出来損ないの最高傑作ーNT   作:楓@ハガル

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書き直すに当たり、序盤を大幅に変えました。それ以前はヒルダからのプレゼントについて書いてありましたが、カット。一応全員もらっています。

投稿が遅れてしまい、誠に申し訳ありませんでした。


第二十四話 氷原の暴君

「あれっ。相棒、口紅変えたのか?」

 

 いつものように集合し、開口一番、驚かされた。同性のユミナなら分かるが、まさか異性のアフィンに気付かれるとは。

 

「ん? おぉ、その通りじゃよ。しかし、よく分かったのぅ」

 

「やっぱりか。いや、何か普段より唇がツヤツヤしてるように見えたからさ」

 

そう言いながら、アフィンは小さく拳を握った。自分の見立てが正しかった事が嬉しいらしい。うむ、可愛らしい。

 じゃが、少々迂闊じゃったな?

 

「おやおや、アフィン君は楓ちゃんの唇が気になるのかなぁ?」

 

「この助平め、尻の次は唇かや? ほんに、そなたは節操がないのぅ……」

 

ユミナが意地の悪そうな笑みを浮かべて問い、妾が口元を扇子で隠して流し目を送ってやると、案の定、アフィンは顔を真っ赤に染め、手をばたばたと振った。アフィンや、唇は女の『ちゃぁむぽいんと』の一つぞ。下手に突けばこのような返しが来ると、そろそろ覚えねばのぅ。

 

「ちっ、ちげーよ! 俺はだな、レンジャーの洞察力ってヤツを見せてやろうと思ってだな……! アーニー、お前も分かったろ? な?」

 

「アフィン、少しばかり見せ所を間違えたな。俺でもその程度の分別は付くぞ」

 

ほぅ、アーノルドは上手く躱したな。口紅に気付いたとも気付かなかったとも言っておらぬ。これではからかってやれんわ。全く、不甲斐ない。どのアークスよりも妾と長く過ごしていると言うのに、こんな事になると気付かぬとは。まぁしかし、口にしてくれたのは素直に嬉しい。肩を落としてしょげる姿を見るのも忍びんし、そろそろ勘弁してやるか。

 

「これに懲りたら、そなたも『でりかしぃ』を持つよう心掛けよ。うちのアレンと変わらぬぞ?」

 

「アレンって、相棒の父親みたいな人で、土集めが趣味なんだっけ? てか、デリカシーってスラスラ言えない相棒に言われると、すんげー悔しいんだけど……」

 

「かかか。本質を知っておれば良いのよ」

 

 さておき。気を取り直して、今日の予定を吟味せねばな。ユミナからは凍土エリアの任務があるならそちらへ行きたい、アーノルドからは森林エリアで実力を高めたい、と言う意見が出た。ふむ。どちらも大事じゃな。

 凍土の任務を遂行すれば、自由探索許可、すなわちクエストへの参加許可が下りる。妾としても、仮面被りの情報が欲しい故、早いところ許可が欲しい。

 しかし森林で実績を積むのも捨てがたい。全員の練度が上がれば、任務やクエストでの生存率は大きく上がる。妾たちが今手掛けているのは、環境も原生生物も森林とは比べ物にならぬ程の危険な地。アーノルドの提案も尤もと言えよう。

 さて、どうしたものか。などと考えていると、

 

『か、楓さん、聞こえますかぁ!?』

 

オペレーターのメリッタ殿の金切り声が、その思考を中断させた。思わず耳を覆いたくなったが、顔を顰める程度に抑える。通信故、意味がないからの。ともかく、随分と慌てておられるようじゃし、回線を繋がねばな。……割りといつも慌てておられるような気もするが。

 

「こちら楓、いかがされましたか?」

 

端末を操作して呼び掛けると、『よ、良かった、繋がったぁ!』とこれまた大きな声。アークスシップ内で通信が繋がらぬ事などあるとは思えんが、逆に考えると、それだけ重要な伝達事項なのかも知れぬ。

