SAO_格闘少女が往く_   作:ALUM

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「私の拳は全てを貫く!」

「じゃあそこの壁を殴って」

「…………調子乗りました」


3rd_アドヴァンス_

「……開きません……」

 

「……開かないね」

 

 

アインクラッド第二層、空中庭園の迷宮区にて、ゴ……じゃなくてカンナこと私は今、困ったことになっていた

 

 

「押してはダメか……だったら横にスライドォ!!!」

 

「まずは引きなよ……」

 

 

目の前には取っ手のない少し大きな扉、それが開かない

 

 

「スライドも駄目か……うーん……」

 

「……」

 

 

まだここにたどり着いた人たちは私たち以外にはいないみたいだ。 攻略組の人たちは一層のボス攻略に疲れてたみたいだし、それにその日の半刻経ったくらいにここにきたから……まぁ、当たり前といえばそうか

 

 

「全力で粉さ――ったぁ~……」

 

 

扉を殴りつけようとすると、頭頂部に鈍い痛みが走った

 

……ナーヴギアの出力が高いおかげで私にしかこない感覚。 まぁ、それのおかげで景色が鮮明に見えていいんだけど

 

 

「……痛いじゃにゃいですかぁ……」

 

「痛みは人を従順させる最も効果的な劇薬よ。 ほら、現に無茶なことして自爆するの防げたでしょ?」

 

「にゃに気に怖いこと言わにゃいでください……」

 

 

頭を押さえながら怖いことを言ってきた人物に顔を向けると、さも面白そうなことを見つけた人がする表情をした私の仲間、フィーストがいた

 

 

「ちゃんと話を聞かないから悪い」

 

「にゃあ……」

 

「ふふっ……」

 

「うっ……今笑われた……」

 

 

その場にしゃがみ込んで指で円をなぞる

 

宿屋で猫耳と猫しっぽをつけたあの日……といっても数時間前のことなんだけど、その時から私の言語機能というかチャット機能みたいなものが、どうやらおかしくなってしまったようです。 それのせいでナ行のナをニャと発音してしまったり、さっきハイって言おうとしたのにニャアって言ってしまったり……。 しかもこのアタッチメントは外せなくなってるし、あるべき部分にあるはずの耳がなくなってる……もう散々だよ

 

 

「だって、ねぇ……?」

 

「うぅ~……」

 

「どうせ私以外と話さないんだから問題ないでしょ?」

 

「そうですけど…………」

 

 

幸いにも、フィースト以外に話す人がいない。 ……それが果たしていいのかは私にはわかりません

 

 

「ならいいでしょ?」

 

「にゃあ……」

 

 

おかしくなってからは……話しづらいってことはない。 だけど、にゃあにゃあ言うたびにフィーストがにやけるのはなんか癪だ。 ……我慢しよう

 

 

「…………」

 

 

ちなみに今、私の外見は『求道者の外嚢』によって完全に覆われていて、耳と尻尾は外からは隠されている。 第一層の店にマントが売ってたから付けてもいいよねってことになったんです

 

 

「…………」

 

 

さて……扉が開かないことだし、町に戻ろうかな

 

 

「まだ試してないことあるでしょ」

 

「ふぎゃっ!」

 

 

立ち上がり、踵を返して来た道を戻ろうとすると、フィーストに後ろから襟を掴まれた

 

……試してないことなんてあったっけ?

 

 

「えっと……それは?」

 

 

思いつかないから訊いてみる

 

 

「うげぇ……」

 

 

言った瞬間、外嚢で首が締まった

 

 

「ぐぐっ……うぐ……」

 

「よーく考えて。 まだ何をやってない?」

 

 

やってないこと……やってないこと……えっと……

 

 

「…………」

 

 

押してみたけど駄目、横にスライドさせようとしても駄目。 ……あ、そうかわかった

 

 

「ひ、引いてにゃい……」

 

 

押してみて、スライドさせてみて……でも、これだけはやっていなかった。 まったく……私としたことが……。 なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう

 

 

「言ってたのに無視してたけど」

 

「全然気づきませ――っぐ」

 

 

首にかかる負担が一層強くなった

 

 

「あーそうだ、これよりも効率のいい苦痛を与える方法があるんだけど……」

 

「!?」

 

