『ーー今から諸君は、広大な宇宙へと第一歩を踏み出す。我々は、諸君を歓迎する』
白いキャストの長ったらしい訓示が、ようやく終わった。確か、破魔五ぼ……違うな。六紡……いや、六芒ナントカ、だとか言う、大層な名前の集団の、頭領だったか? まぁ、妾には関係なかろう。
軽く背を伸ばし、続いて身体の動作チェック。……良し、アレンのやつ、実に良い仕事をしてくれた。今までの身体で、一番動きやすい。
修了任務に際し、訓練生は装備を支給される。申請したクラスの基本武装、予備武装のガンスラッシュ一丁、各種携行品、そしてヒューマン、ニューマンは戦闘服、キャストは戦闘用パーツだ。
慣らしておくように、と言われつつ受領したその日に、妾はあやつの所に持ち込み、調整を頼んだ。そして今日、調整後初めて換装したのだが…頼んで正解だった。調整前に試着し、不満だった部分が、見事に解消されておる。
男女とはまた別に、キャストは二種類に分かれる。『常に戦闘用パーツで過ごす者』と『日常用と戦闘用のパーツを使い分ける者』。妾は、後者だ。
キャンプシップには、共通の搭乗口と、キャスト専用の搭乗口がある。事前に申請しておけば、戦闘用パーツを搭載し、専用搭乗口で換装する事が出来る。分かりやすく言うなら、首の挿げ替えじゃな。
今回、妾も利用させてもらった。故に、今の妾は、生体部品を多用した非戦闘用パーツではなく、ローズ・ボディ、ファーネン・アーム、ディール・レッグを組み合わせた、戦闘用の装備を纏っている。いずれのシリーズも、それぞれ打撃、法撃、射撃に向いた性能を有するが、どうせ今はクラスレベルにより、戦闘能力に大きな制限がかかっている。であるならば、クラスの向き不向きではなく、妾自身の動きやすさを優先した方が、戦いやすかろう。
仕上がりの具合に一人頷いていると、担当官殿が口を開いた。
「はい、お前ら集まれー。つっても、俺含めて三人しかいねぇわけだが、まぁいい。とにかく、こっち来い」
妾と、同乗者の男ニューマンが、担当官殿の元に駆け寄る。顔に一条の傷が走る、赤髪のヒューマンか。ふむ、なかなかの色男ではないか。
「俺はゼノ。お前たち二人の担当官……まぁ、分かりやすく言えば、見届け人だ。よろしくな」
快活に名乗り上げ、男ニューマンに手を差し出す。握手、じゃろうな。「あっ、えーっと、アフィンです」と名乗りながら、おずおずと伸ばされた彼の手を、しっかり握ると、今度はこちらへ手を差し出された。別に物怖じする必要もない。堂々と握り返してやった。
「妾は楓。よろしくお頼み申す、担当官殿」
「おいおいアフィン、こっちの嬢ちゃんに負けてるぞ? シャンとしとけ、な?」
「う、うっす!」
笑いながら、アフィンの背中をバシバシ叩く担当官殿。何とも、豪快なお方だ。堅苦しいよりも数段やりやすい。この組は、『アタリ』と言えよう。
交流する二人を尻目に、窓に目を向けた。ガラス越しに広がるは、無限にさえ思える星々。それらを背景に、数百は下らないだろう数のキャンプシップが、横列を組んで飛んでいた。奥から手前へ、目で追い、隣を飛ぶシップに目を留め、そのまま流れるように後ろ、反対側の窓に振り返った。やはり、キャンプシップがズラリ、だ。
「壮観じゃな……。これが全て……」
「そう、お前たちと同じ、訓練生が乗ってる。目的地も同じだ」
妾の呟きに答えた声に振り返る。アフィンを組み伏せた担当官殿が、手をパンパンと払いながら、立ち上がるところであった。
「おや、担当官殿。アフィンとの睦事は終わったのかえ?」
「よせやい、男同士で気味わりぃ。それとその、担当官殿、ってのは止めてくれ。むず痒くって仕方ねぇ」
「承知した、ゼノ殿」
「ゼノ"殿"ぉ? 言われた事がねぇから、違和感しかねぇな……」
「かかか。ゼノ殿は、妾にとっての先輩じゃ、許されよ」
余程違和感が残るのか、何度も首をひねるゼノ殿から、視線をアフィンへ移した。うつ伏せになって、息を荒げている。随分と派手にやられたようじゃな。
「ほれアフィン、いつまでへばっておる? 先が思いやられるぞ?」
「わ、わりぃ……。でも、火照った体に、床の冷たさが気持ち良くてさ……」
「ほぅ、ゼノ殿の次は、床と睦事かえ? 見届け人の前で、よくもまぁ節操なく、サカれるのぅ……。ゼノ殿、報告書に書く内容が増えましたな?」
「そだな、アフィンは絶り」「起きます! サカってないっす!」
ゼノ殿が端末を取り出したところで、飛び起きるアフィン。この程度なら大丈夫か。ふむ、なかなかに、面白いやつじゃのぅ……?
