「何が?」
「サブタイ的に私に死亡フラグが……」
「…………がんばれ」
「…………はぁ」
「いきなり溜息なんてついてどうしたの?」
現在の日付、三月十五日。 今いる場所は第八層の拠点としている町の広場だ
「マキニャ……今にゃん日か知ってる?」
「えーっと……ちょっと待って」
二人掛けのベンチに座り込みながら我が友、マキナに問いかける。 本名は
「……」
三月十五日。 もう、あれから一か月も経過しているのに、第八層から一歩も上に進んでいない。 他のプレイヤー達は、もうこの階層にきてもいい頃合いだ
「…………」
その理由はマキナ。 素材集めとスキルとレベル上げのために一か月近くも時間を消費してしまっていた。 それについては別に問題はない。 親友の生存率が少しでも高まってくれるのなら喜んで付き合う
「…………」
……えーい! 日付の確認にいつまで手間取っているのだ!
「ただいまの日付はじゅうが――」
「せいっ!」
「っふぉっ!?」
「うわぁ…………」
横から存在を主張してくる真っ白な物体『R』に、間髪入れずにコッペパンを取り出して開いてる口に突っ込む。 ちなみに宿屋に置いてきたフィーストとは、事前にメッセージを送り、返してもらっているので大丈夫のはずだ。 眠い眠い言っていたところ以外は
「扱いが急激に酷くなってない?」
口元を引き攣らせながらマキナがしゃべる
「これくらいが丁度いいと思う。 マスターとか言うくらいだしね」
「向こうに戻ってから変な癖が付いちゃうよ?」
「付かにゃい付かにゃい」
「レイちゃんに付くんだよ」
「んー…………」
……そっちだったかぁ
「例えば?」
「そうだなぁー……M属性が付くとか!」
「…………」
ヒュォオー、と一陣の木枯しが辺りを吹き荒んだ。 辺りは静寂に包まれるものの、パンに口を塞がれてなぜか取り出そうとせずにそのまま食べているレイの咀嚼音だけが聞こえてきていた
……やっぱりマキナもそういう風に見てたんだ
「…………」
「…………」
[ピロロロリーン♪ メールだよ~]
「!?」
「?」
突然の着信に、そんなものを設定した覚えのない私は、後ろに反り返りそうになり、レイはそれを不思議そうに眺めていた
……この空気になんというタイミングだよ……
「あれ? 着信音設定できたの?」
メニュー画面を操作しながらマキナが訊いてくる
「設定した覚えはにゃいよ」
「……!! じゃあ……まさか呪いのメールじゃ……!?」
……んなわけがない
「……とりあえず開いてみる」
「どうぞ」
メニュー画面を開くと、項目に被るようにメールのダイアログが出現していた。 それを押してメール画面に移行すると、文字化けしたタイトルがフィーストのメールの上に出てきていた
「文字化けしてる……」
「やっぱりこれは……呪いの……!」
……マジですか……
「…………っ」
メールを開こうとしている手が震えていた
……呪いのメールなんて迷信だと思っていたのに……
「…………開いてみて」
「うん……」
恐る恐るメールを開いてみる。 もし、これが本当に呪いのメールだとしたら……どんな呪いがかかってしまうんだろう
[ずっと見てる]
「…………」
「…………」
意味が分からず、マキナと互いに目を合わせ、もう一度メールの内容に目を通した
……ずっと見てる……? 誰が? どこで? どうやって?