 

全身に悪寒が走る。 急に周りの空気が冷たくなって、背中がチリチリと焼けつくような気がした

 

 

「す、すいませんでしたっ!」

 

「わかればよろしい」

 

「ケホッ、ケホッ……ふぅ……」

 

 

いろいろな意味で息苦しさから解放され、咳き込んだ後に立ち上がる

 

 

「…………」

 

「…………?」

 

 

涙目になりながらもフィーストのほうに振り向くと、フィーストがこちらを見つめてきていた

 

 

「どうかしました?」

 

「……ちょっとね。 あまりにも似ていたから」

 

「?」

 

「あー気にしないで。 死んでないから」

 

「あ、ハイ」

 

 

他人のプライベートには元から突っ込む気なんてないんです。 世の中、似ている人なんて星の数ほどいるから気にしたってしょうがないのです。 ……これ以上地雷を踏むことは避けたいだけなんです

 

 

「じゃあ、扉開けますね」

 

「ん……」

 

 

扉に手をかける

 

 

「…………」

 

 

その時、とても重要なことに気づいてしまった。 それは……

 

 

「…………どうかした?」

 

「いえ、それが……引けるものが……」

 

 

そう、引けるようなもの……取っ手がなかった

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「……帰ろうか」

 

「……そうですね」

 

 

理不尽な暴力? そんなことフィーストに言ったら、ロープで縛り上げられて鞭で打たれてしまいます

 

 

「……尻尾出てる」

 

「え?!」

 

 

慌てて確認する

 

 

「……冗談だよ」

 

「はぁ……」

 

 

悪質な冗談だ。 ……人がいなくてよかった

 

 

「じゃあ、帰りましょうか」

 

 

扉を後にしてきた道を戻っていく

 

 

「ん?」

 

 

ふと、違和感を感じて振り返ると、フィーストがついてきてなかった。 扉を見てじっとしていた

 

 

「……フィースト?」

 

「カンナ、戻らなくてもよくなった」

 

「へ……?」

 

 

フィーストが大剣を取り出して構える

 

 

「ちょ、ちょちょっと!? オブジェクトに攻撃しても効果にゃいですよ!? 扉にゃんて進行フラグそのものにゃんだからやっちゃったらマズイですって!」

 

 

言語機能がなんだ! 目の前に、このゲームでの私達の存亡の危機が迫っているんだ! というか、殴りつけるのをやめさせたのになんで自分からやろうとするんだ!

 

 

「まあ……見てなって」

 

 

必死の説得も空しく、フィーストは高く飛び上がり、扉に切りかかっていった

 

 

「っ!!」

 

 

そして回転し、遠心力に任せた一撃を扉に放った

 

 

「……ふー……」

 

 

着地し、そして残心。 なかなか様になtt……じゃなくて!

 

 

「こんにゃことして――」

 

「手応えはなし……」

 

 

フィーストが呟くと、扉は跡形もなくそこから消失してしまった

 

 

「えー……」

 

 

扉があった場所には、なにも痕跡が残っていなかった

 

 

「……どうにゃってるんですかぁ……」

 

「プログラムのバグじゃない?」

 

「バグですか……」

 

 

いや、疑問に思ったことはそれじゃないんですけど……もういいや

 

 

「いや……オカルトでいう、まやかしってところか」

 

 

どっちなんですか……

 

 

「プログラムでそんにゃの作りますかね、普通」

 

「ゲームだからこそじゃないの?」

 

「いや、もし不確定要素での不幸乱立があったりしたらやる気失せますって」

 

「…………」

 

 

そういうと、フィーストが何やら考え込んでしまった

 

 

「……もし、これがプログラム上のものじゃなくて、不確定要素……超常現象的なもので引き起こされていたとしたら?」

 

「……?」

 

 

よくわからないことはすべて超常現象とすればいいと、そういえばこのデスゲームに入る前にバラエティで言っていたなぁ

 

ふーん……超常現象? そんなものあるはずがない

 

 

「もうすでに、カンナは体験しているはずだよ」

 

「…………!」

 

 

唐突に、脳裏に半透明な敵の姿が浮かび上がってくる。 ……まさか、あれがそうだっていうの?

