この素晴らしいハグレ王国に祝福を!   作:ひまじんホーム

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 カズマさんサイドです。
 原作完結後の世界の設定はWeb版のエピローグとか小説の小ネタとかを繋ぎ合わせて、「こんなことがありそう」くらいでゆる~く考えて作ってます。後で何とでも出来るようにね。
 設定のピースを埋めるのに、適当なオリジナルキャラが出たりしますが、そんなに重要な役回りになることはありません。
 クリスの扱いは悩みましたが、どんな感じに落ち着いたかは読んで頂いてお察しください。


第2話 森の熊さん

~冒険者の街アクセル~

 

 人類の仇敵である魔王が倒されて数ヶ月。

 ベルゼルグ王国の最新の歴史書には、力無き冒険者の少年が力無き者の為に剣を取り、厳しい試練の末に、女神エリスと女神アクアというこの世界を代表する二柱の女神からの信頼と寵愛を賜り、終には仲間達と力を合わせて魔王を討ち果たす、というサクセスストーリーが記されている。

 永らく魔王軍の脅威に晒されていたベルゼルグ王国の人々にとっては、念願の、はたまた諦めかけてすらいた平和な日々をもたらした冒険者は、まるでお伽噺の主人公の様に人口に膾炙され、「勇者」として人々の尊敬を集めていた。

 

 という、国が表向きに用意した完全に嘘っぱちとも言い切れない、しかし、事情を知る者からすると見過ごせないレベルで脚色された設定に上手いこと乗っかった、当のお伽噺の主人公は魔王討伐で得た莫大な賞金を元手に、合法的に自堕落な日々を送ることに成功していた。

 

 

「パス。まだ寒い。」

 

 もう雪融けも終わり、外は春もうららかな陽気に活気づく。人も、虫も、花も、野性動物も。

 魔王を討伐した勇者パーティの一人、推定人類最強の火力であるアークウィザード、めぐみんが、もう暖かい時季にも関わらずコタツに引きこもるパーティのリーダー、サトウカズマをクエスト依頼に誘うも、即答で断られる。

 

「全く、相変わらずどうしようもない男ですね。」

 

 誘いを断られためぐみんもその返答は予想していたようで、さして怒るわけでもなく、溜め息混じりに苦言を提す。

 いつもならここまででカズマの説得を諦めて、めぐみんと同郷で幼馴染みの紅魔族ゆんゆんを誘って魔王城跡まで日課の一日一爆裂に赴くところであるが、この日は事情が違っていた。

「しかし、今日はこのまま放っておくわけにはいきません。ギルドからカズマを指名で依頼が来ているのです。さっさと起きてギルドに行きますよ!」

 

「断固拒否します!」

 

 先程より強い拒絶を返し、顔が埋まるくらいまでますますコタツの中に引きこもろうとするカズマ。

 慣れたやりとりとはいえ、喧嘩っ早い気質のめぐみんは流石にちょっとムッとして布団ごとカズマをコタツからひっぺがそうと手を伸ばす。

 慌てた様子のカズマは必死に布団を押さえながら自己の正当性を主張する。

 

「ばっかお前。ギルドから指名なんてそんなの厄介事に決まってんだろ!?俺はもう厄介事や危険な事に首突っ込まないって決めたっつーの!そんなの修行とか言ってドラゴン退治やってる暇人なマツルギにでもやらせればいいだろぉ!?」

 肩書きだけとはいえ、とても勇者の発言とは思えない。ついでに名前も間違えている。

 

「暇人なのはあなたの方でしょう!カズマ!」

 

 めぐみんがカズマの押さえているコタツ布団に手をかけ引っ張るが、そこは最弱職の冒険者とはいえそれなりに高レベルのカズマさん。同じく高レベルとはいえ、後衛職のアークウィザードなめぐみん一人の力ではカズマを引っ張り出すまでには至らない。

 暫し硬直状態となるが、そこへパーティ随一の力持ちダクネスがフル装備に着替えて階段を降りてくる。

 

「なんだ。まだコタツから出ていないのかカズマは。」

 