 

『あ、あのですね、楓さんたちの昨日の記録を鑑みて、コフィーさんから任務が下りました!』

 

「コフィー殿から、ですか? それはまた大層な……」

 

となると、それなりに危険な任務なのであろう。自然と、顔が引き締まる。続きをお願いすると、他の人員はカウンターに集まっており、詳細はそこで伝えられるので妾たちもすぐに向かって欲しい、との事。なるほど。状況は切羽詰まっているらしい。急いだ方が良かろう。

 

 

 

 アフィンたちを引き連れてアンネリーゼ殿のカウンターへ向かうと、そこにはすでに十二名が集っていた。ゼノ殿にエコー殿、それにあねさまもいる。いずれもハガルで名うてのアークス戦闘員。これだけの顔ぶれなら、認識を改めねばならぬな。それなりどころではない、危険な任務が待っておるようじゃ。

 

「おっ、来たなルーキー共。それじゃアンネリーゼ、説明頼むぜ」

 

挨拶もそこそこに、ゼノ殿に促されたアンネリーゼ殿から早速任務内容が伝えられた。これより展開される任務は二つ。一つは大型原生種"デ・マルモス"の討伐。もう一つは小型原生種の討伐。昨日の急激なダーカー汚染により、その只中を縄張りとしているデ・マルモス一頭と周辺の小型原生種が、重度の侵食を受けたらしい。これを放置すれば、汚染状況がより深刻なものになる。そこでコフィー殿は早期解決の為、緊急任務として手練を招集したそうな。

 事情は触り程度に聞いていたが、この顔ぶれに混ざるとなると、気後れしてしまう。普段ならば特に何とも思わぬが、任務となれば話は別。アフィンたちも同じ心境なのか、緊張の色が窺えた。

 

「ゼノさん、エコーさん、楓さんにアフィンさん。この四名には、デ・マルモスの討伐をお願いします。アーノルドさんとユミナさんは、"ラヴェール"さんとフーリエさんと組んで、小型原生種の討伐に回って下さい」

 

ふむ。今回も先のダガン殲滅任務同様、ちと変則的なパーティとなったか。大型原生種に立ち向かうに当たり、先輩たるゼノ殿とエコー殿に同伴頂けるのは頼もしい。

 じゃが、一抹の無念を覚えるのもまた事実。かような相手だからこそ、アーノルドとユミナ、そしてアフィンと共に挑み、打ち勝ちたかった。上が決めた以上は従うが、叶わぬからこそか、その願いは一層強くなる。いずれは妾たち四人で、強敵と戦いたいものよな。

 

「いい面構えしてるじゃねぇか、楓」

 

 少しばかり思考が行き過ぎたのだろうか。ゼノ殿の嬉しそうな声で、彼が妾の正面で腰を屈め、瞳を覗き込んでいる事に気付いた。

 

「これでも10年はアークスやってるからな。今のお前みてぇなツラをしてるヤツは何人も見て来た。テメェの分を弁えて、それでもやってやりたいって顔だ」

 

目を閉じて、しみじみとした口調で語るゼノ殿。瞳を閉じているのは、その人々――きっと同輩であったり、後輩であったり――との記憶を一つ一つ思い出し、噛み締めておるのじゃろう。

 

「今は我慢しとけ。お前の事だ、もう分かってるとは思うけどな」

 

「……えぇ。重々、承知しておりますよ」

 

にかっと笑うゼノ殿に、妾も深く頷き答えた。ほんに、この先輩は察しが良い。妾の心情をぴたりと言い当てよった。じゃが、それを別の方向にも発揮すべきと思うがの。見てみぃ、エコー殿の顔を。自分の気持ちも察して欲しそうに……、おろ? この表情は……。

 

「なるほど、のぅ」

 

今日もまた、良いものを見させて頂いたわ。エコー殿もまた、の。

 

 

 

