ライブ会場は暗闇に包まれ、今か今かと多くの観客が、そしてカメラが待っていた。
煌びやかに会場に灯るのはサイリウムの仄かな明かりである、まだ降られることのないその光はまるで会場全体が星空のよう、まるで天地が逆転したようなそんな感情を想起させる。
そして流れ始める音楽、だが、主役二人の姿は何処にもない。
ざわつく会場、そして、光の柱が会場の上空を照らし出した。
そこには衣装を着飾り空中でポーズを決める二人の存在が。
『黒鉄のワールドトリガー』
その言葉とともに音楽の伴奏部分が無くなり、空中の二人は飛び降りながら歌いだした。
それを見ていた観客や、カメラの先の視聴者の感想は計り知れないだろう、現に此処にも
「うわぁ、アニメ、アニメの世界だよ、ワイヤーアクションなのかな」
「綺麗な歌ね、マリアさんも歌手として復帰するなんて」
「大人の事情って奴らしいけど」
「もうアニメじゃん、はぁ」
「なんで、辛気臭いため息だな後輩」
「いえ、何で私たちの周りってこんな波乱万丈なアニメっぽいのかなって、それに比べ」
「あらら、比べたらダメよ、それこそ才能が伸びないわよ」
「そうそう、悩むのは私達若者の特権だけど、引き摺り続けるのはだめ」
「ええ、良い言葉を教えてあげる。限界突破、突貫初心」
「ほえ~、先輩方の言葉は違いますね、ってビッキー達が何か静かだけど、どうした?」
そこにはジッと見ている響、調、切歌がいた。
「ああ、もう集中してる、それに切歌ちゃん達はこれがマリアさんの復帰一発目だから」
「でも、録画とかしてるんだよね」
「馬鹿野郎、生で見るのと、録画映像とじゃ心境が変わっちまうだろ」
「ううぅ、まあ確かに」
それはリディアンの下宿施設、その一室。
姦しく多くの女の子が画面ににじり寄っていたり、楽しく会話を楽しんだり、つまめるものや飲み物を甲斐甲斐しく用意世話するものと分かれている。
「マリアの件だけじゃない」
「デスデスデース」
「あん?じゃあなんでそんなに静かに見続けてるんだ」
「賭け」
「デス」
「あ?………あぁ!まさかお前ら」
「ん?何々」
「雪音先輩が、もしマリアたちのライブ中に何かが起きたら、好きに奢ってくれるって」
「約束したんデス」
「でもそれって、マリアさんたちに何かあって欲しいってことじゃないんでしょ二人とも」
「「当たり前!」デス!」
そしてそんな会話中に会場の雰囲気が変わった。
再び二人が
『黒鉄のワールドトリガー』
と歌い、天上に向け腕を掲げ、トリガーを引くようにすると、真っ暗だった会場の天井が砕けた。
『うぇえぇええぇぇぇぇぇ!!』
皆が驚くが、もちろんそれは演出だった。二人がトリガーを引く動作でドーム状の天井の遮光を切って映像を変えたのだ、真っ暗な天井から砕ける黒い膜へと、そして現れたのは蒼天。
そして、そのまま次々に曲を歌い切り、最後の曲を歌い終えたのは、2時間後だった。
むろん交互に歌い上げたり、休憩時間を設けはしたが、それでも濃い時間だっただろう、二人にも、観客にとっても、そして響達にとっても。
そう、無事に終わる、そう思った時。
~♪~~♫~~~♩~♬~~~~♪
音楽が鳴った。
何も知らない観客は、まだ曲があるのか、アンコールなのかと期待したが
翼たちは
「何だ、緒川さん、これは一体」
『分かりません、こんなの予定に入れていません』
「じゃあ、一体」
そうインカムで会話していたが、音楽が止み、それはマリアたちの後方の巨大モニターに映った。
薄暗く仄かに地面が明滅する事で何かがある事が解る映像。
奥の方には十字架の様なモノに鎖で雁字搦めのフードつきの外套を被った何かが貼り付けのままにされ、その手前には同じくフードつきのローブを纏った複数の人間代の存在が立っており、そして、最前列に映るこれまたフードのある仰々しい服を纏った何か、ご丁寧に全員の顔は、地面が明滅しているのに口許すら見えない暗黒が広がっていたが、仰々しいフードの存在が一礼をすると
『おはよう、こんにちは、こんばんわ、全世界の皆様。突然の放送に驚かれているかもしれませんが、この映像回線を利用させて頂いていることから、こんにちはで統一させて頂きます。回線を貸して頂けた、ミスマリア、ミス翼、両名には深く感謝を』
