SAO_格闘少女が往く_   作:ALUM

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「前の話の時にここで『私の拳は~』って言ってたでしょ?」

「はい」

「名前とセリフであのキャラクターを連想せずにはいられなかったよ」

「誰ですか……」


※某紅蓮の人


4th_ミステリーガール_

第八層のフィールド、町から少し離れた林の中にて

 

 

「ふぃ、フィースト……疲れた」

 

 

木に寄りかかりながらカンナが言う。 余程疲れているのか、そのままズルズルと座り込んでいった

 

 

「まだ六層しか攻略してないけど」

 

「まるで階段を上がるかのように言わにゃいでくださいよ……」

 

 

カンナの声に潤みが出始める

 

 

「実際にそんな感じだったでしょ?」

 

「にゃんども死にかけましたけどね……」

 

「そうだっけ?」

 

 

そばに寄って座り、これまでのことを深く思い出してみる

 

 

「…………」

 

 

下の階層では、歩いている途中に壁から槍が飛び出してきたり、壁が迫ってきたり、落とし穴に落ちかけたりした

 

……まぁ、全部カンナだけが引っかかったんだけど、そのたびに騒いでるから勝手に疲れてるだけだった

 

 

「カンナのおかげで、私はほとんど楽をすることができたよ」

 

「私じゃにゃかったら死んでましたよ――っ!」

 

 

カンナの羽織っているマントからはみ出た猫の尻尾を握る。 つい最近見つけた弱点だ

 

 

「……皮肉ってる?」

 

「そそそそんにゃことは……いっ!」

 

 

握っている手に少し力を入れる

 

 

「……仕方ない、この辺りで休憩しよう」

 

「ふえっ!」

 

 

手を握り締める

 

……あ、尻尾持ってた

 

 

「っ、っ……」

 

 

尻尾からくる人にはない未知の感覚に襲われたカンナは、涙目になって口をパクパクさせていた

 

 

「どう? リラックスできた?」

 

「――――っ」

 

 

カンナは悶えていた

 

 

「…………っ、はぁ……ひどい」

 

 

しばらくして過呼吸気味から復帰したカンナが、涙声で訴えてくる

 

 

「リラックスできた?」

 

 

再度問いかける

 

 

「あーそういえば肩の凝りが……ってあるかぁぁあ!!」

 

 

急に叫びだすカンナ

 

……意外とノリがいいのね

 

 

「どうせ休憩するつもりだったし、肉体の疲労を回復できるからそのままでいなよ。 辺りを探索してみるから」

 

 

マップを開き、現在地周辺を確認する

 

 

「……尻尾を握ると疲労回復するにゃんて聞いたことがにゃいです」

 

「当たり前のこと言ってると、首輪にリードつけて繋ぐよ?」

 

「え…………」

 

 

カンナが困惑した。 あまりにも惨めなので尻尾を離してやると、カンナは大事そうに両手で抱え込んだ

 

……一体化してるって自覚し始めたか

 

 

「……」

 

「じゃ、ここで待ってて」

 

「……誰かきそうです」

 

 

不安そうにカンナが言う

 

……一日の内にここまできたから、レベル的にはさすがにこない……はず。 あの黒ずくめの少年と今、この層に向けて猛スピードで登ってきているプレイヤーという例外はあるけど、すぐには来ないだろう

 

 

「……今モンスターにこられたら、すごくやばいんですけど」

 

「一掃しながら探索するから問題ないよ」

 

「それはまぁ……そうですけど。 システムの補助があっても足が動かせにゃかったら、サンドバッグにされちゃう」

 

「…………」

 

 

話している間にも、カンナが耳をピコピコとさせてくるので、吹き出しそうになってしまう

 

……きっと無意識の内にやっているんだろうな

 

 

「もし何かあったら連絡して」

 

「……はい」

 

 

まだ空白の部分のマップを埋めに、その場を後にした

 

 

 

 

><><><><

 

 

 

 

「……」

 

 

フィーストの後ろ姿を見送りながら、座り直して再び木に寄りかかる

 

 

「…………」

 

 

最近、フィーストが事あるごとに尻尾を触ってくるようになってきた。 といっても、ほとんど部屋でされていて、さっきのようなことは珍しい

 

……なんで分析なんてしているんだろ

 

 

「…………はぁ」

 

 

ため息をつきながら、ふとしたことで生えてしまった猫の尻尾を両手で抱え、見つめる。 妹の劉から死んでもいいから死ぬ気でやれと言われ、その際にやった生物学の知識から猫の生態について引っ張り出してみる

 

 

「……」

 

 

