このすばの魔王の娘っていまだに設定がロクに公表されてないんですよね。あんまり原作の設定を手前でいじくるのは好きではないのですが・・・、今回のSSのストーリー上、わりと重要な位置になるキャラなのでらんダンの方と繋げてそれっぽい設定を用意。あと、男王と女王では王位継承後の名前が変わるってことにしといてください。
もし、今後原作で色々明かされた後にこのSS読むことになった方には多大なる違和感があるかと思いますが、ご容赦ください。
~アクセルの街 入口~
「な、何奴!?」
アクセルの街入口で門番への聞き込みをしていた3人(と一匹)へ声をかけてきたのは、噂に違わぬ焔のごとき美女。ドリントルは他者を圧倒するその佇まいに驚きの色を隠せずにその素性を問う。
「知りたい?でも、教えてあげる義理はないわねぇ。」クス
その様子を嘲笑うかのように女は片手を頬に添え妖艶に微笑む。
「この感じ・・・、あなた魔族、ですわね?」
「あら~、あなた勘がいいわね?そういうあなたの正体も教えて頂けないかしら?」
フクちゃんがその気配から正体に気付くが、彼女もまたフクちゃんの正体に感付いているようだ。
「フクちゃん、魔族って?」
神やら悪魔やら妖精にタコ足娘など、あらゆる種族がごった返すハグレ王国にしても魔族と呼ばれる種族はいない。デーリッチがフクちゃんに相手の素性を聞く。
「魔族とは、遥かな昔に人の身でありながら悪魔の眷族になった者たちの末裔。魔の力を得て神々とその眷族である勇者と敵対する種族です。そして、時代ごとに現れる魔族の王を、私達神々は、魔王、と呼んでいます。」
「魔王・・・。」
魔王ヤサカキョウイチ。彼がサトウカズマパーティーによって討伐されたことはこの世界の人々の記憶に新しい。異邦人であるハグレ王国民の彼女達も昨夜カズマとローズマリーの間で交わされた衝撃の事実に皆驚きを隠せなかった。
「この世界の魔王は数か月前にカズマさんのパーティーによって倒されたと聞きます。しかし、彼女から発せられる魔力の奔流は正しく魔王と呼ばれる者のそれ。だとすれば彼女は、行方不明とされていた・・・。」
「正解よ。さて、自己紹介は必要なさそうだし・・・、いくわよ?・・・インフェルノ!」ゴオオォ!
魔族の彼女は、フクちゃんが出した解答に褒美と言わんばかりに猛烈な高位火焔魔法で返す。
「アイス!っつう・・・!」ピシィ!ジュワー!
相対するフクちゃんも同時に強烈な氷魔法でそれを相殺するも、抑えきれずにダメージを喰らう。
「ヒール!」
「ひつじショット!」パン!パン!パン!
すかさずデーリッチの回復魔法が入り、ドリントルは牽制射撃で間合いを取る。
「「フクちゃん!」」
「くぅ、二人とも、ちょっとマズい状況です・・・。彼女、かなり強い。私達だけでは勝てないかもしれません・・・。なんとか撤退するか、他の皆と合流することを考えましょう。」
「な!?」
相対したフクちゃんから知らされる事実。受け止めた魔法力は紛れもない魔王級。壁役がいない中、この火力を受けきることはできないと判断した。
「あら、連携は中々ね。でも・・・、カースドライトニング!」バシュッ!
「わわわ!」ササッザァー!
今度は痛烈な雷魔法が鋭い矢となりデーリッチ達を襲う。なんとか横っ飛びで避けるもその攻撃は止まらない。
「カースドライトニング!カースドライトニング!カースドライトニング!」バシュッバシュッバシュッ!
「わきゃっ!」
「ぐっ!」
連続で射出された雷の矢が高速で突き刺さる。初撃で体制を崩されたドリントルとフクちゃんに直撃する。
「つぅ、ヒール!」
「ヒール!」
デーリッチがドリントルへ、フクちゃんは自身でヒールをかけダメージを回復して体制を立て直すが、状況の不利は変わらない。何よりも、いかに戦闘経験豊富なデーリッチ達といえども、相手の真意が分からない中で全力で殺し合いができるほどには無法者ではない。
一応、言葉は通じる相手である。せめて敵の狙いだけでも聞き出せないか、会話を試みる。
「な、なんでこんなことするんでちか!?」
「あら、なんで?とはご挨拶ね?探していたのでしょう?この私を!インフェルノ!」
「わ、わ!?じゃ、じゃあキミが誘拐犯なんでちか!?」
放たれた火焔魔法をなんとか避けながらデーリッチは聞き返す。
「ええ、そうよ察しが悪いわね!知力が足りてないんじゃないかしら!?」
「今は知力の話は関係ないでち!んんん~・・・デーリッチ覇王拳!」ボッ!
