アナンタさんかっこいいよアナンタさん。レイチェルとかツンデレーデさんの登場を期待してた方はごめんなさい。
~神界 ラヴァーズ宮殿~
「・・・というわけでございまして、不慮の事故で異世界に飛ばされてしまった福の神様と、その圈族の皆さんを元の世界に還す為、ラヴァーズ様の御力をお借りできないかと思い、参上致しました次第でございます。」
エリス様は神座に佇む上位神ラヴァーズ様の前に片膝を立てた姿勢に恭しく頭を垂れ、厳かに謁見に臨んでいた。
「へ~ふ~ん・・・ププッ。」
しかし、エリス様の陳情を聞いていたラヴァーズ様は何故か意地の悪い顔で笑みを漏らしていた。
その様子に気が気でないエリス様は無礼と分かってはいたがおずおずとラヴァーズ様に問いかけてしまう。
「あ、あの・・・私なにか粗相をしてしまったのでしょうか?」
「ん?あ~違うわよ?エリスちゃんのことじゃないのよ。しかし、いや~あの女ギツn・・・もとい抜け目ないフクちゃんがね~。カニカマチャーハンの件で散々バカにしてくれたバチが当たったのね。きっとそうだわ。」
「カニカマチャーハン?」
「おっと、声が漏れてたわね。まぁフクちゃんとは長い付き合いだし恩を売・・・じゃなくて、協力の手は惜しまないわ。」
「は、はあ。ありがとうございます。」
何だか腑に落ちないがラヴァーズ様の協力を得られることになったエリス様は(パット入りの)胸を撫で下ろしていた。
「え~と、じゃあエリスちゃん。これから地上に行くから一緒についてきてもらえるかしら?」
「え?地上・・・ですか?」
神力を行使するならば神界であるこの場所が最も力を発揮しやすいはず。わざわざ神の力が制限されてしまう地上へ向かうことにエリス様の頭には疑問が浮かんだ。
「そ、私の自慢の娘達を紹介してあげるわ!」
「はあ・・・え?娘!?」
神界の重鎮にして絶世の美貌を誇る愛の女神ラヴァーズ様に子供がいるなど聞いたこともない。かつては美の神フレイヤ派と愛の神ラヴァーズ派に神界が二分され、あわやラグナロクが起きかけたという伝説が残っている。もし他の神々に気付かれぬように子供が出来ていた、なんてなれば神界を揺るがす大スキャンダルである。
エリス様はその爆弾発言に思考が停止し、固まってしまった。
「じゃあちょっと行ってくるわね!カンヘル!留守をお願いね!」
「かしこまりました。」
ラヴァーズ様は宮殿の守護者カンヘルに申し付けをすると、驚きの事実に固まっているエリス様の手を引いて宮殿の入口に設置された魔法陣から地上へ旅立っていった。
――――――――――――――――――
~だんじょんむら情報屋~
ここは平和なだんじょんむら。村外れにある巨大なダンジョンの攻略を目当てに冒険者が集まり、その冒険者相手への商売を生業とする村。つい最近そのダンジョンを舞台に、世界の行く末を決める死闘が最強の冒険者パーティと世界の調整者との間で行われたりもしていたが、それを知る者はごくわずかである。
「女の子を拾ったんだって?べねっち?」モグモグ
件の最強の冒険者パーティ、チームべネットのリーダー(?)、アナンタは日課となっている岩砕きトレーニングを終え、お昼ご飯に大好物のカレーライス(四杯目)を頬張っていた。
「犬猫みたいな言い方するな。それに連れてきたのは私じゃない、アイだ。」
チームべネットのリーダー、べねっちことべネットは、いつも通りの不機嫌そうな顔でぶっきらぼうに答える。チームの頭脳でもある聡明な彼女は、これから巻き起こるであろう騒動を予見して溜め息を吐いていた。
「べねっちがここにいるってことは命に別状はないんだろう?なんでそんな憂鬱そうな顔をしてるんだい?」スミマセーン!オカワリー!