……猫は尻尾を握られると痛みが走るらしいけど、この尻尾は握られた瞬間に、全身にむず痒いというかくすぐられたときの変な感覚がきた。 そして、握り締められた瞬間のあの感覚……

 

 

「…………!」

 

 

……もしかしてこのアタッチメントを作った人って、猫の尻尾を何か性感帯と勘違いしてるのかな

 

 

「…………」

 

 

遠くの方で時折聞こえてくる轟音をバックにメニュー画面を開き、外見のカスタマイズ画面に移行する。 アタッチメントの装着する部分に猫耳と猫尻尾の部分だけ灰色になっており、外せないようになっていた

 

 

「……」

 

 

……これじゃあこの世界から出るまで一生、装着したまま過ごさなくちゃいけないのか

 

 

「…………」

 

 

メニュー画面を開くたびに左下に現れる丸いボタン、あの日以来一度も使っていないチートボタンに目がいく

 

……もしかしたら、外せるかもしれない。 あの時は現実の通貨が落ちてきてメッセージが出てきただけだったけど、きっといいことが起こるはず

 

 

「……」

 

 

希望を感じつつ、チートボタンを押してみる

 

 

[チートを使いますか?]

 

 

どうするかのメッセージが現れ、その下に○とXが表示された。 ○を押して同意する

 

 

「…………」

 

 

メニュー画面を開きながら待つこと数分。 自分自身には変化は見られない。 周囲を見渡してみても、どこも変わったところはなかった

 

……チートなのに何も変化が起きないなんて……それは果たしてチートと呼べるのだろうか……

 

 

「ふぁ~……」

 

 

メニュー画面を閉じ、あくびをする

 

……フィーストは周辺を探索すると言っていたけれど、ここはそこまで広くないからそんなに時間はかからないはず。 それにしても遅いなぁ

 

 

「……ん?」

 

 

いきなり目の前に幾何学模様の球体が現れた。 その様子を眺めていると、球体は徐々にこちら側に近づいてくる

 

……チートボタンの効果かな

 

 

「……!」

 

 

幾何学模様の球体がちょうど私の真上まで来ると光を発し、中から真っ白なワンピースを着た、白くて長い髪の女の子が出てきた

 

 

「……」

 

 

宙に浮いたままの女の子は、そこから弄られたせいで動けない私に向かって――

 

 

「ふぎゃっ!」

 

 

自由落下してきた

 

 

 

 

><><><><><

 

 

 

 

「……で、その女の子は誰?」

 

「…………」

 

 

抱えていた尻尾の上に見事なヒップドロップを受けてしばらく悶えていると、フィーストが戻ってくるなり尋ねてきた

 

 

「……知りませんのです……」

 

 

左上を見ながら言う。 なぜかライフが四分の一ほどまで減っていた

 

……ヒップドロップかなぁ

 

 

「ふーん……」

 

 

フィーストが猫を持ち上げるかのように女の子を抱き上げた。 抱き上げられたにもかかわらず、女の子は無反応だった

 

 

「……」

 

 

望遠スキルを使って顔をよく見ると、黄色い目は虚ろで焦点が合っていなかった

 

 

「NPCですかね?」

 

 

フィーストが知っているかもしれないので訊いてみる

 

 

「出会いを知らないからわからないけど、決められたプログラムに沿って動くようなものではないと思う」

 

 

女の子の顔を覗きこみながら、フィーストが返答した

 

 

「と、いいますと?」

 

「まだ確信を持てないから何とも言えないよ」

 

「そうですか……って、ちょ……」

 

 

フィーストが元あった通りに、私に女の子を返してきた

 

……フィーストは何でも知ってるから、この子のことも知っていると思ったのに。 ……知らないこともあったんだ

 

 

「とりあえず、その子を連れて町に戻ろう」

 

「!! 攻略はどうするんですか?」

 

 

フィーストの思わぬ発言につい言葉が出てきた

 

……一気に十層くらい突破するって言ったのはフィーストなのに

 

 

「誰がその子を連れて行くの?」

 

「それは私が……」

 

「トラップに引っ掛かったらどうするの?」

 

「危にゃいところはフィーストが……」

 

「私は常に手ぶらでいたい」

 

「…………」

 

 

次に出てくるはずの言葉が無くなった

 

……両手を空けておきたい理由は、なんとなく想像できるんだけど……

 

 

「じゃあ私が責任を持って……」

 

「このまま進むわけにはいかないよ。戻ろう」

 

「ハイ」

 

 

フィーストのいつになく真剣な声音に、思わず変な声で返事をした

 

……想像していた理由とは違ってたよ

 

