出来損ないの最高傑作ーNT   作:楓@ハガル

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新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。


第二十五話 ドゥドゥと刀匠

「なるほどのぅ、そちらも大変だったようじゃな」

 

「まぁな。だが、得るものも多かった」

 

「うんうん。ラヴェールさん、凄かったんだよぉ! 付いて行くのもやっとって感じだった!」

 

「ハンターだっけ? パティ先輩と言いユミナちゃんと言い、ニューマンなのにすげーなぁ……」

 

 割り当てられた範囲内の小型侵食体全てを討伐する、と言う任務の性質からか、アーノルドたちは妾たちよりも帰還が遅れた。話を聞く限りでは、こちらに負けず劣らずの過酷な任務だったらしい。侵食体だけでなくダーカーも出現し、その上どちらも凶暴性を増していたそうな。全く。仮面被りめ、ほんに疫病神ではないか。やつが現れると、ろくな事が起こらん。

 そんな状況下で、アーノルドたちと組んだラヴェール殿とやらは、八面六臂の大活躍だったそうじゃな。自在槍を巧みに操り、一欠片の慈悲も見せぬ苛烈な攻めでダーカー共を蹴散らした、と。

 その話でちと引っ掛かったのは、ダーカーにのみ過剰なまでの殺意を見せていた、と言う点。侵食体相手にはむしろ憐憫の表情さえ浮かべていたとか。事情は分からぬが、よほどダーカーが憎いと見える。まぁ、不躾に聞くつもりもないが、ワイヤーを封印していない自在槍の扱いには興味が湧く。いずれ任務あるいはクエストにご一緒させて頂きたいものじゃのぅ。

 それよりも妾にとって重要なのは、あねさまの活躍じゃな! アーノルドの談によれば、砲弾の加害範囲を完璧に把握し、誰一人巻き込む事なく大砲で援護して見せたらしい。大砲にかけては新人随一の腕前を誇るアーノルドでも、乱戦下では長銃に持ち替えると言うのに、さすがは教官殿から名指しで頼れと言われるだけはある。あねさまが大いに評価されておるようで、妾は嬉しいぞっ!

 

 こんな色気も何もない会話が繰り広げられておるここは、妾の自室。持ち寄った昼食を互いにつつき合いながら、方針会議……とは名ばかりの雑談を交わしておる。

 任務から帰還した妾たち四人には、コフィー殿直々に凍土エリアの探索許可が与えられた。しかしながら今朝のアーノルドの提案もやはり惜しい。故にちょうど昼時だからと言う事で、今日の予定を詰めようかと集まったわけじゃな。まぁ、今のところはただの昼食会になっておるが。

 

「さて、探索許可は下りたが、午後はどうする?」

 

 いつものように、アーノルドが舵を取った。が、実際には森林の探索か凍土の探索か、この二択じゃろう。確かに先の任務は激務と言っても差し支えないが、だからと言って今日は休もうなどという選択肢はない。整備班の方々からも、戦闘用ボディの整備は午後一で終わると聞いておるしな。

 

「済まぬ、行き先は三人で決めてもらって構わぬか?」

 

 しかし。午後の出撃前に行っておきたい所がある。

 

「いや、お前が構わんのなら良いが、何かの準備が必要ならば待つぞ?」

 

「あー、ドゥドゥさんのとこか?」

 

アフィンの問いに頷いて返した。ゼノ殿の指摘はすなわち、妾の戦闘時の姿勢が歪んでいると言う事に他ならぬ。それを矯正するあてがあるのならば、今の内にどうにかしておきたい。

 

「なるほどね、武器の改造かぁ。でもね、楓ちゃん。あんまり無理を言って、ドゥドゥさんを困らせちゃダメだよ?」

 

「分かっておるよ、恩を仇で返すような真似はせんさ」

 

ドゥドゥ殿には繰り返しの日々も含め、二度世話になっておるからの。この上無理な願いを言ってしまっては、勘定が合わぬ。では午後の予定の件はよろしく頼む、と伝えて席を離れると、どういうわけかアフィンも立ち上がった。

 

「ウィークバレットの件でお礼言いたいし、俺も行くよ」

 

「何じゃ、そなたも世話になっておったのか」

 

そう言えば、クラススキル関連の改造もやっている、と仰っていたな。炸裂防御習得時に世話になったように、アフィンもいつの間にやらドゥドゥ殿を頼っていたらしい。しかし、行き先はアーノルドたち任せになるが良いのか?