「…………!」
まさかと思い、空を見てみる。 視覚に関するスキルを最大限駆使して私を見ているモノを探す
「…………」
空には、所々にある雲を除いて何一つなかった。 所々にある雲を詳しく見てみても、何もなかった
「スキル……すごいたくさんあるね」
いつの間にか、マキナがメニュー画面を覗きこんでいた
「うん。 にゃんかメニュー画面開く度に増えていってる」
「……ここにあるスキルって、前にやってたMMOのと全部同じじゃない?」
マキナがスキルの一覧の一部、ざっと13個を指差してなぞった
「そう言われれば……よく覚えてたね」
……言われなかったら気づかなかったよ
「……っ!」
視界に一瞬、ノイズが走った
「……」
視界の右上に映るバッテリー残量を確認する。 そこには、パーセント表示にしておいた残量が100パーセントと示されていた。 気づかない内にケーブルを抜かれたわけじゃなさそうだ
「マスターの脳波に異常を確認ですぅ」
「!」
パンを食べ終えたレイが、いきなり喋った
「レイちゃん、いきなりどうしたの?」
マキナがレイに尋ねる
「マスターの脳波が少し乱れてたですぅ」
「カンナが?」
マキナが私を見てくる
……余計なことを言ってくれちゃって……もう……
「全然大丈夫だから心配しにゃいで」
「そう? にしても、カンナの脳波がわかっちゃうなんて……」
……ほんとだよ……
「きっとメニュー画面が普通と違うことに関係してるのかもね」
「それ思った」
レイのほうを見ながら答える
……そういえば、メンタルヘルスを行えるCPUがいるって説明書にあったっけ
「もしかしたら、この子は噂のメンタルヘルスプログラムじゃにゃい?」
「専用のチャットを通して会話をする、ってヘルプに載ってるけど?」
「…………」
ヘルプの項目から逆引きで探してみると、確かにそのようなことが書かれてあった
「でも、それだったらボイスだけだよね?」
「そういうのは開発者に聞いた方が早いけど……外部とは話ができないんだよねぇ」
「…………」
……どうしよう。 その開発者に会って話をしたんだけど……。 秘密にしてほしいって言われたから言っちゃダメか。 レイのことに関しても、そもそも会ってないから話しようがなかったし
「私はメンタルヘルスなんてしてないですぅ」
「……はぁ」
レイの気の抜けた声音に、脱力してため息がでた
……マイペースなのはいいことだよ、うん……
「じゃあ何をしてるの?」
「その問いを待ってたですぅ♪」
「…………」
脱力した私に代わってマキナが訊くと、レイが嬉々として無い胸を張った
「マスターのサポートを半面的に行ってるですぅ♪」
「そういえば、脳波の異常がー、とか言ってたね」
「その前にもバイタルがー、とか言ってたよ。 ……プレイヤーが普通そんにゃこと読み取れるわけがにゃいよ」
……やっぱりレイは……
「メニュー画面から読み取れちゃうだけなんじゃない?」
「そんにゃわけが……」
「レイちゃんって人間だよね?」
「もちろんですぅ♪」
私を無視してレイと話し始めるマキナ
「レイちゃん好きな人いる?」
「マスターのことが大好きですぅ♪」
「どの辺が?」
「全部ですぅ」
「…………」
話がコロコロと変わっている気がして、なんだかついていけない
「マキニャ……」
「レイちゃんは人間だって」
「あ、はい」
変わっているのは気のせいだった
……本人は本当にわかってるのかな。 フィーストに訊いたらなにかわからないかな
「…………」
レイのことについてわかることがないかメッセージを送ってみる
「お腹がすいたですぅ」
「さっきコッペパン食べてなかった?」
「パン一つじゃ空腹感を紛らすことなんてできないですぅ」
「食べ盛りなお年頃なのね」
「……!」
少しして返信されてきた
[本人がそう言うならそうなんじゃない? なんかここ最近寝ても寝足りないから眠らせて]
「…………」
文面から、何か投げやりっぽい感じがした
……フィーストもわからないってことでいいのか。 それよりも、マキナと行動しはじめてから眠ってばっかりだけど大丈夫かな……
「どこかにおいしいものが食べられるところはないですぅ?」
「料理スキル上げている人はまだいないから……いい店はないかもね」
意外とカンナは情報を仕入れているらしい
「……あ」
「?」
カンナが私を見てきた
……ま、まさか……
「レイちゃんのマスターが料理できるから作ってもらったら?」
「ちょ……」
「ほんとですかマスター!?」
