この素晴らしいハグレ王国に祝福を!   作:ひまじんホーム

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 ちょっと短いけど、次の話が長いのでキリのいいとこであげときます。
 ちなみに筆者が一番好きなざくアクキャラはエステルさんです。


第14話 チームアナンタ

~ハグレ王国拠点~

 

「エステルさん!エステルさん!エステルさん!エステルさ~n「わあっ!?何だ!?」ズドドドン!へもげ!」プスプス

 

 シノブの提案によりハグレ王国に新設されたばかりの王国図書館から拠点に戻る途中、通りかかった土産屋から突然飛び出してきた羽を生やした巨大な物体に突撃され、エステルはついうっかり的確に渾身の炎魔法をお見舞いしてしまった。

 その生き物は黒焦げになりながら、猛烈な熱さに堪えきれずゴロゴロ転げまわる。どう見ても死んで当然、生きてて畳上、全治2ヶ月コースの威力の魔法だったが、その物体は何故か幸せそうな顔を浮かべていた。

 

「いきなり飛び出してくるからうっかりバルカンフレアを出しちゃったじゃないか。いきなりなんなのさ、セクハラ大明神。」

 

「アチチ・・・、やっぱエステルさんの炎は効くなあ!咄嗟の反応なのに何故かTP80消費の最強魔法を繰り出す、そこにシビれる!憧れるぅ!でも私、諦めない!頑張れ私!」ムク

 

 どう見ても致命傷を負いながらも平然と起き上がる謎の生物。よくよく見れば妖精王国の守護神セク・・・カナヅチ大明神だった。

 

「見つけたんですよ!デーリッチの行方を追う手掛かりを!」

 

「だったらそう言えばいいじゃないか。抱きついてくる必要は・・・ん?今なんて?」

 

「そこはほら、私とエステルさんとのいつものスキンシップじゃないですか!やだ、何だかこの言い回し恋人同士みたい!」キャッ

 

「んなこと聞いてねえよ!?んなことより今の話は本当か!?」

 

「えっ?私とエステルさんが恋人同士なのは本当か、ですって!?本当!本当ですとも!」

 

「いい加減にしろ!こちとら毎日徹夜でメンタルグランパ漬けなんだよ!」ボコー

 

「へもげ!」

 

 ローズマリーからのコンタクトクリスタルでの定時連絡が途絶えてからおよそ10日。天界のイザコザが解決して、その後始末という名目で次元の塔へ向かったデーリッチ達。事件の首謀者である御影星を倒した以上は大して危険もないだろうと子供達を行かせてしまったことが、今更ながら悔やまれる。

 残った王国民は総出で寝る間も惜しんで次元世界を捜索し、ようやく天界の大槌洞窟に残された謎の飛行船を発見したが、その後の足取りについては未だに手掛かりすら掴めて居なかった。エステル、メニャーニャ、シノブの召喚士三人娘は他のメンバーを連れて何度も次元移動を繰り返し疲弊していて尚、何か新しい手立てをと、図書館で召喚に関わる文献をかき集めていた。召喚士にあるまじき体力オバケのエステルをして、心身疲労激しい状態ではいつものおふざけに付き合ってやれる余裕はなかった。

 

「イテテ・・・、失礼しました。少々おふざけが過ぎましたね。私もあまりの感激に興奮が抑えきれなかったようです。」

 

「私にはむしろ通常運転に見えたけどな。で?デーリッチ達の手掛かりが見つかったてのは本当なのか?」

 

「はい。神様からの御告げがありました。」

 

「はあ~?おつげ~?」

 

 さっきまで藁をも掴む思いで図書館の文献を漁っていた身としてはどんな小さな情報でも欲しかったが、期待を遥かに下回る曖昧な情報源に、エステルは愕然とする。

 

「あれ?エステルさんは、そもそも私が異世界の妖精神様の声を聞くために妖精達に作れた人工の神だってご存知ですよね?」

 

「あ~?そういや、そういう設定だったな。」

 