 

「何言ってんだよ。戦友の決定に文句なんか言わねーっての」

 

「……ふっ、そうか。ならばご満足頂ける旅行プランを練っておこう」

 

「三食昼寝付きの豪華な旅にしようねっ、アーニー!」

 

懸念の必要などなかったな。我ながら無粋な問い掛けじゃったわ。ならば午後の予定はアーノルドたちに任せ、妾たちはドゥドゥ殿と会って来るとしようかの。

 

 

 

 ドゥドゥ殿の勤めるアイテムラボには、先客がおった。小柄な体付きに、ぴこぴこと動く大きな耳の二人組。

 

「おや、パティ殿にティア殿ではありませぬか」

 

「おっ? やぁやぁ楓ちゃん! こんな所で会うなんて奇遇だねっ!」

 

「ちょっ、パティちゃん! こんな所なんて、ドゥドゥさんに失礼でしょ!?」

 

パティ殿のあんまりな物言いに、慌ててティア殿が窘めたものの、当のドゥドゥ殿は穏やかな笑顔を浮かべて、

 

「はっはっは、構わんよ。女の子からしてみれば、無理もないだろうからね」

 

と言ってのけた。表情を見る限りでは、本当に気にしていないようじゃ。何じゃろう、お祖父さんと孫娘、と言う言葉が頭をよぎったわ。

 パティエンティア姉妹も武器の相談に来たのだろうか。尋ねてみると、二人揃って首を横に振った。何でも、ドゥドゥ殿はさる高名な職人の元で修行をしていたらしく、その師匠について聞きに来たそうな。ハガルの戦闘員から全幅の信頼を寄せられているドゥドゥ殿の師匠となると、さぞや素晴らしい職人なのじゃろうな。

 

「素晴らしい、なんて言葉じゃ足りないよ。楓ちゃんとアフィン君は、『創世器』って知ってる?」

 

「六芒均衡のお歴々が扱う、我々の物とは桁違いの性能を持つ武器、でしたかな?」

 

「訓練校の座学で軽く触れた程度だったような? 俺もそれくらいしか知らないっす」

 

「あたしもよく知らなーい!」

 

元気一杯に答えたパティ殿を見て、ティア殿は「何で知らないの……」と頭を抱えたが、しかしすぐに気を取り直して、話を続けた。

 創世器とは、凄まじい破壊力を秘めた世に二つとない武器の総称。それ故に扱いが非常に難しく、ずば抜けた戦闘能力を持つ六芒均衡だけが所持を許されるらしい。それだけならば妾たちには特に関係のない話なのだが、実際にはそうでもないようじゃ。と言うのも、アークス戦闘員が使用している武器は、大元を辿ると創世器に行き着くとの事。扱える者が限られるが故に、誰でも使えるようにと性能を落としに落とした物こそ、修了任務で支給された武器であり、後発の武器も全てその初期生産品を基に開発されておる、と。

 

「へー、創世器ってそんなに凄いんだぁ! あたしも使ってみたいなー!」

 

「何で知らないかなぁ、パティちゃん……。一緒に調べたでしょ……」

 

「あんまり興味ないから、頭からすっぽ抜けちゃったんじゃないかなっ?」

 

 説明を聞いてまるで子供のようにはしゃぐパティ殿とは対照的に、ティア殿は肩を落としていた。先日のもの探しダーカーの件と合わせて考えると、パティ殿は興味の向く事柄に関しては高い情報収集能力を発揮するが、それ以外には疎いらしい。対してティア殿は幅広く情報を集めておるようで、バランスが取れている、と言えなくもない……か? 情報屋としてどうなのだろう、とも思うが。

 

「大まかには理解しましたが、創世器とドゥドゥ殿の師匠とは、どのような関係があるのですか?」

 

「えっとね、直接関係があるってわけじゃないんだけど、お師匠さん――刀匠"ジグ"は、創世器に一番近い職人って言われてるの」

 