 キャンプシップから凍土へ降り立ち、駆ける。詳細な任務内容は、降下地点からの道中に現れる侵食体の殲滅と、本丸の討伐。任務そのものの難易度はともかくとして、やる事自体は単純明快。

 討伐対象となったデ・マルモスの特徴は、何と言ってもその巨体。彼奴の幼体とされるマルモスはもとより、昨日の任務で遭遇したガウォンダよりも大きい。自重を支える四本の足は、妾の背丈と変わらぬ長さと、妾の胴回りを遥かに超える太さを併せ持つ。こんなでかぶつに踏まれようものならば、五体四散は免れまい。

 元来は幼体同様に温厚な気性なのだが、ダーカー因子に侵食されると一変し、極めて攻撃的となる。その差は巣を見れば歴然。侵食を受けていない個体の巣と違い、至る所に原生種の凍てついた死体が転がっている。と言うのも、先に触れた凶暴化により、ダーカーであろうと原生種であろうと、目に付いた動体は全て排除するようになるのだ。

 例外はマルモスだが、どちらかと言えば家来や手下のように扱われる。つまり侵食されたデ・マルモスとの戦闘では、マルモスの群れも障害となる。いずれも動きは鈍いが、集団戦法をとられれば苦戦は必至。こちらも上手く連携をとらねば、翻弄されてしまうだろう。

 

 道中は苦戦する事もなく、順調に進めた。妾とアフィンがそれなりに実戦慣れした事もあるが、それよりも練達したアークスであるお二人の活躍が大きい。長大な大剣を手足のごとく操り敵性体を薙ぎ倒すゼノ殿と、多様なテクニックで攻撃と戦闘補助をこなすエコー殿。その様はまさに阿吽の呼吸。互いの長所、短所を把握しているだけでは、ここまで達する事は出来まい。

 しかもこのお二人、未だ成長段階にあるように見受けられる。森林エリアでの繰り返しの日々で何度もご一緒したが、その時は当然ながら変化は見られなかった。じゃが今日。幾ばくかの日を置いたお二人は、さらに動きが洗練されている。素人目に見ても明らかな程に。この人柄で、日に日に実力を伸ばしておるのなら、なるほど、みなに慕われるのも理解出来るわ。

 

「楓、お前のその武器……」

 

 地図で言うなら、そろそろデ・マルモスの縄張りに入ろうかと言う辺り。息を整えようと立ち止まったところで、ゼノ殿が妾の自在槍を指差した。ふむ。やはりゼノ殿も不思議に思うか。しからば説明しよう、と口を開きかけ、

 

「戦いにくそうだな。その細工があっても、まだリーチが長いのか?」

 

核心を突いた言葉に黙らされた。

 

「ゼノ先輩、相棒の武器の事、知ってたんすか?」

 

「え、細工? ワイヤーが全然伸びてないなぁ、とは思ってたけど、そんな細工してたの!?」

 

今までにこの細工を知った人々は、どちらかと言えばエコー殿のような反応を示しておった。だのにゼノ殿は、前々から知っておった上に、妾の悩みを見抜いたとな?

 ある意味で両極端な様子のアフィンとエコー殿へ、ゼノ殿は手をひらひらさせつつ笑った。

 

「エコー。担当官は、自分が担当する訓練生の情報を事前に見れたろ?」

 

「あ、そっか。アーノルド君もユミナちゃんも、得意武器とか色々書いてあったっけ」

 

「んで、楓の成長っぷりを横目で見ながら、あぁ、もうヒヨッコじゃねぇなぁ、とか思ってたんだが……」

 

「な、何かジジ臭いっすね……」「うっせ、後輩の成長に感動すんのは先輩の特権だ」

 

無粋なツッコミを入れたアフィンの頭を小突くゼノ殿。大変微笑ましい光景じゃが、言い当てられた本人としては、その根拠を早う伺いたい。ちょいと視線を向けると、ゼノ殿は咳払いを一つして、こう語った。

