自分でも妙だとは思ってますが、シオンとの会話は、まず否定的な感情で一度書いてから、肯定的な感情で書き直してます。その方が上手く書ける……気がする。
新光暦238年、2月28日。ようやっと、この日を迎えられた。前日で足踏みどころか、一週間前に巻き戻されていた故、その感動も
……などとつまらぬ事を考えるよりも、急がねばな。さっさと着替えて、病院へ行こう。
この日、妾を起こしたのは、端末の目覚ましではなく、通信の受信音であった。発信元は、先日に例の娘を預けた、フィリア殿。
「おはようございます、フィリア殿」
『おはようございます。……あの、ですね、貴女が保護した女の子が、先程目を覚ましたんですが……』
「おぉ、それは良かった! ざっと一週間は眠ったままでしたからな。して、容態は?」
起き抜けの朗報に、眠気など吹っ飛んでしもうた。早速様子を尋ねてみたが、どうにも、歯切れが悪い。これは、何かあったか?
『えーっと、どう説明すれば良いのか……。とにかく、メディカルセンターまで来て頂けますか?』
「むぅ? そちらへ行けば良いのですね、承知しました」
通信では言いにくいのじゃろうか。大衆向けの映像作品だと、不治の病であったり、もう命は長くなかったり、と言うのがお決まりじゃが、フィリア殿の口ぶりから察するに、そんな悪い事態ではないらしい。と言うか、フィリア殿自身が混乱しておるようにも聞こえた。あの娘、外見からは、面倒を起こすような人間には見えなかったが……。ともかく、行ってみなければ始まるまいて。
自室前のテレポーターを抜け、病院前に来てみると、そこにはアフィンがいた。妾を見付けると、よぅ、と言いながら手を振ってくれたので、こちらもおはよう、と手を振り返す。
「もしかして、相棒もフィリアさんから呼ばれたのか?」
「ん? 何じゃ、そなたもかえ」
「あぁ。何か、とにかく来てくれ、って。まぁ、
ふむ。あの娘を保護したからこそ呼ばれたのじゃろう。ただ、フィリア殿でさえ持て余すようならば、妾たちに出来る事など、たかが知れておるが……。
「お二人とも、朝早くに済みません、お待ちしてました! ……さ、こっちよ。おいで?」
そこに、フィリア殿がやって来た。後ろには、俯いたままとぼとぼと歩く娘。確かに儚げな印象を受けはしたが、目が覚めてもこの調子とは。となると、フィリア殿が妾たちを呼んだ意図は、
「この通り、目が覚めてから、一言も喋ってくれなくて……。この子を保護したお二人となら、もしかして、と……」
やはりな。あのような鉄火場で倒れていたのじゃからして、色々と聞く事もある。だのに、何も話してくれぬのならば、猫の手も借りたくなろう。気持ちは分かる。
「だけど、フィリアさんでも困ってるのに、俺たちに出来る事ってあるかなぁ」
「うむ。しかし助けた手前、やるだけはやってみるがの。フィリア殿、この娘の身元などは、分かっておりますか?」
「それが、一応所持品を検めてみたんですけど、何も持ってなくて……。照会しても、アークスどころか、オラクルの住民とも一致しないんです」
ふむ。アークスではないとは、現地でアフィンが照会した故に分かっておったが、そもそもオラクルに住んでさえおらぬとは。この娘は、一体どこから来た?
「のぅ、お主、名は何と言うのじゃ?」
ほんの少し屈んで、娘の顔を覗き込みながら問うてみた。一流の職人が作った人形の如く美しく整った顔に、緋色に輝く透き通った瞳。総じて、万人をして美少女と言わしめる程。惜しむらくは、その表情が暗雲立ち込める空にも似て翳っている。
「……普通は逆だよな、身長的にさ」
「あ、あはは……」
「やかましいわっ!」
茶々を入れるアフィンの頭に、扇子でぱしんと一発。全く。確かに妾はちっこいが、今は関係なかろう!