 不正が発覚した後、失踪した前領主アルダープの後任としてアクセル領主となったダスティネス・フォード・イグニスの一人娘、本名はララティーナ。

 魔王討伐後も暫くは、魔王軍とのアクセル防衛戦に参加した冒険者への褒賞金の分配や、アルダープの汚職の後始末に追われる父を手伝っていたが、最近はイグニスだけでも処理できる程度に仕事量も落ち着いてきたので、冒険者稼業を再開している。

 

「ダクネス!手伝ってください!二人でカズマをコタツから引っ張り出しますよ!」

「ああ、わかった!」

 

 前衛職の中でも、とりわけ防御力に特化したクルセイダーにとっての防具とは、固いだけでなく相手の攻撃に踏ん張れる為の重さも重要である。

 ダクネスが着ている鎧にはこの世界で最も固く、そして最も重いアダマンタイトがふんだんに使われており、フル装備をしたダクネスは成人男性を数人抱えて動き回っているようなものである。ちなみにこの鎧は魔王討伐時の褒賞としてベルゼルグ第一王女アイリスから賜ったもので、ダクネスは褒賞金の殆どをエリス教会の孤児院とアクセルの街に寄付したらしい。

 そんな貴族の鑑のような心清らかなダクネスだが、仲間を守るクルセイダーとして腹筋が割れるくらいにマッチョなのは仕方がない。そう、仕方がないのである。

 ダクネスがコタツの両端を掴みヒョイと持ち上げると、コタツの四つ足に器用に両手両足を絡めてしがみついているカズマの腹部側が顕になる。

 

「やーめーろーよー!はーなーせーよー!」

 

「今です!隙あり!」

 

 めぐみんは両手両足が塞がって完全に無防備になったカズマの脇腹をくすぐる。

 

「ぶはっ!?やめろめぐみん!?わはっ、わはははは・・・は!」ボテッ ビターン

 

 脇腹をくすぐられて力が抜けたカズマは受け身もとれず情けなく顔面から落下した。

 が、落下した後もめぐみんのくすぐりは止まらない。

 

「わはははは、め、めぐみん。やめろって、わはは、」

 

「クエストに出るというまで止めませんよ?」

 

「わはっ、わかった!わかったから!クエストでもなんでも行くから止めてくれっ!ひぃ~。」

 

「わかった?わかりました。でしょう?」

「わかりました!わかりましたからぁ!止めてください~!」

 

 と、カズマから泣きが入ったところでめぐみんの手が止まる。

 

「全く。どうせこうなるんだから、手間かけさせないでください。ダクネス、協力感謝致しますよ。」

 

「きゅう~・・・」ポー

 めぐみんがダクネスの方に振り向くと、何やらダクネスは顔を赤くしてモジモジしている。

 

「め、めぐみん。朝からそんな大胆なプレイをするなんて・・・。後で是非私にも・・・!」

 

「お断りします。」

 

「キャウン!」ビビクン

 

 バッサリ切られたダクネスが悶えていると、玄関に人影が二つ。アークプリーストのアクアと盗賊のクリスである。

 

「ちょっと、カズマ~?まだなの~?こっちはもう、準備万端なんですけど!」

 

 アクアは天界に戻った後は自由に天界と地上を行き来しており(というより仕事そっちのけでカズマ邸に入り浸っている時間のほうが長く)、自由奔放に冒険者生活を謳歌していた。たまに仕事で忙しいエリスを強引に引っ張り出して一緒に行動している。

 

「やあやあ、相変わらず賑やかだね~ここは。こんにちは。約束を果たしにきたよ。」

 

 時折テレポートで天界にあるエリスの執務部屋に顔を出すカズマは、たまには一緒にクエストを、という約束をエリスと交わしていた。しかし、冬場はまともなクエストが少なく、春になったらなったで活動を始める冒険者の死者が増え、エリスが本業で忙しくなったのと、カズマが危険なクエストを避けたがるのと相まって、なかなか約束を果たせないでいた。

 

 今回はギルドからの依頼で流石のカズマもクエストを受けるだろうと踏み(嫌がっても強制的に受けさせ)、クリスをアクアが呼びに行き、その間にカズマを叩き起こす算段だったらしい。

