると、溜息をつかれた。何故じゃ。
「パティちゃんがポンコツになるから、やめたげて……。ほらパティちゃん、どうどう」
「ふーっ……、ふーっ……」
色事に、耐性がないようじゃな。よく見れば、ティア殿のお顔も、ほんのり紅潮しておる。このお二人の前では、自重した方が、良さそうじゃな。ちと反省。
『全キャンプシップ、間もなく、降下可能距離へ到達します。各員は、降下準備に入って下さい。繰り返します。――』
オペレーターからの連絡が、船内に響いた。一大作戦の開始まで、秒読みに入ったか。
「よ、よーし! 気を取り直して、ダガンをいっぱい倒すぞー!」
両手を挙げて、気合を入れるパティ殿。
「これは、負けておれませんな。妾の華麗な戦い振り、とくとご覧あれ!」
負けじと、妾も右手を突き上げた。
「アフィン君は、楓ちゃんをお願いね。パティちゃんは、わたしが何とかするから」
「何とか、って……。そんな、大げさじゃないですか?」
「すぐに分かるよ。大げさでも何でもない、って……」
「マジですか……。じゃ、じゃあ、相棒は俺に任せて、ティア先輩は、パティ先輩をお願いします……」
アフィンとティア殿も、段取りがついたようじゃな。準備は万端。後は、号令を待つのみ。
『降下可能距離に到達。これより、ダガン殲滅任務を開始します。総員、降下せよッ!』
「やっほーっ! いっちばん乗りーッ!!」
「出遅れたか! じゃが、降りてからが本番よッ!!」
「あぁ、もぅ、二人ともはしゃいで……。とにかく、降りよっか」
「そっすね……」
号令と同時に飛び出したパティ殿を追い、テレプールに飛び込んだ。水面、と言って良いものか。触れた瞬間に、湛えられたフォトンが跳ね、この身を包む。そして――
相も変わらず、快晴のナベリウス。その大地に、揃って着地。衝撃で、大気圏突入の摩擦から身を守ってくれていたフォトンが、弾け飛ぶ。
いくら見渡しても、平和そのもの。しかし、薄れたとは言え、未だダーカー因子に満ちており、予断を許さぬ状況。アークスが足を踏み入れれば、そのフォトンを嗅ぎ付け、ダガン共が押し寄せて来るじゃろう。
「それじゃ、行こっか! あたしに付いて来ーい!」
「承知いたした、お供しますぞ!」
「さて、と。頑張ろうね、アフィン君。多分、今までで一番、大変になるだろうから」
「う、うっす、頑張ります!」
気合十分。首を洗って待っておれよ、ダガン共。一匹残らず、狩り尽くしてくれようぞ。
食らえぬならば 価値なき命よ
また、『己の声』が聞こえた。残酷で、無情な言葉。しかし、何故か、否定は出来なかった。
パティ殿の戦い振りは、例えるならば、弾丸であろうか。ひたすらに駆け、現れるダガンを、すれ違いざまに切り捨てる。足を止めず、自ら敵の懐に飛び込む戦法は、同じ長槍を扱いながらも、ユミナとは、全くの正反対じゃ。
時折、彼女は、眉間にシワを寄せる。その表情から読み取れたのは、もどかしい、と言う思い。己の不甲斐なさへの、苛立ち。なるほど、な。先の話は、そう言う事か。長槍と身体が、上手く噛み合わない。故に、その一閃に、己自身が納得出来ない。
パティ殿は、言っていた。長槍を二条、組み合わせたい、と。訓練校で習ったが、フォトンを利用した武器の開発が始まったのは、光暦700年以降、今から500年程前じゃったか。また、40年前のダークファルスとの大戦で、アークスが多大な損害を被った際に、習熟者や適性者が激減し、事実上の封印扱いとなったクラスもある、とも教わった。あるいは、それら500年の歴史で作られ、40年前にクラス諸共封印された武器が、パティ殿が本領を発揮出来る物なのかも知れぬな。
一直線に走り、切るだけでは、やはり討ち漏らしも出る。では、それで致命的な事態に陥るか、と言うと、そのような事は、一切なかった。パティ殿が切り掛かる頃には、ティア殿がすでに、導具を投げている。そこから放たれるテクニックが、残敵だけではなく、パティ殿の長槍が届きそうにない、やや離れた位置の敵も、撃ち貫くのじゃ。
時に討ち漏らしを叩き、時に露払いに回る。神出鬼没のダーカーを相手に、この判断力は、見事と言う他ない。やはり、双子なだけはあるのぅ。お互いの考えを深く理解せねば、このような息の合った連携は、まず不可能じゃろうて。
かように見事な連携を見せ付けられては、血が滾るのも、宜なるかな。
「相棒よ、先輩方の前じゃ。妾たちの『こんびねぇしょん』も、しっかり見てもらおうではないかっ!」
「望むところだけど、コンビネーションくらい、もっとスラスラ言ってくれ! 気が抜けて仕方ねーっ!」