幼い頃からの付き合いである。アナンタは目の前のカレーライスに集中しながらもそんなべネットの様子を見逃さず、その理由を聞く。
「アンタ、まだ食べるの・・・。あぁ、まぁその子はまだ気を失ったままだが、今はシズナが診ているから大丈夫だ。」
「シズナちゃんが?そりゃ大変だ。マオちゃんが旅立ってからアイちゃんへの溺愛ぶりにブレーキが効かなくなってたし、その子可愛がり殺されたりしないかな?」
幼き元魔王マオちゃん。彼女はこの世界の先代魔王アールマザーによって産み落とされた最後の子。しかし、六魔の一角である九尾の傀儡として利用された挙げ句、九尾の計画の犠牲となり死に瀕したところをチームべネットに救われた。そして、それ以来新米冒険者としてだんじょん村で活動していたが、先日元魔王という肩書きに注目した宇宙商人にスカウトされ、マオちゃん自身も一人前の冒険者として故郷に錦を飾るべく新たな世界に旅立っていった。ついでにシズナの自称ライバルを名乗るツンデレーデ・・・もとい、アデライーデもお宝目当てに付いていったそうな。
可愛いものに目がないチームべネットの自称甲賀プリーストのシズナも、その旅立ちを涙を飲んで見送った。しかしそれからというもの、行き場を失った愛情の矛先がアイちゃん一人に向かうことになってしまったのだ。
「可愛がり殺されってお前・・・、いやしかし今のシズナならあり得るか。料理だけはさせないように釘を刺して・・・って、違う違う。そうじゃない。そんな心配はしてない。」
「??じゃあなんなのさ?」モグモグ
アナンタはわりと本気で、その子が可愛がり殺されることをべネットが心配してると思っていたらしい。怪訝な顔で再度問う。
「考えてみろ。魔物が出る山に普通の女の子がいるわけがないだろう。ましてうちの裏の山なんて街道もないし近くにはだんじょん村しかないんだ。迷い込んだにしても不自然にも程がある。何よりもその子の服装だ。」
「服装?」モグモグ
「ああ。焦げ痕と血でボロボロだったよ。明らかに自然についたモノじゃない。」
「!!」カチャン
始めてアナンタがカレーライスを食べる手と口を止める。
「それって、つまりその子が何者かに襲われていたってこと?」
「そういうことだろうな。まぁ、アイがその子を見つけたときにはそれほどの大怪我はしていなかったらしいから、気を失う前に回復魔法だけでも使ったんだろう。だが、命は助かったとはいえ、あまり穏やかな話にはならないだろうな。」
「なるほど、事件の匂いがするね。まぁ、どんな事情であれ女の子を傷つけるような奴がいて、助けが必要な子がいるんだ。私たちがやるべきことは決まってるさ。」モグモグゴチソウサマデシタ!
「ま、そういうことだな。」
実に5杯ものカレーライスを平らげたアナンタがその瞳に焔を灯して席を立つ。向かう先は当然、べネットの家。
――――――――――――――――――――
~べネットの家~
べねっちの家は公民館や冒険者ギルドがある村の中心部から西に外れた山の麓にある。喧騒を嫌いながらも心の奥底では孤独を恐れる寂しがり屋な側面も持つべねっちは、村から適度に離れたこの距離感が気に入っているようだ。
みたいなことをべねっちに言ったら真顔でぶっ飛ばされた。まったく、べねっちったら、この照れ屋さんめ。ってこら、早苗さんアローはシャレにならないから仕舞いたまえ。いやマジで危ないからそれ。即死武器だから。おいこら!私が悪かった!謝るからそれしまって、ほら。ごめんなさい!
