この素晴らしいハグレ王国に祝福を!   作:ひまじんホーム

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 はむすたさんのブログでマクスウェル救済ストーリーを考えてるなんて話がありました。もしかしたら、この話のマクスウェルさんは正史から外れてしまう(既に外れてるけど)かもしれませんが、ご容赦ください。
 バトルシーンは書くのも読むのも苦手です。だって痛いの想像するの嫌じゃないですか。


第12話 デーリッチ救出作戦

~時は遡り 原初の森アジト~

 

「暫くこの部屋で大人しくしていなさい。」ポイッドサ

「むぎゅぅ~。」ゴロン

 

 魔王ヤサカセリネとの戦いに敗れた後、彼女に連れ去られたデーリッチ。ここが何処かは分からないが、光が射し込まずひんやりした床の感じから地下ではないかと思われた。

 デーリッチは意識こそ戻ってはいたが、手足を縛られた上、口を塞がれ魔法も使えず、戦いで受けたキズもそのままにボロボロの状態である。

 

(ローズマリー・・・みんな・・・ごめんなさい。デーリッチまた失敗しちゃった・・・。)

 

 心にあるのは親友と仲間たちへの贖罪。敵の目的は解らねど、こうして自分が連れ去られてることを鑑みれば敵は自分を狙って襲撃してきたことは明白である。まして撃退出来る余地があったにも関わらず情けをかけた挙げ句にこうして捕まってしまったのだ。

 

(でも・・・、諦めてなんかやらないでち!必ず助けは来る。デーリッチは、負けない!)

 

 しかし涙は流さない。少女は知っている。必ず仲間達が助けに来てくれることを。ならば自分のやるべきことは諦めないこと。キーオブパンドラさえ取り返せれば転移で脱出出来る。それが無理でも少しでも時間を稼ぐ、少しでも情報を集める。まだ戦えるから。

 今は芋虫の様な状態ではゴロゴロと転がることしかできない。それですら戦いで受けたキズに滲み、激痛をはしらせる。なんとか放られた部屋の状況を確認すると、幾つかの箱が積まれた簡素な倉庫のような部屋。扉には格子が嵌まった窓があるが、当然鍵はかかっているだろう。

 

(なんとか脱出を・・・、でもどうやって・・・?せめて体が動けば・・・。)

 

 デーリッチの基礎能力はその見た目にそぐわずかなり高い。魔法タイプとは言えそこらの冒険者など相手にならないほどで、本来なら紐縄くらいなら力ずくで引きちぎることも出来ただろう。

 だが、自分自身弱っている上、縛っている縄には魔法でもかかっているのか、ちょっとやそっとで解けそうもない。せめて塞がれている口さえ開ければ、回復魔法が使えるのだが・・・。

 と、デーリッチがゴソゴソともがいていると、スカートのポケットが一人でにモゾモゾと動いた。

 

(・・・!?)

 

 その生々しい不快感に冷や汗を足らす。暗くてジメジメした場所である。もしかしたらゴキブリでも服の中に入り込んだのかもしれない。こんなことになるなら食べかけのビスケットなんかポケットに入れとくんじゃなかった。以前チョコをポケットに入れたまま洗濯して他の洗濯物を汚してしまいローズマリーから大目玉を食らったこともある。言い付けを守らなかったデーリッチは悪い子です。ローズマリーごめんなさい。

 と、心の中で母親代わりの親友へ二度目の謝罪をしていたら、ポケットから一匹のネズミが飛び出してきた。

 

(?!)

 

「ふう・・・、息苦しかったっす。」

 

(お前、はむすけ!?)モガモガ

 

「しっ、今拘束を外すから黙ってるっす。」ヒソヒソ

 

 はむすけはデーリッチを拘束していた縄と猿ぐつわをその強靭な前歯で噛み切った。

 

「ヒール。助かったでちよ。ありがとう、はむすけ。でもお前、いつのまにポケットの中にいたんでちか?」

 

 デーリッチは自分の傷を癒しながらはむすけに問いかける。はむすけはいつも自分の頭の上の王冠の中が定位置だったはず。自分の記憶が正しければ、戦闘が始まって気付いたらいなくなっていたが、いつのまにポケットに潜り込んだのだろうか。

 

「あんな激しい戦いの中で頭に乗っていられるわけないだろう?途中で少し離れたとこからスキを窺っていたんだ。で、なかなかチャンスがないな~って思ってたら、デーリッチが連れ去られそうなったから、こっそりポケットに忍び込んで付いてきたのさ。」フフン

 

「いや、お前それ逃げてただけじゃないでちか。まぁ助けられたには違いないでちけど・・・。」

 

 ドヤ顔で武勇伝を語るはむすけに苦言を呈さずにはいられないが、結果的に助けられた身としてはそれ以上の言葉は飲み込んでおく。

 

「この後はどうする?」

 

 キズも回復したデーリッチ。後はここをどうにか脱出しなければならないが、どう動くべきか?