「お嬢さん、名を教えてくれんかのぅ?」
頭をさするアフィンを尻目に、もう一度優しく聞いてみる。地に向けられた瞳が妾の目と合い、僅かに見開かれた。そして、ゆっくりと顔を上げ、
「……楓」
妾の名を、呼んだ。
「んむ? おぉ、そうじゃ、妾は楓ぞ? 今度は、お主の番じゃな?」
まさか第一声が妾の名とは思わなかったが、一先ず、この娘が失語症などを患っていない事は知れた。しかし、鈴を転がすような、可愛らしい声じゃのぅ。聞いているだけで、心が洗われそうじゃ。……おろ?
「……あれっ? フィリアさん、この子に相棒の名前、教えてたんですか?」
横からのアフィンの疑問に、フィリア殿は、首を傾げた。
「いえ、私からは何も……。楓さんから教えたりとかは、してないですよね?」
「教えるも何も、妾たちが発見してからこちらに連れて来るまで、この娘は気を失ったままでしたゆえ……」
ついでに言うと、フィリア殿がこの娘とともに出て来て以降、妾の名前は、会話に一度も出ていない。だと言うのに、なぜこの娘は、妾の名を知っておる?
「……頭の中に、聞こえて来た。楓、って」
頭の中に声、か。まさか、妾の同類ではなかろうな。いや、妾の中の声に比べれば、随分と有益な気もするが。
妾に従えば これ以上の益はないぞ?
黙っとれ。
「……わたしは、"マトイ"」
「マトイちゃんって言うのか。じゃあさ、俺の名前、分かる?」
にこにこ顔で己を指差しながらアフィンが聞いたが、マトイは少しばかり怯えたような表情をして、とてとてと妾の背に隠れてしもうた。
「えっ、何で!?」
「かかか。下心を見抜かれたのではないか? 良し良し、マトイよ、この助平男はアフィンと言うてな。妾の相棒よ」
「……アフィン?」
「助平は余計だっての。……んじゃ改めて、よろしくな、マトイちゃん」
頬を引き攣らせながら差し出されたアフィンの手を、マトイはおずおずと握り返した。まぁ、助平などと茶化してみたが、アフィンが良い
とりあえず、名前は分かった。新たな疑問も出て来たがの。その疑問は後回しにするとして、ちと考察せねばならぬか。
「オラクルの人間ではない、となると、マトイはどこから来たのじゃろうな」
「少なくとも、フォトンは扱えるみてーだしな。でないと、あそこで倒れてて無事なわけがねーし」
「検査の結果では、種族はヒューマンですね。だからこそ、オラクルの住民でさえないと言うのが不思議でして……」
ダーカー汚染地帯にあって侵食を受けぬ程度にはフォトンに守られるヒューマン。それでいて、オラクル住民にあらず。どうにも噛み合わぬ。前後いずれかが逆転しておれば納得出来るだけに、もやもやする。
駄目じゃな。考えようにも、材料が少な過ぎる。この謎多き娘から話を聞き出さねば、憶測ばかりを並べ立てる事になってしまう。
「……なぁ、相棒、フィリアさん。マトイちゃんの着てる服、何かスゴくないか?」
ぽつり、とアフィンが疑問を口にした。服がスゴい、とな。フィリア殿と二人して、まじまじと眺めてみる。マトイは二組四つの視線に晒され、居心地悪そうに身をよじっておるが、しばし堪えておくれ。
「うーん、言われてみれば、確かに……」
「うむ。確かにスゴいのぅ……」
襟元や袖の形は浴衣に似ており、妾の好みじゃ。しかし胸の谷間辺りは素肌が露出し、股座の部分に至っては裾が短過ぎて下着が丸見えになってしもうとる。
「……助平のアフィンが好みそうな、スゴい服じゃな」
「あう……」
「アフィンよ……。もそっと状況を考えてサカらぬか。マトイが怯えてしもうたではないか」
「だーっ! 違う、そうじゃねーよ!」