 

 

「不幸にも、その超常現象は私たちに敵対しているらしい。 現にこうして扉を作られたんだから」

 

「…………」

 

 

なんということだ……。 よくわからないものから敵対されているのか。 ……対策しようがないじゃん

 

 

「一つ……いいですか?」

 

「ん?」

 

「ということは……もしかしてもしかしにゃくても、自由にフィールドを歩き回れにゃいってことですか?」

 

 

私にとって、個人的に最悪の展開を訊いてみる

 

 

「多分、それはないんじゃない? 知らないけど」

 

「えー」

 

 

すごい投げやりです……

 

 

「でも、それだったら第一層の時に妨害されてない?」

 

「あ、たしかに。 ……でも……じゃあ、あのイノシシはにゃんでしょうね?」

 

「カンナ……それはこの前の時に開発者が直々に、外部からのなんらかのハッキングを受けていたのかもしれない、って言ってたでしょ?」

 

 

オブザーバールーム(仮称)でのやりとりを思い出してみる

 

 

「うーん……それって推測で終わったんじゃにゃいんですか?」

 

「カンナの妹が経験値倍加のパッチを付けたんじゃないの、って訊いてたでしょ?」

 

「あー……」

 

 

そこまで覚えていたんだ……。 途中から全く覚えてない……。 けど、劉ならやりかねない。 いや、もうすでにやっているのかもしれない。 超常現象が敵対してるわけなんだから、イノシシがあんなにおいしいわけがないし……

 

……それにしても……

 

 

「これ、ほかのプレイヤーが来る前ににゃんとか正体が掴めてよかったです」

 

「後々、どういうふうに姿を変えてくるかわからないけどね」

 

「……その、にゃにか含んでるようにゃ言い草はやめてください」

 

 

ただでさえ今はデスゲーム真っ只中なのに、即死トラップなんて仕掛けられたらたまったもんじゃない

 

 

「ということで、先に進もうか」

 

「はい」

 

 

奥に見える、もう一つの巨大な扉に向かって再び歩き出す

 

フィーストを追い越してしばらく歩くと、またしても違和感に遭遇した

 

 

「…………」

 

 

後ろを向き、違和感の正体を確認する

 

 

「……」

 

 

またしても……またしてもフィーストが立ち止まり、空の彼方を見つめていた

 

……今度は何を考えているのやら……

 

 

「……フィースト?」

 

 

呼びかけると、見るのをやめてこっちに歩いてきた

 

 

「またにゃにか見つけたんですか?」

 

「全然。 何も見つけてない。 ただ……」

 

 

そこでフィーストは一旦言葉を含み、空を見た

 

 

「ただ?」

 

「ただ、向こう側に置いてきたままにしてる寂しがり屋はどうしてるかな、って」

 

 

向こう側……ああ、現実のことね

 

 

「ショックで放心してなきゃいいんだけど……」

 

「その人……友人ですよね?」

 

 

やけに面倒見がいいというかなんというか……

 

 

「そうだけど? ……まぁ、妹みたいなものかな」

 

 

そう、まさに姉貴分みたいな感じ。 世話するのが好きというか、気になって仕方がないっていう感じ

 

 

「……そういえば、カンナに妹いたよね?」

 

「はい。 いましたよ?」

 

「本物の妹ってどんな感じ?」

 

「弱みに付け込まれると……かにゃりきます」

 

「…………そう」

 

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

 

妹に関する話で微妙に盛り上がっていると、いかにも装飾がボスっぽい扉の前まできた。 途中、雑魚敵と遭遇したけど、面倒だったから逃げた。 ……うん、強者の余裕? っていう病気に感染しちゃったみたいです 

 

 

「……どうします?」

 

「……ちょっと待って。 調べてみるから」

 

「はい」

 

 

フィーストが調べている間、扉に彫られている模様を眺めてみる

 

 

「…………」

 

 

文字のようなものが下半分を占め、上半分には鎧のようなものが人らしきものと対峙している絵があった

 

 

「これ、ボスですかね?」

 

「なんか隠されてるね……ここに起動フラグがある」

 

 

フィーストが扉の端の部分に手を触れると、文字のようなものが変化した

 

 

「……にゃんて書いてあるかわかります?」

 

 

見たことのない文字のようなものを指さして聞く

 

 

「それ、ゲーム内の文字じゃない? 読めないなら違うと――」

 

「?」

 

 

フィーストが顔を上げたまま、文字を見つめた

 

 

「……なるほど」

 

 

そして、一人で納得した

 

 

「…………」

 

 

……置いていかないでください……。 まったくわかりません……

 

 

「……超常現象のほかにも不可解な現象があるみたい。 こっちはなぜか手助けしてくれてるよ」

 

「は、はぁ……?」

 

 

いよいよわけがわからなくなってきた。 ……所詮、私の頭ではそこまでなんだ。 ……もうわかりません!