 

「おぉっ!クリスじゃないか!?まさか今日は一緒にクエストを!?何だよ~お前達それを先に言えよな~。早く準備して行くぞ!」

 

 色物ばかりのパーティメンバーと反対にエリス様は正統派ヒロインと呼んで憚らないカズマは、クリスを視界に捉えるや否や、この熱い手のひら返しである。クズマとかカズマとか呼ばれる所以でもある。

 

「うわぁ・・・」ヒキー

 

「カズマ、さすがの私でもそれは・・・」

 紅魔族の村でお互いを好きだと打ち明けたのはなんだったのか。

 結婚式に乱入して自分の持つ知的財産のほとんどを擲ってまで自分をバツイチにしてくれたのはなんだったのか。

 カズマを巡る人間関係は当の本人がいつもこんな調子なので一向に進んでいない。

 先程までコタツファイトしていた色物ヒロイン枠の2名が白い目で見ているが気にしない。カズマは自室へかけ上がり急ぎ出掛ける準備を始める。

 

「クリ・・・いえ、エリス様、最近忙しくされていたようですが、今日は本業のほうはよろしいのですか?」

 

 女神エリスは、魔王との戦いの後、カズマの悪知恵によって降臨させられた際にパーティメンバーに本来の姿を見られたことで、盗賊クリスがエリスの分身であることは既に知られている。

 

「ダメだよ~ダクネス。私がこの姿でいるときは君の親友で盗賊のクリスなんだからね?君がダスティネスではなく、ダクネスとして冒険者をやっているのと同じさ。敬語もナシだよ。大体女神だからって今更気を使われてたらアクア先輩だってやりにくいでしょう?」

「えっ?私は敬ってくれても全然OKよ?寧ろ女神としてもっとチヤホヤしてほしいくらい!」

 

「ああ、そうだな。今更アクアに畏まるというのも無理な話だな。」

 

「え~!なんでよ~!」

 

「たはは・・・。」

 

 あ~そういやアクア先輩はこういう人だったと苦笑いしながら、ダクネスと今までと変わらない間柄を続けられることを嬉しく思うクリス。

 

「そうそう。で、今回私がパーティに参加しようと思ったのがさ、約束を果たすってのもあったんだけど、最近ちょっと嫌~な予感がしていてさ・・・。皆には話をしておきたかったんだ。」

 

「「「嫌な予感?」」」

 

 この場にいる全員の顔つきが真剣なものになる。この世界で最も信仰されている女神が嫌な予感がすると言う。敬虔なエリス教信者のダクネスは勿論、めぐみん、そしてアクアもクリスの話に耳を傾ける。カズマはまだ自室で着替えをしていてこの場にはいない。

 

「そう、なんとなくなんだけど、今世界のあちこちでこう、濁りみたいなものを感じるんだ。もしかしたら、新しい魔王が生まれる予兆かもしれない。」

 

3人が息を飲む。先代魔王が倒れてまだ一年も経っていない。魔王軍に侵略され、破壊された建物や農地にはまだ復興途中のところもある。当然、大切な人を失った人の心も癒えていない。それだけの傷痕を残しながら新しい魔王?冗談ではない。

「まぁ、現時点じゃまだ何とも言えないんだけどさ。ただ、もしそうだとしたら、必ず今代の「勇者」が話の中心に置かれるはず。世界はそうやって出来ているからね。そして今日、ギルドから「勇者」へ向けた依頼がきた。果たしてこれは偶然なのかな?」

 

 淡々と言うクリスの話に聞き入る3人。いきなり魔王誕生とか言われてあっけにとられるが、これだけは言えた。

 

「「「今の話はカズマには決して話さないようにしよう!」」」

 

 この話を聞けばせっかくやる気になったカズマは確実に逃げ出すだろう。四人は固く口を結んだ。

 

 

~ギルドまでの道中~

 

「髪の毛一本からできる慈善活動で~す!ご協力頂ける方を募集していま~す!」

 

 ギルドまでの道すがら、カズマと同じくらいの年頃を思わせる数名の男女が通行人へチラシを配っている。

 何人か奥のテントの方に連れられ、書類を書いたりしている。

 