 仕掛けるにしても迎え撃つにしても、妾は思い切り踏み込まずに、半歩程引いている。身体はもっと近寄りたいのに、武器に無理やり合わせているように見えたそうな。

 

 先に諳んじた通り、ワイヤーを封印してもなお、妾にとって自在槍の間合いは長い。ついでに、刃の配置は、妾のプリセットとは異なる。違和感を覚えつつも訓練校で矯正したが、今までにそうと指摘されなかった為、完全にものにしたつもりじゃった。まさか勘付く者が現れるとは思わなんだ。朝から今に至るまで、今日は驚かされ通しじゃのぅ。

 

「そんな細工しても使いにくいってんなら、いっそおやっさんに改造してもらったらどうだ? 良い仕事してくれるぜ」

 

武器の改造でおやっさん、となると、思い当たるのはドゥドゥ殿。名を出して問うと、ゼノ殿は頷いた。

 

「武器に関しちゃ、ハガルであの人に並ぶ職人はいねぇからな。お前も上手い事戦っちゃいるが、もし少しでも不満があるんなら、おやっさんに相談した方が良い」

 

ふむ。新人と言う身の上で個人用の改造武器なぞ、少しばかり気が引けるが、今後を考えれば良いかも知れぬ。生き残る為に己に合う武器を誂えて頂く。そこに熟練者と新人の垣根などないはずじゃしな。任務から戻ったら、早速訪ねてみるとしよう。

 

 話はそこからデ・マルモスへの作戦会議に移った。戦闘経験を聞かれたが、妾もアフィンも、当然ながら実際に相見えるのは今回が初めて。VR訓練で幾度か戦った程度でしかない。

 

「そりゃそうだよな。どこが弱点かは知ってるか?」

 

「それは知ってます。瘤の内側にある延髄ですよね」

 

「しっかり頭に入ってるじゃねぇか、アフィン。だがそう簡単に行かねぇのも分かるよな?」

 

「一番の問題は、背に乗った際の彼奴の抵抗ですな」

 

それこそが、悩みの種。延髄の破壊だけならば乗っかってしまえば容易い事。しかしちんたらやっていては、まず間違いなく振り落とされる。羽虫が寄って来た時に振り払うのと同じじゃ。彼奴とて生物である以上、目障りな何かが身体にまとわり付いて来たのならば、そりゃ抵抗するわな。

 よって、彼奴を仕留めるには一撃必殺が基本。VR訓練では一度、仕留め切れずに振り回された挙句、床に叩き付けられたからのぅ。あの時は外装に罅が入る程の痛手を負ってしまった故、その重要性は文字通り骨身に沁みておる。

 

「それだけ分かってりゃ十分だ。そんで今回の戦闘だが、アフィン、『ウィークバレット』は使えるか?」

 

 ゼノ殿が発した問い掛けに、アフィンは一発だけなら、と頷いて返した。ウィークバレットはレンジャー専用の特殊弾じゃが、その性質上、ハンターとフォースも訓練校で教わっている。

 

 不思議な事に、ダーカー因子はフォトンと似た挙動を示す。すなわち、攻撃と防御に転化されるのだ。それ故、ダーカーや侵食体は見た目以上の身体能力を発揮し、同じウーダンであっても、打撃の重さや肉体の頑丈さは、侵食の有無で大きく差が出る。

 ウィークバレットは、込められたフォトンで防御に転化されたダーカー因子を中和し、命中箇所付近の守りを崩す特殊弾。その効果は絶大で、例えば十発は殴らなければ砕けぬ甲殻があったとすると、それが四発目の打撃で砕け散る程。戦闘が長引いては不利になるような敵性体を相手とする場面において、非常に重宝する。

 無論制約も多々あるが、それはここで語るべき事ではない。記憶しておくべき事柄は、それを補って余りある程の恩恵を味方にもたらす特殊弾である事。

 

 アフィンがウィークバレットを装填したのを見てから、ゼノ殿は続けた。

 