 

「……」

 

 

帰還用クリスタルを取り出して掲げて使うと、青白い光に包まれた

 

 

 

><><><><><

 

 

 

 

新たに拠点となった第八層の町の宿屋、その二階の個室にて

 

 

「……すぅ……すぅ……」

 

 

あれから私のベッドに寝かせた白髪の女の子は、今は目を閉じてぐっすりと眠っていた

 

 

「…………」

 

 

それを隣のベッドから見つめる私達

 

 

「…………」

 

 

チラリとフィーストのほうを見る。 フィーストは女の子のほうを見たままじっとしていた

 

 

「……フィーストさん?」

 

「ん?」

 

「これからどうするんですか?」

 

 

フィーストに尋ねる

 

 

「この子が起きないことには動けないね」

 

「探索もですか?」

 

「もちろん。 一人だと危険だから」

 

 

……さっき一人で探索してたじゃん

 

 

「それに、不確定要素がたくさん存在しているから迂闊に進めないよ」

 

「…………」

 

 

第八層にくるまでのことを思い返してみる

 

 

「……」

 

 

……そういえば登っている途中に二、三度姿形がわからないものに襲われた。 私の攻撃が全く効かなかったから、それを考えると連れながら進むのはやっぱり危険か

 

 

「……それじゃあしょうがにゃいです」

 

 

女の子から視線を外し、メニュー画面を開いて消費したアイテムを確認する

 

……使ったものは回復薬とブーストドリンクくらいか

 

 

「カンナ」

 

「ハイ」

 

 

フィーストが唐突に名前を呼んでくる

 

 

「眠ったまま起きない時にやるおまじない……知ってる?」

 

 

……おまじない?

 

 

「……しらにゃいです」

 

「教えてあげるから、その子の近くに寄って」

 

「……」

 

 

女の子のそばに椅子を持ってきて座る

 

 

「その子に跨って」

 

「え?」

 

「いいから」

 

「…………」

 

 

促されるまま、女の子に跨る

 

……きっと即効性のあるおまじないに違いないはず

 

 

「顔を近づけて」

 

 

言われたとおりに顔を近づける

 

 

「その子に口付けして」

 

「!?」

 

 

バッ、と離れる

 

……く、くく口付け!? そんなのまだ誰とも……ああ、小さい頃にふざけて劉としたことはあったっけ

 

 

「……ほんとに効果あるんですか?」

 

「いいから早く」

 

「……」

 

 

女の子の顔を見て、そして口元を見る。 うっすらと濡れたピンク色の唇に、同性のはずなのに思わず目が釘付けになってしまった

 

……目覚めのキスは王子がやるもの、のはずなんだけど……まぁ、いいよね

 

 

「……」

 

 

ゆっくりと唇を重ね、すぐに離れる

 

 

「……んっ」

 

 

……気づいたみたいだ

 

女の子の上から退き、近くに寄せた椅子に座り直す

 

 

「……んー…………」

 

 

女の子は身体を起こし、瞼をこすった

 

 

「……ほんとに起きちゃった」

 

「…………」

 

 

半目でフィーストを睨む

 

……フィーストさん、冗談で言ったんですか

 

 

「…………」

 

 

寝ぼけたような目で、女の子は私を見つめてくる

 

 

「……マスタぁ……おはよ~ございますぅ……」

 

 

呂律が回らないまま女の子が言う

 

 

「マスター!?」

 

 

……この子は一体何を言ってるんだ

 

 

「……カンナ」

 

「はい……」

 

「……ナイス!」

 

「…………」

 

 

親指を立てて突き出してくるフィースト

 

……何が「ナイス!」なんだか……。 それよりも……

 

 

「……マスターって私のこと?」

 

「はい、『可愛らしいお耳と尻尾を付けて、ナをニャって発音しちゃう方』がそうですぅ」

 

 

ニコッと微笑みながら、女の子が私を見て言う

 

……『可愛らしいお耳と尻尾を付けて、ナをニャって発音しちゃう』って……私じゃないか。 前半はともかく、後半部分をなんでこの子が知ってるんだ 

 

 

「どうして私がマスターに?」

 

「わからないですぅ」

 

 

……わからないんですか

 

 

「それじゃあ、さっきの特徴は?」

 

「気が付いたら言ってましたですぅ」

 

「……」

 

 

フィーストの方を見る

 

 

「ん?」

 

「これ、フィーストの仕業?」

 

「どうして?」

 

 

……どうして、って……

 

 

「あの時、フィーストが私を置いて探索に行っていたときにしたんじゃにゃいの?」

 