そんなこんなで、いつものように友情を確かめあっていると、べねっちの家が見えてきた。
「ただ~いま!」ガチャ
「おいこら、お前の家じゃないぞ。」
幼少の頃から幾度となく敷居を跨いだアナンタにとっては最早自分の家とも相違ない。まさに勝手知ったるお前んち。
「あら、お帰りなさいアナンタにべネット。」
「お姉ちゃんたちお帰りなさ~い。」
「だから、この家は私の家だと・・・まぁいい、シズナ、その子の様子はどうだ。」
べネットは溜め息混じりに件の少女を見ながらその様子を確認する。
「外傷は軽いものだし、直に目を覚ますとは思うんだけど・・・、余程怖い目に合ったのか、時折魘されてるのが気になるわね。」
「魘されてる?」
「寝言でね、『ごめんね、失敗しちゃった』って何度も何度も謝ってるんだ。こんな小さな子がこんなに思い詰めて・・・きっと何か余程のことがあったんだよ。」
少女を拾ってからずっと付き添っていた雪女一族の末裔、アイちゃんが代わって応える。
「う~ん・・・ローズ・・・マリー・・・ん・・・む?」パチッ
「!!!」
「ここは・・・?知らない天井でちね?」ムクッ
ここにはいない親友の名を呟きながら少女は目を覚ました。まだ状況は掴めていないが直前まで気を失っていたとは思えないほどには寝起きは良さそうだ。
「私はべネット。ここはだんじょんむらの外れにある私の家だ。ウチの裏の山でお前が倒れていたのをそこのアイが見つけて拾ってきた。少し怪我をしていたようだから回復魔法はかけたが、まだどこか痛むところはあるか?」
あまり人との距離感を掴むのが上手くないべネットは少し無愛想ながら少女の体調を伺う。
「!!なんと、デーリッチは気絶してしまっていたんでちか・・・。おねえさんたち、助けてくれてありがとうございますでち!体の方はこの通り、大丈夫でち!」ブンブン
「か、かわいい!!」ダキッギュー
「わ、わ、なんでちか!?」
「かわいい!かわいい!」ハグハグナデナデ
ぼんやりした意識がハッキリしてきて自分が助けられたことを知ると、丁寧にお礼を口にするデーリッチ。そしてその子供らしい健気な様子をいたく気に入ったシズナが辛抱たまらんと本能に任せてギューっとハグをする。デーリッチも突然の出来事に驚くが、相手が恩人ということもあり、無理矢理引き剥がすこともできずに成されるがままになっている。
「く、くるしい・・・でち。」
「こ、こら、シズナちゃん!相手は病み上がりなんだから負担かけさせちゃダメだって!」
「はっ!?私としたことが、冷静さを見失ってしまった!?」
「かわいいものを前にしてキミが冷静だったことなんかないだろうに・・・。」
「そんなことないわ。あっそうよ!ねぇあなた、お腹は空いてないかしr「あ~!シズナちゃん!ご飯はね、べねっちが用意してくれる事になってるから大丈夫だよ!ね!べねっち!?」
「お、おう。シズナはその子を診てやっていてくれ。その方が安心だ。食事の支度は任せろ。」
「そお?じゃあお願いするわね。べネット。」
極めて自然な流れで危険な発言をするシズナを見事な連携を駆使して全力で封じ込めるアナンタとべネット。
シズナの料理センスは人智の域を越えている。ある時は豚カツを作ろうとしてパン粉がなかったから代わりにチョコレートでコーティングしたとか、またある時はコーヒーに生のイカを丸ごと入れてゲソコーヒーとかいう異次元物質を産み出したりとか。発想が突飛すぎてそれを受け入れられるのはおそらく同じレベルの天才だけであろう。どんなに辛いことがあっても、明日にはきっと花が咲くと信じていつも笑っていたあの第一勇者候補のレイチェルでさえ、その料理を前にして生まれて初めて涙を流したことは、既にダンジョンむら伝説として語り草となっている。
