ここは私立リディアン音楽院高等科、2年生の教室。
いまは始業式が終了し、少しざわついた教室内の話題はやはり、
「いや~、いよいよだねビッキー、ヒナ」
「え?なにが」
机にグタッとしていた響はそう答えたが
「あらあら、可愛そうね翼先輩たち」
「ほら響、今日がファーストライブの全世界中継日でしょ」
「あははは、もう、シンデレラストーリーって言うか、羽ばたいちゃってるよね、翼先輩達って」
「ああ、そうだった、今日まで色んなことしてたから気が逸れちゃってたよ」
「もう、そんなこと言って、録画と配信時間からの予定開けてたでしょ」
「もう未来、ばらさないでよ」
そう言いながらぐだった身体を起こす響。
「いやいや、ビッキーやヒナはツヴァイウィング時代からファンだったでしょうに、言われなくても判ってるよ」
「でも、本当にいろいろあったから、頭からすっぽ抜けてたかもしれないし、それに未来には感謝してもしきれないよ」
「あ~、確か、前の登校日の日に提出するはずだった課題を今日に引き伸ばしてもらったんだよね」
「まさかのヘリでラぺリングする響たちだったからね、アニメの世界みたいだったよ、もう堂に入ってたよね、響は途中で飛び降りてたし」
「いや~本当にあの時はもう駄目かと思ったよ、事件でクタクタな上に先生の説教のフルコース」
「まあ、本業は疎かにしちゃいけないよね」
「それで、結局響さんの所に集まりますか、それとも」
「ああ、それなら私の場所で皆で見よう」
「………ヒナ、私達お邪魔しちゃっていいの?」
「え?なんで?」
「いや、だって、ねぇ?」
「…………」
「そう言えば、他のキネクリ先輩やセッちゃん、ヨミちゃんとは一緒に見ないの」
「あ~、どうなんだろう、私聴いてないや、メールで聞いてみよっかな」
「そう言えば、響、最近事件は大丈夫だったの」
「ああ、うん、何かここ最近はピタッと止んじゃってるんだ、2~3日に1回は出動してたのに」
「ビッキーそんなに行ってたんだ」
「でもそんなにたくさん事件なんて起きてましたっけ」
「国内だけじゃなくて、世界中でちょこちょこ在って、う~む我ながらヒーローっぽい?」
「世界を裏から救うヒーロー、うんまさに響だね」
「その影響で課題で泣きつかれるなんて思っても無かったけどね」
「あはは、その節は本当にって返信来たよ、二人ともお邪魔じゃないんだったら是非にって、ただクリスちゃんの方は何かお前らはお前らで楽しめって」
「雪音先輩っぽいね、気を使ったのかな」
私立リディアン音楽院高等科、3年生の教室。
「っと、送信」
「あ、雪音さん、ちょっといい?」
「あん?綾野に五代、それに鏑木か、どうかしたか」
「今日、これからみんなで集まらないってことになったんだけど、雪音さんは」
「特に用事はねえが、もしかしてつb、風鳴先輩のライブか」
「ええ、我が校でもスゴイ先輩の一人、そのライブなんだもの、見ようってことになって、どうせなら」
「あ~、ワリィ、何か皆で集まるっての苦手なんだ、だからいいわ、悪いなほんと、誘ってもらってんのに」
「もしかして後輩の子たちが先だった?」
「は?別にアイツらは関係ねえよ。それにさっき来た誘いは断ったしな」
「え~、何で、可愛い後輩じゃない、頼まれたら私なら断れないわ」
「あたしみたいなのがいるとアイツらもゆっくりライブを楽しめないだろうし、それに私は、騒がしいのはちょっとな」
「もぅ、雪音さんの悪い癖だよ、それ」
「そうそう、遠慮がちというか、自分を卑下するというか、皆と同じ輪の中じゃなくて外から眺めてる感じって言うか」
「雪音さんの事を誘いたいのは私達も、あの後輩ちゃん達も一緒で本当の事なんだからさ」
「………あぁ~、もう、……そうだな悪かった。お前らの気持ち蔑ろにする気なんて欠片も無いはずなのに、どうにも素直になれない自分が無さけねぇ」
「それじゃあ、まずは後輩の子たちに返事」
「はぁ?もうそれは」
「自分の気持ちに素直に、でしょ、まさか気持ち素直に後輩の子たちの誘い断ったの?」
「ぐぅ、でもよぉ」
「でもも、ストも、テロも無い!……………それに、もし良ければ私達もお邪魔したいし」
「ちょっと待ってろ、今返信し直す」
そして時間は進み、間もなくライブが始まろうという時間。海上の裏、控室には一人の少女が微動だにせず、椅子に座っていた。
「奏、再びの表舞台、それも世界ツアーとやらにまで来てしまった」
だが、いつもの様に声を掛けてくれる、微笑みかけてくれる存在を感じられず
「……応えてくれないんだな、何時も奏の声を聞き、安堵し、そしてそんな自分が情けなかった筈なのに、最近はお前の姿を、声を、感じられなくなってしまって、それ以上に情けない姿をさらしてしまっている。私は防人。強靭にして鋭き剣の筈なのに、いつの間にか鈍らになってしまったのだろうな」
そんな、微妙にブルーな雰囲気の控室にノック音が響く。そして扉がそのまま開かれる。
「翼、もうそろそろ時間、ってまた奏さんと対話してるの?最近分からなくなったんじゃなかったの?」
「……マリアか、もうそんな時間なのだな」
「ちょっと大丈夫?なんだか最近弱気気味に」
「ハハハッ、やはり私は弱くなったか、マリアに言われると少し辛いな」
「………いい加減にしなさい、翼!今の貴女は防人である前に、一人の歌い手、皆の希望を背負い空を飛ぶものなのよ、そんなに弱々しい貴女じゃ、支えてくれているパパさんや司令、響達に見せられないわ」
「分かっている。解ってはいるのだ。だがお前にも分かるだろう、心の中にいた存在がポッカリと突然いなくなったら、問いかけに答えてくれなくなったら」
「セレナ、貴女にとって奏がそうであるように、私は妹がそう、多分マムもそう、でもね、皆そうなのよ、私がセレナの、マムの声を、存在を感じられなくなった、そう思うとまるで暗闇、足元も見えない漆黒、でも、私達歌手はそんな闇に、漆黒に光を灯す存在。その私達がそれに負けてしまったら、もう何も届ける事も、伝える事も出来ない。」
「翼、貴女の姿を見るのは数多の人々、大切な人も、大切だった人も、等しく貴女の姿を見る。その時に、いえ、その後で、再びその人々にあった時、貴女は胸を張った状態でいられるか否かが、今よ」
「…………すまなかった、マリア。少し曇っていたようだ、その曇りも今拭えた。いくぞ、私達の戦場へ」
そして薄暗いとある場所
其処に佇むのは一人のフードを被った存在、そして、その背後には同じようにフードを被った体格やらが違う存在が五人。その更に背後に十字架の様なモノに雁字搦めに鎖を掛けられた存在が一人。
「さあ、『