「そんなわけがない。 大体なんで見ず知らずの、しかも明らかに小学生くらいの子に『カンナのことはマスターと呼べ』って言わなくちゃならないの?」

 

「…………ですよねー」

 

 

……例え転移結晶だとしても、特定人物に向かうように使用することなんて普通はありえないか。 ……いや、ありえるかもしれないや

 

 

「……」

 

 

何かわかりそうなものがないかメニュー画面を開いてみる

 

 

「なにしてるんですぅ、マスター?」

 

 

メニュ画面の裏側を見ながら女の子が尋ねてくる

 

 

「ヘルプで不具合の対処の仕方があるか見てる」

 

「私は不具合とは全く関係ないですぅ」

 

 

軽く聞き流しながら項目を見る

 

……不具合じゃないならなんなんでしょう……

 

 

「……えっと、バグに遭遇した場合は、っと……」

 

 

……なかった

 

 

「調べるところが違うんじゃない?」

 

「システム面の問題だから合ってるはず……」

 

「私はバグじゃないですぅ」

 

「じゃあなんなの?」

 

 

フィーストから意外な質問が出た

 

 

「うーん……」

 

 

その質問で考え込む女の子。 その間にもう一度だけヘルプにないか確認し、メニュー画面を閉じる

 

 

「……人間?」

 

「…………」

 

「………………」

 

 

その発言で場の空気が凍った。 フィーストの私を見る目が怖くて顔を見れない

 

 

「…………」

 

 

……ナビゲーターかNPCなら仕方ないと思ってたのに……こんな女の子が人間……私達と同じ人間なの……? 腰まである真っ白な髪の女の子なんて目撃情報なかったのに。 ……どこかの病院で入院生活してるのかな

 

 

「……カンナ」

 

「……にゃんでしょう」

 

「……いつの間にそんなこと――」

 

「やってにゃい!! やってにゃいです!!」

 

「あぁ、カンナにそんな趣味があったなんて……」

 

 

座っている位置を微妙にずらすフィースト。 私の心に10のダメージ!

 

 

「自己完結しちゃだめ!」

 

「マスターと私は切っても切れない深い関係ですぅ♪」

 

 

満円の笑みで女の子が意味深な発言をしてくる

 

 

「悪乗りにゃのか天然にゃのかわからにゃいっ!?」

 

 

唐突な頭痛に、額を押さえて俯く

 

 

「……はぁ」

 

 

……叫んだら……頭が痛くなった。 ……きっとノイズなんだろうけど

 

 

「どうかしました? マスター」

 

 

女の子はきょとんとして言ってくる

 

 

「……天然だ」

 

「天然?」

 

「あ……」

 

 

……しまった……つい思ったことが

 

 

「私は天然物ですぅ」

 

「もういいよ……」

 

 

……先が……まだまだ長くなりそうだ

 

 

 

 

 

><><><><><

 

 

 

 

 

「……あ、そういえば名前聞いてないっけ」

 

 

フィーストが女の子に尋ねる

 

 

「わたしのなまえ、ですか?」

 

「そうそう」

 

「えーと……うーん……」

 

 

その様子を横目に窓枠に寄りかかり、外の景色を眺める

 

……ああ、青く澄み渡っている空が綺麗だ……綺麗……うん

 

 

「……ないですぅ」

 

 

……人間なら何かしらつけてあるんじゃ……

 

 

「ないなら付けてあげようか?」

 

「ありがとですぅ♪」

 

「カンナ」

 

「はい?」

 

 

空を眺めているとフィーストが呼びかけてきた

 

 

「何かいいのある?」

 

「……え、私が考えるの?」

 

「参考までに」

 

 

女の子の座っているベッドの近くに置いておいた椅子に座る

 

……んー……そうだ、家に前に飼っていた猫がいたっけ。 ……名前なんだったかな

 

 

「…………」

 

「……拘ってるねぇ」

 

 

……思い出そうとしてるんですよ

 

 

「…………」

 

「……マスター、頑張って」

 

 

……何を頑張るのか……

 

 

「…………」

 

「……レイってどう?」

 

「それいいですぅ♪」

 

「ちなみに……奴隷のスレイブ、ってところからとった」

 

「…………」

 

 

……ダメでしょ……

 

 

「私はマスターの奴隷でも問題ないですぅ♪」

 

「大有りだよ……」

 

 

……ああ、またしても思ったことが口に出てしまった。 しかも後少しで浮かんできそうな名前が一気に沈んでいったよ

 

 

「カンナは名前思いついた?」

 

「霧散しました……」

 

 

窓に向き、外を眺めながら呟く

 

 