船内中央に移動し、それじゃあ任務の概要を確認するぞ、とゼノ殿。あぁ、そこ踏むな、と注意された床中央の円を、少し離れて囲む。何やらゼノ殿が端末を操作すると、妾達の眼前に、透き通った玉が表れた。これはあれじゃな、『ほろぐらふ』とか言う技術じゃな? ……む? 『ほろぐらむ』じゃったか? どうにも、横文字は覚えにくくて敵わんわ。
「これが、今から任務に就く惑星ナベリウスだ。降下地点は森林エリアのここ、道順はこう、だ。覚えられなくても問題はねぇ、ナベリウスは地形が素直で、天然の道が出来上がってっからな。素直に進んでりゃ、オーケーだ」
ゼノ殿の説明に合わせて、仮想のナベリウスが拡大表示になり、光点が灯り、光る矢印が走る。ふむ、多少曲がりくねってはおるが、迷路のように複雑、と言うわけでもない。苦労する程ではなさそうじゃな。
再びゼノ殿が端末を操作すると、仮想のナベリウスが消え、今度は二足歩行の獣や四足歩行の獣、それに黄色くて寸胴の鳥的な何かが表示された。
「任務内容は至って単純だ。ダーカーに侵食された原生種を討伐しつつ、指定地点まで移動する。要は、こいつらを叩きのめしながらゴールを目指せ、だな」
「先輩、学校で習ったフォトン散布ユニットは、機能してるんですよね?」
「あぁ、とっくに転送し終わってるし、起動済みだ。お前たちじゃ手に負えんような、強靭な個体は出ないし、侵食されてない原生種も、隔離して保護してある。何も心配はいらねぇよ」
アークスの、否、全宇宙の生物の天敵とも言える、正体不明の敵性生命体、ダーカー。こやつらを滅ぼすのがアークスの使命なのじゃが、周囲の物を有機物、無機物問わず、汚染、侵食してしまうと言う、極めて厄介な性質を持っておる。生物が侵食されれば最後、治療の手段はなく、末期まで進めば、元の姿を維持出来ずに、ダーカーへと成り果ててしまう。
アフィンの質問にあった、フォトン散布ユニット。これは所謂、撒き餌じゃ。
この装置で、ダーカーを滅ぼす唯一の手段にして、彼奴らが最優先攻撃目標としておるフォトンをばら撒いて、ダーカーや侵食体と、侵食されていない生物を選り分ける、という寸法じゃな。
侵食体は討伐ーー殺害するしかない、と言うのが通説であり、訓練校でも、そう教えられた。歯痒い。口惜しい。あやつらに妾が、してやれる事……。せめて事が終わってから、手を合わせてやる、くらいか……。
「元の姿のまま死なせてやれる、って考えな。本物のバケモノになっちまうより、ってな」
「ゼノ殿、乙女心を覗くのは、感心しかねますぞ?」
優美な動作、そこに僅かな焦りを秘めつつ、扇子を開き、口を隠した。ゼノ殿へ送る視線は、目尻を下げ、それでも批判の色を乗せる。
「ハッ。駄々漏れに、覗くもクソも、ねぇだろが。第一、そんなツラしてるヤツを、今までに何人見たと思う?」
「ふむ……、顔に出ておりましたか?」
「そりゃもう、ハッキリとな。心配事はココに置いて行け。任務が終わって、ここに帰って来て、また拾えば良い」
「あぁ、うむ、どうせ終われば、またこの船に乗る。道理ですな」
そう言うこった、と、にっかり笑顔で、妾の頭をくしゃくしゃと撫でるゼノ殿。えぇい、妾の、値千金の『ぽにぃてぇる』が乱れるではないか! ほんに、こやつは、乙女心が分かっとらん! 確かに妾はちっこいが、子供ではないのだぞ!