 

「はむすけはこの施設の出口は分かるでちか?デーリッチは意識が朦朧としててあまり覚えてないんでち。」

 

「いや、ボクもポケットに入ってたから外は見えてないっす。」

 

 建物の構造が分からないと脱出の成功率は大きく落ちる。何となく地下だということは分かるが、それは窓という脱出口が存在しない、つまり脱出経路の少なさを意味する。デーリッチが脱出を試みても出口までに発見される危険性はきわめて高い。デーリッチが自由に動けていることから、今度は、はむすけの存在にも気取られてしまうだろう。

「敵がまだはむすけの存在に気付いていないうちに、はむすけはさっさと脱出してしまった方が良さそうでちね。それで皆と合流して応援を呼ぶでち。」

 

「デーリッチ、それは・・・。」

 

 つまり、デーリッチはこの場に残るということ。敵のアジトの真っ只中で助けを待つということ。国王を自称するとはいえ、まだほんの10歳の少女があっさり下した決断。それが正しく合理的なものだとしても、小悪党のはむすけですら、すんなり受け入れるのには躊躇してしまう。そんな提案だった。

 

「なあに、デーリッチのことは心配いらんよ。うまく時間を稼ぐように立ち回るだけでち。」

 

 少女の腹は決まっていた。こんな子供が、この状況で自分の役割を理解していて、覚悟を決めていた。

 はむすけは、いつか悪徳サーカス団からどらごん君を助けて一緒に逃げ出した事を思い出す。ずっと解らなかった。天才である自分があの時何故、見つかる危険を犯してまでどらごん君を救う事を選んだのか。目の前の少女があの時の自分と重なって、その答えがようやく解ったような気がした。

 そしてかつての自分と重なった少女の提案に応えずにはいられなかった。

 

「わかった。ボクは急いで皆を連れてくる。デーリッチは・・・無茶するなよ。」

 

「お?はむすけがそんなこと言うなんて、どういう風の吹き回しでち?」

 

「う、うるさいやい!時間がないんだ、直ぐに行動するぞ!」

 

 真っ赤な顔で照れ隠しをするはむすけにデーリッチがニヤニヤしながら茶化す。

 

「デーリッチが自由になったことが分かると敵の警戒も強くなるハズっす。暫くは大人しく捕まったフリをしていた方がいい。幸い、ケガは治したといえ服はボロボロだし血の痕もそのままだ。グッタリしていれば相手に気付かれることはないだろう。拘束は自分で解ける程度に緩く絞めてカムフラージュしておくから、いざというときは自分で拘束を外すんだ。」

 

「成る程、わかったでち!」

 

 はむすけは落ちていた紐縄でデーリッチを縛ると、扉の鉄格子の隙間から外の様子を窺う。やはり相手も油断しているらしく、特に見張りはいないようだ。

 

(頼んだでちよ!はむすけ!)

 

 デーリッチが心の中ではむすけへエールを送ると、はむすけは振り返り、何も言わずに右手(右前足?)の親指を器用に立てると、ドアの外へ出ていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

~しばらくして原初の森アジト~

 

(はむすけは皆と合流できたでちかね。)

 

 はむすけが出ていってから体感で1時間は経っただろうか。デーリッチは少しでも外の様子を探ろうとドアの近くで外の音に聞き耳を立てていた。2度ドアの前を通過する足音が聞こえたが、この部屋に入ってくることはなかった。

 

(退屈・・・でち。)

 

 囚われの身でそんなことを思えるのは、彼女の器の大きさか、それとも仲間に対する絶対の信頼に依るものかは分からない。しかし、時間が経てば経つ程、自分に有利になるこの状況。既にある程度の時間は稼げたと思われる。少し楽観的になってしまったのだろう。

 

 

コツコツ・・・

 

(!)