「横文字は苦手なのじゃーっ!」
ニューマンとは思えぬ程の、パティ殿の健脚。それなりに、足の速さには自信があったが、そんな妾でも、追い縋るのがやっと。じゃが、キャストにはキャストの、加速法がある。
「少々、派手に行くぞッ!」
「オッケー、好きにやれ! ケツはしっかり持ってやるッ!」
「また尻か、この好き者めッ!」
「ティア先輩に怒られたばっかだろうがぁッ!?」
前方、約20メートル。多数の赤黒い滲みが現れ、そこから、ダガン共が顔を出した。丁度良い。ここは妾とアフィンに、任せて頂こう。
走る勢いのまま跳び上がり、滲みを俯瞰。最奥のダガンに、目を付けた。ふむ。あやつを起点に、背後を突こうかの。
キャストのレッグパーツは、脹脛に、ホバー走行用のブースターが内蔵されている。ちっこい妾でも、戦闘用ボディであれは、200kgを超える。そんな重量を長時間浮遊させられるブースターを、最大出力で噴射すれば――
ドン、と言う爆音と共に、景色が一瞬で、後方に流れた。走行とは比較にならぬ程の風圧と、Gに襲われる。しかし、キャストの頑強な身体ならば、そんなもの、屁とも思わぬ。
「潰れてしまえぃッ!」
突き出したワイヤードゲインの切っ先が、実体化したばかりのダガンの胴体ごと、コアを貫いた。致命的な一撃。しかし、それだけでは収まらぬ。高速で飛来する200kg超の質量が、直撃したのじゃ。最早、体当たりなどと言う生易しいものではなく、砲弾と言って差し支えなかろう。過剰に過ぎる衝撃を受け、ダガンの首が、足が、バラバラに吹き飛んだ。
ろくに減速せず、そのまま地面に突き刺さった得物を引き抜きながら、立ち上がる。同時に、各部の損傷状態を確認……戦闘続行に支障なし。じゃが、右腕に僅かながら、過負荷が認められた。この手が使えるのは、あと一度。左腕で繰り出すのが、限界じゃろうな。
妾が振り向くのと、ダガン共の実体化完了は、同時。次の瞬間には、一斉にダガン共がこちらを向き――妾は右へ跳び、アフィンはランチャーを構える。結果、ダガン共は、アフィンに無防備な背中を晒し、妾に横あいを突かれる形となった。
常に群れで現れるが、指揮系統もなく、ただアークスを襲う習性のダガン。だからこそ、こんな簡単な陽動が通用する。これがガルフ共であったなら、頭が指示を出し、手分けして、外敵に対処しておったろう。まぁ、昨日は、こやつらの陽動に引っ掛かり、背筋が冷えたが、の。
手近なダガンから、次々とコアをブチ抜き、赤黒い霧へと還して行く。その奥では、ランチャーの通常砲弾の爆風で、ダガンの死骸が飛び散っておる。この配置で戦えば、アフィンは妾への誤射を気にする必要がなく、妾もことさらに、射線を意識する必要がない。変則的な十字砲火、とでも言おうか。妾は、銃を撃っておらんがな。
群れを殲滅したところで、パティ殿たちが追い付いた。
「いやー、凄かったよ! 流れ星みたいだったねっ!」
「アフィン君も、上手く合わせてたね。楓ちゃんが突っ込んだ時には、もうランチャーに持ち替えてたし」
「少しばかり無茶をしましたが、魅せるならば派手に、が信条ですゆえ」
「いや、まぁ、相棒が群れに突っ込むのは、初めてじゃないんで……」
水辺の丁字路。崖上の木が、良い具合に日の光を遮り、涼しく、然程薄暗くもない。ここで一旦、小休止と相成った。ダガンとは言え、相手はダーカー。昨日、煮え湯を飲まされたばかり故に、気は抜けんが。
脇道の先は、高台のある行き止まり。直進方向は、まだまだ道が続いている。任務の目的は、隅々まで踏破し、ダガンを殲滅する事。であるならば、先に脇道に入るべきじゃな。
「楓ちゃん、楓ちゃん。ちょっと良いかな?」
経口補水液を飲み、一息ついたところで、パティ殿に肩を叩かれた。
「どうされました?」
「うん、さっきぶつかっちゃったお詫びに、取っておきの情報を教えようかなって」
情報屋の持つ、取っておきの情報、か。戦闘員としての腕前は拝見したが、情報屋としては、とんと分からぬ。しかし、名の通りであれば、売り物であるはずの情報を、タダでくれると仰るのだ。損をする事は、あるまい。
「情報屋の取っておきとは、興味をそそられますな。是非に」
「うんうん、それじゃー教えて進ぜよう! 楓ちゃんは、『もの探しダーカー』って噂、聞いた事ある?」
「もの探し……ですか? いや、初耳ですな」
あのダーカーが、もの探し? 何とも、奇妙な話じゃな。てっきり、あやつらはアークスを殺すしか能がない、と思っておったが、違うのか?
