春之助の過去に触れるので、
少しシリアスな感じになってます
2人の帰り道は、割と一緒だった。
というより、春之助と鈴木さんの家はかなり近所だった。
「まさか、桜井くんと家がこんなに近いなんて。こんな偶然もあるのね」
「たしかに。ここまで家が近いと笑えてくるよ」
「せっかく近所なんだし、少し話さない?」
「いいよ。今日1日で結構話した気もするけど……」
2人は近くの公園に寄り、ベンチに腰をかけた
「ところで桜井くん」
「なに?」
「違ったら申し訳ないけど、桜井くんは青森の八戸中学出身よね?」
「な、なんで知ってるの!?」
「やっぱり………。なぜあなたがここにいるの?」
「なぜって言われても…」
「質問を変えるわ。
リトルから地元の強豪シニアに入り、中学1年の時からレギュラー入り。卒団まで扇の要に座り続けた。そしてシニアの全国大会で三連覇。強肩強打に加え、まるで"投手を操っている"かのような見事な配球、そして審判のストライクゾーンをも操るような天才的なキャッチングセンス。
その実力から"東北の天才
「まさか、僕を知ってるなんてね……」
名前だけでなく、二つ名や経歴までも知られていたことに、春之助はかなり驚いた。
「今までに、あなたがどれだけの野球雑誌に載っていたことか…。
おそらく、同世代の野球好きであなたを知らない人の方が少ないと思うわ」
(そ、そんなぁ…)
「それより、質問に答えてもらえない?天才傀儡師さん」
「その呼び方、僕はあんまり気に入ってないんだよね。
ここに進学した理由は、野球がやりたくなかったから。なんか、中学で燃え尽きちゃって、高校では新しいことしようかなーって思ったのさ」
「…………嘘よ」
「嘘じゃないよ?」
「嘘に決まってる!だって、私が憧れていた"桜井春之助"は、こんなに簡単に野球を辞めたりしないわ!」
「じゃぁ、人違いかもしれないね。俺は簡単に野球を辞めちゃったから」
「…………失望したわ…」
そう言うと鈴木さんは下を向いてしまった
「取り乱してごめんなさい。今日は帰るわ。また明日ね」
「うん、また明日」
☆☆☆
翌朝
「8時くらいに学校に着いて、読書でもしていようかな」
そんなことを考えながら春之助は登校をしている
ガラガラガラ
まだ時間も早いため、教室にはちらほらとしか人はいない
「おはよう!桜井くん!」
「お、おはよう有原さん」
教室に入って早々に、有原さんが挨拶をする。
彼女は誰にでも分け隔てなく接してくれる、とてもフレンドリーで明るい子だ。
「いきなりだけど、一緒に屋上まで来てくれない?」
「う、うん。いいけど」
(こ、これはもしかして!!
でも、早まるな桜井春之助!
高校生活始まったばかりだし、お互い話したことも無いのに、告白なんて有り得るか!?
いや、でも緊張してきた…)
そんなことを考えながら春之助は有原さんに連れられて屋上に到着
「全国少年硬式野球大会、準優勝。全国中学硬式野球選手権大会、三年連続優勝」
突然、有原さんはそう口にした
「え?」
「クラス分けで名前を見た時に"もしかして!"って思ったの!
それで、実際に会ってみたら"あの"桜井春之助くん!
会えて光栄だよ!」
「あ、ありがとう(ここにも俺のことを知った人が…)」
「でも、なんで?
なんで野球部の無い高校に来ちゃったの?
勿体ないよ、桜井くんほどの実力があれば甲子園にだって出れるのに!
甲子園を目指したくても目指せない人だっているんだよ?」
寂しそうな瞳で春之助を見つめる。
「なんか、中学で一段落したから、次は他のスポーツでもしようかなと思っ」
「嘘だよ!そんなの嘘!」
春之助の言葉を食い気味に否定する有原さん。
「だって、桜井くん言ってたじゃん!
"高校に進学したら、絶対に甲子園の舞台に立ちたいです!"って…
あれは嘘だったの?」
確かに言った。
春之助は去年、三年連続での全国優勝を決めた時のインタビューで
"高校生になったら、甲子園を目指して頑張ります!
目標は甲子園の舞台でマスクを被り、優勝をすることです!"