 

 

「ここに書かれているのはゲーム内の言語で間違いないと思う。 隠されていたのが気がかりだけど」

 

「…………」

 

 

……そういえば、説明書の一番最後にこのゲームの言語のあいうえお表があった気がするなぁ。 ……なんかちょっと似てない気がする

 

 

「これにはこのボスについて書かれてるね」

 

「…………」

 

 

……誰がやったのか知らないけど……新鮮なプレイができないじゃないですか! デスゲームでライフゼロで死ぬとしても、未知の領域を探索するスリルを味わいたかった!

 

 

「……にゃんて書いてあるのかわからにゃい」

 

 

攻略情報が書かれているのに読めないからわからない。 ……なんだろう、とても複雑な気分

 

 

「このボスの弱点は――」

 

「あーーーーー!!!!」

 

「…………」

 

 

ネタバレ、駄目。 知りたくない

 

 

「……苦戦することが大好き?」

 

「そこは、未知の領域を開拓すると言ってください……」

 

「……弱点見つけられなくて一日つぶして、結局撤退するはめになると思うよ」

 

「…………」

 

「即死トラップ踏んづけて仲間を大量に失うかもしれないよ?」

 

「うっ……」

 

 

その経験は……嫌というほどした。 踏んづけたのはソロの時だったけど

 

 

「超常現象が敵に回ってるんだから、今度は本当に――」

 

「わかりました! わかりましたよ! ……もう……」

 

「わかればよろしい。 私だって無駄足踏みたくないから」

 

 

メニュー画面からマイセットをつけ、両手に『ゴッドナックル』をはめる

 

……最初は気楽にできると思っていたのになぁ。 それが今じゃこんなことになって……。 こんなことが起こった後じゃ、もう新作ゲーム出ないかな……

 

 

「しんみりしてないの」

 

「った……!」

 

 

額に鋭い痛みが走った

 

 

「…………」

 

 

どうやらショボくれていたのが顔に出てたみたいだ。 ……いや、顔だけじゃなく他にも顕著に出てたか。 隠れてるけど

 

 

「気持ちはわかるけど……」

 

「っ!?」

 

 

同性なのに誘惑されそうな艶声と、身を委ねてしまいそうな撫で加減に思わず尻餅をついた

 

 

「い、いいいいいきにゃり、にゃにゃにゃにゃにを?!」

 

 

フィーストの隠された一面に動揺を隠せなかった

 

 

「……それはベッドの中で聞いてあげるから」

 

「ちょ!? ものすごく誤解を招く発言にゃんですけど!?」

 

「? そんなこと言った?」

 

「はうっ……」 

 

 

頭を撫でられ、意識が徐々に朦朧としてくる

 

……頭を撫でられただけでこうなるなんて……いよいよ猫に近づいてきたかな

 

 

「……って、あらら。 やりすぎたか」

 

「…………」

 

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………///」

 

 

……今、とてつもなく気まずい。 なぜか? ……それは、気が付いたらフィーストに抱きついていたから。 そして、フィーストに撫でられてから今の間の記憶が全くない。 ……これは、一体どういうことなんだろうか。 ……という感じで気まずくなってる

 

 

「……準備いい?」

 

「……! ばっちりです」

 

 

その一言で、気を取り直す

 

 

「はっ!」

 

 

フィーストが扉を思いっきり蹴った。 扉は内側に開くタイプだったのか、蹴られると勢いよく開いた

 

 

「ちょ、乱暴すぎです」

 

「たまにはこういうのも悪くない」

 

「……」

 

 

部屋の奥にはパーツごとに分かれた鎧が無造作に転がっていた。 部屋の中にはそれだけだった

 

 

「不意を突く!」

 

「了解!」

 

 

鎧が合体する前に攻撃を仕掛ければ合体させずに倒せる、という情報をもとに鎧に向かって飛び込む

 

……結局、攻略方法をネタバレしてもらいました。 ……あぁ、新しい世界が見える気がします

 

 

「はぁっ!」

 

 

拳を振りかざし、兜の部分を叩き割ると体力ゲージが一本分丸々無くなった

 

 

「…………」

 

 

……え? まさか……とてつもなく弱い?

