センバツ高校野球の幕開け、球春祭のイベントなどのおかげで筆の調子がなかなか好調です!
野球好きにとってはたまらないこの季節、夏の第100回大会まで楽しみが尽きませんね!
この、"野球の旬"にあやかって、僕もどんどん投稿していくつもりです!
それでは9話です。どうぞ
「さあ、来いよピッチャー」
春之助がバットを東雲の方へ向け、挑発する──右のバッターボックスから。
「バカにしているの? あなたは左打ちでしょう?」
東雲の言う通り、春之助は本来は左打ちのバッターだ。
「俺はこれでも真剣だよ。 まぁ、少し東雲さんにハンデをあげるってことさ」
「ふん! そんなことして、負けても文句は言わないでね」
「もちろんさ。それより、早く投げてよ」
まだ一球も投げていないのに、既に2人の間にはバチバチと火花が散っている。
「桜井くん、大丈夫でしょうか………」
「夕姫ちゃん、春之助なら絶対大丈夫だよ! だって、一緒に甲子園に行くって約束したから!」
心配する夕姫を翼が励ます。
(逆打席なんて舐められたものね。いいわ、勝って彼を絶対にうちのチームに入れてみせる!)
第1球を、東雲が腕を上げて振りかぶる。
(バッターボックスの少し外側に立っているわね。それなら、アウトローにスライダーね。さすがの桜井くんでも、初球からは対応できないはず)
カキンッ!
打球はライト方向へ切れていく。
(っ!? 片手であそこまで!? )
なんと、春之助はバットに当たる瞬間は片手─つまり、左手1本でバットをスイングしていたのだ。
(完全にストレートのタイミングで待ってたように見えたのだけれど………。しかも捉えられていたなんて…)
少し動揺をみせる東雲だが、すぐに立て直す
(まぁいいわ。でも、あのコースならファールにしかならないわよ桜井くん。 さっきと同じコースに今度はストレートを!)
第2球を東雲が投げる。
カキンッ!
ライト線へ大きな当たりが飛ぶ。
(切れて!)
ギリギリのところで、打球はファールゾーンへと切れた。
「ファールだな」
ホッとした東雲だが、そこで違和感に気づく。
(ストレートまで片手で打つの? おかしいわね。
そういえば彼の右手にはイマイチ、力が入っていないように見えるわ)
1球目に続き、2球目も片手で捌かれたことを不思議に思う東雲。
(まさか、ほんとに怪我が治っていないの? そんなはず無いわよ)
2ストライクと追い込まれたにも関わらず、余裕の表情の春之助に東雲は怒りを覚える。
(勝負中のあのポーカーフェイス…。現役の頃と同じね)
改めて、"桜井春之助"と対決していることを感じ、東雲は冷や汗が止まらない。
「彼女、気づいてないのかしら?」
「どういうことにゃ? すずわかは何か気づいたのかにゃ?」
「おそらく……ではあるけど、私には分かった。 彼女は次、内角に投げるわよ」
和香の憶測に、中野は首を傾げる。
(桜井くんは、さっきの2球とは立ち位置を少し内側へ変えてきた…。おそらく外勝負だと思っているはず。それなら……!!
内角のストレートで詰まらせて終わりよ!
これなら、片手では捌けない!!)
「ほ、ほんとに内角に投げてきたにゃ!」
カキーンッ!