「じゃあけってーい」

 

「……はぁ」

 

 

……これから、もしこの子の名前の由来を教えるときは「奴隷です」って言わなくちゃいけなくなるのか

 

 

「……」

 

 

フィーストがこちらを見てくる。 その口元がにやけているように見えた

 

……なにか企んでるな、これは

 

 

「……フィーストさん」

 

「ん?」

 

「……わざとですか?」

 

「そうだけど?」

 

「………………」

 

 

予想通りの反応で全身の力が抜けることはなかった。 これがもしわざとじゃなかったら呆然としていた

 

 

「…………」

 

「マスタぁー」

 

「っ……」

 

 

遠い目で再び窓の外の景色を眺めていると、女の子改め、レイが膝の上に乗ってきた

 

 

「マスターの名前を教えてほしいですぅ」

 

 

なぜか上目遣いで訊いてくる

 

 

「カ――」

「カンナだよ」

 

 

言おうとした瞬間にフィーストに先に言われる

 

……ああ、「ナ」か。 「カンニャ」と間違えるくらいなら言ってもらったほうがいいか。 グッジョブ、フィースト

 

 

「カンナ……『神奈』なんですぅ?」

 

 

メッセージボックスを出して漢字に変換しながら言ってくる

 

 

「……」

 

 

……ドンピシャだよ。 個人情報漏洩しちゃったよ。 この子只者じゃないよ……

 

 

「漢字得意なの?」

 

 

再びフィーストが訊く

 

 

「なんとなく、ですぅ」

 

 

……その喋り方って癖なのかな。 聞かない方が身のためか

 

 

「名前を教えてもらってもマスターと呼ばせていただくですぅ♪」

 

「あ、……うん、よろしくね」

 

 

急にこっちを向いて言ってきたので、言葉が詰まった

 

 

「……さて、この子も目覚めたことだし……階層攻略しようか」

 

「レイ、レベルは?」

 

「レベル? そんなものはないですぅ」

 

 

……ない?

 

 

「メニュー開ける?」

 

「はいですぅ」

 

 

レイが右手を上から下に軽く払った

 

 

「……おぉ」

 

 

レイのメニュー画面は、私たちのものとデザインが違っていた。 全体的に見やすくなっており、レイが項目を選択するとその項目が別のウィンドウに現れて、なんだかパソコンのデスクトップ画面みたいだった 

 

 

「どうかしたんですか?」

 

「なんか……すごいにゃーって」

 

「にゃんにゃん♪」

 

「ぶふっ!! ……失礼」

 

「………………」

 

 

気にしていることを平気で言う奴隷ことレイ。 そしてそれに吹き出す悪魔なフィースト

 

……そんなに猫になりたかったらこのアタッチメントあげようかな

 

 

「レイ、このアタッチメント欲しい?」

 

「いらないですぅ♪」

 

「…………」

 

 

……そうか、無理やり言わされるよりも好きなだけにゃんにゃん言ってた方がいいのか

 

 

「……せっかく奴隷の意味が込められてるんだから、そろそろ監禁しちゃおうかな」

 

「…………」

「…………」

 

 

二人が驚いて目を見開いていた

 

……あれ? 私何かした?

 

 

「……やっぱりカンナにそんな趣味が……」

 

「……優しくしてくださいですぅ……///」

 

 

フィーストはさらに座っている位置をずらし、レイは顔を赤らめた

 

……何かとても悪い流れになっている気がする。 尋常ではないとてつもなく悪い流れに

 

 

「……妹も監禁してるの?」

 

「……え? 監禁?」

 

 

……そんなことするわけがない

 

 

「でも今、監禁するって……」

 

「…………」

 

 

……まさか……また思っていることが口に出てしまった……?

 

 

「じょ、冗談で言ってるに決まってるでしょ? 本気にしちゃだめだって」

 

「……ほっ」

 

「はぁ……」

 

 

フィーストは胸を撫で下ろした。 レイはため息をついた

 

 

「……レイ、にゃんでそんにゃに残念そうにゃの?」

 

「……一度、めちゃくちゃにされてみたかったですぅ///」

 

「!!」

 

 

レイをベッドに戻して、高速でドアまで後ずさる

 

 

「……へ、変態だ……」

 

 

……ダメだ、頭が混乱して喋ってるのか心の中で叫んでいるのかわからなくなった

 

 

「…………」

 

 

ドアの取っ手に手をかけ、逃げるようにして部屋から出る

 

 

「……はぁ、はぁ……」

 

 

階段を下りてラウンジに駆け込み、テーブルに着いて頭を伏せ、全身に走る悪寒に耐えきれずに両手で体を抱える

 

