なろう系異世界モノって元の世界に帰る展開がタブーというか暗黙の了解で避けられてるような気がするけど、まあいっか。
~???~
「う・・・ん・・・?」
なんか背中にピキピキと電流が走る様な痛みを感じる。この痛みには覚えがある。そう、あれは確かゆんゆんの引越し祝いにかこつけて宴会をした日の事だ。ライバルのゆんゆんが念願の一戸建てを買ったのに嫉妬しためぐみんが、祝盃を上げようとか言いながら酒の呑み比べ勝負をもちかけた。最初は普通に呑んでいたのだが、途中でアクアがとっておきの銘酒『ばくだん』を持ち込み、自分も呑みたいとか言い出した。それからはもう地獄絵図で、ギルドにいた他の冒険者も混じって呑めや歌えや吐けやの大宴会だった。
そんなこんなで俺も途中で記憶が途絶えてしまったわけだが、目が覚めたのは家の前の石畳の上だった。まだ春先の、夜は冷え込む中で固い地面で寝ていた俺は、その日は1日ずっと腰痛に苛まれたものだ。つまり、俺が今背中に感じる痛みは、寒空の下、固い地面で寝てしまったときの痛みというわけだ。なるほどなるほど、理解した。
「ちくしょう・・・。」グスッ
しかし、あの時との状況の違いを挙げるとするならば、今の俺はさっきまでの出来事をはっきりと覚えてしまっていることだろう。アクアを貫いた悪魔マクスウェルの凶爪。俺の貧弱なヒールでは到底治せない傷だった。何が勇者だ。仲間1人助けられなかった。きっとアクアはあのまま・・・。
記憶なんて無くなってしまえば良かったのに。目を開けるのが怖い。今の自分の状況を知るのが怖い。どうにもならない現実を見たくない。背中の痛みなんて心の痛みに比べたら軽いもんだ。俺はもう、2度と目を覚ましたく、ない。
もう何もかも諦めていっそここでこのまま俺も・・・。
――死んでしまおうか。
俺の心は絶望に染まってしまっていた。
『ま~つや~たけ~ざお~♪』
そんな中で耳に入り込んできたのは昔懐かしい竹竿屋の宣伝。竹竿屋か~。昔っから町の中をぐるぐる廻ってるけど、あれでどうやって儲けてるんだろう?そういや竹竿屋は何故潰れないのかなんて本が話題になってたこともあったなぁ。俺は漫画とラノベしか読まないから内容は知らねぇんだけど。でもそんな事考えてたら何だか無性に内容が気になってきたな。まぁ日本に行けることなんて2度とないだろうから竹竿屋が潰れない理由なんて生涯知らないままだろうなぁ・・・。
ん?まてよ?竹竿屋?何で竹竿屋がいるんだ?ここはどこだ?日本?いやそんな馬鹿な・・・?
俺は思いもよらない事態に驚愕して、もう2度と開くつもりの無かった目を開けて飛び起きた。
「ここは日本なのか!?痛っう・・・。」グギッ
驚きのあまり、自分の状況も忘れて起き上がった俺の腰に電流が走る。しかし、それも頭をハッキリさせることに一役買ってくれた。
少し頭を振り、今の状況を目視で確認する。
まず体。腰に痛みはあるが目立った外傷は無い。服装はいつもの冒険者の服。俺自身はあまり直接攻撃を受けた訳じゃないから、服の状態もいい。
そして周辺。時刻は夕方らしい。ブランコや滑り台があるということは公園だな。しかも、この景色には見覚えがある・・・。
「・・・これ、近所の公園じゃねーか!」
そこは、引きこもりニートだったカズマの数少ない外出先の一つだった公園。当時人気だった化けっとモンスターという携帯ゲームで、暇に任せて鍛え上げたレベルカンストモンスターを使って小学生相手にマウントを取っていた日々。自分より弱い相手を見つけては全力で叩き潰す日々。自分にとって数少ない栄光の日々。後にクズマと呼ばれた男の原点がここにある。
「あ、起きた~。」
「ん?」クルッ
