この素晴らしいハグレ王国に祝福を!   作:ひまじんホーム

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 気がつけば、前話から早4ヶ月。待ってくれていた方がいらっしゃったなら大変申し訳ない。
 今回はちょっと差し込むだけの閑話ってやつで短いです。
 もうちょい涼しくなって来たら早くなると思うんですが…。


宿屋イベントその6 この翼折られようとも

~とある悪魔の見る夢~

 

「ザリーチェ、諦めよ。審判の神セレネは神殺しの禁忌を犯した。けして赦されることはない。」

 

 ――あぁ、またいつもの夢だ。

 私が世界の敵となったあの日の記憶。

 

 

「セレネ様は嵌められたのだ!セレネ様はオリオーン様を真に愛しておられた!そのセレネ様がどうしてオリオーン様を射殺すなどということがあろうか!?」

 

「経緯など関係ない。現に審判の槍はセレネ自身の翼を穿ったではないか。セレネは地上へ堕とされた。二度と天界に戻ることは叶うまい。」

 

「ならば・・・!ならば、私がセレネ様を救うまでっ!!」ググッ

 

「牢を抉じ開ける気か!?よせっザリーチェ!お前も咎を負うつもりかっ!?」

 

「我が主君はセレネ様ただ一人のみ!」ガキン!

 

「ザリーチェ・・・貴様、血迷ったか!枷も解かぬまま逃げきれるものか!?天使兵!脱獄者を捕らえよ!」

 

「邪魔をするな!立ち塞がるならば、誰であろうと、斬る!」

 

―――――

 

 主神の行方を追い、涯て無き世界を渡った。行く先々に待ち構える天使兵。中にはかつて共に戦った同胞もいた。裏切り者と蔑む者、偽天使と罵る者、説得を試みる者、総て等しく切り捨てた。

 あれから一体どれだけ多くの死んだ世界を見てきたことだろう。神剣に塗り重ねられた血はもはや拭い取ることも叶わず、刀身は常にルビーの如き紅蓮の輝きを帯びるようになった。

 自分自身の歴史で塗り変えられた愛剣の姿を見るうちに、私はふと、哀しみに暮れてしまった。

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・。」ボタボタ

 

 たった一人の脱獄者に差し向けられた天使兵。その数一万。その悉くを返り討ちにした天界最強の剣士もついぞ限界を迎える。

 片翼を切り裂かれ既に翔ぶこと能わず、深手を負ったザリーチェは偶然次元の裂け目で見つけた塔に逃げ込み身を潜めていた。

 

(もはやこれまでか…)

 

 主神の元に辿り着くこと能わず、もはや緩やかな死を待つのみ。せめて天使兵共に気取られずに逝ける死に場所を探していた。飛び込んだのは後に次元の塔と呼ばれることになる場所の5階層だった。

 

「コレは驚いた。オマエは天使か?」

 

 不意に声をかけられた。既に霞み始めた視界にその姿は輪郭しか捉えられなかったが、その身に纏う瘴気、それは紛れもなく天に属する者の天敵の証。

 

「まさか・・・!?悪・・・魔だと!?くっ!」

 

 動かぬ体を強引に動かし剣を握る。見えぬ目を強引に見開き敵を凝視する。

 しかし死に瀕した今の体ではそれ以上の反抗も出来ようがない。只々、剣を握りながら睨むことしかできない。

 

「オイオイ、勝手に人の屋敷に入り込んでおいて物騒なヤツダナ。潰スゾ?」

 

 勝手に?屋敷に?朧気な視界では周りの状況も解らないが、どうやら逃げ込んだ場所はこの悪魔の住み処だったらしい。ならば侵入者は自分、握った剣を離し、交戦の意思が無いことを見せる。

 

「戦う・・・つもりは、ない。」

 

「カカカッ!マトモに話す事も出来ないようダが、聞け。オマエは天使の様だが随分なカルマを重ねた様ダ。そうまでして叶えたい望みがあるのカ?」

 

「私は・・・、今一度、主神セレナ様に・・・。」

 

「hm・・・丁度強いコマが欲しかった処ダ。ワタシと契約し、我が配下に降るならば、その望み、叶えてヤろう。」

 

「なん・・・だと・・・?」

 

 その悪魔は唇を三日月のように歪めながら囁いた。私は相手が悪魔であるにも関わらず、その醜悪な姿に何故だか惹かれてしまっていた。

 

 

「さあ、一度だけ聞こう。今ここで滅ぶか、我が配下に降るか、選べ。」

 

「私は・・・」

 

 この翼折られようとも、悪魔に魂を堕とそうとも、それでも、セレネ様を救うことを諦めたくはない。

 

「私は・・・、堕天使ザリーチェ、貴女の配下に・・・降ろう。」

 

「カカッ。契約成立、だナ。我は冥王シュオルの娘、イリスだ。」

 

 

 斯くして、天界最強の天使ザリーチェは悪魔ザリチェとして生まれ変わった。世界に悪夢を振り撒く存在として。

 

 

 

 




 らんだむダンジョンに登場する『偽天使の剣』のアイテム説明から妄想補完したお話。悪魔ザリチェもらんだむダンジョンに登場する最上位の敵キャラですが、天使ザリーチェとの関連は名言されていません。今話の設定は作者の妄想の産物ですのでご注意下さい。
 あと神セレネが嵌められた~の下りも、ギリシア神話において、セレーネ=ルナ=アルテミスを同一視するという事を絡めて、アルテミスがアポロンに騙されてオリオーンを射殺してしまう物語をごちゃ混ぜにして無理やりくっつけた感じです。
 神話に詳しい人が読んだら何言ってだコイツと思われそうですが、神話とらんダンとざくアクを強引に繋げたらこうなったて感じなのであんまり深く突っ込まないようにお願いします。

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