快音と共に、打球は左中間方向のひまわり畑へと消えていった…。
つまり、ホームランだ。
「うそ……完璧に捉えられた………」
打たれたショックで、立ち尽くす東雲。
「すずわか、どうして内角だって分かったのにゃ?」
「それは、東雲さんがそこへ投げるように彼が誘導していたからよ」
「どういうことにゃ?」
さっぱりわからないといった表情で和香に説明を求める中野。
「まず、逆打席に入り、バッターボックスの少し外側へ立ったことで、彼女は当然、そこからは打ちづらいアウトコースへ投げる。
おそらくストレート待ちしていたんでしょうけど、彼は変化球にも強いの。だからあの球をライト方向へ捌いた。
2球目も同じ位置に立つことで、彼女に外角を投げやすいようにする。
カウントを2ストライクにしたい彼女は、アウトコース低めのストレートなら、春之助の立ち位置からなら打ってもファールにしかできないと考えて、ギリギリのコースにストレートを投げた。
当然、狙い通りに球がきたから彼は捌いた」
「ふむ…。それなら、どうして2球目で勝負を決めなかったにゃ?」
「それはおそらく、彼のこだわりじゃないかしら。
彼は、ああ見えてなかなか性格が悪いの。
ピッチャー有利の状態で、さっきみたいなホームランを打つことを元から狙ってたんじゃないかしら」
「お、恐るべし桜井春之助……。
あ、すずわか、3球目の解説もお願いするにゃ」
「分かったわ。 3球目だけれど、2球目までとは違って、彼はバッターボックスの少し内側へと立ち位置を変えたの」
「どうしてにゃ?」
「そうすれば、彼女がインコースへ投げてくるからよ」
未だに頭の上にハテナマークを浮かべる中野に、和香は説明を続ける。
「1.2球目はどちらもアウトコース、3球目になって立ち位置を内側へ変えてきた。その時点で彼女からすると、バッターはアウトコースの球を狙っていると思うはず。 それに加えて、彼は変化球もストレートも片手で捌いた。 本来とは逆の右打席に立つこと、片手でボールを捌くこと、この2つから彼女は"桜井春之助は、ホントに怪我が治っていないかも"と少しでも思うはず」
「たしかに、そうされたら私でも思うにゃ。明らかに右腕を使わないようにしてるからにゃ」
「えぇ。アウトコース狙いの打者に対してインコースに投げると、詰まって平凡な当たりになることが野球ではよくあるの。それに、バットの遠心力があまり効かないインコースを普通は、片手では打てない。 そう考えると、自然と投げるコースはインコースになり、球種は詰まらせるためのストレートになる」
「狙い通りの桜井は、それをホームランにした……。なんて恐ろしい男だにゃ…。東雲は投げる前から、春之助の思い通りに動かされてたってわけだにゃ?」
「えぇ、おそらくね。 彼が"傀儡師"と呼ばれた理由は、キャッチャーとして操るからだけではなく、バッターとして打席に立った時に相手投手を誘導し、狙ったコースに投げさせるように操るからでもあるの」
一通りの説明を和香が終え、中野は理解できた様子だ。
「さて、負けた東雲さん。しっかり約束は果たしてね」
「わ、分かってるわよ…」
そう言って、東雲は野球部のみんなの元へと近づいていく。
「あなたたちのことを"お遊び"と言ったのは取り消すわ…。ごめんなさい」
言葉と共に頭を下げる東雲。
「東雲さんは、今日からうちの野球部に入ることになったんだ。みんなよろしくね。 さぁ、練習を始めようか!」
春之助の掛け声に翼も続く。
「よし、さっそく練習始めるよー!」
『おー!!』
☆☆☆
東雲が野球部に入部してから少し日が経った今日、野球部に新入部員がまた1人増えようとしていた。
「は、
「よろしく、初瀬さん! よーし、みんな今日も頑張ろうね!」
『おー!!』
その一方、野球部のあずかり知らぬところでは不穏な動きも……
「──以上で報告は終わりです。 続いては……女子野球部の件ですね。
この件については、もう少し調査をしてから判断したいと思います。よろしくお願いしますよ、九十九さん」
「はい、分かりました」
この先、野球部は更なる苦労を強いられるようになるなんて、まだ誰も知らない………
9話でした!
少しでも、春之助の凄さというか"傀儡師感"みたいなものが伝わったでしょうか……。
伝わっていたら作者としては嬉しいです!
やっと書けた野球描写……。
でも、野球描写を書くのは初めてなので、至らない点もあると思います。その時はご指摘をお願いします!
☆☆☆
新たに高評価頂きました!
☆9 さか☆ゆうさん
ありがとうございます!!