この素晴らしいハグレ王国に祝福を!   作:ひまじんホーム

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 やっと涼しくなってきて執筆意欲が湧いてきた今日この頃。今回はちょっち短いけど、あんまり間空きすぎるのも良くないので上げときます。
 コレからはもうちょっとこまめに進めていきますよ。多分。


第16話 黒い神話

~とある日の馬小屋にて~

 

「・・・一部に・・・ものの・・・。私のおかげで・・・カズマ氏が・・・つきましては・・・。」

 

「ん?アクア、なに書いてんだ?」

 

 異世界生活を始めて早一週間。今日も今日とて、汗だくになりながらツルハシを振るい城壁を積み上げる一日だった。日々体力の限界に挑み続け、フラフラになる度に振るわれる親方の愛のムチは、日本でエリートニート生活を謳歌していた俺に、風呂の偉大さと、仕事あがりに仲間と飲む酒の美味さを教えてくれた。

 最初は肉体労働は嫌だとか馬小屋は嫌だとか俺と一緒に寝るのが嫌だとか我が儘ばかり言っていたアクアだが、意外にも現状に順応するのは俺よりも早かった。当初は中身はともかく見た目は美人な女の子と一つ屋根の下、少しは甘酸っぱい何かを期待していた瞬間もあったけど、毎日酒瓶を抱えて腹を出しながら酒臭いイビキをかいて寝ているオッサンみたいな奴の姿に、そんな期待はとうに消え失せていた。やっぱ人間て中身も大事だよね。あれ?コイツ女神だっけ?まぁどうでもいいや。

 そんなアクアが今日は珍しく酒飲みも程々に、真面目な顔で何かを書いていた。なんだろう?手紙でも書いてるのかな?

 

「ん?これはね、天界に送る報告書よ。女神ってのは結構忙しいんだから。いい年してヒキニートしてたカズマさんには縁のないものでしょうけど!」

 

「ヒキニート言うな!で、どんなこと書いてんだ?」ヒョイ

 

 この駄目神はことある毎に人の傷を抉ってきやがる。イラッとしたのでアクアの手からその報告書とやらを掠め取る。

 

「あっ、こら!勝手に読まないでよぉ!ヒトの手紙読むとか本当にサイテーね!返しなさいよこの変態!どうt・・・むぎゅ。」ムームー!

 

 何か色々煩いアクアの口を塞ぎつつ、報告書とやらに目を通す。

 

「どれどれ、え~と『女神アクアです。経過報告します。ごく一部にトラブルはあったものの、これまでほとんどバッチリ良好☆むしろ私のおかげで、極めて非力で社会性のない佐藤カズマ氏が救われているようなものです。献身的な私にカズマ氏も心から感謝しているようなので、つきましては、どうか私の帰還の許可を・・・。』って、なんじゃこりゃああああ!」

 

「んもう!勝手に読まないでよ!あんた少しはデリカシーってモノを覚えなさいよね!私だってカズマが夜中にゴソゴソしてるのには触れないであげてるんだからね!?」

 

「おお・・・おま、起きて!?!?いや、それよりおま、この内容なんだよ!ふっざけんなよ!だーれが非力で社会性が無くてニートで童貞だよ!?」

 

「ニートと童貞は書いてないでしょ!なに自己紹介しちゃってんのよ!こんのヒキニート!アンタねぇ、こんな美人の女神様と一つ屋根の下で暮らせて一体何が不満なのよ!?」

 

「はあ!?不満しかねぇよ!チクショー!」

 

『おい!うるせぇぞ』ダァン!

 

「「ヒイッ!?す、すみません!」」

 

 ヒートアップしたところで、隣からお叱りが入る。壁が薄い馬小屋での大声は御法度だ。俺とアクアは冷静になって話を戻す。

 

「ま、まぁ落ち着こう・・・。で?これが報告書ってことはお前はこれを天界?とやらに送るのか?帰れないのにどうやって?」

 

「私の場合はアクシズ教会で祈りを捧げることで報告を送ることが出来るの。いわゆる冒険の書ってやつね。最終的に私たちが魔王を討伐した時にはこの記録が神話となって語り継がれるってワケよ。」

 

「えっ?じゃあ何?お前は俺が非力だのニートだのってのを神話として残そうとしてるの?」

 いやいやいや、何してくれてんの、この自称女神は。

 

「?ホントのことじゃない?何か問題あるの?」

 

「いや問題大アリだろ・・・。神話の中でくらいちょっとはいいカッコさせろよ!」

 

 神話になってまで引きこもりだのニート呼ばわりされてたまるか!全力で回避させてもらおう!

 

「え~?まぁ別にいいけど・・・、私は書くのイヤよ、メンドいし。自分で書きなさいよ。」

 

「ん~・・・わかったよ。紙貸してくれ。これ、宛名とかあるけど、どうやって書くんだ?」

 

「まぁ本来は報告書だからね・・・、でも宛名が空欄だと受理されない可能性が高いわ。誰か適当に知ってる人に宛てて書くしかないんじゃない?」

 

「え?そんなアバウトなの天界って?でも知り合い・・・って、両親くらいしかいなかったけど・・・。」

 

「あっ(察し)・・・、カズマ・・・あんた・・・。なんていうか、ゴメンね?」ホロリ

 

「おいやめろ。こんな時だけ女神みたいな顔するのやめろ。」

 

「いいのよ?カズマ。私はお母さんにはなれないけど、友達くらいにはなってあげれるからね?崇めてくれていいのよ?」

「誰が崇めるか!こんなポンコツ女神!」

 

「あ~!今ポンコツって言った!ニートのクセに非道いこと言った!」

 