レイがキラキラと目を光らせて詰め寄ってきた
「マスター? マスター!?」
「うっ……」
……知られてはいけないことを知られてしまった
「マスター料理できるんですぅ!?」
「えーっと……」
増えすぎた生活スキルを確認しながら、詰め寄ってくるレイを押さえる
……料理スキルのことだよね。 マキナが何を考えてるかわからないけど、現実の料理のことじゃないよね
「……できるよ?」
「やったですぅ♪」
「……マキニャ」
「安心して。 現実でもこっちでもカンナの料理のことは全部知ってるから」
……それは安心できない
「んで……レイはにゃにを料理してほしいの?」
「え、えーっと……」
訊くと、レイは詰め寄るのをやめて考え始めた
「うーん……」
中々食べたいものが見つからないみたいだ
「あっ……」
「ん?」
一瞬、レイの気が揺らいだ
……もしや……これは準備しておこう
「……わた――がほっ!?」
予想通りに個人的に言ってはならないことを言おうとしていて、あらかじめ手に忍ばせておいた、なぜか入っていたフランスパンをレイの口に突っ込む
「……真面目にゃことだよ?」
「!? んっ、んっ!」
首を縦に振って従うレイ
……私の眼が黒いうちは、レイにおかしなことを言わせない。 ……パンのストックが続くかぎり
「ふ、フランスパン? そんなものあったんだ……」
「さぁ……しらにゃい。 レイはそれでも食べてたら?」
「カンナ……変わっちゃったね」
「このアタッチメントのせいじゃにゃい?」
……実際はわからないけど、これのせいにしておけば気が楽
「それはそうと……店の配置は覚えた?」
「全然」
尋ねるとマキナは首を振りながら答えた
「カンナがどんどん階層を攻略していくから、どこを拠点にしようか迷ってるの」
「……にゃんかごめん」
どんどん攻略していったことが、知らず知らずのうちに迷惑をかけていたみたいだ。 他のプレイヤーにも何か迷惑をかけてないか心配だ
「気にしなくていいよ。 解放されてる最高の町を転々としていけばいいから」
「最高の町?」
……豪勢な町のことかな
「現時点で解放されている最も高い階層にある町のこと。 質のいいとかじゃないからね?」
「! あ、うん……」
……心が読まれてる!? それにしても、マキナは肉体派なのによく頭が回るなぁ
「あ、それで思い出したんだけど……」
「……?」
「黒い剣士の噂! なんでもその正体は、第一層のボスを倒した組にいて、攻略した際にビーターってことがわかって、それきり姿を現さなくなった黒いコートを纏ったプレイヤーなんだって!」
「へぇー」
大げさに喋るマキナ
……第一層のボスを倒して、黒いコートを纏っているプレイヤーか。 ……ビーター?
「ビーターって?」
「ベータ版プレイヤー一万人の内の一人のこと」
「…………」
背筋に冷や汗が出てきた
……あれ、なんだかそれは……私にも当てはまっているような気が。 ベータテスターだし…。 しかも
「カンナもビーターだね」
「そうでございますね……」
「でも、素早さと反応速度しか上げられなくなってたり、無駄に多い無駄スキルにスキルポイント割り振られちゃってるみたいだし、なんか変な縛りに入っちゃってるから別にチートでもなんでもないね」
「ぐっ……」
……今度こういうゲームをやるときは、邪魔をしないように言っておこう
「あ、でも素早さと反応速度が高ければ、余程攻撃力が低くない限り大丈夫か」
「…………」
……そのあたりについては、攻撃力が高い武器があるから大丈夫だ
「話戻すね」
「はい」
「……こういうゲームによくあることで、プレイヤーキルっていうのが始まっちゃったみたい」
「ここでも?」
「それのせいでプレイヤーは三千人ほど亡くなったらしいよ」
…………どこにでも現れるなぁ、そういう人たちは。 ……あ、そうだ
「それと黒の剣士に……にゃんの関係が?」
「特にないよ?」
「…………」
……マキナの考えてることがわからないよ
「黒の剣士がPKしてたら悪い形で伝わってるはずだしね」
「だね……」
チラリとレイを見る。 フランスパンが無いところを見ると、見ていない間に丸ごと全部食べてしまったみたいだ
……あの硬いのをよく食べたなぁ
「……」
「うぅー」
私の膝の上に乗ろうとしてくるのを阻止すると、レイは不満の声を漏らした
「最初は第二層も突破するつもりだったみたいだけど、どうやっても解除できないトラップにぶち当たって、今はレベル上げに専念してるみたい」