竦み上がったマトイの頭を撫でつつ睨むと、アフィンは己の頭をがしがしと掻いて喚いた。
「マトイちゃんの服、仕立てが俺たちの戦闘服に似てないか、って言いてーんだよ!」
「む、仕立てじゃと?」
言われてみれば、そう見えん事もない。肩や背中の装飾は機械的で、腰布には、何かの機能を持つのか、それとも単なる飾りなのか、硬質な板状の部品が備えてある。生地も、アークス戦闘服のそれに準じておるような、見慣れた光沢を放っており、戦闘服だと説明されて売り出されたなら、少なくない人数が買い求めそうじゃな。
「なるほど、これは手掛かりになるかも知れませんね。服飾関係のメーカーに問い合わせてみます」
ぽん、と手を打つと、フィリア殿は端末をマトイに向け、撮影を始めた。理由が理由なだけに、今度はマトイも直立し、大人しくしている。これで、戦闘服の製造元から有効な回答が届けば良いのじゃが。
しかし、さすがは観察力が物を言うレンジャー。衣服から手掛かりを得ようなど、妾は考えもせんかったわ。ほんに頼もしい。
「ま、一番はマトイちゃんに聞く事なんだけど、目を覚ましたばっかりだし、無理はさせられねーよな」
「ダーカー汚染地帯で倒れていたなど、尋常ではないからの。休ませるが良かろうて」
これがフォトンを操れぬ一般人であれば、時間による程度の差こそあれど、間違いなく侵食されていたろう。妾たちアークスは頻繁に赴いておるが、そうでない者たちにとってナベリウスとは、ただ立っているだけでも危険な地なのだ。
「ところで相棒、この子と面識はねーの? 名前知ってるって事は、シップの中ですれ違ったって程度じゃねーだろうし」
当然の疑問じゃが、それには首を横に振って答えた。名前を呼ばれて記憶領域を探ったが、マトイに会った記録は、一秒たりとてない。そも、こんな美少女、忘れようと思っても忘れられるものか。同性の妾でさえ、目を奪われたのじゃぞ。
「だよな、キャストの記憶力なら忘れるわけねーし。……にしても、見事に懐かれたな」
「滲み出る人柄のおかげじゃろう。かかか」
撮影を終えると、マトイはまたてててと妾に走り寄って来た。ふむ。懐かれるのは構わんし、むしろ嬉しいのじゃが、妾をアフィンへの盾にしとらんか。ま、お決まりのように扇子で口元を隠し、笑ってやったがの。アフィンとの触れ合いを重ねれば、こう言う事もなくなるじゃろうしな。
その後、フィリア殿の提案で、マトイは病院に頼む事となった。妾たちはアークス戦闘員故、常にマトイに付き添ってやれるわけではない。また根本的な問題として、ショップエリアなら一般人の立ち入りも認められておるが、アークス居住区画は許可されていない。それに境遇が境遇なので、病院で面倒を見てもらった方が、もしもの時にすぐに対応出来る。
「先程の衣服の件も含めて、何かあったら、すぐにお二人にお知らせしますよ」
「承知しました。マトイをお頼み申しますぞ」
「ちょっとした事でも大丈夫なんで、よろしくお願いします!」
頼もしげに頷くフィリア殿に一礼し、その場を離れようとした。しかし、
「あ、あのっ……。楓、それにえっと、あ、アフィン……」
背を向けたところで、マトイに呼び止められた。
「その、上手く言えないんだけど……。何だか、怖い感じがするの……。二人とも、気を付けてね……」
やけに躊躇いがちに、怯えた様子でマトイが言う。怖い感じがする、か。先の頭に聞こえて来た声とやらと、何か関係があるのじゃろうか。
自分とて混乱の最中にあるだろうに、まるで己の事のように妾たちを心配してくれるとは。マトイは外見に相応しい、美しく優しい心を持っているようじゃな。であるならば。アフィンと顔を見合わせ、
