電車で席に座れず、揺られ続けて一時間。 長い激闘の末、手に入れることができたVRMMO一式が入った袋を持ち、開いた電車の扉から出る。 駅のホームで一旦袋を持ち直し、改札口を通って外に出て、すぐ傍に設置されていたベンチに深く座り込んだ
……ようやく戻ってこられた。 この街に
「はぁ……」
大きく溜息をつきながらスマートフォンを取り出して、よく付き合っているリア友数名にメールで成果を報告した後、立ち上がって帰り道を辿っていく
……どのくらい店の前で待っていたっけ。 ……そんなに待ってなかったかな
そんなくだらないことを考えながら歩いていると、道端で露店が開いているのが見えた
「…………」
再びスマートフォン……略してスマホを取り出して日付を確認する
十月三十一日……今日はやっている日か。 なぜか月の終わりで店を開いているんだよね。 占いをやっているみたいで、いかにもな水晶をテーブルの上に乗せ、黒のフードをかぶっていつも水晶に手をかざしている。 ちなみに顔は隠れていて見えないけど、見えた人の証言によれば二十代の女性らしい。 それと、よく当たる
いつも通り無視してその場を過ぎていく
「待ちなさい」
「!?」
急に呼び止められた。 いつもは呼び止められたりしないのに
「こっちに来なさい」
「…………」
警戒しつつも、近寄っていく。 その間も占い師は水晶に手をかざしたままだ
「そんなに警戒しなくてもいいわ。 あなたを占うだけだから。 そこの椅子に座って」
「は、はあ……」
占い師の向かいに置かれている椅子に座り、荷物を脇に置く
……警戒するなっていうほうが無理だよ。 癖が染みついて離れないんだから
「……だ、代金は?」
こういうのって……必ずといっていいほどお金がかかるんだよね
「タダでいいわ。 呼び止めてしまったから」
「はあ……」
会話を続けている間も、占い師は手をかざしつづけていた
……タダか
「……終わり。 見えてきた結果を言うわね」
いつ占っていたんだろう
「どうぞ……」
「…………」
占い師が少し間を空けた。 そして、結果を話し出す
「……出会いと別れ……それらが幾重にも重なり、繰り返される。 ……どういうことかしら」
こっちが聞きたい
「もう一つあるわ」
まだあるんだ……
「……不可解な出来事に頭を悩ませる」
「…………」
その一言に、これまでの記憶の一部が浮かんできた
初めてプレイしたMMORPGではなぜかわからないけど、レベルが上がったときのポイントを自動割振りに設定していたら、素早さばかりいって頭を悩ませていた気がする。 手動で割り振っても素早さ以外のボタンが正常に働かなかったから、その時は速攻で問い合わせたけど
……まさかね
「……以上よ」
占い師が水晶に手をかざすのをやめた
「意外と面白い結果ね」
「そんなわけないじゃないですか……」
「そんなこと言うと代金頂くわよ?」
「呼び止めたんだから駄目に決まってるじゃないですか……警察呼びますよ?」
「それは困るわ」
荷物を持って店から出ようとすると、占い師に腕を引っ張られた
……これは本格的に呼んだ方が……
「私の占いは紛い物じゃない。 これだけは覚えておいて」
「……はあ……?」
それだけ言うと腕を離して、またいつものように水晶に手をかざしだした
「…………」
……意外とこういうの信じるタイプだから、意味深げなことは言わないで欲しかったなぁ
その場を後にして少し歩くと、自宅が見えてきた。 二階建てのごく普通の家だ。 家の前に着いてネームプレートを見る。 ……そこには『吉川』と彫られていた
……いろいろあったけど、帰ってこれてよかった
玄関の戸を横に開けて、大きな声でいつもの一言を言う
「ただいまー!」
「ん? 神奈お姉ちゃん?」
「!?」
いつもならシーンと静まり返る家の中から、私の名前を呼ぶ声が返ってくる。 危うく買ってきたものが入っている袋を取り落すところだった
気を取り直して家の中に上がっていくと、私の唯一の妹である吉川
「劉……なんだかおっさん臭い」
今、目にしている光景に思わず声が出てきた
「お姉ちゃんの頭がちょっと弱いみたいだから、代わりに読んで長期休暇明けのテストの時事ネタ対策してあげてるのに……その発言はちょっとひどくない?」
「申し訳ございませんでした」
「そんなだから、『二人で一人前』とか『元々一人だったのが事故で二人になった』とか『武の神奈、知の劉』とかって言われちゃうんだよ」
「滅相もございません……」
「教えてあげてるんだから、言葉には気を付けてよ?」
「はい、気を付けます」
劉には頭が上がらない……。 身体を動かしてばかりで勉強を疎かにして、赤点ギリギリなところをいつも救ってもらっているから。 そんな厳しい言葉を投げかけてくる劉は私と違ってとても頭がよくて理系文系問わず、トップの成績を持っている。 そして、機械関連に著しく詳しい。 しかも、運動能力が女子平均値。 ……私がいなくても一人前じゃん、と常々思う
「それで……収穫は?」
「はい」
空いているソファーに座り、テーブルの上に戦利品を広げる
「勝利を掴んだ瞬間」
「別に勝利でもなんでもないって」
「……え?」
「はい、これ見て」
劉が、膝の上に乗せていたノートパソコンの画面をこちらに向けてきた。 そこに映っていたのはとあるサイト……ナーヴギアの販売元だった
「で、これが重要」
劉がマウスを操作すると、画面が移行した
「…………」
それを見て、身体に衝撃が走った
「購入……ページ……」
……店頭販売だけじゃなかったの?