カズマがしみじみと当時を思い出して感慨に浸っていたところ、後方から声がかかり、座った体制のまま上半身を捻って後ろを振り返る。
「カズマ兄ちゃん最近来ないな~て皆で話してたんだ。久しぶりに来たと思ったらこんなとこで寝てるし。」
何やら親しげに話しかけてきた少年には見覚えがある。俺の育てたレベルカンストモンスターを相手にしながらも巧みに相性の悪さで突いてくる技巧派だ。まぁ相性の悪さで攻められても此方は更に相性の悪いキャラに切り替えてボコボコにして涙目敗走させていたが。 名前は確かイブキ、ここ象さん公園四天王の一人、『ミスマッチングのイブキ』だ。
「お前は、イブキか。久しぶりだな。」
「最近ずっと来なくなっちゃって、どうしたんだよ兄ちゃん?俺たちカズマ兄ちゃんを倒すためにレベル上げしてたのに。」
子供たちにとって自分よりも強い者は尊敬の対象である。プレイスタイルはゲスいカズマだが、その強さを示したことでこの象さん公園最高カーストの座を得ていたのだ。
「おう、悪りぃな。ちょっと色々あって最近来れなかったんだ。」
「色々?ニートなカズマ兄ちゃんに用事なんてあったのか?」
「おいやめろ。」
もう忘れたい過去の事を思い出させるんじゃない。
「それはともかく、ちょっと聞きたいことがあるんだが・・・?」
「なんだよ?」
「今日て何月何日だっけ?」
カズマが象さん公園に足を運んだのは月に数回程度。最近来ないという口振りからすると数ヶ月は空いてるのだろうか。
「?兄ちゃん引きこもり過ぎて日付の感覚もなくなったのか?2019年3月29日だぞ。」
「2019年?あれから1年くらいか・・・。」
ここは俺が死んで1年くらい後の日本らしい。向こうではもう3年くらいの時間を過ごしたハズだが。世界が違えば時間の進行が違うのか、それとも別の時間軸に飛ばされたのか。よくあるSFの設定を引っ張り出して幾つかの仮説を立てるが結論は出そうにない。
さて、色々と現状の把握は出来た。このまま死んでしまおうかとも思ったがここが日本ならば話は別だ。
「イブキ、久しぶりに会ったのに悪りぃな。俺今日はGS持ってくるの忘れてたみたいだ。今日はもう帰るわ。」
「なんだよ、つまんねぇの。今度は遊んでくれよな。またな。」
家に帰ってみよう。今、俺が頼れるのは両親しかいない。
両親は何て言うだろう。怒るかな。泣くかな。いや、そもそも死んだハズの引きこもり息子が突然現れて、それが本人と信じてもらえるだろうか。普通はパニックになるだろうな。
不安しかない。でもここは日本だ。ギルドで依頼を受けてそこらへんのモンスターを狩ってれば生活できたファンタジー世界ではない。あんなにクソゲーだと思っていたファンタジー世界の生活に慣れきっていたことを自覚して、何だか複雑な気持ちになる。
――やっぱり現実の方がクソゲーだわ。
カズマは一つボソッと呟くと里帰りの路についた。
―――――――――――――――――
~ベルゼルグ王国 原初の森アジトの外~
『世界征服の完了を宣言する!』
突然王都上空に現れた禍々しい妖気を発する暗黒の城。そして宙空に浮かぶ巨大な影。その実体を持たない虚像は王都だけではなく、人々が生きる全ての都市、街村に現れた。まだ魔王軍の脅威の記憶がその身に残る人々は異変を感じるや否や、夜中にも関わらず寝間着のまま外へ飛び出した。
「魔王軍の襲撃か!?」
「なんだありゃあ!?」
「世界征服だと!?」
状況が解らずに人々は動揺と困惑に包まれる。
『驚いてくれているようだな、愚民共よ。まずはお前たちのお陰で計画を実行に移せたことに礼を言っt「「爆・天・エクスプロージョン!!」」
――ズッドオオオオオン!!!