「で、その神様なんですがね、私達は便宜上神様とお呼びしているのですが、正確には神ではなくて異世界の偉大な技術者と呼んだ方が正しくてですね。その方は力なき妖精達を救うために異世界の色々な情報をこちらに伝えてくれているというわけなんですよ。通信は基本的には一方通行なんですが、最近ヘルパーさんとお知り合いらしいことが発覚してですね、こちらの情報も間接的に伝えて頂いてるんです。で、先程の通信の中にデーリッチの情報がありまして。」

 

「成程、思ったよりは信憑性の高い情報ってわけか。何て言ってたんだ?」

 

「え~と、じゃあありのままお伝えしますね。こんな感じです。『ヤッホ~分身くん元気~?今日さ~キミのとこの王様、そう、デーリッチちゃんに会ったんだよ。八重歯がチャーミングでかわいい子だよね~。ちょっとやんちゃそうだけど将来絶対美人になるよあの子。今のうちにツバ付けとこうかしらゲヘへ。あれ?でもあの子何でこっちにいたのかな?私も身バレしちゃうとマズいからあんまり話してないんだけどね。アナンタさん達と一緒だったから多分ダンジョン潜りでもするんでしょうけど。もし何か知ってたら教えてくれたらうれしいな。お耳の恋人、カナちゃんでした。』と、いうわけです。」

 

「ノリ軽すぎない!?・・・まぁ、お前がそんなんになってしまった原因がよ~く分かったわ。」

 

「いや~照れますね!」

 

「誉めてないから!」

 

 今や、経済力においては帝都すら脅かす程に成長した妖精王国の礎となった、異世界の技術をもたらしたカナヅチ大明神。しかし、やがてセクハラが酷すぎて一度は妖精王国から追放された過去を持つ。どうやら基となった件の異世界の技術者とやらもクセのあるやつらしい。

 

「変態妖精はともかく、原因も理由も解らないけど、取り敢えずデーリッチはその世界にいるってわけだな。あの口振りだとデーリッチも一人みたいだが、他のメンバーはどうしたんだ?話に出てきたアナンタってのは何者なんだ?ここからその世界には行けるのか?」

 

 エステルもようやく掴めた手がかりに気持ちが急いて質問を重ねてしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。私もこの御告げを受け取っただけですので、詳細はまだ解りかねます。ただアナンタさんという方は彼の世界において六魔にすら打ち勝った最強の冒険者と聞きます。他の皆の行方は分かりませんが心強い協力者を得られたのは間違いないでしょう。そしてその世界に渡る道はヘルパーさんがご存知のハズです。」

 

「ヘルパーさんが?」

 

「ええ。ヘルパーさん、前任はその世界の担当だったそうですよ。」

「えぇ・・・、前任とか、次元の塔のことといい、あの人本当に何者なんだよ・・・。」

 

 それは永遠の謎である。

 

「ともかく、今捜索に出ている人が戻ったら、一度皆を集めて会議を開きましょう。その間に私はヘルパーさんに話を通しておきます。エステルさんは・・・ロクに休んでいないのでしょう?今のうちに休んでいてください。」

 

「ん?お前一人で召集かけるのは大変だろ?私も手伝うぞ?」

 

「ダメです。エステルさんは休んでください。フラフラじゃないですか。なに、まだ頑張って貰わないといけないんですから、休めるときに休むのも大事ですよ。」

 

 このセクハラ大明神は普段はエロいことしか考えてないクセに、ここ一番というときには実に頼もしい。先程の殴られるような発言も、結果としては疲労が溜まるエステルのストレス発散に一役買っている。真っ先にエステルへ話しに来たのも、特に疲労が激しいエステルを安心させて休ませるつもりだったのだろう。普段セクハラの主な被害者であるエステルも、大明神のそういった気遣いを解っているから気軽にどつく事ができるのだ。

 

「・・・わかった。ちょっとばかり休ませて貰うよ。お前も連絡がついたら休めよ?」

 