「接敵したら、ソイツを左後足にブチ込んでやれ。その後はチビ共の相手だ。エコーは――」

 

「接敵前と、必要ならトドメを刺す前にシフタとデバンドでしょ? マルモスはあたしとアフィン君に任せて」

 

「――さすがは俺の相棒だ。楓は左後足を潰せ。俺は左前足をやる」

 

「承知いたした!」「了解っす!」

 

一撃で仕留めるに当たり、必要なのは彼奴を行動不能に追い込む事。丸太のごとく太い足は、三本残っていれば十分に自重を支えられるが、左右いずれかの足二本へ徹底的に攻撃を加えれば、さすがに姿勢を崩す。その隙に瘤を攻撃する、と言う算段じゃな。

 

 作戦は決まった。いざデ・マルモスの巣へ参らん、と走り出したが、その時。

 

「楓ちゃん、上!」「ぬぉっ!?」

 

頭上の影に気付くのとエコー殿の声は、同時じゃった。弾かれたように飛び退くと、そこへ白い何かがとんでもない速度で落下し、水音を含む鈍い音と共に肉片と鮮血で、白い大地を赤く染めた。まじまじと検分するまでもない。落ちてきたのは、ファンガルフル。

 

「……ふむ。余程飢えとったんじゃのぅ」「いや、どー見ても違うだろ」

 

少々の驚きを冗談めかして隠し、行く先を見やる。この哀れな犠牲者の様子からして、恐らく巣は大騒ぎとなっておろう。

 

「ん、メリッタからか。こちらゼノ、どうした? ……あぁ、そんなこったろうと思った。死体が飛んできたからなぁ。……分かった、連絡を待つ」

 

メリッタ殿へのゼノ殿の返答が、半ば裏付けとなった。やはり、ちと厄介な事になっとるらしい。

 

「小型共に叩き起こされて、相当ご立腹みてぇだ。騒ぎが収まるのを待ってから突入してくれ、だとよ」

 

「怒ってる、かぁ。巣の状況は聞いた?」

 

「子分を片っ端から食い散らかされて、怒り狂った親分が大暴れ。その結果がアレだな。今の内に作戦を変えるぞ」

 

 腹を満たして逃げた個体もいるらしく、あまり時間はなさそうじゃ。取り急ぎ、作戦を立て直さねばならん。とは言え、基本的な部分は変わりない。左前足にエコー殿、後足にアフィンが加わるのみ。とにかく優先すべきは、彼奴の動きを止める、この一点。

 

 やがて、僅かに感じていた地響きが収まり、代わりに一発、低い咆哮が届いた。デ・マルモスの勝鬨じゃろうな。

 

「こちらゼノ、トライアルを受諾した。行くぞお前ら、腹ぁ括れよ! 突入ッ!」

 

「了解ッ!」

 

ゼノ殿の檄に三人揃って気勢を上げ、巣へ侵入した。

 

 

 

 三方を断崖に囲まれた広大な巣は、酸鼻を極めていた。食い荒らされたマルモスの死骸が、原型を留めていないガルフル共の死骸が、あちこちで血の臭いを撒き散らしている。アークスが討伐した死体は即座に転送される為、このような凄惨な光景は見た事がない。あまりにも現実離れしておる故、己は夢現の境を彷徨っているのか、と錯覚した程じゃった。

 しかしすぐに、ここが現世(うつしよ)であると思い知る。巣の中央にはここの主が屹立しており、鼻息も荒々しくこちらへ殺意の篭った視線を送っておる。妾たちが縄張りを荒らす闖入者である事ももちろんじゃが、侵食体としての、フォトンへの敵愾心も大いに内包されておろう。

 

「戦闘補助は任せてッ!」

 

掲げられたエコー殿の長杖から炎のフォトンが放出され、妾たちにさらなる力を与えてくれる。これならば、彼奴の分厚い毛皮にも貫けよう。続いて氷のフォトンが長杖に収束し――