 

 3度目の足音。しかし、このヒールを叩く足音には聞き覚えがある。ここに運ばれる時に朦朧とした意識で頭に響いていた足音。そう、魔王ヤサカセリネの足音である。

 それに気付いて、楽観した意識を切り替えたデーリッチは壁際から離れて最初に倒れていた辺りにモゾモゾと移動する。少しでも怪しまれなくするためだ。

 

 

「お嬢ちゃ~ん、起きてるかしら?まさか死んだりしてないわよね~?」ガチャッ

 

「ん~・・・」グッタリ

 

 軽い口調で入ってきた彼女は戦闘で着ていた赤いローブではなく、研究者然とした白衣を羽織っていたいた。その変化に反応することなく、デーリッチは精一杯の瀕死の演技で応える。

 

「よしよし、息はあるようね。これから貴女を研究室の方に移すわ。あなたと同じように連れてきたお友達もいるから楽しみにしてなさい。」

 

「むぐむぐ・・・。」モゾモゾ

 

「ふふっ、そんなナリで抵抗したって無駄なことくらい分かるでしょ?別に命を取るわけじゃないんだから大人しくしてた方が得よ?」

 

「むぐ・・・?」ピタッ

 

「まぁ、死んだ方がマシと思える状況にはなるけどね。」クスッ

 

「むぐぐ・・・!」モゾモゾ

 

 命を取らないと聞いて、一瞬抵抗を緩めたが、それ以上の苦しみを与えるという。瀕死の状態は演技とはいえ、その言葉にデーリッチの背には冷や汗が流れた。

 

 

―――――――――――――――――――

~研究室~

 

「さあ、研究室に着いたわ。これから貴女の体を調べさせてもらうわ。それが終わったら後はバイオ召喚装置のコアとして生かさず殺さず使い続けてあげるわ。」

 

「むぐ(バイオ召喚装置!?)!?」

 

 バイオ召喚装置。人間の持つマナを無理やり吸い取って巨大魔物を召喚する忌まわしき装置。かつて悪の召喚士マクスウェルが発明し帝都決戦で使用されたその装置は、大量の巨大魔物を召喚し、彼女達の世界を大混乱に陥れた。そしてそれは、帝国、ハグレ王国、妖精王国、エルフ王国、さらには傭兵団やかつて帝国と敵対していたサハギンやケモフサ村のハグレ達、大陸に住まう者全員が力を合わせることで撃退された。

 そして首謀者であった太古の森のリーダーマクスウェルは、ハグレ王国との最終決戦で自らが開発したバイオ鎧に取り込まれ、壮絶な最期を遂げたのだった。

 その忌まわしきバイオ召喚装置が何故ここに?偶々同じものがこの世界でも作られた?それともマクスウェルの関係者がこの世界に? 色々考えてみるが、その原因は解らない。ただ一つバイオ召喚装置に取り込まれることは避けなければならない。

 

(頃合いを見て逃げ出さないとマズいでちね。)

 

 デーリッチがふと周りを見ると管の通ったカプセルのような容器があった。多分、あれがバイオ召喚装置だろう。時計塔で見たグロテスクな内蔵器官の様な物ではなく、純粋な機械のような見た目だが、中には警察署で見た似顔絵そっくりな女の人がいた。おそらく彼女が依頼で捜索していたエリーさんだろう。他にも同じ物とおぼしき装置が幾つかあった。エリーさんの他にも連れ去られた人がいるようだ。

 

「ふふっ、あのカプセルが気になる?貴女もこれからあの中に入ってマナを吸いとられるのよ。先に色々調べてから、だけどね。」

 

 白衣を羽織ったヤサカは採血用の注射器を手にしていた。デーリッチはまだ動くべきでは無いと、それに耐えようと目を閉じてた。そして、針がデーリッチの腕に刺さろうとした瞬間、研究室に入る者がいた。

 

「その必要は無くなった。」ガチャッ

 

 入ってきた白衣の男の顔を見てデーリッチの顔は驚愕に染まる。つい先程、思い出していた男の顔がそこにあったからだ。

 

(マクスウェル!?)