「なにやってるんだアレ?」

 

 さっさと用件を済ませたいカズマは、足を止めはしないが、隣にいたダクネスに問いかける。

 

「最近王都で生き物からマナエネルギーを取り出す研究をしている団体がいてな、その実験に使うのに髪の毛を集めてるんだそうだ。と、お父様は仰っていた。」

 

「マナエネルギー?ってマナタイトとかに埋まってるやつ?」

 

 あまり聞きなれない単語だが、マナという言葉から魔王討伐時にも馴染み深いアイテムを連想する。

 

「マナエネルギーとはどんな物体にも含まれている、魔法の源となる力のことです。普段は空気中にもあるので意識もされませんが、マナエネルギーがなければ魔法が使えないばかりか、植物は育ちませんし、動物も生きていけません。マナは水にも多く含まれますが、逆に砂漠のような場所は全くマナエネルギーが無く、生き物が住めない土地になります。」

 

 ダクネスに替わり、パーティで最も魔法の知識があるめぐみんが答える。

 

「つまり、人間はマナがないと、爆裂魔法を放った後の役に立たないめぐみん状態になるってわけか。」

 

「その言い方は喧嘩を売っているのですか?いいですよ?受けてたちましょう!」

 

 目を紅くし、マントを翻しながら抗議をするめぐみん、を、軽くいなしてカズマは話を続ける。

 

「で、あの連中は何者なんだ?」

 

「研究団体の職員といったところだろう。しかし、国の公的な組織ではないし、彼らの素性はよくわかっていない。髪の毛といえど安易に体の一部を提供するような真似は避けるべきだというのがお父様からの言い付けだ。」

 

「ふ~ん・・・。まぁ、そういうのは関わらないのが一番だよな~。アクアみたいのが引っ掛かって、あとで揉めるのがオチだわ・・・って、アクアは?」

 

 まさかと思って先程までアクアが歩いていたはずの後ろの方に振り返るカズマ。しかし、時既に遅し。先程のテントのところで熱心に説明を聞いて書類を書いてるアクアの姿と、「先輩、おいてかれますよ~(汗)」とアクアを急かすクリスの姿が。

 

「あんの馬鹿は~!」

 

 全く後先考えず行動するアクアに腹を立てたカズマはテントの方に駆けていく。

 

「あっカズマ!聞いて聞いて!すっごいのよこの人たち!髪の毛から取り出したマナで医療とか砂漠の緑化とかの慈善活動をしてるんだって!」

 

「こんのポンコツ自称女神がぁ!」ゴツン

 

「んみゃあああ!?」

 

ーーーーー

 

「ヒック、ヒック、わだじ、わるぐないのに~。なんでよ~!」

 

 理不尽な暴力に晒されたと主張し、泣きわめくアクアと、よしよしと(無い)胸を貸してそれをあやすクリス。クリスの慣れた様子からこの二人の女神は元々そんな間柄なのだろう。

 

「まったく、素性もよくわからん奴にホイホイ関わるな。」

 

 手のかかる子供を叱るようにアクアを説教するカズマ。先輩大好きなクリスも何だかんだでアクアのことを思って叱るカズマのことは信用していたりする。

 

「はぁ~・・・。」

 

 たったギルドまで行く間に一悶着。早速今回のクエストに並々ならぬ不安がつのるカズマであった。

 

 

~冒険者ギルド~

 

「いらっしゃいませ~!あら、サトウカズマさん!やっと来られたんですね!こちらにどうぞ!」

 

 アクセルの冒険者ギルドにおいて男性冒険者から圧倒的な支持を受ける看板娘、娘?のルナがカズマパーティの姿を視界に入れると元気な声をかけてくる。今回は冒険者ギルドからの依頼ということと、他の冒険者に話が拡まるのを避ける為、窓口ではなく奥の応接室に通される。

 五人はルナに案内された部屋で各々寛いでいる。公共施設であるギルドであるが、さすがに来客用の部屋ともなれば絵画なの調度品が置かれており、待ち人の目を楽しませる作りになっている。