「一番近いってのは、つまりとんでもない武器を作れるって事っすか?」

 

アフィンの質問に、そうだよ、と可愛らしい声で答えたティア殿は、さらに続ける。噂程度でしかないが、創世器は破損する事もままあるそうな。規格外の武器であっても年代物だからなのか、それとも元々そのように設計されているのかは分からないが、その修理を出来るのも、件のジグ氏しかいないらしい。聞けば聞く程、天上人のように思えるわぃ。

 

「それ程の御仁ならば、お二人の興味を引くには十分ですな。ゆえに、弟子であるドゥドゥ殿にお話を伺いに来た、と」

 

「とは言うものの、私も語れる程師の事を知っているわけではないのだよ。とにかく寡黙で、背中で語るような方だったからね」

 

職人気質を体現したような方らしい。頑固一徹、そのような人物の方が、職人としては信頼が置ける。

 

「さて、済まないがパティ君にティア君、仕事の時間のようだ。見るだけならタダだが、どうするね?」

 

 ぱん、と手を打ってこちらに向き直るドゥドゥ殿。パティエンティア姉妹はすっと左右に分かれてカウンターを譲ってくれたが、ここを離れる様子はない。妾たちの用事が終わった後に、また話を聞くつもりなのだろう。

 

「仕事をお願いするのは俺じゃなくて相棒なんですけどね。あ、この前は武器の改造、ありがとうございました!」

 

「その顔だと、どうやらお互いに良い仕事が出来たみたいだね。私の方こそ、わざわざ礼を言いに来てくれて嬉しいよ。職人冥利に尽きると言うものだ」

 

傍から見ていてもアフィンの射撃精度に翳りはなく、ウィークバレットも問題なく作用していた。炸裂防御の時もそうじゃったが、やはりドゥドゥ殿は頼りになる。使い心地が変わっているかも知れない、と仰っていたが、とんでもない。部品を追加しているのに、何も違和感を覚えんかったわ。

 

「では楓君、要件を聞こうか」

 

 そう切り出したドゥドゥ殿の背後、作業台の上には、すでに妾のワイヤードゲインが乗っていた。しかし、どう説明したものか。とにかく、まずは可能かどうかを聞くべきか。

 

「自在槍の間合いを、さらに狭く出来ますか?」

 

「リーチをさらに短く、と言う事かね? 今のままでも、現行の主武装では一番短いが……」

 

「それでも長いのです。姿勢が歪んでいる、との指摘を受けましてな」

 

ゼノ殿からの言葉をそのまま伝えると、ドゥドゥ殿は困ったような表情で顎に手をやった。目を瞑り口を閉ざす事しばし。

 

「出来るかどうかなら、出来る、と答えよう――」

 

再度開かれた口からは、妾の望む回答が出され。

 

「そ、それはまことで――」「――ただし」

 

しかし歓喜の言葉は、即座に遮られた。

 

「使い捨てになる。改造自体は簡単だよ。より刃に近い部分にグリップを増設すれば事足りる。だが壊れるのも簡単だ。それでも構わないのならば、やってみよう」

 

 ドゥドゥ殿曰く、創世器とそれを基とした各武器は、構造がすで完成されている。それは先述の通り、日々開発されている新型武器が全て初期生産品の構造を踏襲している事からも明らかであり、後からそこに手を加えれば強度が著しく低下するらしい。故に、使い捨て。数匹切っては壊れた武器を捨て、新たな武器をまた振るう。そんな戦法は現実的ではない。

 なまじ可能と言われただけに、落胆も大きい。やはり僅かな違和感を押し殺したまま、自在槍を使い続けるしかないのじゃろうか。

 

「ねね、楓ちゃん。面白い情報があるんだけど、聞きたい?」

 

 その様を見かねたのじゃろうか。パティ殿の柔らかい手が、妾の肩を叩いた。面白い情報、ですと?