 

「あら?所長自ら研究室に来るとは珍しいですね?何か問題でも?」

 

「ソイツが持っていたカギに見覚えがあってな。まさかと思ったが、お前達もこの世界に来ていたとはなぁ!ハグレ王国!」パァンッ!ドサッゴロゴロ

 

 所長と呼ばれたマクスウェルは寝台の脇に立つと、力を込めてデーリッチの頬を張り飛ばした。乾いた音と共にデーリッチは突然の打撃に受身も取れずに床に転がった。

 マクスウェルはデーリッチに噛まされた猿ぐつわを解き、胸ぐらを掴んで声を荒げる。

 

「答えろ。何でテメェらがココにいる?まさか俺を追ってきたってわけじゃあないだろう?」

 

「な・・・んで、マクス・・・ウェルが・・・?」

 

「あぁ?聞いてんのは此方だろうがよ?」ボコッ

「ごふっ!」

 

 今度はデーリッチの腹を殴り付ける。

 

「ハァハァ・・・、この世界に・・・来たのは、ただの偶然、でち。転送、事故で飛ばされたん、でち・・・。」

 

「はぁ?んな偶然があるわけねぇだろ?目的は何だ?吐けオラ。」ガッゴッ!

「ぐっ、がっ!」

 

 今度はデーリッチの顔を殴打する。切れて血が流れる口内から鉄の味がする。まだだ、まだ耐えられる。少しでも時間を稼がないと・・・。

 

「本当・・・でちよ。デーリッチも、驚いてる。」

 

「ちっ。まあいい。だが、都合が良かった。お前が持ち込んだキーオブパンドラ。これがあれば、俺の計画は一足飛びで完遂する。」

 

「計・・・画・・・?」

 

「一度は俺の計画を台無しにした罰だ。お前はシノブの代わりのバイオ召喚装置のコアとして俺の為に精々働くがいい。」

 

 デーリッチの言葉の真偽を探ることを止め、マクスウェルは脇にいるヤサカに、デーリッチをバイオ召喚装置に設置することを命じた。

 状況は一対二。脱出を試みようにも出口も分からない、圧倒的に不利な状況。弱っているように見えるのは、これまでは演技だったがマクスウェルの尋問で演技とは言えない程度にはダメージを受けてしまった。

 もう少し粘るべきか、しかし、バイオ召喚装置に取り込まれれば、ゲームオーバーだ。ならば、ここで行動するしかない。デーリッチは意を決して、身構える。

 

「ライトオブセイバー!」

「「!?」」ズサッ

 

 突如発せられた詠唱に反応し、マクスウェルとヤサカはその場を飛びずさり攻撃をかわした。

「ちっくしょ~ハズしたか。完璧なタイミングだと思ったんだけどなぁ!」

 

「カズマお兄さん!」

 

 潜伏で接近してからの必殺魔法。こんなえげつない攻撃をしてくるようなゲスは数多いる冒険者の中でも一人しかいない。彼はその型破りのゲスさで魔王ヤサカキョウイチを葬った最も新しい伝説。最も新しい勇者、サトウカズマ。その人である。

 

「カズマだと!?まさか勇者サトウカズマか!?」 

 

「何だテメェらは?どうやって入ってきた?」

 

「クッサ!アジト入ってから悪魔臭プンプンしてたけど、コイツが一番クッサいわ!鼻が曲がりそう!」

 

「ああ?誰がクサイだコラ!」

 

 カズマに続いてアクアが顔を出す。率直な発言が丁度良い挑発になったようで、マクスウェルの意識はアクアに向けられた。

 

「マリオンストレート!」ギュン!ドゴォ!

「ごはっ!」

 

 そして、そのスキを突いてマリオンの必殺パンチがマクスウェルに炸裂した。壁に打ち付けられたマクスウェルは直ぐには立ち上がれない程のダメージを追った。

 

「何なのよ貴女たち!?どうやってここに!?見張りの悪魔どもは何をしているの!」

 

「さあな?そのうち物音に気付いて駆けつけるんじゃねえの?」

 

 カズマに注意を向けると今度は横からゆんゆんが飛び出す。

 

「ライトニング!」バシュッ

「カースド、ライトニング!」バシュン

 

 ゆんゆんが威嚇でライトニングを放つとヤサカは反射的に使いなれた上級魔法カースドライトニングで受ける。が、魔王といえど上級魔法には一瞬のタメが必要で、それが致命的なスキとなる。

 

「フルパワータックル!」ドッゴォ!