「ところで私たちの自己紹介がまだだったね!私はアナンタ、今話をしていたのはべねっち、キミに抱き付いていたのがシズナちゃん、キミを拾ってきたのがアイちゃん、私たちはこの4人でパーティを組んでこのだんじょんむらで冒険者をやってるんだ。キミはどうして山で倒れていたんだい?」
「だんじょんむら・・・?う~ん・・・やっぱりここは・・・。あ、デーリッチはデーリッチというでち。あの、おねえさんたちはベルゼルグ王国って知ってるでちか?」
聞き慣れぬ地名に自分の置かれた状況を察したデーリッチは、自身の体感では先程まで自分がいたハズの場所について訪ねる。
「ベルゼルグ王国?聞いたこともないな。シズナは知らないか?」
「私も聞いたことない地名ね。よほど遠い国なのかしら?」
しかし、帰ってきた答えは残念ながら想像した通りだった。デーリッチはマクスウェルが作り出した次元の穴に吸い込まれ別世界に飛ばされたということだろう。デーリッチ自身もあの世界には1週間と少し程度滞在していただけだが、さすがに同じ世界の人で魔王軍と対峙していたという大国を知らないということはないだろう。「そう・・・でちか・・・。」
デーリッチの思考はその事実に辿り着き表情に陰を落とす。ここが異世界だと分かったとして力なき自分に何が出来るというのか。
キーオブパンドラを奪われ、頼りになる親友も王国の仲間もいない。異世界で新たに友となった勇者と愉快な仲間たちもいない。あるいはカズマは同じ世界に飛ばされた可能性もあるがそれを捜索する手立ては今のところ、ない。
知らずデーリッチの目には涙が浮かぶ。
「ごめんね、みんな。でも、デーリッチは、絶対に・・・。だから・・・!」
しかし、涙は雫となる前に拭われた。
デーリッチは子供である。普段は仲間に意地悪されては泣かされることなんてしょっちゅうである。ローズマリーに叱られておやつ抜きにされた時にはわんわん泣いている。そんな年相応な感情を持つ子供である。
デーリッチは国王である。お人好し王国の王様の仕事は王国民を一人残らず笑顔にすることである。皆を笑顔にするためには絶対に泣いてはいけない時がある。不安なとき、絶望に負けそうなとき、皆を元気にする為には泣いてはいけない。そんな年不相応な理性を持つ国王である。
ハグレ王国民はそんな子供のデーリッチが大好きで、そんな国王のデーリッチを敬愛している。
だから、苦しいときにデーリッチは泣かない。皆の笑顔が見たいからデーリッチは辛くても笑う。そして諦めない。歯を食いしばって溢れそうな涙を我慢する。
「う~ん・・・、話しづらいことなのかな?私たちのことは信用してくれていいよ。荒事にも慣れてるし。」ニカッ
辛そうな顔をするデーリッチに向けてアナンタは目線の高さを合わせて笑いかける。その世界の全ての絶望を照らす太陽のような笑顔にデーリッチは引き込まれる。
それは、たった今デーリッチが見失いかけた自分が理想とする王様の姿。自分の心に浮かぶ陰を照らしてくれた笑顔に、デーリッチも彼女達ならば助けを得られるかもしれないと、話してみることにした。
「・・・突然こんなこと言って信じてもらえないかもしれないでちが・・・、デーリッチはこの世界の人間じゃないんでち。別の世界から飛ばされてきたんでち。」
デーリッチ達の世界では召喚魔法で呼び出された者も事故等による異世界からの来訪者もまとめてハグレと呼ばれ、大なり小なり世界にトラブルをもたらす厄介者として扱われている。また、カズマ達の世界の様に異世界に対する見識のない世界で異世界から来ただのと公言していたら頭のおかしい人間だと思われてしまう。
デーリッチは異端と蔑まれる可能性を危惧しておそるおそるといった様子で身の上を打ち明ける。
「異世界?あ~もしかして裏ダンジョンから迷い混んで来たのかな?まったく、女神さまにはちゃんと戸締まりをするよう言っておかないと。道理で知らない国の名前が出てくるわけだよ。」
「えっ?いや、驚かないんでちか?というか裏ダンジョンて?」