 

「さっき仕入れたばっかりの、もしかしたら楓ちゃんの役に立つかも知れない新鮮な情報だよっ! お代は、そうだなぁ。昨日の任務のお話を、ちょこっと聞かせてくれれば良いからさ!」

 

昨日の任務と言うと、小型原生種討伐かあにさまの救出任務か。前者の話など今さら聞いたところで面白くもなかろうし、となれば後者であろう。箝口令が敷かれているわけでもなし、別に話すのは構わんが、しかしどこから救出任務の事を聞いたのじゃろうか?

 

「ふっふっふー。楓ちゃんたちはパティエンティアのターゲットなのさっ!」

 

「種明かししちゃうと、偶然なの。昨日のヒルダさん、いつもより声が明るくて、気になって聞いてみたら……」

 

「あーっ、言っちゃダメ! せっかくカッコ良く決めようと思ってたのに!」

 

「言う程カッコ良くないよ、パティちゃん……」

 

なるほど、ヒルダ殿のお墨付きじゃったか。ならば名実共に話しても何の問題もなかろう。偶然、と言うのはちと疑わしいが。妾の手元には、その偶然を自在に手繰り寄せる超常の代物がある故な。先の内容は確認しておらんが、これもマターボードの巡り合わせなのかも知れぬ。

 

「その情報、買わせて頂きましょう。報酬は前払いですかな?」

 

「毎度ありぃ! 見返りは後で良いよ、楓ちゃんも気になってるだろうからねっ! あっ、アフィン君は耳塞いでてね、これはあたしと楓ちゃんの取引だから!」

 

「いや、俺も一応当事者なんすけど……、ま、いっか」

 

反論をぐっと飲み込んだアフィンが耳に手をやったのを確認してから、パティ殿は「ここだけの話なんだけどね」と妾の耳に口を寄せた。しかしパティ殿の表情、本気でアフィンに聞かれたくないとは思っとらんな。先の創世器の件と言い、情報屋としてどうなのだろう、と言う疑問がまた浮かぶが、それもパティ殿の良さ、じゃろう。かように可愛らしく可憐な少女には、このくらいの緩さが似合っておる。

 

「何と、ジグ氏が来られるとな!」

 

「大声で言っちゃダメっ、アフィン君に聞こえちゃうでしょお!?」

 

「別に隠すような事でもなし、アフィン君に聞かせても良いと思うんだがね」

 

両手をばたばたと振るパティ殿を、苦笑混じりに揶揄するドゥドゥ殿。妾よりも彼女との付き合いが長く、また多くの人々と触れ合う仕事柄か、彼もまた本音を見抜いていたのじゃろうな。何とも温かい目をしておられる。

 

「あー、申し訳ありません……。ですがジグ氏はオラクルきっての刀匠なのでしょう? 己の産まれた地を蔑む気はありませんが、なぜハガルへ?」

 

「それはねー……」「私から話そうか」「……んなっ!?」

 

内容から察するに、仕入先はドゥドゥ殿だったのだろう。他ならぬ張本人からのカウンター越しの横槍に、パティ殿は奇声を上げた。少女としてその声は……、いや、妾も人の事は言えんな。

 

「師は、お前の腕がどれだけ上がったか見物しに行く、と仰っていたよ。緊張はするが、なに、私としてはいつも通りに仕事をこなすだけさ」

 

師の目が気になってしくじった、とならんように腕を磨いたつもりだがね、とドゥドゥ殿は笑ったが、瞳はそうではなかった。下される評価などどうでも良い、ただ己の全力を見て欲しいと言う、パティ殿に向けていたものとは打って変わって、うねりを上げる炎にも似た強い意志が宿っている。これ程の逸材を世に送り出すとは、ジグ氏もさぞ鼻が高かろうて。

 

「と、とにかく! 改造は無理でも、気に入ってもらえたら武器を作ってくれるかも知れないよ! あたしも突撃取材の時に、お願いしてみるつもりだし!」

 

ドゥドゥ殿を遮るように立ち、パティ殿が早口でまくし立てた。ふむ。改造が無理なら一から己に合う武器を作ってもらえばいい。なるほど、道理じゃ。気に入られる為にはどうすれば良いのか、と言う難問が立ち塞がるがの。

 じゃが、

 

「あ、それ無理だよ、うん」

 

その目論見は、呆気なく崩された。希望に満ちた顔でご自分が作ってもらう武器を夢想していたであろうパティ殿が、ぴたりと動きを止めてしもうた。

 