「ぐふっ!」

 

 その一瞬を見逃さないのがハグレ王国である。側面に回り込んだニワカマッスルの全力のぶちかましが決まりヤサカもスタン状態となる。

 

 

「「マクスウェル様!」」

 

「アイス!」

「ソードダンス!」

 

「ぐわぁ!」

 

 外にいたと思われる手下の悪魔達が駆け付けるが、福ちゃんとミツルグの連携に阻まれる。

 突然顕れては、あっという間に研究室を制圧してしまったカズマ達。

 

「「「助けに来たよ!デーリッチ!」」」

「みんな・・・。」

 

 デーリッチは涙を浮かべて仲間達を迎える。が、戦いはまだ終わっていなかった。

 

「ったくよお、相変わらず目障りな奴等だなぁ!テメェらはよお!」

 

 まるでダメージがなかった(、、、、)かのように立ち上がるマクスウェル。

 

「諦めなさいマクスウェル!この人数を相手に勝ち目はありません!アジトの外にも私達の仲間や騎士団が囲んでいます!逃げ場はありませんよ!」

 

 カズマ邸で無事に仲間たちと合流したはむすけが案内したのは王都の外れにあるとある悪徳貴族の別荘だった。有力な情報を得てクレアは直ぐに騎士団を揃えて突入しようとしたが、ローズマリーがそれを止めた。敵がはむすけの存在に気付いていないなら、此方の突入も敵に気づかれないようにして不意を突くべきだ。という提案に乗り、カズマの潜伏とゆんゆんのライトオブリフレクションの重ねがけにより、隠密性を極限まで高めた潜入作戦は見事に成功したと言えるだろう。

 ここまでは。

 

「あぁん?諦める?何をだ?お前らみたいなザコが何を諦めさせてくれんだ?」ゴォォォ

 

「うぐぅっ!なに・・・これ・・・?」ガクッ

 

 悪魔の気配に誰よりも敏感なアクアがマクスウェルが放つ底知れない邪気に当てられ、嗚咽を漏らす。

 

「あんまりこの力(、、、)を使うと代償(、、)がデカいから控えていたが、悪感情はこれからいくらでも(、、、、、)補充出来るからな。」ゴゴゴゴゴ

 

「何?これは・・・?」ブルッ

 

 今まで様々な禍神や悪魔と対峙してきた福ちゃんですら感じたことのない邪気を受けて知らぬうちに体に震えが走る。

 

「さて、散々俺の計画を邪魔してくれたお前らには最高の絶望〈エサ〉になって貰おうか。」

 

 体は黒い靄に覆われ、背には漆黒の羽根、手には鋭い爪。されど頭部はそのまま。その歪な姿は見る者全てにが嫌悪感を与える。

 

「マクスウェルその姿・・・・、やはり貴方は!」

 

「あん?見りゃわかんだろ?」ザシュゥ!

「がっ、は!」ドサッ

 

「「福ちゃん!」」

 

 マクスウェルが答えると同時に福ちゃんの胸部から鮮血が飛ぶ。不可視の一撃に構えることすら出来なかった福ちゃんはその場に崩れ落ちる。

 

「次はさっき殴ってくれたガキだオラぁ!」ヒュッ!

「なっ!?がっ!」バキィィッ!

 

「マリオンちゃん!?」

 

 今度はマリオンに見えない一撃が突き刺さる。たった一撃でマリオンの生体部品に深刻なダメージを刻み込む。ハグレ王国は自分達の最高戦力が一瞬で沈められたことで一様に動揺が走る。

 しかし、それでも彼らの瞳は絶望に染まることはない。

 

「私とニワカマッスルが前に出る!皆は一度引いて立て直せ!デコイ!」

「漢の仁王立ち!」

「頑張って!ダクネス!マッスル!アーマード!」

「リカバー!」

 

 ダクネスとマッスルが前に出て仲間を庇う体制を取りアクアが防御支援魔法を重ねる。この世界に並ぶ者が無いほどの堅さを誇る最強の二枚盾が完成する。そのスキにデーリッチの全体回復魔法で体制を立て直す。

 

「無駄無駄無駄ぁ!」ドッ!ゴォ!バシュッ!

「くっ・・・なんという攻め!ああ!」バキィィッ!