原生種の表示が消える。代わりに表れたのは、『60:00』の数字。これが制限時間か。
「任務の制限時間は60分。順調に行けば、その半分もかからねえはずだ。時間内に指定地点のテレポーターを起動すれば、とりあえず任務完了だ」
「とりあえず、って事は、何か評点みたいなのがあるんですか?」
「良い所に目を付けたな、アフィン。基準を知っておれば、任務もやりやすくなるからのぅ」
「その通り。まず時間、これは今回は評点に入らねぇ。何だかんだで、お前たちは、今回が初の実戦だ。60分、目一杯使ってもいい。とにかくテレポーターを起動して帰って来い」
「家に帰るまでが遠足。昔の人はよく言ったものじゃな」「いや、遠足ってレベルじゃねぇだろ!?」
ほぅ、こう返すか。粗削りじゃが、間は良し。アフィン、磨けば光りそうじゃな。
「次は討伐率。道中に遭遇した侵食体を、どれだけ倒したか、だな。基準は50%だ。出会うヤツを、片っ端から叩きのめして行ければ、問題はないな」
「見敵必殺、うむ、実に分かりやすい」
「もし、最後までに一匹しか出なかったとしたら、どうなります?」
「あり得ねぇ心配はすんな、と言いたいとこだが、単純な話だ。倒せば100%、逃したら0%。分かりやすいだろ?」
「見つけ次第倒せば、問題にならないって事ですね、了解っす!」
降下して、何をすれば良いのかが、分かってきたのだろうな。アフィンの声が、挨拶の時よりも、活き活きとしておる。
じゃが、次の言葉でーー
「最後の評点、この為に、俺たち担当官が同乗してんだ。訓練生は、ハンターとレンジャーか、ハンターとフォースのペアで組まれてる。要は、前衛と後衛だな。この二人が、上手く連携出来ているか。ここを見る」
ーーその表情は、凍り付いた。
「連携、って……。俺たち、今日が初対面ですよ?」
「お前はレンジャーだが、ハンターも、ちったぁ教わったろ? ハンターは何が出来て、何が出来ねぇかを考えな。そうすりゃ、テメェの仕事ってのが、分かるはずだ。楓、お前もだ。レンジャーに出来ねぇ事、そいつを探せ」
「お、お互い好きに戦うってのは…」
「それ、やらかした時点で評点ゼロだからな。味方との協調性なし、なんてヤツに、背中預けられるか?」
「即興でどこまで舞えるか、かえ。ちと不安になって来たのぅ」
ただ、降り掛かる火の粉を払うだけでは足りぬ、と申すか。アフィンの実力の程が分からぬ故、あるいは、妾が足を引っ張る可能性も考えられる。最低限、アフィンの射線は、常に意識して動く必要があるのぅ。
「あー……、ちょいと、脅し過ぎたか?」
「二人組であっても、個ではなく群での戦闘、というのを、失念しておった。教本がここにあるなら、読み返したいところですな」
アフィンも、先程までと打って変わって、沈んでしもうた。無理もない。この任務に於いて、レンジャーは、ハンターやフォースと違い、誤射の危険が付き纏うからのぅ。
アークスの攻撃は、大雑把に言うならフォトンによる攻撃。打撃武器は、刃にフォトンを乗せて斬る。射撃武器は、弾丸にフォトンを纏わせて撃つ。そして法撃は、フォトンを六つの属性に変換して放つ。
ここで重要なのは、アークスに、フォトンによる攻撃は無意味である、という点じゃ。アークスの守備に転用されたフォトンは、攻撃に転用されたフォトンを中和、相殺してくれるからの。属性に転じていようと、それは同じ。それ故に、テクニックは、例え仲間に直撃しようと、傷を負わせたり、殺害してしまう事はない。まぁ、危害を加える事はなくとも、味方に当たれば『消失』してしまうので、やはり誤射は避けた方が良いのじゃがな。