「一流のアークスにしか作ってくれない、とかっすか? あーでも、そんだけ凄い職人さんなら納得かなー」

 

「そんなレベルじゃないみたい」

 

アフィンの疑問に対し、ティア殿は端末を叩いて画像のような物を見せた。妾も首を伸ばして見せて頂いたが、隅に黒色の男性キャストの顔写真が載せられており、後は文書がずらり。画像ではなく経歴一覧のようじゃな。しかしアークスいちの刀匠が、まさかキャストとはのぅ。アレンに連絡を入れて、武器製造方面に力を入れてもらっても良いかも知れぬな。

 

「んー、40年前に頭角を現して、10年前にも製造に修復に大活躍、か。すげーな、一人でやれるとは思えねーぞ、これ」

 

「一人でやってしもうたからこそ、刀匠として知れ渡ったのじゃろうな。その間の30年も、意欲的に武器製造を手掛けていたらしいのぅ」

 

「私が師事したのは、その頃からだったか。まさに、見て盗め、だったね。よほど拙い事をしない限りは、食事の時間も寝る時間も惜しんで工房に篭っていたよ」

 

ドゥドゥ殿の補足に思わずため息が漏れた。まさしく絵に描いたような職人。才能だけでも努力だけでも達せず、まして好きでなければ至れない境地にあるわけか。道は違えど、その生き様は見習うべきじゃな。

 だが、経歴は10年前を境に、明らかに密度が異なっておる。特に直近5年は、何も書かれていない。これは一体、どうした事じゃろうか。

 

「最近は武器作りをやめちゃってるの」

 

「やめちゃった、って事は引退したとか?」

 

「うぅん、作る意欲はあるみたいなの。だけど、本人は情熱が湧かないって」

 

「スランプってやつか? そんなすげー人でもスランプになる事あるんだなー……」

 

なるほどのぅ。生半可な姿勢で武器と向き合いたくない、と言う事か。

 

「ちょ、ちょっとティア、あたし聞いてないんだけど……」

 

「パティちゃんが聞き流したか忘れたかしたんでしょ? わたしだけが聞いたなんて事はないよ」

 

油の切れた機械のようにぎこちなくティア殿を見やったパティ殿だが、当のティア殿は呆れ顔で返した。なぜじゃろうな、聞き込んだ情報を真面目に端末に入力するティア殿の隣で、他の事に気を取られてふらふらするパティ殿が容易に想像出来たわ。ちと失礼じゃが、思い描いただけ故許して欲しい。

 

 手札は変わらず、か。じゃが、まぁ仕方あるまい。常に最高の役で勝負に出られるわけもなし。手元の札をやりくりするしかなかろうて。

 

「妙な話を持ち掛けてしまって申し訳ありませんでした」

 

「いや、私こそ力になれずに済まない。お詫びと言ってはなんだが、明日、師に相談してみよう。あまり期待は出来ないがね……」

 

「いえ、お気遣い感謝致します。それでは失礼しますぞ」

 

「新しい武器が手に入ったら、また来ますよ!」

 

アフィンと共に深く一礼し、アイテムラボを離れようとしたが、はたと思い出してパティ殿に、先程の情報の見返りは日を改めて支払う、と伝えた。

 

「そんな、今回はいらないよ! 作ってもらえそうにないし……」

 

パティ殿は千切れんばかりに首を横に振ったが、情報を買ったのは事実。それに、パティ殿から聞かなければティア殿の情報も聞けなかった。故に報酬を支払うに値する取引だったと認識しておる。その旨を述べると、パティ殿は渋々ながらも了承してくれた。

 

「次はちゃんとした情報を買ってもらうからね! 絶対だよっ!」

 

「だったらちゃんと話を聞こうね、パティちゃん。あっちにふらふらこっちにふらふらじゃ、楓ちゃんの満足する情報は仕入れられないよ?」

 

「あ、あたしのアンテナは全方位からの特ダネを受信してるんだよ!」

 

あれま。妾の想像通りだったとは。別段許しを乞う必要などなかったかのぅ?