「ライトニングストライク!」

「ラウンドリップセイバー!」

「ダクネス!ヒール!」

 

 ダクネスが倒れるも、その間にゆんゆんとミルルギによる波状攻撃。

 倒れては仕掛け、仕掛けては倒れ、激しい攻防が続くも状況は変わらず膠着常態となる。

 

「インフェルノ!」

「うおぉぉぉらぁあ!」

 

 その合間にヤサカも復活して上級魔法で攻撃をしてくる。何とかマッスルが耐えるが、マクスウェル側に手数が増えた状況は完全にジリ貧となっていた。

 しかし、マクスウェルは自分が優勢にも関わらず、何故か苛立っていた。

 

(ちっ、ザコの分際でしぶとい。このまま続けていけばそのうち潰れるんだろうが、この状況でこいつらは自分達が負けることを、絶望の悪感情を、微塵も感じていないのが気に入らない。何故だ?何が奴らを動かしている?)

 

 戦闘力では圧倒するものの、押しきれない状況に、マクスウェルは一度冷静に相手の布陣を見直す。そして、ある事に気付く。

 

(奴らが守るように控えるあのガキ、そして勇者サトウカズマ、か。どう見ても、奴らの中でも役立たずにしか見えないが、その存在が奴らの心に希望を生んでいるとしたら・・・。)

 

「そうか、分かった。」ニヤ

 

 マクスウェルは醜く口を歪め、大きなカギを手に取った。

 

「それは、デーリッチのキーオブパンドラ!?何をする気だ!?」

 

「テメェらは殺しても蘇生魔法でポンポン生き返りやがるからなぁ。お前らの希望を消し去る方法を考えたってわけだ。」

 

「何だって!?」

 

「次元の扉よ開け!ゲートオープン!」

 

「「「!?」」」

 

 マクスウェルがキーオブパンドラを高く掲げて叫ぶと、目の前に黒い点が現れ、それは次第に大きくなり直径2メートルを越える大きな穴となった。

 デーリッチはその穴に見覚えがあった。かつてザンブラコ洞窟で巨大タコすら飲み込もうとした、そして時計塔ではあの魔導の巨人と呼ばれたシノブを窮地に追いやった次元の穴。

 そして、その穴は明確にデーリッチを狙って放たれた。

 

「じ、次元の穴が飛んでくる!?」

 

「この体になるとこんなコントロールもできんだよ!そのまま異世界に消えちまえぇ!」

 

「わ、わ、吸い込まれるでち!避けれない!」

 

 次元の穴は周辺を吸い込みながら少しずつデーリッチに近付いていく。デーリッチは何とか机にしがみついて堪えるがそこから動けない。

 

 

「アイス!あれが、あの時の穴と同じ物なら攻撃を当てれば威力が弱まるはず!皆!集中攻撃を!」

 

「ライトニングストライク!」

「ライトオブセイバー!」

「マリオンストレート!」

「フルパワータックル!」

「シャイニングボルト!」

 

 福ちゃんの指示でこの場にいる全員で総攻撃を当てる。

 しかし、次元の穴は止まらない!

 

「な、なんで!?効いてない!?」

 

「あの時は最初にキーオブパンドラで次元の結界を破ったから攻撃が通ったんでち!でもキーオブパンドラが!」

 

「ギャーッハッハ!そのまま吸い込まれちまえ!」

 

「結界?だったら・・・アクアッ!!」

「え?私?」

 

「お前なら結界ぶっ壊せんだろ!早くしろ!」

 

「そ、そうだったわ!行くわよ!セイクリッドォスペr「おっと、そうはさせねぇよ!」ザシュッ!ごふっ!」

 

 結界破壊魔法の途中でマクスウェルの凶爪がアクアの胸を貫く。アクアはその場に崩れ動かなくなる。

 

「おいアクア!?しっかりしろ!おいったら!!」

 

「ごほっ、カズ・・マ、ごめ・・・んね。これ、ダメ、みたい。」

「おい!ダメって何だよ!?アクア!ヒール!ヒール!ちっくしょう俺のヒールじゃ間に合わねぇ!誰か回復魔法使えるのは・・・。」

 

 カズマは仲間を見渡す。回復魔法が使えるデーリッチは次元の穴に引っ張られ、福ちゃんは穴を挟んで部屋の反対側。他に回復魔法が使える仲間はいない。そして皆少なからず穴に引っ張られているせいでこちらに回り込むことは出来そうにない。

 