「フフ、ドコを狙っているのかしら?」ヒョイ
竜の赤子や犬相手にオセロをして敗北してしまうハグレの王様は、顔を真っ赤にして挑発にのせられてしまう。
コタツドラゴン直伝の虎の巻、デーリッチ覇王拳を放つも簡単にかわされてしまう。
「落ち着けデーリッチ!ヤツの思うツボじゃ!」
「アナタ、デーリッチちゃんに用があると言っていたわね?一体何が目的なの!?」
「そんなことわざわざ教えるわけがないでしょう?さて、そろそろ終わりにしましょうか?」ゴォォ!
「ま、マズい・・・、大技がくるぞ!」
女はローブの中から1本の棒を取り出す。否、それは棒ではなく、儀式槍。女の身に纏う魔力が更に勢いを増し、手に持った槍へ流れ込んでいく。
ドリントルが警戒を促す。が、打つ手がなく身構えることしかできない。
「焼き付くしてあげるわ!魔王の焔、メギドフレイム!」ゴオオオオオ!!ドォォォオン!!
空間を歪ませながら現れたのは直径10メートルはあろうかという巨大な火球。3人(と一匹)の頭上に現れたそれは直後、落下しながら大爆発を起こす。
「横に跳べぇ!」
「「「きゃあぁぁっ」」」
ドリントルの合図ですんでのところで回避を試みたことが効を奏し、威力を軽減したものの、それでも甚大なダメージを受け、3人とも瀕死に陥る。
「ゼェ・・・ゼェ・・・、なんとか、皆と合流しないと・・・あ!そうでち!」ガサゴソ
何とか仲間に危機を伝える方法がないかと、カバンをまさぐるデーリッチ。そして、それはあった。カズマと一緒に王都へ行ったときに、王城に爆発物は持ち込めないからと預かった魔道具が。見慣れた豚の顔をあしらったマスコットキーホルダー、セレブーブーまあくⅡが。
「この紐を、思いきり、引っ張る・・・!」プツン
デーリッチは借り物を無断で使ってしまうことを心の中でカズマに謝りながら、それを起動する。
『ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!』
とてつもなく巨大な音量でアクセル中に豚の鳴き声が響き渡る。特殊な魔法がかかったその音は、例え耳を塞いだところで遮断する術はない。
「な、なん『ブヒー!』なのよ!この『ブヒー!』音!煩い『ブヒー!』ったら!もう!『ブヒー!』止めな『ブヒー!』さい!止めろぉ!『ブヒー!』」
これまで余裕の笑みを絶やさなかった魔族の女に始めて感情の色が灯る。耳を塞いでも防げない。大声で喚き散らすがその声も豚の鳴き声に阻まれて届かない。
「ええい!『ブヒー!』その『ブヒー!』キーホルダー『ブヒー!』ね!寄越『ブヒー!』しなさい『ブヒー!』!」
女は鳴き声の元凶であろう豚のキーホルダーをデーリッチから奪い取る。
奪い取ったところでその魔道具を見てふと、女は違和感を覚える。ブヒブヒ言ってる鳴き声からしてこれは豚をあしらったキーホルダーには間違いないだろう。しかしこのキーホルダーには豚の象徴とも言える鼻の部分が無かった(、、、、、、、、、)のである。
「この『ブヒー!』音を解除『ブヒー!』するには『ブヒール!』、『ブヒー!』ええい、『ブヒール!』破壊して『ブヒール!』しまった『ブヒー!』方が早『ブヒー!』いか!」
あまり深く考える余裕がなかった女はキーホルダーに鼻がないことを気にするよりも、音を止めることを優先しセレブーブーを破壊しようと試みる。そして、一瞬彼女達への注意を逸らしてしまった。
そのスキを見逃さなかった3人は突如立ち上がり、魔族の女から素早く距離を取る。瀕死だったハズの相手が急に起き上がったことに一瞬は驚くが、既に圧倒している相手である。慌てず、目下の懸念である豚の魔道具の破壊を優先する。そして、それは致命的なミスだった。
距離を取ったデーリッチは、豚の鼻の部分と思しき物体を左手のひらに乗せ、右手で鼻の先っぽを押し込んでいる。
そしてデーリッチの口許が動く。
『ブヒー!』『パルス!!』『ブヒー!』
豚の鳴き声にかき消され、その声は人の耳には聞き取れなかったが、その破滅の呪文は確かに魔道具へと届いた。
「んっ!?」ブブブブッ
女は手に持っていた豚のキーホルダーが突然震えだしたことで芽生えた危機感に、それを投げ捨てようとするが、それは叶わなかった。
ズッドオォォォオン!