「心配すんなよ、マトイちゃん! 俺と相棒なら、どんなヤツでもチョチョイのチョイだ!」
「然り。相棒とともにあれば、妾に怖いものなど何もないわぃ!」
殊更に豪快に笑い飛ばした。マトイよ、お主の懸念は、妾とアフィンで全て杞憂に終わらせてやる。だから、安心して休むが良い。
幾分安心したような顔でフィリア殿に手を引かれて病院へ戻るマトイを見送り、受付前に立つのは妾とアフィンだけになった。時間が時間だからであろうか。ゲートエリアはまばらに人が歩いているのみで、昼間程の活気はない。朝の風景は、一般市街区画もアークス専用区画も、さして変わらぬようじゃ。
「そう言や、こんな早くに相棒と会うのも初めてだな。一緒に朝飯でも食わねーか?」
普段は、各自で朝食をとってから合流しておるしな。丁度良い機会じゃろう。
「そう言うからには、美味い物を食わせてくれるのじゃろうな? 期待しておるぞ?」
「大丈夫、フランカさんのメシは、そこらのレストランよりずっと美味いからさ!」
ふむ。美味いと評判の、フランカ殿の店。ついぞ訪ねた事がなかったが、噂で聞く限りは、他のシップの者たちが羨む程であったか。よし、たまには煮付け以外の朝食に舌鼓を打たせてもらおうかの。
明朗快活なフランカ殿から『さんどいっち』を買い求め、長椅子にアフィンと並んで座って食したが、なるほど、噂になるのも頷ける。大衆向けの外食店にありがちな濃い目の味付けではなく、どこか懐かしい素朴な味。おふくろの味、とでも表現しようか。妾たちが着いた頃には行列が出来上がっておったが、そこに並んで待ったかいは、十分過ぎる程にあった。
そして、これだけの腕前を持っているのなら、俄然興味が湧く。彼女が作る煮付けは、どんな味なのか。煮付けを持ち込んで頼んだら、どんな料理が出来上がるのか。いずれ、依頼してみようかのぅ。受けてくれるかは、また別の話じゃが。
「ご馳走様でした。うむ、妾は満足じゃ!」
包み紙を畳んでから手を合わせ、隣で
「ごちそーさまでした、美味かったー!」
とご満悦なアフィンの、くしゃくしゃに丸められた包み紙も受け取った。全く。こうして折り畳まねば、捨てる時に嵩張るじゃろうが。
「あぁ、悪い。にしても、几帳面なんだな」
「たわけ。そなたがずぼらなだけじゃよ。普段は過ぎる程に気が利くと言うに、なぜこう、身の回りに関しては物臭なのじゃろうな、そなたは……」
「男ってのは、そのくらいで丁度良いんだよ。じゃないと、肩が凝っちまう」
「ふん。口達者になりおって」
くしゃくしゃの包み紙を広げて畳み直し、アップルジュースで口を湿らせながら、予定に思案を巡らせる。この一週間、ナベリウスのクエストに精を出していた故、四人とも今日は休もうと言う話になっている。つまり予定は白紙も同然。思案を巡らせるも何もあったものではない……っと、休みを謳歌する前に、あの三人に渡す物があるんじゃった。
少し用事があるのでいつもの時間に合流しよう、と約束を取り付け、その場はアフィンと別れた。渡すにしても、整備班に手続きが必要じゃし、ユミナとアーノルドにも伝えんといかんからの。
それに、恐らくはそろそろ、あちらから声掛けがあるはず。
自室にて準備をしていると、背後に気配。こやつは人と思えぬ程に気配が希薄じゃが、何度もこうして来られると、何となく察知出来るようになる。まぁ、正面に現れてくれるのならば、その必要もないんじゃがな。
「楓。まずは、貴女に感謝を。ありがとう」
「礼を言われるような事はしておらぬ。妾の目的の過程に、お主の願いがあったに過ぎぬのじゃからな」