しかし、打撃武器と射撃武器は、そうは行かぬ。打撃武器は確かな質量を持ち、射撃武器は実弾を撃つ。フォトンが消失しようと、物理的な威力は、一切衰えない。味方に当たれば、当然、負傷させてしまう。
相手が何匹いようと、打撃武器を振り回すのは、妾のみ。ハンターの妾は、気にする必要はない。
アフィンは、違う。一人でもない限り、常に誤射と隣合わせ。当たり所が悪ければ、たった一発でも致命傷になる。
少々、発破をかけてやる必要があるか、と考えていると、ゼノ殿が進み出た。未だ悩むアフィンに歩み寄り、
「担当官は、自分が見届けるヤツの、データの閲覧権を与えられる。お前たちのデータも、キッチリ見せてもらった。その上で、言うぞ」
挨拶の時と違い、そっと、アフィンの肩に手を置いた。
「アフィン、お前ならやれる。俺が保証する」
ゆっくりと頭を上げるアフィン。
「今はハンターだが、元々、俺の適正はレンジャーでな。それなりに、実戦経験もある。その俺の保証じゃ、足りねぇか?」
小さく、首を横に振る。少しは気が紛れたようじゃの。どれ、妾も一枚、噛ませてもらおう。
「おや、では現ハンターのゼノ殿からは、妾はどう見えたのか、気になりますな」
「えげつない、以上」
「これは異な事を。妾程、華麗に舞うハンターはおらぬ、と自負しておりますが」
「苛烈、の間違いだろ。一撃でVRエネミーの急所ブチ抜いて回るアレの、どこが華麗だってんだ?」
「蝶のように舞い、蜂のように刺す、と、言って欲しいのぅ」
「ファングバンシーみてぇに飛び掛かって、ロックベアみてぇに殴り倒す、だったぞ、どう贔屓目に見ても」
特に荒々しく戦った仮想訓練の記録を、持ち出してくれたか。ありがたい、話を進めやすくなった。さすがは担当官を任される、現役アークス。こちらの意を、見事に汲んでくれたわ。
「アフィンや、心配するでないぞ。お主は、ゼノ殿からお墨付きを頂けたのだ。これ程、心強い事もなかろう?」
お前には色々呆れてんだけどな、などと聞こえた気がするが、空耳じゃろう、捨て置く。
「第一、妾はキャストじゃぞ? たかが豆鉄砲、たかがかんしゃく玉、そんな物、屁でもないわ。じゃから、そう思い悩むな。良いな?」
「で、でも、もし本当に、当てちまったら……」
「その時は祟る」「こえーよ!?」
おぉ、一足で、そこまで引き下がるか。なかなか、良い反応を見せよる。後少し、畳み掛けようか。
「妾の祟りは、怖いぞ? ただ歩くだけで、ひっきりなしに、足の小指をぶつけるようになるからのぅ?」
「止めてくれよ、聞いてるだけで痛えよ!?」
「かかか。元気になったようじゃな?」
「……えっ、あ、あぁ……」
「沈んだままでは、いかに能力が優れていようと、十全には出し切れんからの。今のお主なら、背中を預けても、大丈夫じゃな」
扇子を閉じ、その先端でアフィンの頬から首筋、胸元までをなぞりつつ、挑発するように、笑って見せた。
ーー期待……しても、良いな?
瞬間、アフィンの顔が、リンゴのように、真っ赤に染まった。そして、まるで壊れた鹿威しのように、風を切る音さえ伴って、幾度も頷いた。
うむ、やはり、男子に発破をかけるには、この手に限る。お前こえーわ、などと聞こえた気がする。この船、どこぞに穴が空いておらぬか? 風の音が喧しくて仕方ないぞ?