「そう答えるんじゃないかな、って思ってたよ。何せ、話に上がったのは、昨日だしね」
パティ殿が語るには、昨日から、妙なダーカーの目撃例が、相次いでいるらしい。待ち伏せをするでも、隠れるでもなく、あっちへうろうろ、こっちへうろうろ。一所に留まらず、あちこちに動き回っているそうな。そんな様子から、付いたあだ名が、もの探しダーカー。
ただ彷徨くだけならば、大きな問題とはならなかったろう。と言うのも、このもの探しダーカー、困った事に、強靭な個体である可能性が高いそうだ。ベテランの部隊が、油断していたとは言え、敗北を喫した、と。
「もの探しダーカーの事、話してたんだ。それなら、アフィン君も、聞いといた方が良いかも」
「何か、間の抜けた名前ですけど……。そんなに強いんですか?」
「やられたのは、ナベリウス探索経験の豊富なチーム。当然、この星の原生種や、主に出現するダーカーの対処法も、熟知してる。そんな彼らが負けたって事は……、どう言う事か、分かるよね?」
「知恵を絞り、周囲の環境を勘定に入れてなお、力負けする程に強い……ですかな」
「多分、それで正解だと思う。だから、不審な動きをしてるダーカーを見掛けたら、交戦せずに、逃げた方が良いよ」
さらに話を聞くと、今朝早くから、何度かナベリウスに降下したが、幸か不幸か、遭遇する事はなかったそうだ。そもそも、目撃証言が少なく、場所もバラバラな為、あえてアークスのいない場所を徘徊している可能性すらある、との事。
「ふむ……。聞けば聞く程、妙ちきりんな話ですなぁ……」
「不思議だよねー、不気味だよねー! あたしたちも、色々と調べてみるからさ、もし何か分かったら、また教えてあげるよっ! ほら、あたしってば、センパイだからっ!」
「新人ゆえ、情報は、何にも増して大切です。助かりますぞ」
「聞いてなかったら、俺も相棒も、見付けた途端に突っ込んでたかも知れねーしなー」
「全くもう、調子良いんだから。話を聞いてくれたのが嬉しくて、気に入っちゃったんでしょ?」
「えへへー、買ってくれる人がいてこその、情報屋だからねっ! これからも、アークスいちの情報屋、チーム『パティエンティア』を、よろしくね!」
ピースサインでウィンクするパティ殿に、少々、見惚れてしもうた。元気一杯なパティ殿にもまた、物静かなティア殿とはまた違った、趣がある。まこと、愛らしい双子じゃ。
小休止を終え、脇道へ入る。ガルフ共の狩場を思い出させる、薄暗く、起伏の激しい、袋小路。しかし、原生種の気配は、感じぬ。奥まで進んでみたが、やはり、何かがいるようには――
――何かが、来る。
「ありゃ、ハズレかぁ。こんなとこだし、物陰からカサカサー、って出て来るかと思ったのに」
――パティ殿、何を言っておる?
「それじゃ、キッチンに出て来る害虫だよ……。でも、何もいないなら、引き返そっか」
――ティア殿も、気付かぬのか?