数秒前の自分の覚悟は何だったのか。デーリッチは想定以上に軽いノリで返された挙げ句に、ダンジョンの戸締まりとかいうスケールが大きいのか小さいのかよくわからない話についていけず、質問を重ねてしまう。
「裏ダンジョンていうのは、元々この村の名物だった表のらんだむダンジョンとは別に、ダンジョンの神様が新しく創ったダンジョンなんだ。天界とか異世界とか色んな世界に繋がっちゃってるからたまにキミみたいに迷い混む人がいるんだ。」
「そ、そうなんでちか?」
天界広しと言えども、ダンジョンを司るという世にも珍しい女神様。その名はメガミオブダンジョン。愛称はメガちゃん。元々この地にあった表ダンジョンで一人寂しくダンジョン作りの修行をしていたところ、ダンジョン攻略に訪れたアナンタ達に優しくされ、なついた挙げ句、村にまでついて来てそのまま居着いてしまった。
裏ダンジョンとは、表ダンジョンに封印されていた滅びの竜アジ・ダハーカを倒して暇していたアナンタ達の遊び場兼メガちゃんの神としての修行場所として、今なおメガちゃんによって拡張が行われている超巨大ダンジョンなのである。
「待ってアナンタ。デーリッチちゃんは裏の山に倒れていたのよ。裏ダンジョンとは関係ないんじゃないかしら?」
「ん?言われてみたらそうかも。」
デーリッチを膝に乗せてその髪を愛でながら丁寧にツインテールを作っていたシズナが話に加わる。
この村で何かが起きるときは大抵ダンジョン絡みである。アナンタが短絡的になるのも仕方ない。
「ていうか、その子から事情を聞いたほうが早いんじゃない?」
「そらそうだ。とはいえまだ頭の整理も出来ていないだろう。少し腹を満たして落ち着くといい。ほら、おかゆだ。」
「あ、ありがとうございますでち。」
「私が食べさせてあげるわね!」
アイちゃんが軽く突っ込みを入れているとべねっちがキッチンから戻ってきた。その手にはミルクの甘い香りの漂うおかゆのよそられた器が。お米の名産地ブロッコリー村産米を100%使用した、べねっち特製おかゆミルクである。
シズナがデーリッチを膝に乗せたまま、スプーンで掬ったおかゆを軽く冷ましては二人羽織のような体制でデーリッチの口に運んでいる。
特に怪我もないデーリッチは別に食べさせてもらう必要はないのだが、恩人の善意を無下にすることも出来ないのでされるがままに受け入れている。
他の三人もその様子にほっこりしてしまい、無理に引き剥がすこともないだろうとシズナの好きにさせている。別に体よくシズナがキッチンに立つ展開を封じることが出来て安心しているわけではない。
「あれ?べねっち、私達の分は?」
「ああ、多目に作ってあるから後で・・・って、お前さっきあんなにカレーライス食ってまだ食うつもりか!?」
「カレーは飲み物だからね。仕方ないね。」
「おかゆはデザートとでも言い出しそうだな。」
「あははは。」
「クス。」
そんな仲間同士の気安いやり取りを見ていたデーリッチにも自然と笑みがこぼれる。優しい温かさのおかゆミルクが胃袋を満たし、デーリッチの緊張も解れてきたようだ。
「やっと笑ったね。ちょっとは落ち着けたかい?」
「えっ?」
不意に優しい目を向けたアナンタにデーリッチは戸惑う。
「とっても、哀しそうな顔をしていたからさ。どうだい?べねっちは顔に見合わず料理が上手いんだ。」
「誰が顔に見合わずだ。誰が。」
「あはは、とっても美味しかったでち!ごちそうさまでした!」
心からの感謝を最高の笑顔で伝える。それはデーリッチが使える仲良し道の奥義。
「さて、それじゃあ話を聞かせてもらおうかな。」
「はいでち。」
べネットに促されこれまでの事を話すデーリッチ。時に悔しそうな表情も見せながら一生懸命話した。仲間たちを助けたい。自分が行かなければ仲間たちが危ない。強い光を目に宿して語るデーリッチに、アナンタは頷き返し、べネットは静かにその瞳に炎をたたえ、アイは服の裾をギュッと握りしめ、そしてシズナはデーリッチを優しく抱き締めた。