……マスターだとかめちゃくちゃにされたいとか……あの子、普通じゃない……。 あんなところには……とてもじゃないけどいられない

 

 

「……お? そこにいるのはもしや……」

 

「?」

 

 

宿屋の入口の方から女性の声が聞こえてくる。 足音が近づいてきた

 

 

「我が流儀、真影流は……」

 

「真にゃる影を汲み取り、闇を以て闇を制すもの……」

 

 

脊髄反射で勝手に言葉が出てくる。 小さいころに見たアニメで最も印象に残ったセリフだ。 それを知っている人は私の友人で一人しかいない

 

 

「やっぱりそうだ。 久しぶりー、神奈」

 

 

頭を上げると、そこには道場で知り合った親友……

 

 

「真貴にゃ……!!」

 

 

『真貴奈』の姿がそこにあった

 

 

「真貴にゃもこのゲームやってたの?」

 

 

あの恐ろしい出来事をすっかり忘れ、真貴奈に話しかける

 

 

「想像してみて。 あたしの性格からこんなものが出てきたのにやらないと思う?」

 

 

真貴奈と一緒にいたときのことを振り返ってみる

 

……確か、いつも新しいことに興味深々だった気がする。 それに振り回されて休む暇がなかったなぁ……

 

 

「……絶対やる」

 

「でしょ? ……というわけで……その頭、どうしたの?」

 

 

真貴奈が私の頭、正確には頭に付いた猫耳を指差して訊いてくる

 

……しまった、マント装備してない

 

 

「……ちょっとした出来事で」

 

「ちょっとした出来事で猫耳と……」

 

 

私の後ろに回り込んでくる

 

 

「……尻尾が手に入ったの?」

 

「うん……」

 

「なんで嬉しそうじゃないの?」

 

 

私の目の前に座ってそう訊いてきた

 

……なんでってそれは……

 

 

「……これ、見て」

 

「……?」

 

 

横髪を掻き上げ、本来人間にある位置のはずの耳の部分を見せる

 

 

「うわぁ……ただのアタッチメントじゃないんだ」

 

「しかも取り外せにゃい。 だからこうやってフード付きマントを羽織って耳と尻尾を隠してるの」

 

 

『求道者の外嚢』を装備してフードを被る

 

 

「……隠す必要あるの?」

 

「え……?」

 

 

……この人はいきなり何を言い出すんだ。 現実世界の自分が今ここにいるんだから猫耳と尻尾を付けてる姿を見られたら、向こうに戻れても外に出られなくなる

 

 

「確か第二層にね、メイド喫茶ができたの」

 

「いやだ」

 

「まだ何も言ってないんだけど……」

 

 

……猫耳の話からメイド喫茶の話に切り替わるなんて、大体その次に何がくるかなんてあんまり勉強しなかった私でも想像できる

 

 

「どうせメイド服着せるんでしょ?」

 

「な、なんでわかった……」

 

「ほら、やっぱり……」

 

 

……単純だからものすごくわかりやすい

 

 

「…………触ってもいい?」

 

「……はい?」

 

 

聞き捨てならない言葉が聞こえてきた

 

 

「触ってもいい?」

 

「駄目」

 

「触ってもいい?」

 

「却下」

 

「触ってもい――」

 

「ええい!! NPCかお前は!」

 

 

我慢ならなくて叫ぶ

 

 

「だって~ここでしか味わえないじゃん?」

 

「一生味わえにゃくてもいいと思う」

 

「ところで神奈、さっきから言葉が鈍ってるみたいだけど……」

 

「……へ?」

 

 

急な話題変換に置いていかれた

 

 

「なんか……『ナ』って言うときに舌が回ってない感じがする」

 

「そんにゃことはにゃいよ」

 

「今なってるんだけど」

 

 

……そうか、わかっちゃったか。 せっかくだから説明しておこう

 

 

「これね、猫耳付けてると言語機能に障害が発生してるみたいにゃの」

 

「アニメで猫が人の言葉話すときなんかだいたいにゃんにゃん言ってるよね。 実際はミャオーンって鳴いてるのにね」

 

「う、うん……」

 

「『マ』のときに『ミャ』とかにならなくてよかったね」

 

「それは……うん」

 

 

……もしそうなったら帰れるまで一言もしゃべらなくなっていたかもしれない

 

 

「それにしても……」

 

「?」

 

 

真貴奈が懐かしそうな目で私を見つめる

 

 

「神奈って、ソロなのによく低レベルでこの層までこれたよね」

 

「それは真貴にゃにも言えることにゃんだけど……」

 