 

「へぇ~ギルドにもこんな部屋があったなんてな。」

 

「ねぇねぇ、カズマさん!この絵、なかなかのものだわ!この水と芸術を司るアクア様を唸らせるとはきっと名のある画家の作品に違いないわ!」

 

「お前は酒と宴会芸の女神だろうが。何が芸術だよ。芸術に謝れ。」

 

「なんですって!このクソニート!」

 

 このパーティではもはやお約束となった掛け合い漫才を始める二人。とても女神がしていいとは思えない形相でカズマの襟元をガックンガックン揺らすアクアと、ムキになるアクアを鼻で笑うカズマ。

 そんなこんなで騒いでいると、ドアをノックする音が聞こえ、大柄ながら温和そうな壮年の男性が入ってきた。

 

「お待たせしてしまい、申し訳ありません。アクセル冒険者ギルド長のカプリコと申します。」

 

「あ、冒険者のサトウカズマです。」

 

 先程まで口喧嘩をしていたアクアを脇に置き、カズマも丁寧に挨拶を返す。相手に丁寧な物腰で挨拶されると、こちらも相手に合わせて頭を下げてしまう、日本人ならではの感性であろうか。

 

「この度はご足労頂き感謝致します。」

 

「いえいえ。」

 

 普段はゲスマとか呼ばれるカズマであるが、きちんと礼儀を弁えた相手には畏まってしまう。勇者と呼ばれるようになっても小心者な根っこは変わっていない。

 

「さて、早速ですが、今回の依頼についてお話しさせて頂きます・・・。」

 

――ー――

 

 ギルドからの依頼は要約するとこうだ。

 昨夜未明、アクセルの街近くの森で眩い光と大きな衝撃音があり、ギルドに通報があった。最初はいつもの爆裂魔法のことかと思ったギルドだが、最近頭のおかしいその使用者が毎日魔王城へ爆裂魔法を撃ちに行っており、昨日も魔王城へ行っていたことも把握していた。

 すぐさま別の可能性を考慮して、ギルド職員と衛兵で調査したところ、森の中に謎の建造物を見つけたとのこと。

 未だに捕まっていない前魔王の娘との関係は不明であるが、大きな爆発の痕が残る森の状況と、謎の建築物が敵対勢力の拠点である可能性を否定できないことから、ギルドは事件の危険性を推定A級以上と判断。

 現状、アクセルの街最高の冒険者(ということになっている)カズマのパーティにご指名で調査、場合によっては討伐の依頼が入った次第である。

 

 

~アクセル近辺の森~

 

「帰ってもいいですか?」

 

「しばきますよ?」

 

 件の森の入口まできて、早速やる気をなくすカズマ。魔王軍の残党の可能性を聞いてビビっているらしい。一方、後ろのほうでコソコソ話しているダクネスとクリス。

 

「クリス、今朝の話と今回の依頼というのは関係ありそうか?」

 

「ん~どうかな?こんなに分かりやすく魔王軍が動くなら私ももっと具体的な調べがつきそうなものだけど・・・。ただ、この依頼がちょっと特殊なのは間違いなさそう。」

「それはどういう・・・」

 

 ダクネスが言いかけると、先頭のカズマがピタッと足を止め、前方に注意しながら告げる。

 

「しっ、敵感知に反応があった。お前ら構えとけ。」

 

 何だかんだしっかり自分の役目を果たすカズマがパーティに警戒を促す。

 

「この反応は・・・、一撃熊か!?畜生、なんでこの世界の生き物はこんなに逞しいんだよ!ちょっとくらい遠慮しやがれ!」

 

 ベルゼルグでは最近強力な野生モンスターが街近くにも出没するようになってギルドが対応に追われている。魔王軍という天敵がいなくなり、今まで成りを潜めていた野生モンスターの活動が活発化しているのである。

「カズマ、ここは私の爆裂魔法で!」

 

「私が前に出て囮になろう!」ハァハァ

 

「私は後ろで応援してるから!」

 

「お前らちょっと黙ってろ。」

 

 相変わらずまとまらないパーティである。放っとくと勝手に自爆する色物ヒロイン達を制して作戦を練るカズマ。

 