『いい加減にしろ!シバかれてぇか!?』

 

「「ヒィッ!?ごめんなさい!?」」

 

 また怒られてしまった。馬小屋を追い出されたら野宿になってしまう。気を付けねば。

 

「まぁいいか、取り合えず両親宛に経過報告を書けばそれが神話に反映されるんだな?」

 

「そうね。あっ、せっかく貸してあげるんだから、私の事もちゃんとアピールしといてよね!」

 

「へいへい。じゃあ一丁この俺が、異世界に来てから類い稀な才能を活かして、順風満帆な生活を送る物語でも書いてやるとするか。」

 そう、この時の俺は理解していなかった。このやり取りが、後にとんでもない事態を引き起こすことを。

 もし俺に歴史を変えられる力があるのなら、この時の自分の過ちを正していただろう。しかし、世界とは常々残酷で、思い通りになんてならないことばっかりだったんだ。

 

 

~佐藤家の食卓~

 

 

『母さん。僕は今、異世界に来ています。まるで生まれ変わったかのように清々しい気分です。家も仕事も見つかって気力十分。何より僕にはなんと女神様が付いているんです。だから心配しないでください。』

 やめてくれ!

 

『父さん。こちらは、異世界の生活にもすっかり慣れて、頼もしい仲間たちと忙しい日々を送っています。仕事も順調で、まれに見るスピード出世だともてはやされています。あまりのリア充っぷりに、疲れや寂しさや憤りを感じる間もありません。』

 

 やめてください!お願いします!

 

 

「・・・。」

「・・・。」

「」チーン

 

 体感で3年振り。日本では1年振りに帰ってきた実家。両親からすれば死んだはずの息子が突然現れて、パニックにでもなるんじゃないかとも思った。何を話そうか、どうやって信じて貰おうか、色々と、本当に色んなことを考えながら帰ってきたんだ。

 そしたら、自分でも忘れていた【神話】ならぬ【黒歴史】を両親に音読されていた。何を言っているか解らないかも知れないが、その言葉通りの状況に俺は気恥ずかしさと羞恥の感情に顔を真っ赤にして震えていた。

 文章を書くなんて小学校の卒業文集で将来の夢を書かされて以来なんだよ!俺もファンタジー小説の主人公みたいに異世界で俺が大活躍する話を書きたかったんだよ!でもこんな文章しか書けなかったんだよ!チクショー!

 

 

「和真・・・。」

「はい、和真です・・・。父さん。」

 

「本当に、和真なの・・・?」

「はい、本当に和真です・・・。母さん。」

 

「リア充、してるのか…?」

「いいえ、嘘つきました。ゴメンナサイ。」

 

 両親の方はというと、俺の名前を呼んでは本当に俺が帰ってきたことを確認している。

 しかし、何処か反応がおかしい。確かに驚いている、驚いてはいるようだが・・・、死んだはずの人間が目の前にいるという非常事態のわりには些か落ち着きが過ぎているような?

 

「あの、何か、二人とも反応が薄くないか?死んだ人間が帰ってきたらもうちょっと驚くんじゃないかと思うんだけど・・・?」

 

「あぁ、それはな、この手紙にも関わる事なんだが・・・。」

 

 俺からの疑問も予想してたとばかりに父さんが話し始める。

「手紙に関わる?てか何でソレがここにあんの?」

 

 あの手紙はアクアが天界に送ったんじゃなかったのか?いや、確かに宛名は言われた通りに両親宛にしてはいたけど…。でも天界への報告用だって…。

 

 と、もやもやと考えていると、全く予想もしていなかった大男がリビングのドアを開けて乱入してきた。

 

―――バァン!

 

「それについては我輩から説明しよう!」

 

 その大男はとても見覚えのある背格好で、黒のタキシードに白いネクタイ、何よりも特徴的な白黒の仮面を被っていた。こんな奴の心当たりは一人しかいない。

 

「はぁっ!?おま、バニル!?何でお前が日本にいるんだよ!?」

 

「フハハハ!先程の浅はかな願望をまるで小学生が無理やり書かされた拙い作文のような手紙を、数年振りに再会した両親に読み上げられた際の羞恥の感情、美味であったぞ!」

 

「ちょ、やめっ!?」

 

「「プッ・・・ククッ・・・。」」プルプル

 

「おい、そこの二人!必死に笑いを堪えてるの分かってるぞ!」

 

「違うのよ和真、母さんは嬉しいの。毎日ご飯を作っては『部屋の前に置いとけババア!』なんて言っていたあなたが私達に手紙を書いてくれる日が来るなんて・・・」ホロリ

 

「やめて!?2重の意味で黒歴史を掘り返さないで!?」

 

「母さん、私達の息子が見違えるようになって帰ってきたんだ。喜ぼうじゃないか。」シミジミ

 

「その反応もやめて!?」

 

 久し振りに会った両親が全力で俺を弄ってくる。解せん。

 

「ふむ、流石に勇者となった小僧の羞恥はまた格別であるな。」

 

「なんなの?次元を越えてまで俺を弄ってそんなに楽しいの?」

 

 半べそになりながらも俺はバニルに抗議する。

 

「さて、我輩も極上のおやつを食らって満足であるぞ。場も温まったところで、本題に入るとしようか。」

 

「もう、勝手にしてくれ・・・。」

 

 唐突に真面目になる大悪魔を前に、俺はもう色々有りすぎてどうでもよくなっていた。

 

 




 何年か振りに両親に会うとなんか緊張しますよね。親も何とか話題を作ろうとして、結婚予定とか地雷を踏み抜いてきやがるせいで余計に空気が重くなったり。そういうことってよくありますよね。え?ない?あ、そう・・・。

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