「私は下の階層でモンスター倒しまくって今38レベだから。 そういう神奈は?」

 

「えっと……」

 

 

左上をチラッと見る。 LVと書かれた文字の横には91という数字があった

 

……第八層到着時のレベルじゃない! ここはちょっと誤魔化しておこう

 

 

「……41レベ」

 

「やっぱりまた絶対チート使ってる?」

 

「え?」

 

 

実際使っているのかどうかわからないので狼狽えた

 

 

「ステータス開いてみて」

 

「うん……」

 

 

メニュー画面を開き、ステータス画面に移行する

 

 

「…………神奈って相変わらずだよね」

 

 

一通り目を通した真貴奈は呆れるように言った

 

 

「素早さと反射神経だけを上げるのは神奈らしい。 ……ここにきてまたMプレイしてるの?」

 

「……してる余裕がない」

 

「え……?」

 

 

……そう、あの二人が現れてから……

 

 

「マースータ~~♪」

 

「ひっ!!」

 

「?」

 

 

恐ろしく軽快な声に再び全身に鳥肌が立った

 

 

「…………!!」

 

 

階段を下りる足音に耳を塞ぎ、テーブルに伏せる

 

 

「ちょ……神奈、どうしちゃったの?」

 

「……真貴にゃ、悪いことはいわにゃい。 早く逃げて」

 

「え、……え?」

 

「真貴にゃだけでも……」

 

「あ、こんなところに」

 

「…………」

 

 

そうこうしているうちに恐怖の対象が来てしまったみたいだ

 

 

「……あの子誰?」

 

「…………」

 

「ちょ、ちょっと……?」

 

 

……聞かないでほしい。 さっきとてもアブノーマルなものを垣間見て、そのアブノーマルなものを持っている子がすぐそばにいるから身体の震えが再発しているの

 

 

「町の外まで飛び出したと思っていましたけど安心したですぅ、マスター♪」

 

「…………マスター?」

 

「……………………」

 

「……神奈ってそういう趣味が――」

 

「……真貴にゃの目って節あにゃ? この状況で私の状態を見てればそんにゃことを――」

 

「冗談が通じないほどに切羽詰っているのか!?」

 

 

……はい、そうです精神的にかなりきていて追いつめられています

 

 

「……それで、あの子はアルビノっ子なの?」

 

「……わかんにゃい」

 

「なんでマスターって呼ばれてるの?」

 

「……わかんにゃい」

 

「なんでガタガタ震えてるの?」

 

「………………」

 

 

質問の内容が心にグサグサと刃を突き立てる……ような気がした。 最後の質問は健全な私にとってトラウマになってしまうような光景だから思い出したくない

 

 

「神奈とあの子の間に一体何が……!!」

 

「盛り上げにゃいで……」

 

 

……ああ、いっそこのまま眠ってしまいたい

 

 

「マスターのバイタルが低下! マスター! しっかりですぅ!」

 

「……誰のせいだ……バカ……」

 

「妖精です♪」

 

「…………」

 

 

脱力していたところにさらに脱力した

 

……このテーブルの感触……いいなぁ……

 

 

「……!! 神奈!? しっかりして! そっちに行っちゃダメ!!」

 

「……真貴にゃ……大げさすぎ……死にたいにゃんて思ってにゃい」

 

「あ、そうなの」

 

 

……切り替えが早すぎだよ……

 

アイテム欄から精神安定剤を取り出して、自己の精神崩壊を防ぐために使用する

 

 

「マスター、そちらの方はどちら様ですか?」

 

「……ん」

 

 

レイは真貴奈のことを知りたがっているみたいだ

 

 

「……真貴――」

 

「私のプレイヤーネームは『MACHINA』だよ。 よろしくー」

 

 

……マキニャ? 

 

 

「MACHINA? ……マキナさんですか?」

 

「ふふーん♪ イエス!」

 

 

真貴奈が勝ち誇ったかのような笑みを浮かべた

 

 

「どこから取ったかというとね、『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』からとったのだ!」

 

「よろしくお願いしますですぅ」

 

 

とても冷静に返すレイ

 

……真貴奈、自分の名前が入ってて嬉しそう。 ……とても痛いけど

 

 

「私はレイですぅ。 何から取ったのか聞いたら精神が毒されるみたいなので、聞かないほうが身のためですぅ」

 

 

私の方を見ながらレイが自己紹介した

 

 

「なにそれすごく気になる」

 

「知りたいですかぁ? ならこっそり教えちゃうです」

 

 

レイが真貴奈のそばに寄る。 そして耳元で囁いた

 

 