この放送には、全世界が驚いていた、いや演出の一部と思い込んでいるモノもいるかもしれないが、そこでは冗談などでは済ませられなかった。
「藤尭!友里!エルフナイン君!現状報告、あと緒川に直通回線を開け」
「放送回線に何者かがハッキングしているモノと思われます」
「現状発信元解析中ですが、複数の回線を経由しているせいか芳しい結果が出るのはもっと先になりそうです」
「音声に関してもボイスチェンジャーが多重にかかっているのか、復元は困難な状態です」
『司令』
「緒川か、速くこの放送を止めるんだ」
『くっ、現状それを試みてはいるのですが』
物々しい物音がくぐもって聞こえてくる。
「どうした、なにがあった」
『戦闘行為自体は無いのですが、通信機械室等に未知の術式が張り巡らされており、外部から何の影響も与えられません』
「クソッ、会場のカメラを止める事は」
『それに関してはもう実施しましたが、外部にはまだこの会場の様子が流れているようです』
「八方塞だと」
そして
「「マリア」」
「「翼」さん」
リディアン学生寮にも二人の身を案じる存在が
だが、話はそのまま続く。
『さて、この放送ですが、見る見ないは皆さまの自由です。その為にわざわざ迷惑を掛けない為にもライブの終わった後にお邪魔させていただいているのですから。ただし、見ておいた方が後々後悔しない結果につながると思っております』
「貴様は何者なんだ」
そう翼が言うと、映像は
『そうそう、自己紹介がまだでしたね。私の名前はデッドマンズ、一応このモノ達のリーダーとも言える存在です。他のモノ達についてはまた今度、いえ、自己紹介が必要な機会が訪れない事を私は祈っておりますが』
「目的は一体何なの」
そう、マリアが尋ねると
『さて皆様も気になっているでろう、我々、いえ私の目的ですが、至極簡単にして明快です。シンフォギア、その装者を引き渡して欲しい、むろん世界中の装者を、です。』
『むろんこれは取引、もしそちらが引き渡しに応じて頂けるのであれば、我々は相応の見返りをあなた方に与えましょう。物事は等価価値、もしくはそれ以上でなければなりません。ですから、そう見返りは、居なくなってしまった、無くしてしまった大事なモノを取り戻す、詰まる所、死者の蘇生となります』
「死者の蘇生だとっ!!」
この叫びは奇しくも会場の翼と弦十郎の二人が発した。
『死者の蘇生、それの取引にてシンフォギアの装者を渡して欲しいのですよ。もちろんレートは決めてあります。基本レートは装者一人に対して一万人、そしてその中の百人を指名する権利を上げます』
「指名?」
マリアがそう聞くと
『指名とは死者の中から望む方を指名して頂き、蘇生させてあげます。望む方、会いたい方、それらを得られないのなら、死者の蘇生は無意味でしょう?だから一万人中の百人を指名させてあげます。もちろん、それ以外の九千九百人の方はこちらが蘇生させた方が占める事になりますが』
「そんなバカげたことが」
『さて基本レートはこの一万人ですが、当然レートは変動があるもの、その変動は簡単、各国がシンフォギア装者を引き渡さないというのならば、こちらで確保しようとします。そして、確保したとしても死者の蘇生はなしです。逆に、各国が装者を引き渡して頂けるのであれば、レートは十万人で指名は千人、そして装者自身が我々の方に来るというのであれば、一億人、そして指名はお好きなように、と致しましょう』
「なんだと!」
『当然国が絡むのならその国が死者蘇生の優先権を、装者自身が来るのであれば装者に、次に所属する国へと権利を与えましょう。まあどこの国に所属するという宣言も来ていただいた時にでも聞きましょう。それと、何の確証もなしでは詐欺師と変わらないですから、35.360556、138.727778 と、40.6892494、-74.0445004に確証であり証明を残しましょう。それをもって3日後に答えを聞かせていただきます。では皆様御機嫌よう』
「待てッ!」
そう恭しいお辞儀とともに通信を切ろうとしたところに翼が声をあげるも、無情にも通信はそれっきりとなってしまい、暗い画面だけが遺された。