「そんにゃ情報……一体どこで仕入れてきてるの?」
「カンナと違って、私は石橋を金槌で叩くタイプだから慎重に行ってるんだよ。 情報を手に入れるのは普通だよ」
「そ、そう……へぇ……」
……マキナが金槌で叩いたら、壊れると思うな。 何事も全力で行くし……
「カンナの情報は何一つなかったよ」
「あるわけにゃいと思うよ」
「そのかわりに、凄まじい速度で階層を攻略しているプレイヤーがいるって情報があったけどね」
「……それはもう私だってマキニャ、わかったじゃん」
……この世界で初めて会ったときに、自分で自己解決してたの忘れたのかな
「流石に一人でガンガン進むのはあり得ないと思って、レベル上げしながら最高層に行った結果がこれだよ」
「…………」
半ば呆れた様子のマキナ
「カンナ、どうやってあのトラップ潜り抜けたの?」
「どうって……」
……あのトラップだけはフィーストに攻略してもらったんだよね。 物理的に
「バッサリ、一刀両断」
ありのままに見たことを伝える
「トラップまで操作できちゃうなんて……流石、劉ちゃんだね」
「……え?」
「劉ちゃんのおかげでしょ?」
「う、うん……」
フィーストの手柄が、いつの間にか劉の手柄になっていた
……ごめん、フィースト
「もう一か月も経つんだ……」
「だね……」
……今更だよ……
「攻略しようとしてる人たちは、もうこの辺りまできているのかな」
「…………!」
その言葉を聞いて、無言でマントを羽織る
「……き、来ていると思うよ。 一か月も経つんだから」
「じゃあ、黒の剣士もこのあたりにいるのかな?」
「さあ……どうだろうね」
……さすがに一か月もあれば、余程のことがない限り、大半の人たちはこの階層まで来ているはず。 こないのはエンジョイしようとしていた人たちだけかな。 ……イレギュラーな事態に見舞われてなければいいけど
「もしこのあたりに居たら……会ってみたいなぁ」
「……レアキャラ扱いだね」
「…………」
話を聞いていると、再びレイが、私の膝の上に座ろうとしてくる
……全く、しょうがないなぁ
「えへへ♪」
「……はぁ」
……これで変態さに拍車かけちゃったかも……
「レイちゃん、マスターに認められてよかったね」
「はいですぅ♪」
レイがさらに密着してくる
「…………すりすりしにゃいの」
「はぁ……はぁ……」
「……やっぱり宿屋に帰って」
……普通じゃないとは前々から思ってたけど、まさかここまでだったとは……
「マスタぁー……」
「…………」
何も言わずに、雑魚狩りの際に手に入れた二点間移動の結晶をレイに対して使う。 設置してある場所は、私たちの拠点にしてある宿屋の一室だ
「レイちゃんに厳しいね……」
「甘えさせたら、ああだからね」
……ベッドに落とすようにしたけど、間違ってフィーストのほうに落としてないかな
「レイちゃん可哀そうだよ?」
「あれで快感だって言いそうだから問題は――」
[ピロロロリーン♪ メッセージだよ~]
話している最中に着信音が鳴った
「また呪いのメール!?」
「メッセージって言ってたじゃん……」
メールではなくメッセージが届いた。 送り主はフィーストだ
……もしかして、落としちゃったかな
[カンナ]
メッセージはそこで途切れていた
……やっちゃった……絶対フィーストの真上に落としてるよ……
「あれ? カンナにパートナーいたの?」
「……いくらソロで突っ走ってるからって、それはちょっときつい」
「レイちゃんに辛く当たってるバツー」
「うっ…………」
なぜか、とても胸が痛くなった
……変態発言をさせないようにしているだけなのに……
「……宿屋に行こうか」
「もう?」
「そこにレイを飛ばしたから」
「あ、そうなの。 んじゃ行こっか」
マキナに手を引かれ、宿屋に向かった
「……!」
向かっている最中、町の入口のほうで半透明の影が見えた
「…………」
……無理やりでもフィーストを起こさないと。 ここ一か月の間は全く出てこなかったのに……
「あ、ちょ……カンナ?」
急ぎ足でマキナを追い越して、宿屋を目指した
「カンナ……速っ」
遥か後方で、マキナの呟きが聞こえた
<><><><><>
「フィースト! フィースト大変だよ!」
叫びながら、部屋の扉を勢いよく開ける
「フィースト! ……フィースト?」
フィーストが寝てるであろうベッドに目を向けると、普段よりも布団が盛り上がっていた
「フィースト…………さん?」
「…………」
恐る恐る名前を呼んでみるものの、返事がない
……熟睡してる?