「すぐに行き止まりになってて、良かったっすよ。引き返すのも楽だし」
――引き返しては、ならぬ。
――殺されるぞ。
「……隠れるぞ。相棒、こっちじゃ」
パティ殿とティア殿の手を掴み、高台の陰へと引っ張り込んだ。妾の声色で、冗談ではない、と悟ったのじゃろう。アフィンも、小さく頷いて、従った。
「ちょっ、楓ちゃん、痛いよ……!」
「ど、どうしたの? 顔が怖いけど……」
「失礼。ですが、お二人とも、どうかお静かに」
全員が、陰に入ったのを確認し、そこで手を離した。そして、口には出さずに、高台の上を指し示した。
物音を立てぬよう、慎重に登り、頂上に掛かる岩の上に、屈み込む。アフィンたちは、その一段下、三人がギリギリ立てる足場で待機。
「ティア殿。こちらへ」
「……何かあるの?」
「……何かが来る、と言うのが、正しいでしょうな……」
岩に上がったティア殿と共に、そっと、頭だけを出して、袋小路に繋がる道を伺う。
気配、と言うて良いものか、妾にも分からぬ。しかし、確かに、感じた。ダガン……否、そこらのダーカーなど、比較にもならぬ程の何かが、こちらに近付いておるのを。戦えば、成す術もなく殺される程の化物が、すぐそこまで迫っておるのを。
その何か――何者かが、丁字路に姿を見せた。姿を認めた瞬間、妾もティア殿も、弾かれたように、陰に隠れた。
「……見ましたか?」
「う、うん、見た……。何なの、アイツ……?」
見たのは、一瞬。じゃが、それだけで、やつの姿は、脳裏に焼き付いた。
漆黒のコートに身を包み、仮面で顔を隠した、異様な出で立ち。素肌を一切晒さず、性別さえも分からぬ程、徹底的に特徴を潰した、いかなる場所にもそぐわぬ、異質な存在。
"仮面被り"の気配が、こちらへ近付いている。唇の前で人差し指を立て、息を殺した。土を踏む足音だけが、響く。ゆっくりと、ゆっくりと。
足音が、止まった。アフィンは、ライフルを握り直し。パティ殿は、パルチザンを構え。ティア殿は、両手で口を抑え。
「……何処にいる」
やつが、言葉を発した。外見通り、性別のはっきりしない、くぐもったような声で。
何処にいる? と言う事は、やつは、誰かを探しておるのか? まさかとは思うが、妾たちか? じゃが、あんなやつとは、会った事なぞないぞ。あのような輩、忘れようはずもない。ちら、と、ティア殿に目を向けたが、涙目で、首を横にブンブンと振っている。こちらも、心当たりは、ないようじゃな。
じゃり、と、土を踏みしめる音が聞こえ、続いて、足音がゆっくりと、離れて行く。……どうやら、別の場所に、その誰かを探しに行ったらしい。覗き込んでみると、仮面被りの背中が見えた。視界を拡大し、やつの正体に繋がりそうな手掛かりはないか、その後ろ姿を観察し――見付けた。うなじの辺りに、見た事のない紋章が、描かれていた。二匹の蛇が絡み合い、瞳を掲げているように見える、悪趣味な紋章が。
仮面被りの姿が見えなくなったところで、大きく、息を吐いた。戦闘用ボディだと言うのに、全身に冷や汗をかいたような、不愉快な錯覚を覚える。それだけ、緊張していたと言う事か……。
「あ、相棒、どんなヤツだったんだ? 見てもねーのに、すげー威圧感を感じたんだけど……」
ライフルを腰に収めたアフィンに聞かれたが、どう答えたものか……。
「顔も、体格も、性別さえも、仮面と服で隠れて、何も分からぬ」
「……全シップの、アークス戦闘員リストに照会してみたけど、該当者なし。今のところ言えるのは、アークス戦闘員じゃない、って事だね……」
「あ、あんなやつ、いてもらっても困るよ! ハガルにいたら、あたし、他のシップに逃げちゃうからっ!」
「同感です。出来るならば、関わり合いになりたくは、ないものですな……」
念の為、先程見た紋章の画像データを、端末に移して、全員に見せた。アフィンは当然だが、パティ殿とティア殿も、見た事がない、と首を振った。この紋章も、後で照会してみた方が、良いかも知れぬな。
仮面被りについては、今後発見しても、絶対に接触しない事。仮面被りの存在を情報部に報告し、全アークスに通達してもらう事。この場で決められるのは、このくらいか。忘れる事など、到底不可能だが、あやつに思考を引きずられ続けるのも、よろしくない。まだ、任務は終わっていないのじゃ。
……シオンよ。仮面被りの発見も、演算の一部と言うのか。あやつも、道を繋げる鍵だと言うのか。
視界端のログには、こんな文言が残されていた。
――鍵となる偶事、『ナベリウスにて、ある者を発見する』を達成。次の偶事を提示する。
ただのダガン殲滅任務ですが、お話の都合上、ちょっとした緊急クエストっぽくなりました。あのクエ自体、アークスクエストで初のマルチエリア型のものなので、丁度良いかな、と。
パティの武器は、EP1外伝以降はダブセですが、それ以前はハンタークラスで、武器も不明な為、長物繋がりでパルチとしております。またアプデで追加されたFi、Gu、Teは、初期三クラスに統合された、ではなく、教えられる者も適性がある者も極端に減ったので、今は選択出来ない、と言う扱いにしています。ちょっと苦しいですけど。
そう言えば、キャンプシップは、どこまで各惑星に接近するんでしょうね。EP1のOPだと、アッシュ降下中に雲間を抜けるシーンがありましたが、VITA版やEP2だと、地表辺りまで近付いてます。本作では、衛星軌道まで接近する、としていますが、その辺が判明したら、色々と書き換えが必要かも知れません。