「お姉ちゃん」
「はい……」
「無駄足だったね」
「…………」
静かになった家の中で、パソコンの動作音が響き渡る
「それじゃあ、早速セットしよ」
「あ、うん」
とりあえず、買ってきた箱から全部出してみる
「これがナーヴギア本体で、これが繋ぐためのケーブル……」
「こっちはソフト起動用のものになんのね」
劉が、まるで最初からわかっているかのようにてきぱきと機材を組み合わせていった
「なんでわかるの?」
「単純なのにわからないのが逆にすごい」
「説明書見れば……」
「見なくてもわかるでしょ」
「…………」
心に痛恨の一撃! 深いダメージを負った!
「あ、お姉ちゃんってオンラインやってたっけね」
「……うん」
「その割には適応力低いよね」
「説明書ちゃんと読むタイプだから……」
「始めるまでで一日が終わりそうだよね」
「…………」
心に痛恨の一撃! オーバーキル!
脳内で蘇生薬を自分に振りかける妄想をして、気を取り直す
「……これ、分解してもいい?」
劉が、ナーヴギア本体を指差して言った
……また始まった。 興味のあるものを分解して中身を見てみないと気が済まない癖が。 ……今まで分解したものをちゃんと元に戻せてきているという実績があるから……いいよね
「どうぞ」
持っているナーヴギア本体を渡す
「全部」
「これだけって言ってたのに……」
「いいからいいから」
「…………」
全部袋に戻して渡した
「一時間ほど待ってて」
劉がリビングから出て行った
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約束した一時間まで後、十分。 劉が戻ってきた
「はい、調べ終わった」
「もういいの? 時間余ったけど?」
「そんなに時間かからなかった」
「満足?」
「大満足」
劉がいたずらな笑みを浮かべた
……こういう時は何かしらやったに違いない。 何をやったか知らないけど
「起動するために寝室に行って」
「……なんで?」
「なるべくリラックスした状態でやるのが効率がいいから」
「へー」
「セッティングしておいたから、後は起動するだけだよ」
「ふーん……」
とりあえず自室に向かう。 自室は劉と共同の部屋だ。 共同にしている代わり、部屋が広い
部屋の扉を開けると、二つ並べてあるベッドのうち一つにナーヴギアが置かれていた。 ベッドに腰掛ける
「髪はちゃんと出しておくか、ナーヴギアに引っ込めておいてね」
「ゴムは?」
「邪魔にならない程度ならいいと思う」
ナーヴギアを装着する。 柔らかい感触が頭を包み込んだ
……ちょうど頭の形がフィットするようになってるみたいだ
「んじゃ起動して」
ナーヴギアの電源を入れる
「アナウンスにしたがってやっていって」
[ご購入ありがとうございます]
無機質な女性の声が耳元から聞こえてきた
「……これ飛ばせないかな」
「諦めて」
[身体測定をします。 そのまましばらくお待ちください]
「どうやって身体測定するの?」
[骨格を登録します。 手で体を触れてください]
「だって?」
「はい」
身体のあちこちを触れていく。 これでどうやってするんだか……
「脳波から検出してるんだと思う」
[登録終了。ありがとうございました]
「終わったみたい」
「そのままSAOやる?」
どうしよう
「今何時?」
「一時半。 お父さんとお母さんは今夜は遅いよ」
「じゃあやる」
「もうセットしてあるから。 後は目をつぶって」
「ん……あ、ちょっと待って」
ふと、唐突に訊きたくなったことがあった
「ずっと前にプレイしてたオンラインゲームあったでしょ?」
「あー、素早さしか上がらねーって言ってたやつね。それ私がやったの」
ここに犯人がいた
「……なんで素早さ重視にしたよ?」
「あのゲーム素早さ高くなると回避しまくるでしょ? 蝶のように舞って蜂のようにさせるじゃん」
「攻撃力に割り振れなかったから蜂じゃなくて蚊だよ」
「その代わりにドロップ率と経験値とお金取得率二倍にしておいたからいいじゃん」
「ま、まあ……うん」
滅多に手に入らないレアアイテムが複数個ドロップした時は目を疑った。 あれも劉の仕業だったんだ
「……まさかこのゲームにも仕掛けてないよね?」
「それはない。 したかったけど」
する気だったのか……
「はぁ……」
長旅もあってからか身体がすごく疲れた
「今日はやめる?」
「仮想空間に逃げ込む」
「んじゃ、グッドラック」
「…………」
目を閉じる間際に見た劉の口元はにやついていた
……本当に何もしてないよね?
思いつきと勢いで書いてみた。 苗字かぶったら運命だと思ってください
アナウンスは原作では実際には話していないみたいだったので想像でやりました