「はい。皆にもそう伝えますよ。」

 

 少しばかりの休息を経てハグレ王国が動き出す。

 

――――――――――――――――――――

 

~ダンジョンむら メガちゃん家~

 

「おじゃましま~す!」

「ちわ~!女神様いるかい~?」

 

「はいはいは~い!今行きますで~す!」

 

 玄関口からアナンタが大きな声でメガちゃんを呼ぶ。普段は玄関から直ぐのとこに設置されている作業机の所にいることが多いのだが、今日は奥の応接室にいたらしい。返事をする声が奥の方から近づいてくる。

 

「お姉ちゃん達いらっしゃいませ!これから呼びに行こうと思っていたのでグッとタイミングなのです!」グッ!

 

「それを言うならグッド、だな。」

 

 見た目だけなら女神然としているが、話し方は幼い子供のそれ。しかし、新時代を担う神として造られた(、、、、)彼女は、特異な神力と膨大な魔力をその身に有する期待のルーキーなのである。ちなみに先日、ラヴァース様の運営する女神園を無事に卒園することができました。

 

「あれ?メガちゃんも私たちに用があったんだ?そいつは土偶だね。」ドグー!

 

「それを言うなら奇遇、だな。姉妹揃った途端に漫才始めんな。」

 

 メガちゃんはアナンタをお姉ちゃんと呼ぶが、血縁がある訳ではない。かつて一部の神々により、神の器に強い力を持つ別の魂を合成させて、新時代を担う強い神を造り出すという実験が行われた。しかし、実験に失敗して暴走しては処分されていく合成竜達への対策に、上位神は愛を司るラヴァース様を実験に参加させ、実験体に愛の心を持たせるという試みをした。結果としては実験体の暴走率が激減したが、それでも少なからず生まれては暴走し処分される「失敗作」の存在にラヴァース様は心を痛め続けていた。

 そしてある日、ラヴァース様の手により生まれて間もなく人間界に逃がされた「失敗作」がアナンタである。ラヴァース様は後に成長して自身の前に立ったアナンタの手により討伐されることを願ったが、それをアナンタは許さなかった。アナンタにとっては自分を作ってくれたラヴァース様は紛れもなく母親であり、天涯孤独と思っていた自分の出生がとんでもないものであった事よりも、自分にも母親と呼べる存在がいた事が何よりも嬉しかったのだ。

 ラヴァース様は今では自身が直接手掛けた実験体を自分の子供として認定しており、アナンタ、メガちゃん、そして宮殿の守護を担うカンヘルがそれにあたる。

 

「今ラヴァース様が来ていてお姉ちゃんも呼んできてって仰せられたのです。」

 

「へぇ?母さんから?なんだろう?」

 

 メガちゃんにとってはラヴァース様は母であるが、同時に神としては直属の上司にあたるので、言葉遣いは気を使ったものになっている。

 

(ラヴァース様・・・?何か聞いたことがあるような・・・?)

 

「今ね、エリス様っていう女神園の先輩女神様が来ていて、私とお姉ちゃんにお願いしたいことがあるんだって!」

 

「エリス様?う~ん知らない神様だなぁ。」

 

「あり?そちらの子はどちら様で?」

 

 アナンタと話していたメガちゃんはふとその後ろに揺れる青いツインテールに気付いて声をかける。

 

(エリス様・・・ラヴァース様・・・う~ん・・・ん!?)ピコーン!

 

 アナンタの後ろでシズナに手を引かれていたデーリッチは聞き覚えのある女神様の名前に思い当たりハッと顔を上げる。

 

「こんにちわなのd「あ、あのッ!」」ガバッ!ゴッツン!