「……!」
ここに飛ばしておいたはずのレイの姿が見えない
……まさか……
「……」
最悪の事態を予想しつつ、静かに布団を取る
「…………………………」
時が凍りついた……気がした。 個人的に、見てはならないものを見てしまった
「………………」
そっと布団をかぶせる
……フィースト……前から次元が違うと感じてたけど……その正体ってこれだったんだね
「…………」
……なんで……なんで同性同士でキスなんてしてるのさ……。 しかも、よりにもよってレイとなんて。 ……わけがわからないよ
「………………」
……どうしよう。 このままだと、あの半透明の敵にプレイヤーが……
「…………!」
ベッドの傍に、ひし形のアイテムボックスが落ちていた。 それを拾って中身を見てみる
「…………?」
文字化けしていて何が書いてあるのかわからない。 けれども、アイテムプレビューで中に入っている物が剣の形をしていることだけはわかった
……これって……フィーストがあの敵を倒すときに使ってたやつかな。 とりあえず借りておこう
「カンナ? どこに行ったの?」
すぐ近くでマキナの声がした。 フィースト達を放っておいて部屋を出て、マキナの元に行く
「カンナ……いきなりどうしちゃったの?」
不安そうにマキナが訊いてきた
……親友だから話しておこう
「マキニャ、聞いて。 とても大事にゃことだから」
「うん……」
「さっき、町の外に凶悪にゃモンスターがいるのを見たの。 そいつは姿が見えづらくて、しかも攻撃速度がすごく速い」
「イベントボスじゃないの?」
……言うと思った
「仮にそうだったとして、そんにゃのが町の入口に陣取っていたらどうにゃると思う?」
「やばいね。 倒しに行こうよ」
マキナが向かおうとする
「駄目。 マキニャはここに残ってて」
マキナの腕を掴み、引き止める
「どうして? ……もしかしてアイテム独り占めしたいの?」
「アイテムは十分すぎるほど充実してる。 これは絶対に解除できにゃいトラップと同じ類のものだよ」
「どうしてわかるの?」
「……普通に考えて、こんにゃ低層でそんにゃ鬼畜じみた敵が出てくると思う?」
ゲームにおいて、基本的に当たり前なことをマキナに問いかける
「私のやってたゲームには出てきてたよ」
「…………」
……いったいどんなゲームなんだ
「……と、とにかくその敵にはチートでも勝てるかどうかわからにゃいくらい不確定要素が詰まってるの」
「だったら二人で行った方が……」
「マキニャは平凡にゃステータスでしょ。 親友を目の前でうしにゃうのは嫌だから……ここで待ってて」
「……わかった。 カンナがそう言うなら待ってる」
「………………」
……そういえば、ああいう敵と私一人で戦ったことなんてなかったな。 いつもフィーストがいつの間にか倒していたから、戦い方なんて全くわからない
「……あ、そうだ。 私の部屋、入れるようにしておいたからそこに行ってて」
「場所はどこ?」
「一番奥。 私のパートニャーがそこにいるから、退屈しのぎにはにゃるかもね」
「どういう人か聞いておいてもいい?」
……どういう人だったかな
「悪い人じゃにゃいよ」
「う、うん……それじゃあ、カンナの部屋に行って待ってる」
「ん……」
そう言うと、マキナは私の部屋に入っていった
「……あ」
……ベッドを覗かないように言っておくの忘れてた。 ……まぁいっか
「さて、正義のヒーローごっこでも……やりに行きますか!」
ベッドの傍で拾ったアイテムを手に、勢いよく宿屋を飛び出し、敵がいる町の入口に向かう
……倒せるかどうかはわからないけど、フィーストが頼りにならない以上、私がなんとかしないと……
<><><><><>
「…………!!」
居た。 町の入口、門の目の前にゴツゴツとした巨体が立っていた。 もし、姿が見えづらい敵が動いていなければ、ほとんど同じ位置だ
「……」
近くまで来ると、大きさは門よりも大きかったが、その敵にはモンスターにはあるはずのHPバーがなかった
……もしかして、今まで姿が見えづらかったのがはっきりと見えるようになった? だとしたら……
「…………」
右手に持っていたアイテムに目を落とす
……これの……おかげ……?
「……!?」
急にアイテムが光り出し、右腕ごと幾何学模様の帯が包み込んだ。 眩しさに目を背けながら門の方を見ると、それに気づいた敵が門に突撃して、見えない壁に阻まれる
「……」
光が収まるとアイテムを持っていたはずの右手には、いつの間にか刃が半透明の結晶でできた剣を握りしめていた
……剣なのに、すごく軽い
「!?」
剣に見とれていると、ガリガリと耳障りな音が聞こえてきた。 その方向に向くとゴツゴツとした巨体が、見えない壁を殴りつけてヒビを入れていた
……止めないと!