「なるほどね。そのマクスウェルって奴を倒さないとその世界が危ないってことなんだね。これは久し振りに腕がなるよ。」
「え?一緒に戦ってくれるんでちか?」
「当たり前じゃないか。私達は最初からキミの力になるつもりで話を聞いていたからね。」
身の上を話したとは言え、自然に、当たり前だと言わんばかりに協力を申し出るアナンタ。他の3人も気持ちは同じ様だ。
「アナンタ、強敵相手にワクワクするのはいいが、異世界にはどうやって行くつもりだ?」
「ん?女神さまにお願いしたら何とかならないかな?」
「テキトーに世界を移動するだけならともかく、任意の世界に行くのはメガちゃんでも難しいと思うわよ?」
「そういうモノなの?」
「移動先の座標がわかればまた違うと思うのだけれど・・・。」
「座標でちか・・・。せめてキーオブパンドラがあれば・・・。」
座標と聞いてデーリッチ失ったキーオブパンドラを思い出す。思えば偶然拾っただけのものだが、1年以上苦楽を共にした相棒である。自分の力では元々ある次元の穴を拡げるか閉じるかくらいしかできず、自由に世界を移動できる程の力はない。。しかし、王国の座標は忘れるわけがないし、カズマ達の世界も座標は確認している。そんなに離れていない世界ならばキーオブパンドラを通じて方角くらいならば分かるはずであった。
「キーオブパンドラ?ならあるぞ?何に使うんだ?」
「ふぇっ!?」
マクスウェルに奪われてしまったキーオブパンドラがここにある。あっさり返ってきた答えにデーリッチは思わず吹き出すように声をあげてしまった。
「キーオブパンドラってあのデカイ鍵型の杖だろ?ダンジョンで拾ったアイテムの中でも伝説級のヤバい代物については普段は四次元ポーチにしまって、私達以外には取り出せないようにしているが・・・、その中にキーオブパンドラもあったはずだ。」
「そ、それ!見せてもらえないでちか!?」
「ん?いいぞ。アナンタ。」
「はいよ。」
そうやってアナンタはポーチから大きな鍵を取り出した。
「これは・・・、本当に本物のキーオブパンドラでち!む~ん!」
デーリッチはシズナの膝から降りて、キーオブパンドラを手に意識を集中する。魔力を流していくと鍵の先端がぼんやりと光る。
「あ、見つけたでち。カズマお兄さんの世界!」
希望の目が繋がった。ここから世界が認識出来たということは、この世界で次元の穴が見つかれば、この世界から2つの世界を行き来できるということだ。
「へぇ~、そういう使い方も出来るのね。デバフ用のアイテムだと思っていたわ。」
余談だが、シズナもキーオブパンドラを拾ってから何度か使ったことがあるが、その使い方はパンドラの箱から飛び出した負の要素を呼び出して敵の能力を下げるという使い方だった。ワープ機能があるのは判っていたが、自力でテレポートも分身もわりと何でも出来てしまうシズナにはあまり有用な道具ではなかったのだろう。
「へ~、よくわからないけど何とかなりそうなんだね?それじゃあ女神さまの家に行こうか。」
「はいでち!」
斯くして5人はダンジョンの神、メガちゃんの家に向かった。
―――――――――――――――――――――――
~ダンジョン村メガちゃんちまでの道中~
「アナンタさん!アナンタさん!アナンタさん!アナンタさ~n「わあっ!?何だ!?」ドゴォ!へもげ!」ズルズルドサッ
べネットの家からメガちゃんちに向かう途中、通りかかった鍛冶屋から突然飛び出してきた羽を生やした生き物に突撃され、アナンタはついうっかり的確に会心の一撃をお見舞いしてしまった。
その生き物は鼻血を撒き散らしながら鍛冶屋の壁にとてつもない速度で打ち付けられ、崩れ落ちる。どう見ても死んで当然、生きてて畳上、全治2ヶ月コースの威力の攻撃だったが、それは何故か幸せそうな顔を浮かべていた。