「くっ、ぎぃああああ!」
めぐみんの爆裂魔法にも匹敵する程の威力を伴った大爆発をもろに喰らった女は、上空に打ち上げられ、そのまま自由落下して地面に打ちつけられる。
「「やった!?」」
ドリントルが爆発の威力を見てガッツポーズをする。あの大爆発をまともに喰らって無事で済むわけがない。
「しかし、デーリッチちゃん。あの一瞬でよくもまぁ、こんな作戦を思い付きましたわね。花丸ですわ!」
「いや~、照れるでち~。まぁ?ハグレ王国の王様が?知力が低いとか言われて?黙ってられなかったというか?」
普段、頭脳戦で褒められることが極端に少ない王様はここぞとばかりに鼻高々に調子に乗る。
が、仮にも敵は神々と対立する魔族の末裔。戦いはまだ、終わっていない。
「ゴホッ・・・、ちょ、調子に乗るんじゃあないわよ!カースドライトニング!」バシュッ
深紅のローブを血に濡らし赤黒く染めた女は更なる魔法を放つ。が、蓄積されたダメージのせいか、狙いが定まらない。
「ちょ、ちょっと待つでち!そんな体で無茶したら命に関わるでちよ!さっきの音を聞いて、直に他の仲間も駆け付けてくるでち!ここはもう大人しく退くでちよ!」
「煩い!あんな手に引っ掛かった自分が愚かだったわ!もう遊びはナシよ!カースドライトニング!カースドライトニング!」
「わわっ!」スカッ
「ほっ!」スカッ
デーリッチが必死に撤退を促すが彼女は聞く耳を持たず、体力とは裏腹にまだ余裕のある魔法力にモノをいわせてごり押しをしてくる。
しかし、精細さを欠いた魔法を大人しく喰らう程、ハグレ王国の戦いは温くない。
「もう諦めなさい!これで引き下がるならばこれ以上の攻撃も詮索も致しません!だから!」
「ええい!黙りなさい!ならば切り札を出すまで!」
「切り札、ですって!」
女が切り札と言いながら取り出したそれは、ただの石ころ。どう見てもただの石ころだった。
女はその石ころを高々と掲げて叫ぶ!
「喰らえっ!クリムゾンストライクメビウスアンフィニティボール!」
「「「技名ながっ!」」」
その技名の長さに思わずツッコミを入れてしまうのもこの技の恐ろしさである。掲げた石ころから打ち出された3つの火球は正確にコントロールされ3人それぞれに向かっていく。
「ぐふっ!」ドテッ
「がっ!」ドサッ
「がはっ!」バタッ
一撃。大勢を決したかに見えた状況は一瞬で逆転した。3人同時に戦闘不能に追いやられ、デーリッチ達の敗北が決定した。
「ハァッ・・・ハァッ・・・、まさかここまで手こずらさせれるなんてね・・・。」
自身を絶対強者と疑わず、今回の相手も子細なしと踏んでの戦いだった。思わぬ苦戦にこの者達が今後の計画を揺るがす可能性がよぎる。
「今回はこの子の確保が目的だったけど・・・、他の奴らには死んで貰っといた方が良さそうね。」
デーリッチを脇に抱えながら、先程焔の魔法を打ち出した槍をフクちゃんの胸に突き立てようと構える。
「そうはさせねぇ!サンダー!」バシュン
「くっ!」サッ
横から放たれた雷魔法を、構えを解いてかわし、距離を取る。
「セレブーブーの音に何事かと駆け付けてみれば・・・、オマエ!相棒をどうしようってんだ!」
シュンライステップで速度を上げ、いち早く駆けつけたのはイカヅチ妖精ヅッチー。見るからに親友の危機に怒りを顕にする。
「こんなに早く援軍がくるとは・・・。仕方ないわ、ここは退散しましょう。この子は貰っていくわね。」
「おい!何なんだよ!?オマエは!」
「そうねぇ。名前くらいは名乗っておきましょうか。私の名前は魔王ヤサカ、ヤサカセリネよ。じゃあね。・・・テレポート!」シュン
転送魔法が発動してヤサカセリネを名乗る女はその場から消え去った。デーリッチを連れて・・・。
「待てよ!デーリッチ!デーリッチィィイ!」
残されたヅッチーの親友を呼ぶ叫びが草原に虚しく轟いた。
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~???~
「アメィジング!今代の魔王は中々やるじゃないか。」
「どうやら最初の魔王の槍、這う者メギドは既に継承されていたようでございますな。そして、あの石ころ・・・。」
「石Lv.99か、勇者と先代魔王が相討ちになったことによる産物だろうな。よくもまぁあの崩壊したダンジョンから掘り出せたものだ。」
先の戦いを見通していた観測者達。どこか楽しむ様子でその結果を分析していた。
「さて、ワタシ達も忙しくなるぞバニル?アー、ユー、レディ?」
「承知致しております。イリス様。」
冥王姫、手繰る魂のイリス。彼女の計画が動き出そうとしていた。
ブヒーの間にブヒールが混じってるのは誤字ではないです。やられたフリをしながら鳴き声を隠れ蓑にヒールで回復していたという描写です。その後に急に起き上がったのはそういうカラクリです。分かりにくかったらすみません。
今回出てきた、セリネ、這う者メギド、最初の魔王、石Lv99、この辺の単語が並んでピンときた方は、らんだむダンジョンのアイテム図鑑マスター。偽天使の剣も妄想が拡がりますね。
今後のお話が容易に想像できてしまうレベルの猛烈なネタバレになりますので、ピンとこなかった方は安易にググったりしないようにしましょう。