そう答えた
(参ったな……。これはもう言い逃れできないや)
「確かに言ったね。あれは嘘じゃなくて本心だった。
実際、あの時俺は甲子園を目指してた。
そして進学先を決める時には、たくさんの高校から勧誘の話を受けたよ。
青森の八戸清光や福島の光成、大阪桐皇や近場で言えば群馬の健大藤崎、それから後橋育英からもね。
とにかく、全国の名だたる強豪校から勧誘の話が来ていた」
「じゃあ、どうして……?」
「怪我だよ」
そう言うと、春之助はシャツを脱ぎ、ほぼ上裸になって有原さんに背中を見せた
「これって……」
春之助の右肩には、痛々しいほどに大きな傷跡があった
「事故に巻き込まれて、右肩を骨折したんだ。
それで手術を受け、日常生活に支障は無いレベルまでには回復したんだけど、お医者さんに言われたよ"この肩ではボールを投げることも出来ないだろう。野球は諦めなさい"ってね」
俯いて黙ってしまった有原さんに春之助は話を続ける
「それから、怪我のことを校長が各高校に伝えて推薦は取り消し。
"どうにか野球をさせてほしい!リハビリをして復帰できるようにする!"って必死に話を貰っていた高校に頼み込んだけど、"怪我人は要らない"ってどの高校にも追い返されたんだ。
悔しくて、毎日リハビリを必死にやったけど、野球が出来るレベルには回復するのは不可能だった。
そこで僕の野球人生は終わったんだ。
野球がもう出来ないなら、いっそのこと"僕が野球をやっていたことを知ってる人がいない高校に行けばいいんだ"そう思って、花宮に進学した。
笑える話だよね」
「そんな………。私……なんてことを……
……ごめんなさい!!」
「有原さんが謝ることじゃないよ」
「ホントにごめんなさい!!」
そう言って有原さんは屋上から出ていってしまった…
「行っちゃった……。
それより……盗み聞きは良くないと思うけど?」
実は春之助と有原さんが屋上で会話をする少し前から、春之助は"ある"気配に気づいていた。
「ごめんなさい。そんなつもりは無かったの」
「おはよう、鈴木さん」
その気配の正体は、鈴木和香だった
「おはよう、桜井くん」
「なんでここにいるの?」
「学校に着いて、教室に入ろうとしたら、有原さんに連れられて教室を出ていくあなたを見たの。それで興味があったからつい……」
「なるほどねぇ」
「それより、あなたが野球を辞めた理由……
怪我だったのね」
「やっぱり聞かれてたかぁ」
「なんで"燃え尽きた"なんて嘘をついたの?」
「このことはあまり話したく無かったんだ。ホントは有原さんにも話すつもりは無かったよ?でも、彼女は僕の中学の時のことに詳しすぎて、誤魔化せなかったんだ…」
有原さんも鈴木さんの時のように誤魔化そうと思っていた。
でも、さすがに中学のインタビューのことまで覚えていたとなると誤魔化す方法は無い
「こんなの……、こんなの!
私がバカみたいじゃない!勝手に早とちりをして…それに!
憧れだった桜井くんに"失望した"なんて言ってしまった」
「鈴木さんは悪くないよ」
「いいえ、謝らせてほしいの!
わたしはあなたの努力を、復帰するために必死でリハビリをしたその思いを…否定してしまったんだから…
謝って済むことじゃないのは分かってる、でも、謝らせて!
謝らないと私の気が済まないから……!」
春之助に謝罪をする鈴木さんの目には涙が浮かんでいる
「顔を上げてよ。鈴木さん。
君の謝罪は受け取ったよ。
僕の方こそ、嘘をついてごめんね。
それに、このことはもう気にしてないからさ、鈴木さんも気にしないでよ」
「でも……」
「でもじゃない。鈴木さんと、これからクラスメイトや友達として、それから"ご近所さん"として仲良くしていきたいな。
だから、このことは気にしないでほしい。
…ダメかな?」
春之助の言葉を聞いた鈴木さんは、涙を拭い、言う
「……………こちらこそ…よろしくね…!」
この瞬間、花宮高校に来て初めての友達が春之助にも出来たのであった
2話でした!
鈴木和香ちゃん、いいですよね!
お気に入りの子です!!
評価・感想お待ちしてます!
では、また次話で……