ため息を一つつき、到着まで打ち合わせしておけ、と言われた。ぶっつけ本番よりは、事前に作戦を立てた方が、遥かに動きやすい。ありがたく、その時間を頂戴した。
「今更だけど、改めて。俺はアフィン、よろしくな。クラスは、レンジャーだ」
「楓じゃ、見知りおくが良い。ハンターが性に合うゆえ、それで登録させてもらった」
自己紹介もそこそこに、降下後の動きを話し合う。その結果、妾が先頭で、四時あるいは八時方向に、アフィンが付く、となった。この配置なら、アフィンも広く、射線を確保出来る。他の船の訓練生も、似たような配置になったのではないだろうか。
「ふむ、アフィンが、妾の尻を追い掛ける、という形じゃな。あまり、見るでないぞ?」
軽く"しな"を作ってやると、
「見ねーよ! そんな余裕もねーよ!」
思い切り、首を横に振られた。縦に横に、忙しいやつじゃ。そろそろ、痛めるのではないかの?
「ほほぅ、ならば、余裕があれば、見るのじゃな? ほれ、見るだけなら、タダじゃぞ?」
「は、はぁ!? よ、余裕あっても、み、見ねーし!」
おぉ、首まで真っ赤に染まっておる。……まだ、イけるな。
「アークスシップに戻れば、このような、からくり丸出しの身体ではなく、生体部品だらけのーーナマの、カラダじゃ」
「そ、それがどうしたってんだよ?」
ーーフフ……期待、しておくのじゃな
「〜〜〜ッ!?」
うむ、この辺が潮時かの。脳天に湯気が見えそうじゃ。いつものように、かかか、と笑い飛ばしたところで、アフィンも、自分がからかわれたのだ、と気付いたようじゃな。
「そういう、心臓に悪い冗談は止めてくれよ、相棒……」
「ん? 全部が全部、冗談ではないぞ?」
「は……?」
ーー見るだけならタダ……そう、言ったはずじゃが?
「んがっ……!?」
落ち着いたところを狙っての二段構え、見事にかかりおったわ。
「元気は、十分かの?」
「あぁもぅ、お陰様で元気百倍だよチクショー!」
「うむ、男子たるもの、それくらいの気合いがなくてはの!」
うがーっ、と、諸手を挙げて叫びおった。
しかし、先のアフィンの物言い、何かが引っ掛かったな。こやつ、妾を、何と呼んだ?
「アフィンよ。聞き間違いでなければ、お主、妾を相棒、と呼ばなかったかえ?」
「ん? あ、あぁ。何て言うかさ、今まで学校で話した事もなかったのに、こうして修了任務で一緒になって、何だかんだで、上手くやれそうな雰囲気になったじゃん?」
「ふむ。確かに、お主とは仲良くやっていけそうじゃの」
「だろ? クラスも、前衛と後衛で、上手く噛み合ってるしさ。こう、ちゃんとは、説明出来ないんだ。俺も、どう言えばいいのかって、悩んでるくらいだし……。駄目、かな……?」
段々と、尻すぼみになるアフィン。終いには、上目遣いになってしもうた。
相棒、か。なるほど。戦場において、互いに背を預け、互いに守り、敵を打ち倒す。戦友の間柄として、これ以上の物はあるまいて。
であるならば。この認識が正しいのであれば。
「駄目、じゃな」
妾は、この提案には、乗ってやれぬ。
「……そっか、駄目かぁ……。悪い、変な事、言っちまった」
またも、気落ちしてしもうたか。しかしこやつ、根本的な誤解をしておるな。正してやらねば、ならぬか。
「アフィンや、何か、勘違いをしてはおらぬか? ゼノ殿より、正しく評価を頂けたのは、お主だけじゃろう?」
「いや、それなら、楓だって」「妾が頂いた評価は猪武者。獣も同然じゃよ」
アフィンの反論を、やや声を大きく上げて、封じた。悪いが、この話は、譲れぬぞ。