 

「ちっ、散開しろッ!」

 

デ・マルモスの長い鼻が雪原に突き入れられた。そして間を置かず引き抜くと、鼻先には巨大な雪塊。イエーデ共が作り出す物と同様の性質を持つが、ファンガルフルを遠投するだけの力で投げ付けられるそれは、段違いの威力を誇る。どうやらシフタで高まったフォトンを感知し、妾たちを完全に敵と見定めたらしいな。

 ゼノ殿の声で四方へ散り、それぞれに目標目掛けて走り出す中、ゼノ殿がハンターのスキル、『ウォークライ』を発動させているのが見えた。大気中のフォトンを大量に吸収し、自身を中心として発散させるこのスキルは、周囲のダーカーや侵食体の注意を一身に引き付ける、ハンターならではのスキル。その目論見が当たったのだろう。彼奴の目は、明らかにゼノ殿を追っていた。今の内に懐へ入らせてもらおう!

 

「相棒、撃てッ!」

 

「あいよ、思いっ切りブン殴れッ!」

 

着弾音と同時に、彼奴の左足から黒い靄が滲み出た。この靄こそ、構造を破壊され、鎧として留まれなくなった残留ダーカー因子。ウィークバレットが効果を発揮している証拠。

 

「はぁッ!」

 

疾走の速度を乗せ、全力で右のワイヤードゲインを突き出した。守りは大幅に脆くなったはずじゃが、生来の毛皮の分厚さは相当なもので、手応えはあまり感じられぬ。しかし一人で挑むVRに比べれば、まだまし。今回は頼れる相棒がいる。先輩がいる。さっさと叩き潰してくれようぞ。

 なお完全な余談だが、初のVR訓練では減点を食らってしもうた。ブースター最大出力で背に乗ったら「他種族には不可能な事をするな」じゃと。まぁ、訓練じゃし致し方なかろう。

 

「相棒、離れろ!」

 

 不意に、やや遠方から後足を狙っているアフィンが叫んだ。言われるがままに跳び退り、デ・マルモスとの距離を取った直後、彼奴の身体が宙に浮き、そして着地と同時に、凄まじい揺れが妾たちを襲った。

 戦闘において、体重は武器となる。実に単純な話じゃな。彼奴もそれを心得ており、こうして踏み潰しに掛かったと言う事じゃ。

 何よりも驚くべきは、その膂力。これだけの揺れを起こす程の体重を支えるだけでなく、跳び上がらせるとは。やはり、正面からぶつかり合うには、生物としての格が違い過ぎる。

 であるならば。

 

「危ないところじゃったのぅ……、仕返しじゃッ!」

 

小者は小者らしく、小細工を弄して小賢しく立ち向かわねばな!

 再び接近し、ひたすらに後足を切り、突く。こちらに当たらぬ角度から、アフィンも射撃を加える。白い毛が、血飛沫が飛び散った頃に、デ・マルモスの姿勢が僅かに崩れた。

 

「後はそっちだ、そのままやっちまえ!」

 

頭部のある方向から、ゼノ殿の声がした。何と。ウィークバレットがあってもなお、攻撃の激しい前足側を攻めているゼノ殿とエコー殿に及ばんとな。妾たちとゼノ殿たちの間には、例え小細工を弄しても埋められん程の隔たりがあるとな。

 

 ……何とも、やる気の出る話ではないか!