「一撃熊のクリティカルは高レベル冒険者でも一発KOされることもある。接近戦は避けるぞ。俺とクリスが潜伏使いながら射程距離まで移動、クリスがバインドで縛り上げたところを俺が狙撃で仕留める。めぐみんは討ち漏らした場合に備えて呪文詠唱、ダクネスはめぐみんを守っててくれ。アクアは俺とクリスに支援魔法を頼む。」

 危険性を極力排除した一見卑怯とも言える作戦だが、常に安全を確保しながら戦うのが冒険者として長生きできるコツである。小心者なカズマであるが、そういう意味では冒険者向きな性格なのかもしれない。まぁ、結局無茶して何度も死んでいるわけだが。

 

「へぇ~ちゃんとリーダーやってるじゃん。なかなか的確な指示だったよ後輩君。」

 

「それはどうも。先輩。」

 

 防御特化の前衛、作戦指揮と攻撃補助の中衛、火力特化の後衛と回復支援特化の後衛。字面だけ見れば非常にバランスのとれたメンバー、しかもその内三人が上級職ときている。

 しかし、尖りすぎたパラメータと頭と性格の残念さと相まって、彼女達に好き勝手に行動させるとロクなことにならないのは長い付き合いでよくわかっている。このパーティはやはりカズマが中心にいないと機能しないのである。

 

「さて、そろそろ見えてくるかなっと・・・、ん!?あれは!?」

 

 敵関知の反応があった場所からおよそ40メートル程の地点、一撃熊の姿を視界に入れようとカズマが目を凝らして千里眼を発動させる。見えたのは一撃熊と、それと対峙している少女が二人。一人は青い髪を両サイドに束ねた頭に王冠を被った珍妙な格好、もう一人は白いシャツに赤いスカート、森にいるにしては明らかにおかしな格好、どちらも年の頃は10歳くらいであろうか。

 なぜこんな所に子供が?という疑問もあったが、これは放ってはおけない。ロリコン気のあるカズマにとって幼い少女が傷付くことなど許しがたい事態である。

 カズマは一瞬クリスに目配せを送り合図をすると、二人は一気に駆け出す。

 が、二人は信じられない光景を目の当たりにする。

 

「レイジングウィンド!」ビュワー

 

「フルスイングタイガー!」パコーン

 

 白シャツの子が聞いたこともない呪文を唱えると強力な風がカマイタチとなって一撃熊を切り刻みながら浮き上がらせる。そこへ青い髪の子が持っている杖をゴルフのようなスイングで振り回してかっ飛ばす。 軽く10メートル程はかっ飛ばされた一撃熊は絶命したようだ。

 

「う~ん、なかなか強いモンスターもいるようでちね。まぁデーリッチの手にかかればチョチョイのチョイなんでちけどねぇ。」

 

「ほら、そうやってすぐ調子に乗るのがアンタの悪い所でしょう?油断して怪我なんてしたらまたローズマリーに怒られるわよ!?」

 

 カズマとクリスは潜伏状態を解かずにその様子を見守る。明らかな異常事態から察するに、今回のクエストの関係者である可能性があると考えたからだ。

 

「もう、ミアちゃんは悪の秘密結社の一員なのに真面目過ぎでち。」

 

(悪の秘密結社!?)

 

「あんたが緩すぎるのよ!王様なんだからちょっとは自覚しなさい!」

 

(王様!?)

 

(この感じ・・・、もしかしてあの子アンデッド?しかも王様?アンデッドを従えた王様って・・・??)