「ウッソだろ?おい、お前女神なんだろ!?こんなとこで死ぬんじゃねぇよ!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!畜生MPが!」

 

「カズ・・・マ、私・・・より、敵を、あんた勇者、なんだから。」

 

「こんな時だけ勇者なんて呼ぶなよ!てか、喋るな!」

 

「おいおい、感動の場面の最中にわりぃけどよ、お前には存在ごと(、、、、)消えてもらわなきゃなんねぇんだわ。ほらもう1個、ゲートオープン!」

 

「何だと!?」

 

 マクスウェルは更にもう1つ次元の穴を呼び出し今度はそれをカズマに放り投げる。至近距離から放たれたそれは堪える間もなく、あっという間にカズマを暗黒に引き込む。

 

「ちっくしょおぉぉお!うごけねぇぇえ!」

 

「「「カズマ!!」」」

 

「ギャーハッハッハ!そのまま消えちまえ!勇者ぁ!」

 

「ア・ク・・」キュウゥゥゥン

 

 そして、カズマは次元の穴に飲み込まれた。まるで其処には元から誰もいなかった(、、、、、、、、、、)かのように。

 

「さあて、一丁上がりっと。そっちもそろそろ限界じゃねえか?そっちのクソ女神もお陀仏したみたいだなぁ?」ゲラゲラ

 

 デーリッチの方も仲間たちによる次元の穴への攻撃が試みられるが、効果は薄く、尚も次元の穴はデーリッチに向かっていった。

 

(このままじゃ・・・どちらにしろ避ける手はない、でも、せめて・・・。)

 

 デーリッチは何を思ったか、しがみついていた手を離し、その両手をアクアに向けた。

 

「レイズ!」

 

「「「デーリッチ!?」」」

 

「ごほっ!なん、で、デーリッチ・・・!」

 

 デーリッチのレイズでアクアが息を吹き返すが、両手を離してしまったことで今度こそデーリッチは次元の穴に吸い込まれてしまった。

 

「「「デーリッチ!!」」」」

 

「みんな、ごめんなさい・・・!でもデーリッチは大丈夫だから!絶対に戻ってくるから・・・!!だかr・・・」キュウゥゥゥン

 

「ギャーハッハッハ!お二人目ごあんな~い!ってか!」ゲラゲラ

 

「てめえ、よくもデーリッチをぉぉ!」

 

 尚も下卑た笑いで挑発してくるマクスウェルにニワカマッスルが捨て身のタックルを仕掛ける。

 

「おせぇよ。」ヒョイ

 

 が、冷静さを欠いた攻撃はいとも容易くかわされてしまう。

 

「さてと、テメェらの心の拠り所って奴は無くなったわけだが、そろそろ終わらせてやるよ!」

 

(ダメ・・・、このままじゃ全滅する。私に出来ること、これしか・・・でも・・・。)

 

「??・・・!ゆんゆんちゃん!お願い!」

 

 ゆんゆんが何か躊躇する様子に福ちゃんが気付き、その意図を理解して、促す。

 

「福ちゃん・・・はい!」

 

「お?何だ?まだ足掻くのか?そろそろ諦めろや。なあ。」

 

「行きます!テレポート!もう一回!テレポート!」シュシュン!シュシュシュン!

 

「何だと!?」

 

 高等魔法テレポートの連続詠唱。優秀なアークウィザードが揃う紅魔族の中でもこんな芸当が出来るのは何人いるだろうか。本来4人までしか転送できないテレポートで無理矢理それ以上の人数を送る超高等技術だ。普段めぐみんに付き合って長距離のテレポートを毎日のように使用して熟練度を上げまくったゆんゆんだからこそ使えるようになった。

 

「ちぃ、逃げられたか!」

 

「外の騎士団や奴らの残党と合流するつもりでしょう。先に外を掃除しておきますか?」

 

「いや、いい。折角外に集まってくれてるんだ。このまま次の計画を進めて奴らの絶望に染まる面を見てやろう。」

 

「次の計画?それにはまだ生け贄が足りなかったかと思いますが?」

 

「必要がなくなった、と言っただろう。このキーオブパンドラがあればな。」

 

「そのカギにはそれほどまでの力が?」

 

「そういうことだ。さあ、召喚装置を起動させろ!」

 

 マクスウェルの計画は新たなステージへ進む。

 

――――――――――――――――――――

 