 

「相棒、何かやらかす気なんだろ? こっちは準備出来てるぜ!」

 

アフィンも、妾のやる気を察してくれたようじゃ。掛けられた言葉に歓喜を覚えながら後方へ大きく跳び、左腕を引き絞る。両足のブースターに燃焼材を叩き込み、出力制限を解除。

 彼奴の足がどれだけ持つかなど、妾には分からん。もしかすると、まだまだ毛皮の下の薄皮に、ようやく刃が通っただけかも知れぬ。

 

 

 じゃが、例えそうだったとしても。

 

 この一撃を以て、そろそろ驚かす側に回りたいでな。

 

 

 地を蹴ると同時にブースターを噴射し、風景を置き去りにしながら急速接近。やや赤く染まった膝へ、限界まで引いた左の得物を突き出した。肉諸共に硬い何かを砕いた感触が、柄を通して伝わる。苦痛を訴えるがごとき大咆哮と共に、膝が内側へと、ごきりと音を立てながら折れ曲がった。

 

「追撃を仕掛けるッ!」

 

支えとなる足二本を手酷く傷付けられ、デ・マルモスが倒れ込んだ。それよりも先に後退し、右腕を限界まで引いて再度燃焼材を投入。地響きを起こしながら横たわったデ・マルモスの瘤は、好きに殴れと言わんばかりにこちらを向いておる。

 

「あたしからもお手伝いだよ、それっ!」

 

 シフタによる攻撃フォトンの高まりを感じる中、発砲音が鳴り渡り、瘤が黒い靄を帯びた。視界の端でエコー殿とアフィンが頷く。お膳立ては十全。後は、とどめを刺すのみ!

 

「これにて、幕じゃッ!」

 

左のワイヤードゲインを腰に収め、代わりに扇子を取り出して横咥え。目標を見据え、ブースター再点火。派手な噴射音が、彼奴の今際の際の呻きさえ塗り潰して轟く。みるみる間に、と言うのも生温い程の速度で巨体が、瘤が迫り、それ目掛けて溜めに溜めた力を全て開放した。元がぶよぶよの脂肪故に、瘤そのものを貫くのは容易い。加速も相まって、刃と腕は何の抵抗もなく瘤を貫き通す。そのまま延髄へと達し、すぐさま鈍い音と共に、致命傷を与えた手応えを感じた。ずるり、と得物ごと腕を引き抜くと、デ・マルモスの身体は大きく痙攣し、やがて動かなくなった。

 

 

 

 死骸を青い輪が囲む。戦闘員にとってそれは、討伐目標の生命活動停止を意味する。あの一撃で、勝負は決したらしい。

 右腕を大きく振るい、腕と得物にまとわり付く肉片や血糊を落としてから、咥えていた扇子を手に取る。そしてこの銀世界にあってなお白い扇面で口元を隠し、決めの姿勢。うむ。大型の侵食体を倒した後は、こうしなければ気が収まらぬわぃ。

 

「凄いよ、楓ちゃん! 一発で決めちゃうとは思わなかった!」

 

そんな妾を、駆け寄って来たエコー殿が長杖を放り投げて抱き締めた。おぉ、これはユミナの言う通り、実に柔らかいのぅ……。

 

「ったく、おいしいトコ持って行きやがって……。良くやったな、楓!」

 

「エコー殿の戦闘補助と、相棒のウィークバレットがあればこそです。妾はただ、それに応えようとしたまでの事」

 

憎まれ口を叩きつつも満面の笑顔を見せるゼノ殿には、こちらもにっかり笑って親指を大空へと向け、

 

「相棒よ、良くぞ妾の意図に気付いてくれたのぅ。お陰で仕留められたわ!」

 

「お前の顔見りゃ、何企んでるか大体分かるようになったしな。だったら俺がやる事は一つ、だろ?」

 

「ほぅ、いっちょ前に抜かしおるわ。かかかっ!」

 

得意顔のアフィンと拳をこつんとぶつけ合って、

 

「よし、それじゃ帰るとすっか! こちらゼノ、これより帰還する!」

 

デ・マルモス討伐任務は、満足の行く結果を残して完了した。




3倍→2.55倍→1.2倍。どうしてこうなった。

ゲーム内のデ・マルモスも足へのダメージ蓄積で倒れるとかやってほしかった。

決めの姿勢(決めポーズ)は、一部緊急が終わった後の勝利ポーズです。楓にはそんな変な癖があります。

それでは皆様、良いお年をお迎え下さい。
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