冥界とか地獄とかについての解釈は、はむすた氏がざくざくアクターズの前に制作したフリーゲーム「らんだむダンジョン」のアイテム図鑑が基になってます。
~冥界~
四万八千里もの広大な大地を有する冥界。その殆どは草木も生えない死の世界が広がるばかりであり、現世で死後、冥界に堕とされた者はみな、その景色を見て己の死を悟るという。
そんな冥界に新たに堕ちてきた男が一人。
(ここは・・・)
うすぼんやりしながらも意識を取り戻した男は周囲の状況を確認した。何も見えない程暗いのかよく分からない。
なんとなく何もない場所なのは判ったが、如何せん意識がはっきりしない。男は自分の意識を確かめる為、頬をつねようと自信の顔へ手を伸ばす。しかしつねることが出来ない。ならばと起き上がろうとするが起き上がれない。
どういうことだ?と漠然とした疑問を抱きながら誰か人がいないかと声を上げる。しかし声が出ない。 手も足も動かない。声も出ない。先程は暗闇だと思ったがおそらく目も見えていないのだろう。
色々と試してみるが、それが無駄であると理解すると、今度は自分の記憶の糸を手繰り始める。こんな状況に冷静でいられたのは男が生前に相当の修羅場を潜ってきたからか、はたまた自らが死んでいることを遠回しに理解したからか。
そして男は思い出す。自身の人生を。ただ宿敵を倒すために起こした戦争。ただ宿敵を倒すために装着したバイオ鎧、それでも勝てずに鎧に取り込まれた最期。思い出してみれば成る程、自分の体は動かないのではない。バイオ鎧に取り込まれて体の殆どが失われたのだ。
男は記憶の断片を取り戻しながら同時に一つの強い感情を思い出した。それは絶望という悪感情。天才との力の差への絶望。手駒を集め、自身の全てを擲ってなお届かない壁への絶望。世界に絶望を振り撒いた男は絶望のうちに滅ぼされた。
なまじ動くことの叶わない男の思考は深い深い絶望の悪感情に塗り潰される。
どれ程の時間が経っただろうか。人間は完全な暗闇では数時間で気が狂い始めるらしいが、男ももはや思考すら放棄しかけた頃、ふと気配を感じた。
「ヒュー、ヒューッ、なんだかとてもおいしそうな匂いがするから来てみたら、人間の魂が落ちてたよ。」
耳もないはずだがその声は聞こえた。
(何者だ・・・?)
口もないはずだが問いかけた。
「ヒュー、ヒューッ、ぼく?ぼくはね悪魔だよ。なまえは・・・忘れちゃった。」
(ここは・・・どこだ?)
「ヒュー、ヒューッ、ここは冥界だね。僕は本当は地獄の悪魔なんだけど、最近おいしいごはんを作ってくれていた人間がこわれちゃって困っていたんだ。そんなときにおいしそうな匂いがしてきたから来てみたんだ。ぼくはキミみたいな絶望の感情がだいすきなんだよ。」
(俺を食らうのか?)
「ヒュー、ヒューッ、 食べないよ。僕らが食べるのは人間の悪感情だけだからね。君からは凄くおいしい絶望の感情を感じるよ。」
(そうか・・・)
男は一瞬安堵したものの、体を失って身動き一つできない現状なぞ、いっそ喰われてしまったほうが良かったのでは、と思い直す。
「いいよ。その感情凄くおいしいよ。もっと絶望の感情を食べさせてよ。」
(ちっ・・・)
男の精神が闇に堕ちれば堕ちるほど喜ぶ様は正に悪魔といったところか。
生前ならば、この気に食わない悪魔に一発くれてやるところであるが、あまりに絶望的な状況に反抗する気すら起きない。
(ん?待てよ?悪魔だと?そういえば召喚士協会で読んだ禁書に・・・)
男が思い出したのはかつて自身が所属していた召喚士協会で禁書とされていた悪魔召喚について書かれた書物。
過去の戦争の引き金となった召喚技術に大きな制約をつけている世界である。ましてや世界の理を崩壊させかねない悪魔召喚に関する書物(通称:黒の聖書『Bible black』)は召喚士協会の禁書庫で厳重に保管されていた。男は自身が協会から追い出される前に金と家の権力でその書物を読む機会を得ていた。
思い出せ・・・。男は過去の記憶に意識を集める。あの天才の様に一度読んだ書物の一言一句を記憶できるわけではないが、およその内容は思い出せるはずだ・・・。
たしか・・・、悪魔はその能力に応じて格がある。低級から上級、さらにその上に立つ悪魔貴族、そして地獄王や冥王。低級悪魔は人語を理解せず人を喰らう為、こいつは少なくとも上級以上の悪魔のハズだ。
そして、悪魔は人の願いを叶える存在だ。相応の代償と引き換えに。ならば・・・
男はこの状況を脱する為、この推定上級以上悪魔を利用することを考えた。
「ヒュー、ヒューッ、どうしたの?なんだか絶望の感情が弱まってきたよ。もっと僕に君の絶望を食べさせてよ。」
(・・・なぁ悪魔、もっともっと大量の絶望を喰いたくはないか?)
「うん。食べたいよ。だからもっと絶望しておくれよ。」
(悪魔よ、俺と契約しろ。こんなちっぽけな人間なんか比べ物にならない位の絶望を喰わせてやる)
「ヒュー、ヒューッ、本当かい!?いいよ、契約しよう!君の望みはなんだい?」
(今の俺には体がない。お前の体を貸せ。それで世界を絶望に染め上げてやる。)
「世界を!?それはスゴいね!想像しただけで酔っぱらってしまいそうだよ!じゃあ契約するから僕と君の名前を交換しよう。」
(俺の名は、マクスウェルだ。)
と、自分の名を名乗ったところで先程の会話を思い出す。
(ん?お前さっき自分の名前を忘れたって・・・)
「ヒュー、ヒューッ!マクスウェル!君はマクスウェルって言うんだ!思い出したよ!僕もマクスウェルって言うんだ!」
悪魔マクスウェルと、咎人マクスウェル。
頭を持たないマクスウェルと、体を持たないマクスウェル。
絶望を求めるマクスウェルと絶望を与えるマクスウェル。
まるでお互いがお互いの失くしたパズルのピースを埋め合わせるかのような二人。
斯くして、二人の「マクスウェル」は契約を交わした。
~地獄とか冥界とか~
人間の魂は死後、閻魔大王によって審判を受け、善性が高い者から順に天界・天国・極楽・蓮獄、地獄・冥界に振り分けられる(ってことにしといてください)。
天界は神様や神レベルの人が、天国極楽はそこそこの善人がいくとこ。
蓮獄と地獄は更正余地のある罪人の魂に色んな罰を与えて叩き直すとこ。蓮獄のほうが軽いらしい。
冥界はどうしようもない悪人が堕ちるとこで、いわゆる魂の最終処分場。
元々は冥界が全ての役割を担っていて、罪人は皆冥界に堕ちてたんだけど、冥王に力が集中することを恐れた古い神々によって地獄が新設された。
一時期は冥界と地獄で死者の魂の奪い合いをしたりして、戦争も起きていたが、役割分担がはっきりしてからは争いはない。
ちなみに罰を与える為の設備が不要になった冥界では、拷問部屋を貸物件として売り出しており、希望する悪魔へ割安で貸し出してるらしい。マクスウェルはそういう部屋の一つを借りてアルダープをいたぶっていたという設定。