 

「「#♀&*・・・!」」ピクピク

 

 メガちゃんが屈んでデーリッチに挨拶をしようとした所にデーリッチが勢いよく顔を上げたことにより、二人の頭が勢い良く激突。両者ノックアウトと相成った。

 

「何やってんのさ・・・、二人とも。」

 

「痛ぅぅ・・・ごめんなさい。デーリッチでち。初めまして。」

 

「うぅ・・・お姉ちゃん並みの石頭・・・。メガミオブダンジョンです。こんにちはなのですぅ。」

 

 お互いに頭を抑えながら自己紹介をかわす。

 

「メガちゃ~ん!何かスゴい音したけどどうしたの!?」

「貴女も頭抑えて大丈夫ですか!?ってあれ?キミは確か福の神様のところの・・・・。」

 

 奥の方からラヴァース様とエリス様が駆け付ける。エリス様は頭を抑えながら謝っている二人のうちの片割れの姿を見て驚いている。

 

「あっ!エリス様!エリス様って、やっぱりエリス様のことだったんでちね!」

 

 デーリッチの方もエリス様の姿に気付き、声を上げる。

 

「あれ?エリスちゃん、その子知り合いなの?」

 

「知り合いと言いますか・・・、お話させて頂いていた救助対象者です。何でこちらの世界に・・・?」

 状況が解らず、全員の頭に?が浮かぶ。

 

「まぁ立ち話も何だし、アナンタ達が来てくれたなら丁度いいわ。奥で話をしましょうか。」

 

 

―――――――――――――――――――――

 

~メガちゃん家 応接室~

 

「話を聞く限り、かなりマズイ状況みたいね・・・。」ウーム

 

「ちょっと留守の間にそんなことになっているとは・・・。」サーッ

 

「あの戦いの後、皆がどうなったのかも分からないでち・・・。早く助けに行かないと!」

 

 デーリッチが事のあらましを説明すると、ラヴァース様は険しい表情に、エリス様はの表情は青ざめていた。

 

「そうですね。何はともあれ、直ぐに向かった方がよさそうです。メガちゃん、お願いできますか?」

 

「う~ん、エリス先輩の世界の座標が分からないとちょっと時間がかかってしまうのです~。何か目印になるものがあると良いのですが・・・。」

 

「座標ならデーリッチ分かるでちよ!さっき借りたキーオブパンドラで見つけられたでち!」

 

「それは助かるのです!これなら直ぐにでも行けますですよ!」

 

 次元の行き来ができるメガちゃんでもやはり行き先が分からないと難しいらしい。 しかし、それを聞いていたラヴァース様は眉を吊り上げてアナンタに詰め寄る。

 

「借りた・・・?アナンタ、神器級の道具は危険だからホイホイ出してはダメだとあれほど・・・、ましてやキーオブパンドラは世界の均衡に少なくない影響を与えてしまうものです。軽率に使わないようにしなさい。」

 

「ごめんよ母さん。でもこの子、元々キーオブパンドラを持っていたらしくて。敵に奪われちゃったんだって。」

 

「な・・・んですって!?キーオブパンドラが悪魔族の手に渡ったというの!?」

 

「そ、そんなにマズかったでちかね・・・?」

 

 ラヴァース様は驚愕と怒気が混じった声を上げ、デーリッチは気まずそうに聞き返す。

 

「こうしちゃいられなくなったわ!直ぐにでも発ちましょう。事態は一刻を争います!」

 

「ど、どういうことなのさ母さん!?」

 

「悪魔族がキーオブパンドラを手にしたということは、現世と冥界を隔てる次元の壁が壊せてしまうということ。つまり・・・。」

 

「つまり?」

 

「悪魔族が大軍を率いて地上侵攻が可能になったということよ!」

 

「「「何だって!?」」」

 

「メガちゃん直ぐに用意を、私も出ます。デーリッチちゃんはそのキーオブパンドラは使ったら直ぐに返すこと!いいわね!」

 

「は、はいでち!」

 

 斯くしてデーリッチは再び彼の世界に舞い戻る。二柱の神と神をも超越した最強の冒険者パーティーを引き連れて。

 

 




 次回予告、カズマさんの里帰り編。結構長くなりそう。2~3話使うかも?

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