「いきなり飛び出してくるからうっかり竜王の拳を出しちゃったじゃないか。いきなりなんなのさ、カナちゃん。」
「イテテ・・・、やっぱアナンタさんのパンチは効くなあ!咄嗟の反応なのに何故か最強技を繰り出して的確にえぐり混む、そこにシビれる!憧れるぅ!でも私、諦めない!頑張れ私!」ムク
「え?え?」
どう見ても致命傷レベルの攻撃を受けて、何事もなかったように起き上がる謎の生き物。よくよく見てみれば自分の親友にして相棒ヅッチーとよく似た容姿、妖精だった。
ただ生まれ、消えるように儚く死んでいく力なき妖精という種族。異種族との関わりを避け、隠れるように暮らしていた妖精達にもある時、異端児が生まれた。生きることに何の意味も持たず生きてると言えるのか、そんな疑問を持った幼い妖精が、ある日雨の中カナヅチを背負って森を飛び出した。人里でがむしゃらにカナヅチを振り、武器を鍛え続けた妖精は、やがて異種族との交流を築く程の成功をおさめた。そして、その動きは臆病だった妖精達に拡がり、多くの妖精が「希望」という感情を胸に、今や世界の至る場所で妖精の姿を見かけるようになった。
ぼろ雑巾の様になったその妖精を見て、ヒールをかけるかレイズをかけるべきか思案していたデーリッチだが、回復そのものが不要な雰囲気に一人だけ戸惑いを隠せなかった。
「いやー、こないだアナンタさんから頼まれてたインスタント飛行船の修理が終わったんでお渡ししようかと!」
「だったらそう言えばいいじゃないか。抱きついてくる必要はないでしょうに。」ハァッ
「そこはほら、私とアナンタさんとのいつものスキンシップじゃないですか!やだ、何だかこの言い回し恋人同士みたい!」キャッ
「キミは頭の中だけは本当に花の妖精だよね。」
「いや~そんな褒められたら照れちゃうわね!ところで、そちらのお嬢さんはどなたです?」
「ほぇっ!?」
おかしな方向に色々ハイレベルな会話に全く話に付いていけず呆然としていたデーリッチは、突然匙を向けられておかしな声をあげる。
「あぁ、この子はデーリッチ。山で倒れてたのをアイちゃんが助けてきたんだ。」
「へぇ~デーリッチちゃんね~・・・。デーリッチちゃん・・・。デーリッチだって!?」
「ん?お知り合いかい?」
「デーリッチもなんか見たことあるような気がするでちねぇ?」ウーン?
「いや、ぜ~んぜん知りませんよ!知りませんとも!」
「なんか怪しいなぁ~。」ジトー
「でもやっぱり会ったことはないでちね?」
「そう!そうでしょう!気のせいですって!」
「ふ~ん?おかしな偶然もあるもんだねぇ?」
アナンタもデーリッチも知らない話。この変態妖精カナちゃんは、いまだに虐げられている異世界の力なき妖精達を救うため、異世界との通信技術を開発し、通信が成功した異世界の妖精達に自分の分身を作らせて、技術支援を行っている。ハグレ王国のセクハラ妖精カナヅチ大明神ことカナちゃんは、その内の最も成功した例であるが、セクハラが酷すぎて妖精王国を追放されたり色々やらかしているので、本家カナちゃんとしてはあまり公にしにくい話の様だ。まぁ、デーリッチと邂逅してしまった以上、いずれ遠くないうちにバレるだろう。
「ま、まぁいいじゃないですか!はい、これ!ご注文の品です!」ハイッ!
「ん、ありがとう。じゃあ今急いでるから、またね。」ポーチニシマイーノ
「毎度あり!またご贔屓に!」ペッコリン
ちょっとしたすれ違いを孕んだこの小さな出会いが後に大きな波乱を生むのはまた別の話。
アナンタ達は受け取ったインスタント飛行船を四次元ポーチに仕舞い、改めてメガちゃんの家に向かった。
カナちゃんがデーリッチのことを知ってるのかどうかは原作では不明なので直接はあまり関わらないです。地味に大事なポジションですが。
次回はハグレ王国居残り組エピソード予定です。