「ゼノ殿からの評価を受け、気力十分となったお主じゃからこそ、妾は、背中を預けようと決めた。じゃが、妾は未だ、お主の背中を預からせてもらえる程、実力を示せておらぬ。そうじゃろう?」
肯定も、否定もせずに、だんまりを決め込むか。良い、ならば結論まで、語らせてもらおう。
「この任務、妾は、己がお主の足を引っ張る可能性が高い、と認識しておる。実戦で、そのような醜態を晒すのは、相棒とは呼べぬ。ゆえに、こう提案させてもらう」
扇子ではなく、掌を、そっとアフィンの頬に添え、
「今回は、妾の尻ではなく、戦い振りを見てくれ。それでなお、気持ちが変わらぬのであれば、また相棒と呼んでおくれ」
遠回しに、喜びを伝えた。
妾とて、相棒と呼ばれ、嬉しくはあったのだ。しかし、あまりにも時期尚早。何も示せておらぬのに、こやつの相棒を名乗るのは、気が咎めた。
「……分かった。この任務で、お前を見極める。それと、先輩の評価を台無しにしないように、俺も頑張る。この次からも、尻なんて見ねーけどな!」
「うむ、猪武者の戦い振りを、しかと見るが良い。余裕があるなら、ついでに、尻もな」
「見ねぇって、何度言えば分かってくれるんだよ!? それと、真面目な話に、尻を見る見ないなんて、混ぜんな!」
「妾はどうにも、『しりあす』が苦手でのぅ。おや、また『しり』と言うてしもうたわ、かかか」
「あぁ、調子が狂う……」
「妾が在る場の調子など、妾が作るに決まっておろうが。せいぜい、妾に合わせて、舞ってくれよ?」
良し良し、最早、心配はあるまい。人事は尽くした。後は、天命を待つのみ、じゃな。
完全に調子を取り戻したアフィンをおちょくっていると、窓越しの閃光が、船内を白く染め、その直後、船が急減速をかけた。
「な、何じゃ、攻撃を受けたのか!? 相手は誰じゃ!?」
慌てて船内を見回すが、特に異常はない。一先ず、この船は無事らしい。では、他の船は…? 窓に駆け寄り、外の様子を窺った。……なんとも、呑気な様子で、編隊飛行を続けておる。
「……おろ?」
そう言えば、攻撃を受けたにしては、船内は、異常なまでに静かだ。警報の一つや二つ、鳴ってもおかしくはなかろうに。
「……ブフッ」
何かを、噴き出すような音。そちらに、ゆっくりと首を向けてみると、
「ぶははははははははっ!!! か、楓、お前、慌て過ぎだ……!」
ゼノ殿が、腹を抱えて、笑っておられた。振り返ってみると、アフィンも、口と腹を押さえてぷるぷる震えておる。何じゃ、これは?
「はーっ、はーっ……。が、ガッコで、聞かなかったか? キャンプシップにゃあ、ワープ機能がある、って」
「い、一応、どんな感じなのかは、聞いてたからさ。俺は、『あ、これがワープか』って、感じだったけど……」
「『わぁぷ』、じゃと?」
ようやく落ち着いたゼノ殿が、説明してくれた。オラクル船団内や、近場の惑星であれば通常航行だが、遠方への移動では、ワープ機能を使用する。窓からの閃光は、他の船の、ワープゲート展開時の光で、急減速は、ゲート突入の際の行程、だそうだ。
……つまり、妾は、アークスの一般知識を失念し、慌てふためいていた、という事になるな。
「いやー、しっかし……。こんなになったの、訓練生の中で、楓だけじゃねぇか……? あ、駄目だ、耐えらんねぇや、これ」
そう言って、またもゼノ殿は、笑い出した。今度はアフィンも、隠しもせずに笑っておる。顔に、熱が溜まる。
こ、これは……恥ずかしい……!