『のわぁぁぁあ!』
話を遮る形で空飛ぶ城に向けて突然放たれた強化版爆裂魔法。めぐみんとヴォルケッタがこっそり研究していた合体技だ。悠々と偉そうに話していたマクスウェルも不意をつかれたその衝撃に情けない声をあげてしまう。
「むぅ、強力な結界が張られているようです。」
「なかなか手強いようですわね。」
「めぐみーん!?何してくれてるの!?ヴォルちんまで!?」
「私は城的な建造物を見ると爆裂させたい欲望を抑えられないのです。」
「丁度めぐみんと研究していた合体技の実験台にぴったりな的でしたので。」
何やら最近二人でコソコソしていると思っていたらどうやら合体技の研究をしていたらしい。ライバルとか何とか言いながら息ピッタリな二人にローズマリーは呆れを隠せない。
『ビ、ビビらせやがって・・・。その程度の攻撃でこの城の結界は壊せねぇからな!話の途中でいきなり撃ってくるとかお前ら頭おかしいんじゃねえの!?』
「「むっかぁっ。」」
マクスウェルの言葉にあからさまに不快感を顕にする二人。
「良い度胸です。あの男は言ってはならないことを言ってしまいました。私にその言葉を吐いて生きていた者はいません。」
「いや、けっこうみんな生きてるよ!?」
「めぐみん、悔しい気持ちは分かるが、俯せたまま強がっても格好つかんぞ?」
「むう・・・。いずれ吹っ飛ばす。爆裂魔法で吹っ飛ばす。」ブツブツ
めぐみんは動かない体とは裏腹に紅い瞳だけは爛々と光らせ呟いている。
『まったくよぉ、折角嗜好を凝らせて仰々しい演出を用意したってのに調子狂わせやがって。いいかお前ら、よく聞け。これは宣戦布告だ。明日日暮れと共に悪魔軍を引き連れてベルゼルグを攻める。震えて待て。』
「なん・・・ですって?」
福ちゃんがニコニコ顔を崩して険しい表情で眉をつり上げる。
「クレア殿、ここは私たちが引き受けよう!貴女は城へ!」
「ダスティネス卿・・・分かった。この場は貴方に任せよう。」
ダクネスがクレアに王城、すなわち国王陛下の元へ向かうよう伝え、クレアも了承する。緊急事態下で最も優先すべきは主君の安全確保、それが騎士の務めである。
「騎士団に告ぐ!この場は1班を残しダスティネス卿と冒険者達に任せる!後の者は至急私と共に王城に戻り国王様、姫様の守護にあたる!」
クレアが騎士団を連れて走り出す中、空に浮かぶ悪魔は更に言葉を続ける。
『そうそう、街角で髪の毛を集める団体を目にしたことはあるだろう?その節は数多くのサンプルを提供してくれたことに深く感謝しよう。その数は、実に30万にのぼる。』
「マクスウェルめ、一体何を・・・?」
『それはつまり、30万人分の魔力タンクを手に入れたということだ!』スッ・・・バシュン!
「っ・・・痛ぅ・・・!」
宙空に浮かぶマクスウェルがゆっくり上げた右手を振り下ろす。すると騎士団の一人が額を抑えてうずくまる。
「おい?どうした!?攻撃を受けたのか!?・・・なんだこりゃ?」
「あ、ああ大丈夫だ。突然で驚いたがダメージはない・・・。どうした?」
仲間の騎士が駆け寄り声をかける。うずくまっていた騎士が顔を上げるが仲間のおかしな反応に疑問符が上がる。
「い、いや、なんかおでこに『M』てマークが・・・。」
『髪の毛を提供してくれた諸君の額に目印を付けさせて貰った。どういう事かは見てもらった方が早いだろう。』ググッ!
マクスウェルが振り下ろした右手を再び掲げて拳を握り混む。
「かっ・・・は。」バタッ
「「「!?」」」
「お、おい?どうした!?何をされた!?」アセアセ
先程、額にマークをつけられた騎士が突然倒れた。仲間の騎士が呼びかけるが意識を失っており、返答はない。
目に見えない攻撃を受け、その場にいる全員が周囲への警戒を引き上げた。
「い、一体奴は何をしたんだ!?」
ローズマリーですら状況が理解できずに混乱している。
『さて、今身の周りに倒れた者はいないか?まぁ、死にはしないから安心してくれ。契約に基づきマナを吸いとらせて貰っただけだ。』
「マナを吸いとる?どうやってそんなことが?」
「契約・・・まさか!?」
悪魔との契約に必要なのは悪魔と契約者同士の名前の交換、そして、契約の証として肉体の一部を捧げること。髪の毛を提供した際に書いた書類はただのアンケートではなく悪魔の契約書だったというカラクリであろう。さすが悪魔汚い。アクシズ教徒もビックリの反則技である。
『さて、今宵は直に明けるだろう。次の夜に配下の悪魔を率いてまずはベルゼルグ王国を攻め落とす。抵抗は許してやるが30万人分のマナを取り込んだ悪魔軍に勝てるかな?精々絶望にうちひしがれているといい。』スゥゥ・・・
マクスウェルとの戦闘に敗北しデーリッチを失い、その直後に言い渡された宣戦布告。ハグレ王国の誰もが言葉を発することすらできなかった。
そして、人類最強の魔法を受けて尚、空に悠然と佇む奇妙な城の存在が今の出来事が悪夢ではないことを伝えていた。
「それでも、カズマさんなら・・・。」ボソ
アクアだけはここにいない勇者の名を呟いていた。
元々マイペースでやってた作品ですが、半年近くも空けてしまってすみません。
ストーリー自体は決まってるんだけど、ノリをシリアス調で行くかコメディ調で行くか決められなくて2パターン作ってみたりしてるうちにダンまちクロスの方ばっかり進めてました。これからこっちを数話続けて、それ以降は交互に更新するような形にしていこうかと思います。