人気のない深夜の闇の中で、操作盤を叩く音が静かに鳴っていた。
仄かに光る操作盤が照らすのは、幼き少女、エルフナインの顔であった。
その表情は何やら思案しながらも、時折手を止めながらも操作盤を叩いていた。
次の瞬間強い光が部屋を照らした。
「うわ、な、何ですか」
「それはこっちのセリフだぞエルフナイン君」
そう声を掛けて近付いてきたのは
「弦十郎さん……すみません、少し気になってたので」
「気になる事、それは頻発している事件事故の事か」
「はい、どうにも引っ掛かるんです。何がってハッキリとしてるわけじゃないんですが」
「ふむ、それで今見てるのは」
「ああ、これは今回の被害報告をまとめてたんです。あとどう錬金技術が有効活用できるかなって。……あはは、キャロルならいとも簡単に対処方法を思いつくんでしょうけど、僕は基本技術の一部しか転写されていないから」
「エルフナイン君」
「この身体はキャロルのモノなのに、意識はボクのまま、もし彼女の知識が活用できれば少しでも力になれるのに、それにキャロルに身体を返したり、意識を呼び戻せるのに、そう思うと居ても立っても居られないんです」
「エルフナイン君、頑張り過ぎて君が参ってしまっては元も子もない、もう寝なさい」
「………はい、分かりました」
そう言い、操作盤に何かを打ち込み終わったのか、席から立ち上がり、弦十郎と共にメインルームから出て行った。
後に残るのは、仄かに光りを宿す操作盤だったが、それもすぐに電源が落ちたかのように消えた。
そこはどこかの場所
暗がりの中、微妙に光り漏れる箱が幾つかあった。いやもしその場所の全体像を見れたならば幾つかという規模では無い事が解ったはずであるが、今は幾つかという事にしておこう。
箱は全長が1.8メートルぐらいだろうか光が漏れ出ているが、箱の上部にある細い覗き窓から中を覗けたならば、面白いモノが見れただろう、それも幾つかの箱を覗いた場合だが。
そんな、まるで箱の乱立する場所に全身ローブに身を包んだ何かがいる。その存在は多くの操作盤を操作しながら、空中に幾重にも投影されている画面を忙しなく見ている。
画面には数字やグラフ、また何かの波形の様なモノ、様々なモノが表示されているが忙しなく切り替わっている為それに何の意味があるのかは操作盤を操作している人物にしか解らないだろう。
そして暫くすると
「ようやく、ようやく準備が整う、さあ始まるぞ、待っていろ、『
そう言うと操作盤から離れ、ローブの者は暗闇に掻き消えて行った。
残るのは多くの光漏れる箱が乱立する空間だけだった。
「……き、響!」
「ふぇ、な、なに未来」
「もう、話聞いてた?何かぼぉっとしちゃって…………響何かあったの?」
そこは午前中の爽やかな風が吹き抜けるオープンスペースのカフェで響、未来の両人はお茶を楽しむはずだった。
ただ響の方が何か考え事でもしていたのか、未来の話を聞いていなかったようだった。
それを気付き、心の底から心配げな未来の様子に
「あはは、なんでもないよ」
「嘘、響何か考え事してたでしょ、分かるんだからね、それで何を考えていたの、おじさんの事?それともお仕事の事?」
「お父さんの事じゃないよ」
「じゃあお仕事の事でしょ、最近忙しそうにしてたし」
「違うよ、仕事は確かに大変だけど、私達にしかできないことも多いから」
「………じゃあ、何を悩んでいるの」
「………未来はさ」
「うん、何響」
「未来は将来何になりたいの?リディアンで教師、それとも音楽教室とか、とにかくピアノで何かしようと思ってる?」
「………分からない」
「え?」
「分からないんだ、そう言う響は将来の事で悩んでるの?」
「……うん、私がリディアンに通い始めたのは偶然や必然、他にもいろんな事があったと思うんだ。でも私が始め、リディアンに入った理由は翼さんたちのツヴァイウィングに憧れて、それに未来がリディアンに入学するって聞いてたから。その翼さんは今度は世界ツアーをするほど夢の翼をはばたかせてる。それに比べて私は何も持ってない。未来みたいに何かをしたかったからリディアンに入った訳でも無くて、入ってからやりたい事が出来た訳でも無くて」
「響には何もないなんてことは無いよ!翼さんの心を救った、クリスさんを救った、マリアさんや、切歌ちゃん、調ちゃん、多くの人を救ってきた。それに私を止めて、救ってくれた。」
「そ、それは」
「皆の力を合わせたからかもしれない、でも響が居なかったら成しえなかった結果なんだよ、響のその腕が勝ち得てきたものなんだよ。その結果だけは否定しないで」
「未来」
「それに、まだまだ私達には時間は多くある。翼さんだって歌手から別の道があるかもしれない。
「……そうだね、うん、ありがとう、未来」
「えへへ、説教染みてたね、それと気になってたんだけど」
「ふぇ、なに」
「翼さん、世界ツアーするの?」
「…………あ」
「機密だった?」
「うん、公式発表は明日の夕方予定なんだけど」
「もう、気を付けなきゃダメだよ、響」
「あはは、はい、気を付けます」
「それで、翼さんのツアーって何時からなの」
「それは……ってもう未来!」
「もう喋っちゃったんだから、今更じゃないの?」
「明日、明日の夕方には全世界発表されるから、それまでは絶対にもう洩らしません」
そうさっきまでの暗い雰囲気は払拭され、じゃれつく二人の姿がカフェにはあった。
「あ、そう言えば、何の話しようとしてたの未来」
「え?ああ、夏祭りとか、他にも夏らしいことしたいねって」
何とも日常的で、牧歌的な内容だった。