「え、えぇい、笑うな、お主ら! 祟るぞ、それ以上笑うならば、祟ってやるぞ!?」
「いや、そんな、顔真っ赤にして脅されても、全然、これっぽちも、怖くねぇよ…ははははは!」
「ごめん楓、散々からかったお返しだと思って、笑われてくれよ…あははは!」
「むきーーっ! 笑うでないわぁぁぁ!!!」
……恐らく、今回の修了任務で、一番喧しかったじゃろうな、妾たちは。
肩で息をしておるが、今度こそ、二人共収まったようじゃ。『食事の際、調味料の蓋が外れやすくなる祟り』を、かけておいたからな。ちゃんとかかったなら、食事どころではなくなるからの。覚えておれよ……。
「そろそろ、任務開始だ。最後に、幾つか注意しておく事がある。返事はしなくて良い、とにかく、頭に入れておけ」
真面目な話のようじゃな、妾も、アフィンも背筋を伸ばした。
「重症を負ったり、完全に道に迷ったりで、任務の続行が不可能と判断したら、迷わずに、携行品に入れてあるテレパイプを使って、帰還しろ。特に迷子だ。本来のコースを外れたら、お前たちじゃ手に負えんようなのが、ウロウロしてる。そいつらに出くわす前に、だ」
「不測の事態には、ナビゲーターから通信が入る。絶対に聞き逃さず、指示に従え。それだけでも、生き残る確率は、跳ね上がる。さっき話した迷子も、気を張り詰め過ぎて、通信を聴き逃したヤツが、そうなる」
「これから向かうのは、ナベリウス星立原生種動物園じゃねぇ。れっきとした、ダーカー汚染地帯だ。何が起きても不思議じゃねぇ。俺たちアークスが、どんな連中と戦ってるのか、ガッコでしっかり聞いてるだろ。それを念頭に、行動しろ」
「あ、あの、質問です」
アフィンが、控え目に挙手した。返事はいらない、つまりは、黙って聞いておけ、と言われた手前、派手に話の腰を折るのは、躊躇われたのだろうな。それでも、ゼノ殿は、小さく頷いて、続きを促した。
「それって、つまり、ダーカーが出現する、って事ですか……?」
「あくまでも、可能性の話だ。だが、『出ないだろう』よりは『出るかも知れない』って腹積もりでいた方が、いざって時に、対応しやすくなる。そして、あのクソッタレ共は、どこにでも湧いて出る。つまり、そう言う事だ。分かったか?」
「は、はい!」
やはり、可能性は否定出来ぬか。しかし、その可能性さえ示唆されず、茶を濁されるよりかは、遥かにマシというもの。少なくとも、今のうちに、腹は括れる。
「最後だ。このシップは、お前たちが降下した後、ナベリウスの衛星軌道で待機する。撮影用のマグを通して、だが、お前たちの頑張りを見れる、特等席だ。確かにアークスは、死と隣合わせの仕事で、いつ死ぬかも分からん。だが、お前たちは、まだ死ぬには早過ぎる。さっさと終わらせて、ここに帰って来て、3年間の努力を褒めさせてくれ。いいな?」
「はいっ!」「承知しましたぞ」
良い訓示だった。白いキャストの長話なぞより、ずっと、妾の心に響いた。
ちらと目をやった窓に、青と緑に包まれた星が見えた。あれが、惑星ナベリウス。妾が、初めて降り立つ星。
『全キャンプシップ、降下可能距離へ到達しました。訓練生は、降下準備後、そのまま待機して下さい。担当官は、撮影用マグと端末の接続を確認し、所属アークスシップオペレーターへ、連絡を願います』
シップ内に、降下準備を促すアナウンスが響いた。いよいよ、任務が始まる。アークスの一員となる為に、戦場へ赴く。
頭の中で、思い描く。妾が振るい、立ちはだかる敵を斬り伏せる武器を。その瞬間に、背中に確かな、頼れる重みがかかった。右手を伸ばし、柄を握り、くるくると回しつつ構えた。
『パルチザン』。修了任務にあたり、支給された、
「さて、アフィンや。覚悟は良いかの?」
「とっくに覚悟は出来てたつもりだった、けど、楓と先輩のお陰で、改めて。ついでに、緊張も解れた!」
「そうかえ、それは重畳。妾も、お主にまた、相棒と呼んでもらえるよう、奮起して舞おうぞ」
「へへっ、期待してるぜ?」
「かかか。妾を誰と心得る?」
そう、妾はーー
『準備完了。全訓練生、降下せよッ!』
「よっし、お前たち、行って来いッ!」
「行って来ます、先輩ッ!」
「吉報を期待せよ、ゼノ殿ッ!」
ーー妾は、ゼノ殿にさえ呆れられた、獣の女王ぞ?
だいぶ端折って書きましたが、フォトン散布ユニットなど、いくつかの設定は、ただいま絶賛更新停止中の拙作より引っ張って来ました。気が向いたら、そちらもハーメルンに持って来て、更新再開するかも知れません。
こんな調子ですが、楓は結構ウブなので、『しり』には気付いても、『あす』には気付いてません。
2017/07/04 8:36
編隊飛行するキャンプシップの数を修正。
さすがに、数十は、少な過ぎました。
2017/07/09 10:21
カギ括弧内の誤変換を修正。
2017/07/17 9:02
三点リーダーを修正