 

 あの戦闘力に、悪の秘密結社、王様、アンデッド。そしてギルドから言われた魔王の娘。不穏なキーワードが出揃い、怪しさMAXである。

 とはいえ、一撃熊を軽く葬る相手。見た目は幼い少女だが、全く油断はできない。もし相手が敵対勢力であればまともにやり合っても勝てない可能性が高い。

 少し旬順してみたが、ここで剣を交えるにはリスクが高すぎるし、秘密結社というからには仲間がいる可能性がある。しかし情報を得ないと動きがとれない。

 多少リスクはあるが、二人は退路を確保しつつ接触を試みることにした。あくまでも偶然出会った風を装って。

 

「お?何でこんなとこに子供がいるんだ?」

 

「キミたち、森は野生のモンスターが出るから危険だって大人に言われなかった?」

 

 ややクサイ芝居じみた言い方になったが、特に怪しまれたわけではないようで、子供達からは普通の反応が帰ってくる。

「あっ、こんなとこで人に会えるなんてラッキーでち!お兄さん達は近くの街の人?」

 

「そうだけど・・・。お前達は?この辺じゃあまり見ない格好だけど?」

 

「私達は迷子?みたいなものなのよ。ちょっと街を探していたのだけれど、もしよろしければ案内しては頂けないかしら?方角を教えて頂けるだけでも構わないわ。」

 

 この付近にはアクセル以外の街はない。であれば、こいつらは何処から来たんだ?この変な格好もここいらでは見かけない服装だ。

 普通の人なら、この状況でこんな怪しい子供達を相手にしないだろう。ましてや安楽少女の変種ではないかとさえ疑われて警戒されてしまいかねないレベルである。 しかし、カズマはこの状況に少々心当たりがあった。自身も似たような状況を経験していたからだ。この世界では見慣れない服装、妙に世間知らずな反応、チートな能力。こいつらまさか異世界人か?という可能性に行き当たり、カズマは問いかけようとするが、相変わらず空気を読まない自称女神によって遮られる。

 

「カズマ~!クリス~!どうしたの~!?急に走り出すから見失っちゃったんですけど~!」

 

「あっ、アクアさ~ん!こっちで~す!」

 

 後方に控えていた三人がクリスの呼び声に気付いてやってくる。

 

「全くもう!何なのよ二人して、女神であるこの私を置き去りにするなんて!そこに直りなさい!」

 

 置いていかれたことにご立腹なアクア。素直に正座するクリス。無視して話を続けようとするカズマ。

 と、そこへ向こうからも呼び声が聞こえる。

 

「デーリッチちゃ~ん、ミアラージュちゃ~ん、一度休憩しますわよ~」

 

 福ちゃんがデーリッチとミアラージュを呼びに来る。

 

「福ちゃ~ん!こっちに来るでち~!人がいたでち~!」

 

「あらまぁ、本当に?」

 

 数秒待つと、白いレオタードのような格好にサンタ帽のような物を被った妙齢の女性が現れる。ニコニコ顔の温和そうな大人の女性、しかも巨乳、しかもレオタードである。ついつい鼻の下が伸びるカズマに、女性陣の目が突き刺さる。

 福ちゃんと呼ばれたその女性が此方を見やると、ニコニコしたまま驚きの声を上げる。

 

「まぁ!?あなたアクアちゃん!?アクアちゃんね!」

 

 クリスに偉そうに説教をかましていたアクア。思いもよらぬ方向から名前を呼ばれて振り返る。

 

「はあぁ?この高貴なアタシをちゃん付けで馴れ馴れしく呼ぶのなんて年増の福の神様くらいよ!何よアンタ!ニコニコ顔まで福の神様みたいな顔しちゃって!」

 

「誰が、年増ですって?ア・ク・アちゃん?」ニコニコ

 

 表情はニコニコしたままだが、福ちゃんから発せられる冷たいオーラによって周囲の温度が10℃程下がる。

 

「えっ?えっ?この冷気はまさか、本当に福の神様?」

 

「ちょっと、オシオキが必要ですわね。」ゴールデンハンマー

 

「んみゃぁぁああ!」

 

 

 森の中にアクアの悲鳴が木霊した。

 




 登場人数の問題でカットした没ネタ(妄想)集 その①

◆貧乏店主の魔道具店を繁盛させようと奮闘するベル君の道具屋物語

◆紅魔の村を訪れたウズ大先生と紅魔族随一の小説家あるえの合作、そして腐に染まるゆんゆん

◆地竜ちゃんに付きまとわれる元ドラゴンナイトさんの冒険記

 時間があったら短編ifでも書きたいけど、無理だろうな・・・。
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