言いたい事はある。じゃがまずは、シオンの話を聞いてやろう。それからでも、遅くはない。
「偶事の優位改変を確認した。状況は、新たな場へと進行している」
「その偶事とは、マトイの事か? それとも、仮面被りの事か?」
「双方である。貴女は、未来の偶事を拾い集め、過去の偶事へと至った。仮面の者を撃退し、少女を救出した。それこそ即ち、わたしが望んだ運命」
「撃退、か。あの粗暴者が撃退したようなものじゃったがな……」
最低でもゼノ殿が到着するまでの時間稼ぎのつもりじゃったが、来たのはゲッテムハルト。あやつの言では、炸裂防御とディバインランチャーを嗅ぎ付けたらしいが、あれがなければ、また少しは変わっていたのじゃろうか。考えたところで、こうして未来へと時が進んでいる以上は詮無き事ではあるが。
ともかく、シオンがこうして現れ、感謝を述べたと言う事は、あの牢獄からの脱出は叶ったらしい。ならば今度はこちらの番か、と口を開こうとし、
「……わたしは、貴女に謝罪する。ごめんなさい」
シオンの謝罪に、噤んだ。
「わたしには観測しか出来ない。貴女の呼び掛けに、応えられなかった」
やはり、か。あの最中にシオンが口出しすれば、全てが台無しになる可能性もあったわけか。少し、溜飲が下がったのを感じる。しかし、言わねばなるまい。
「妾も、頭では理解しておったよ。しかしシオン。心とは、時に論理的思考で抑えられぬ事もある」
頭で分かっていても、どうしようもない事もままある。これまでの会話で分かったのは、シオンは論理的な思考が極めて強い。シオンが妾を慮って謝ってくれた事は嬉しいが、であるならば改めて、心とはそれだけでは片付かない事を、教えてやらねば。
「その為に、言葉がある。お主の言う、心のやり取りがある。分かるな? 妾はあの時、お主の言葉が欲しかった。お主との心のやり取りが欲しかった。過ぎた事ゆえ、これ以上の説教は避けるが、どうか分かって欲しい」
「……ごめんなさい。貴女の思考は、演算に組み込まれていた。しかし、わたしには貴女を語る資格がなかった。故に、例え事象の崩壊が起こらずとも、あなたへの干渉は出来なかった」
妾の思考が演算の内。それはもう、今更語る事ではあるまい。それよりも引っ掛かったのは、資格。
「これは驚いた。妾を語るには、資格が必要じゃったとは」
「……違う、正しい言葉ではなかった。それは約定。わたしは約定を結んだ。貴女も知る、かの女性と」
「何じゃと? お主、あの女と面識があるのか?」
こくり、と頷くシオン。あの女性はシオンを知らぬ風じゃったが。いや、あれだけとらえどころがなく、飄々とした輩じゃしな。どちらかと言えば、シオンの言葉の方が、信用に値する。
「答えは未来にのみ存在する、か。その答えと言うのは、マトイや仮面被りだけではなく、妾自身も含まれる、との認識で正しいか?」
「ここで正しい認識を論ずるよりも、わたしの曖昧な言語で語るよりも、貴女は確かな解答を得た。そして、貴女は今後、より多くのものを救う機会を持つ」
あの夜、己に潜む何かを認識し、対話を経て、少ないながらも己を理解した。牢獄で足掻き、仮面被りを相手に時間稼ぎ程度なら可能なだけの鍛練を積み、マトイを救出した。
そして、これで終わりではない。マターボードに記される偶事を起こし、時間を遡って何かを助ける必要があるらしい。その最中に、またあの女性と言葉を交わし、内の声を振り払わねばならぬわけか。
「妾の目的は、詰まるところ家族を守る事。それを果たせるのならば、口を挟むつもりはないさ。まぁ、過日のような事にはならんで欲しいがの」