~王都の外れ原初の森アジト前~

 

「ローズマリーさん!」

「福ちゃん!?どうしてここに!?作戦は!?」

 

「作戦は・・・失敗しました。マクスウェルは想定を遥かに越える強敵でした。私達はマクスウェル、ヤサカとの戦闘に敗北。そして・・・デーリッチちゃんが・・・。」

 

「デーリッチが!?」

 

「マクスウェルの手によって異世界に飛ばされてしまいました・・・。」

 

「くっ・・・、何てことだ!」

 

「マリー!カズマが!カズマも異世界に飛ばされちゃったの!」

 

「カズマ?誰のこと?」

 

「!?なに言ってるのよマリー!カズマよ!ゲスでいつも女の子にセクハラすることしか考えてないサトウカズマよ!」

 

「アクア達の仲間にまだ私達が知らない人が?」

 

「私もサトウカズマなんて人は知りませんよ?」

 

「めぐみん!?めぐみんまでどうしちゃったの!?ふざけてる場合じゃないのよ!?ねぇったら!」

 

 ローズマリーもめぐみんも、福ちゃんもまるでサトウカズマという人物がそこにいなかったかのような様子にアクアが混乱する。

 しかし、そのことを考える間もなく、事態は更に混沌を極める。

 

「おい!なんだあれは!?空に!」

 

「「「空?」」」

 

 一同が一斉に空を見上げる。其処には何か巨大な物体が浮かんでいた。

 

「何だあれは・・・城!?」

 

「見覚えがある・・・、まさかあれは・・・パンデモニウム!?」

 

 月明かりを背景にうっすら見えるそれは巨大な城。段々と目が慣れてその全容が分かると、更にその城を背にした巨大な人の姿が映し出される。そして、徐々にその人物の像がはっきり見えると、それが先程戦っていた相手、マクスウェルだと分かった。

 空に浮かぶ巨大なマクスウェルのシルエットは口を開き、そして宣言した。

 

『こんばんは、愚かなる王と、それに従う愚民どもよ。我が名はマクスウェル。悪魔公爵マクスウェルだ。』

 

「マクスウェル・・・一体何を?」

 

『愚民どもよ、絶望せよ。我は今ここに、世界征服の完了を宣言する!』

 

 ――そして世界は、絶望に包まれた。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

~とある森~

 

 険しい山道を一人の少女が歩いている。年の頃はわずか12~14程であろうか。背には矢筒、右手に弓、腰には剣を携え、武装はしているが、魔物も発生する危険なこの場所には似つかわしくない人物だ。

 しかし、彼女はそんな道を鼻歌混じりに歩を進め、時折遠目に獣を見つけては矢を放ち、一撃の元にそれを葬る。大好きな〈おねえちゃん〉達に教わった狩りの腕はメキメキと上達し、〈おねえちゃん〉の家の裏山なら一人で入っても大丈夫だとお墨付きを貰えた程だ。

 少女は初めての単独行にウキウキとした気分で道を進んでいた。

 

 

ドサッ

 

 

「ん?何だろう、今の音?雪なんかもう残ってないし。お猿さん〈おねえちゃん〉が木から落ちでもしたのかな?」

 

 本人に聞かれたら怒られそうなルビを冗談混じりにつけながらも、周囲の状況に気を巡らす。単独行ではちょっとした不測の事態が大事に至ることもある。

 発言とは裏腹に、真剣な面持ちで音のした方へ向かう。そして見つけたのは・・・。

 

「女の子?何でこんなところに?って、酷い怪我!急いでべネットおねえちゃんの家に運ぼう!」

 

 気を失っている女の子にヒールで応急措置だけ施し、少女はその子を背に担いで、急いで山を降りていった。

 

 




 話の切れ目としてはこれで1章完て感じでしょうか。どうもこの数話上げても評価とお気に入り数が変動しなくなっててちょいと寂しい。みんな気軽に評価してくれてもいいのよ?
 ちなみに世界征服宣言については、これエルフを狩るモノたちまんまやん、て突っ込んだ方握手。エル狩はファンタジーギャグ漫画としては最高傑作だと思ってますので、どっかで使いたかった。3話辺りで察した方もいるかと思いますが、この後ちょっと胸くそな展開もあるので要注意。
 しかし、マクスウェルさん強すぎですね。どうやって倒すんだろこれ。(まだ考えてない)
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