 

 

「……カンナ、ごめん」

 

「……はい?」

 

 

どうしてフィーストが謝ってくるんだろう?

 

 

「推奨レベルで行った時の戦略だった。 私達、それよりもはるかに上にいるから第二十層くらいまでゴリ押しでいける」

 

「…………」

 

 

無性にやるせなくなってきた……

 

その場に体育座りして顔を伏せる。 その間も、金属の裂ける音が響き渡っていた

 

 

耳元で電子音が鳴る

 

 

[Conguratulation!!]

 

 

顔を上げると、戦いが終わったことを告げるメッセージが浮かんでいた

 

 

「ボスドロップはもらっておくよ」

 

「どうぞ。 流石にもういらにゃいです」

 

 

どうせチート級の装備に変換されてるに違いないから

 

 

「……防具か」

 

「どんにゃ防具にゃんですか?」

 

 

そう聞くと、なぜかフィーストは顔を曇らせた

 

……あれ、なにかまずいこと聞いた?

 

 

「名前は……『ステラ=レクス・スピリタス』」

 

「……なんかかっこいい」

 

「で、意匠はと……」

 

 

フィーストが装備欄を操作して取り出した

 

 

「――――」

 

「?」

 

 

なにかフィーストがぶつぶつと独り言を呟いております。 近くにいるのに聞き取れない。 ……不思議

 

 

「…………」

 

「……?」

 

 

と思ったら静かになってしまいました。 時々顔をひきつらせてるけど、何か思い出したのかな

 

 

「……はぁ」

 

「フィースト?」

 

「なんでもない。 先に行こうか。 宿屋の部屋確保だ」

 

「……? りょーかいです」

 

 

装備を初期装備に戻し、剣を背中に差す

 

 

「……ところでフィーストさん」

 

 

奥に見える階段に向かって歩きながら訊く

 

 

「どうして今更『さん』づけ? ……いいけど、なに?」

 

「その防具のにゃ前ってにゃに語だったんですか?」

 

 

この手のゲームでよく出てくる、かっこいい名前の語源を聞いてみる

 

……こういうのって、好奇心がそそられる

 

 

「うーん……ラテン語」

 

「どういう意味にゃんですか?」

 

「……このゲームが終わったら自分で調べてみて」

 

「ふーん……」

 

 

……いじわるだなぁ

 

 

「……あ、そうだ」

 

「?」

 

 

フィーストが何か思いついたみたいだ

 

 

「宿とらずに一気に第二十層まで登ろう」

 

「……はい?」

 

 

階段を上る足が止まる

 

……今、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする

 

 

「えっと……それは……」

 

「本気だけど?」

 

 

振り返ってフィーストの顔を見てみる。 愉快ないたずらを思いついた子供のような表情をしていた

 

……まじですか……

 

 

「どうせ速攻で倒せるし、仕掛けに邪魔……あ」

 

 

そこまで言いかけてフィーストは口を噤んだ

 

……よくわからないあの現象のことかな

 

 

「やっぱり第十層までにしよう」

 

「それがいいです」

 

 

そうじゃないと精神的に持たない……単純作業な意味で

 

 

「とりあえず、第三層の宿屋に行こうか」

 

「はい」

 

 

階段を上がった先にある扉を開く

 

……この後に待ち受ける過酷な試練を私たちは知る由もなかった、なんてね。 ……あれ……おかしいな、ほんとうにありえそうになってきた

 

 

「明日から進撃ね」

 

「oh……」

 

 

 

 

 

 




フィーストがボスドロップした防具『ステラ=レクス・スピリタス』のつづりは『Stella rex spiritus』なんです。 ……翻訳さんの力を貸してもらいました。 変換すればあら不思議、顔が引きつっていた理由がわかるかもしれません
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