「……ごめんなさい。今の私は、貴女を納得させるだけの言葉を知らない。貴女の信用を得られない。それでも、貴女に頼る他ない」
「こうして物事が好転しておるのじゃから、多少は信用しとるがな。それに、お主に協力しようと決めたのは、他ならぬ妾じゃ。まぁ何にせよ、これからなんじゃろ?」
「間もなく、新たなマターボードの演算が完了し、新たな偶事介入が可能となる」
ふむ。こうしてこれからも偶事を起こし、家族を守る傍ら、助けられるものを助けるわけじゃな。あの龍を追う少女ではないが、まるで物語の主人公のようではないか。己がその立ち位置に相応しいかは、また別の話じゃが。こんな捻くれた性格の英雄など、そうそうおるまいて。
「わたしの後悔は、未だ続く。貴女がそれを振り払う剣としてあってくれる事を、切に祈る。……また会おう」
別れの言葉を残し、シオンの姿が薄れ、消え去った。
間もなく、か。人の成せる業ではない、人の身で偶然を引き起こす日々が、再び始まるか。
また しぬのか? ひとりになるのか?
ならぬよ。だから、安心せよ。そうなる前に、打ち破ってみせるとも。死なぬ、とは確約出来んがの。
がんばれ かえで
言われずとも、頑張るさ。あの奇妙な自称友人に託された以上は、な。
* * *
「今回も、10分だ。まずは目を通せ、話はそれからだ」
「あん? 今時、紙かよ……。って、何だこれ、キャンプキットのライター?」
「読み終わったら、この場で燃やせ。なに、紙一枚燃やす程度ならセンサーも反応せん。実証済みだ」
「へいへい、面倒くせぇ……。……おい、ホントに耄碌したか? アイツのデータを見せるっつってたろ」
「間違いなく、あれのデータだ。骨が折れたぞ、この一週間、秘密裏に集めるのは」
「いや、過程は聞いてねぇよ。んな事より、このデータ通りだと……」
「戦闘部に登録されておるデータでは、何の変哲もない新人。だが、実戦データを漁って調べた結果は――」
「――クラスリミットの緩和具合が尋常じゃねぇぞ……。あの修了任務から、一週間しか経ってねぇのに……?」
「映像からの推測故、誤差は当然あろう。だがいずれにせよ、あやつは新人の範疇を遥かに超えておる」
「戦闘部のデータが改竄されてるってのか? 一体誰が……、っつか出来るのか?」
「心当たりはあるが、確証はない。いずれにせよ、人の成せる業ではないな」
「ホント、ナニモンなんだよアイツは……」
「ともかく、お前はあやつを探れ。恐らくは巻き込まれておるだけとは思うが……」
「言われなくてもそのつもりだっての。アイツの人となりは、それなりに分かってるつもりだ。少なくとも、他人を騙して喜ぶようなヤツじゃねぇから、安心して待っとけ」
「頼んだぞ、小僧」
「頼まれてやるよ、じじい」
「……ところで、今日は水を飲んでおらんのだな」
「……思い出させんじゃねぇよ。じじいもやってもらったらどうだ? 長話したら自動ドアが高確率で反応しなくなる祟り、とかな」
過去にはアンリがいて、現在でもエメライン、クレシダ、ジラードがショップエリアにいます。その全員が一般市民の衣服であるスライトスーツ、スライトクロスを着ているので、一般市民の立ち入り可能エリアはとりあえずショップエリアのみとしました。
なぜ原作では、フィリアさんは安藤だけ呼んだんでしょうね? マトイを保護した際はアフィンも一緒でしたし。安藤がメディカルセンターに来るまでは、マトイは一言も喋っていませんから、指名されたって線もありませんし。思えば、原作はここからアフィンの名ばかりの相棒化が始まっていたのかも知れません。