 

 

 

 アイテムラボを辞して、アフィンとの雑談に興じつついつもの集合場所へ。結構な時間が経過しておる故、もう行き先も決まっておるじゃろう。

 残念だったな、まぁ仕方ないわぃ、と言葉を交わしながら、マターボードを展開。どうやら先程の会話も偶事であったらしく、次の目標へと光が伸びていた。その行き先は……。

 

「……ほんに、偶然とは凄まじいものよな、相棒や」

 

「ん、ジグさんの事か? 確かに、今日名前を知って明日来るってのは、偶然にしちゃ出来過ぎだよなー」

 

「うむ。……まこと、そら恐ろしいものじゃ」

 

今回のマターボード、どうやら仮面被りとジグ氏が鍵になっておるようじゃな。光が伸びた先には、ジグ氏との会話が記されていた。よそのシップからの来訪者でさえ、意のままとはのぅ……。今さら、と言う気もするがな。

 

 

 

「……確かに任せると言ったな、うむ」

 

「……あぁ、俺も言った。だからアーニーにもユミナちゃんにも文句言うつもりなんてねーよ」

 

 信頼しているからこそ任務内容を確認もせずにキャンプシップに乗り込み、道を阻む侵食体共を蹴散らし、最奥まで辿り着いた。そこに至ってようやくやるべき事を知ったが、必需品はアイテムパックに入れたままにしていたので、任務達成に支障はない。

 

「しかしじゃな……」「だけどよぉ……」

 

この辺は明確にしておかねばなるまい。アーノルドとユミナには何の落ち度もない。アーノルドに連絡を寄越したブリギッタ殿も、任務にアサインしたレベッカ殿も同様。早い話が、ハガルには恨むべき相手などおらぬ。

 恨むべきは、

 

「ちゃんと檻に閉じ込めとかんかぁぁぁぁ!」「またコイツらかよぉぉぉぉ!」

 

またもこやつら(ナヴ・ラッピー共)にまんまと逃げられた、研究部のぼんくら共じゃ!

 要は先日と同じく、逃げられたから代わりの個体を捕まえて来い、と。気軽に言うてくれるが、どんな任務やクエストよりも面倒――あぁ、もう、またアギニスが寄って来よった!

 

「す、済まん……」

 

「あ、あはは、日帰りプランになっちゃった……」

 

合流の際や道程で何度も謝られ、今また謝罪されたが、重ねて言う。この二人は何も悪くない。悪いのは何度脱走されても満足な対策を講じられず、そのたびに無責任に任務を発注する研究部の連中じゃ。あのゼノ殿でさえ、祟ってしまえと言う程じゃぞ。床を掘って逃げられる? 知らんわ、だったら掘られんようにせんか!

 

「研究部のうつけ共め、祟ってくれようぞ!」

 

「俺の分も頼むぜ、キッツいの行ってやれ!」

 

「言われずとも、そのつもりじゃ!」

 

追い詰めたナヴ・ラッピーにスタンロッドの先端を押し当てつつ考える。どう祟ってやろうか。ぬるい祟りなど妾たちの気が収まらん。……そうじゃな、食べた物が必ず歯の間に詰まる祟りか、食事中に必ず一度は咽る祟りか。どちらにしようかのぅ。今回は四人分の恨み辛みが篭っておるからな。楽しみにしておれよ、ぼんくら共!

 

 とまぁ、恨み節を吐いてはみたものの、クエストではなく任務になったのは助かる。ジグ氏に関しての情報は、明日来訪すると言う一点のみで、滞在期間までは知らぬ。日帰りかも知れぬし、一週間かも知れぬが、ナベリウスで寝泊まりしている間に帰った、となっては目も当てられん。そう言った意味では、都合が良かったと言えよう。

 なお、シオンにこの任務の件を尋ねてみたら、「ごめんなさい」と謝罪された事を付記しておこう。やはり演算の結果かえ……。




自分で書いといてあれですけど、「ドゥドゥさんを困らせちゃダメ」って最大の原作改変じゃなかろうか。

そしてジグはゲーム中では自分で75歳と言っていますが、公式資料では61歳となっているようです。どっちなんでしょうね?

※2018/01/09 17:25
  話数を書いてなかったので書き足し。

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