「っ!!」
地面を思い切り蹴り、トップスピードまで加速して一気に肉薄する
「……!!」
斬りかかろうとすると、巨体が凄まじい速度で横薙ぎに腕を払ってきた。 それを間一髪のところで避ける
「っぐ……!」
避けたのにも関わらず、衝撃が身体を突き抜け、壁まで吹き飛ばされた
……なんで……避けたはずなのに……
「うぐっ…………」
思うように体を動かせないまま剣で体を支えながら立ち上がろうとすると、巨体が手を伸ばして私の身体を掴んできた。 そのままどんどん引き寄せ、持ち上げられていく
「――――っ!!」
急に全身に激痛が走り、思わず声にならない叫びを上げた。 身体がミシミシと音を立て、徐々に圧迫されていった
……痛い……でも……やられてたまるか!
「……こ……のっ……!」
最後まで手放さなかった剣を、全力を振り絞って巨体の首筋に突き立てる
「!!」
突き立てた途端、巨体が暴れ狂った。 巨体に掴まれたまま振り回され、壁に叩きつけられた
「………………」
ずり落ちて視界が赤く染まる中、巨体は剣を引き抜き、こっちに向かって投げてきた
「……」
周囲がスローになり、ゆっくりと剣が向かってくる
「…………っ」
走馬灯のようにこれまでの記憶が蘇ってくることもなく時間が元に戻り、胸元に深々と剣が刺さる
「…………」
呆然と剣を見つめた。 刺さっているのに、不思議と痛みはなく、これまでの痛みも消えていた
「……」
視界がぼんやりと霞んでいく。 ぼんやりと霞み暗くなっていく中で、誰かが駆け寄ってきた
「…………」
近づいてきた人物が誰なのかわからないまま、完全に目の前が真っ暗になった
<><><><><>
「…………」
壁に剣で磔にされたパートナーを、静かに見つめる。 メニュー画面からパーティーステータスでHPを確認すると、パートナーのHPは全く減っていなかった。 だけど、問題はそれじゃない
「……」
背後で地響きが鳴り響く。 振り向かず、パートナーを見つめる。 フードを被ったまま俯き、動かないカンナ。 フードを外すと、虚ろな目で自分の胸元に突き刺さった剣を見つめていた
……私のせいで……カンナは……
「…………っ!」
苛ついた。 いつもそばにいてやれなかった自分に、とてつもなく苛立った
……このゲームの子供じみた仕掛けからはともかく、せめてあいつらからは守ろうと決めたのに……守ってやることができなかった……
「…………」
仇が、すぐそばにいる
……待っててカンナ。 ……すぐに……終わらせる
「……」
左手を横に突き出し、身の丈ほどある剣を具現化する。 カンナの胸に突き刺さった剣と同じ力を持つ剣
「…………」
影を感じて振り返ると、巨体が腕を振り下ろしてきていた。 剣を持っているほうとは反対の手を掲げ、受け止める
「…………」
……こんなに弱い奴でも、普通の人間では全く歯が立たない……。 ……もっとカンナに気を使うべきだった……
「っ!!」
受け止めた腕を、片手で引き千切る
「■■■■ーーーー!!」
巨体が耳障りな叫びを上げ、 もう片方の残った腕を振り回してきた。 それがこちらに振り下ろされると、同様にして引き千切った
「■■ーー―――」
巨体がバランスを崩して倒れたところに、すかさず飛び乗り、開いた口に向けて剣を刺し込む
「…………」
剣を引き抜き、首を刎ね、止めに胸元に深々と突き刺す
「………………」
剣を戻して地面に降りると、巨体は何かに吸い込まれるようにして消えていった
「…………」
再び、カンナの傍に行く。 傍まで行って、カンナに刺さっている剣に触れる
「……!」
手の感覚に違和感を感じ、剣から手を離してカンナに触れてみると、剣からカンナと同じ感覚が来ていることに気付いた
「……………………」
……一体……どうなってるんだ……
「………………」
このままにしておくことができず、これ以上カンナを傷つけないように剣を突き刺したまま壁から引き離し、脇に腕を通してそっと抱え上げる
……とりあえず、宿屋に戻って考えてみないと……
※・カンナとフィーストは他のプレイヤーの死を目撃していない(ここ重要)
・フィーストの元ネタがわかると超人パワーも納得