「奴隷のスレイブから取ったんですぅ」

 

 

囁いているはずなのに全て聞こえてくる

 

……まさか本当にそれでくるとは……

 

 

「レイちゃんは誰の奴隷なの?」

 

 

何気に毒されていない真貴奈

 

……精神防壁でも立ててるのかな

 

 

「マスターの奴隷ですぅ♪」

 

「ふげっ!」

 

 

レイが突っ伏したままの私に抱き着いてきた

 

 

「なんだかまるで姉妹みたい」

 

「ちゃんと本物の妹がいるからね?」

 

「知ってる。 血が繋がってなくても妹みたいだなー、って」

 

「どこをどう間違えたのかこんにゃににゃったけどね」

 

 

いつまでも突っ伏しているわけにもいかないので引っ付いているレイを引き剥がし、仕方なく隣に座らせる

 

 

「劉は元気?」

 

「超元気。 現在進行形で多分私の補助してる」

 

「やっぱり?」

 

「?」

 

 

……やっぱり? ……ああ、前のMMOで劉の所業を目の当たりにしていたんだっけ

 

 

「でもちょっとひねくれ過ぎだよね。 命中と回避に関係するところだけしか弄ることができないんだもん」

 

「うん」

 

 

……それは私も思った

 

 

「今回も劉がチートで補助してるんだったら、さっき見たステータスも納得できるよ。 きっと装備もおかしいでしょ?」

 

「うん」

 

 

名前がおかしいものがいくつもあって、それぞれは元になったアイテムとは効力がものすごく上がっている。 装備の方は名前がいろいろとおかしい。 性能がボスを瞬殺できてしまうようなものやダメージをもらえそうにないものまである

 

……前々から劉かな、って思っていたけどもう100パーセント劉の仕業だよ

 

 

「41レベとか言ってたけど、実際のところはそれにプラス50くらい付けてだいたい91レベくらいなんじゃないの?」

 

「大当たり」

 

 

……名探偵、ここに誕生す

 

 

「この辺りにいるモンスターはまだ10から20くらいのレベルしかないのにね」

 

「ね」

 

「何の話をしてるですぅ?」

 

 

……レイが会話についていけてなかったみたいだ

 

 

「あ、そうだ。 レイのメニュー画面すごいんだよ」

 

「みんなと違うの?」

 

「レイ、見せてあげて」

 

「はいですぅ」

 

 

レイがメニュー画面を出した

 

 

「おお!」

 

「私だけ他の人とは違うんですぅ?」

 

「うん。 にゃぜかは知らにゃいけど」

 

 

……実はレイだけ限定仕様でやっていたりしたら、超羨ましい

 

 

「マスターと同じがいいですぅ」

 

「それは無理にゃんじゃにゃいかにゃ……」

 

「なんでですぅ?」

 

 

……なんでかなぁ

 

 

「……わかんにゃい」

 

「調べてみるですぅ」

 

 

レイがメニューからヘルプ画面を出した。 ヘルプ画面も私のものとデザインが違う

 

 

「えーっと……これをこうしてっと……」

 

 

レイが両手で広げる動作をすると、枠が広がって文字が大きくなった

 

 

「……よくそんにゃの知ってたね」

 

「マニュアルにあったですぅ」

 

「…………」

 

 

……そんなのあったかな

 

 

「……? これはなんですぅ?」

 

「ん?」

 

 

レイがメニューの項目の一番下を指差して訊いてきた。 項目には[Administrative privileges]とあった

 

 

「……管理者……権限……?」

 

「管理者は茅場って人じゃなかったっけ?」

 

 

……そういえば真貴奈もあの場にいたんだっけ

 

 

「それは知ってる。 レイは知ってる?」

 

「知らないですぅ……」

 

 

……知ってるかと思ったけど知らないんだ

 

 

「……じゃあ、これは一体……」

 

「まぁ、あるならあるで攻略楽じゃない?」

 

「これでマスターと……ふふふ///」

 

「…………」

 

 

……なんでこんなにも天と地の差があるんだ。 レイの思考がもう分からないよ

 

 

「マスター、早速個室で試してみ――んんむっ!!」

 

 

手早くアイテム欄からパンを取り出し、レイの口に詰め込んだ

 

……もう、この子にこれ以上しゃべらしては駄目だ




新キャラクターの真貴奈とレイちゃん。名前はこちら側からしてみれば案外適当なモンなのです。適当なものにいかにして正当な由来をつければいいのかを平日の間に考えていたりするのです。 真貴奈はともかく、レイちゃんはなんとなく予想がつくと思うのです。 以上なのです
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