強くあれ
ただ只管に強くあれ
さすれば何モノも失わぬ
配点(逃道)
◇■■■◇■■■◇
極東における最強。それは挙げるとするならば“東国最強”そして“西国最強”。この両名だろう。
強いからこそ名声を得て、だからこそ“最強”と呼ばれるのだ。
アリアダスト教導院図書室。そこには幾つかの人影が集まっていた。
「即座に臨時生徒会の開催提案を取り消すべきだ」
話を切り出したのはこの武蔵の警備隊副隊長を務める体格の良い青年だ。
向き合うのは交渉事に一日之長がある会計であり守銭奴であり商人であるシロジロ。
彼らの間には中立としてビデオカメラを持たされた三要の姿もあった。
「君達のクラスでどのような話があったのかは報告を聞いて知っている。その上で止めろと言っているんだ」
「金になる理由なのだろうな?」
「第一に兵力差だ。武蔵に武装の類いが無いのだから明らかだ。第二に“西国最強”に勝る手札がこちらにない。以上を踏まえても君達は戦う気なのか?負ければ極東は完全支配を受けることになるんだぞ!」
叩きつけられた拳により机は軋みをあげ、図書室に音が反響していく。
明確な焦りを目の前で見せられたシロジロは、だがしかし、全くもっていつも通りの仏頂面だ。
「第一の理由は分からんでもない。だが第二の理由に関しては疑問だな。中身がハッキリせん」
「我々の隊長ですら歯が立たなかったんだ!“東国最強”本多・忠勝殿より修練を受け、それでも敵わない相手に君達は勝算が有るのか!?」
「…………あるとも」
「な……!?」
冷や水のごとき肯定。
さすがに青年もその言葉に絶句してしまい目を見開いた。
警備隊にとって隊長たる本多・二代は間違いなく強者であり、最強に近い信奉をもって慕っている相手だ。
そんな彼女よりも強い、と断言される存在。
そこで青年は思い至る。
「まさか…………“悪鬼纏身”か?」
「その通り」
「それこそ論外だ!彼は十年前を境に鎧を封じているじゃないか!そんな彼が隊長よりも強いなどあり得ん!!」
「何とでも言うがいい。これは事実だ」
シロジロは不敵に笑むばかり。
それがあまりにも不気味に思える。少なくとも“悪鬼纏身”の10年を知らない青年からすれば不可解極まりない事だ。
「…………仮に悪鬼纏身が強いとして、その上で何故、戦う?君達の旧友であるホライゾンを救うためか?」
「それもある。が、もう一つハッキリせねばならない」
シロジロは指をたて言葉を選びながら目の前の警備隊の代表たちを見定める。
これは得難い相手だ。故に軽々しくは乗ってこない。
ならば、どうするか。
とりあえず現状を教える。
「近々、極東は大戦に見舞われるだろう」
「何……?」
「元信公は言っていただろう?大罪武装を“集めろ”と。手段は問われていない。ならば、だ。各国は虎の子とも言える大罪武装をそう易々と他国へ渡したりはしないだろう。話し合いで取引も出来ない。なら、最後に行き着くのは軍事的なやり取り、つまりは戦争だ」
「……ならばそれこそ」
「抗うのは無駄、か?それこそ金にならん。私達のとれるのは進んで激突していくか、停まって沈むかのどちらかだ」
進めばその先何があるかは分からない。停まれば一時的な安全を得て、その後は…………
そこでシロジロは前へと身を乗り出す。
「学生に対するのは学生だ。そして暫定議会と王は最後の説得の為に私達のもとに自分達の手先を送り込んでくるだろう」
「生徒副会長、本多・正純、か?」
「知っているなら話は早い。アイツをどうにかしてこちら側に引きずり込む」
「そして?」
「こちらの代表として立て─────聖連と対決する」
ここで言葉を切り、シロジロは撮影機材を意識するように再び言葉を紡ぐ。
「今の生徒会副会長は聖連の手先だ。そして、聖連の言い分が正しいなら私達に万に一つも勝ち目はない。だがもし、私達が副会長に勝つならば────それは聖連を負かすことも可能という事だろう」
言い切った。
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正純は人影の少ない街を小走りに進んでいく。
足は進めど頭のなかでは様々な思考があっちこっちに飛びつつ、同じことを何度も考えている。
武蔵に帰化していない人々は今、連絡船に乗り火種になりかねないこの場より離れていた。
隣人が離れていけば動揺が生まれる。そしていつしか武蔵の譲渡が必然という空気が生まれる。
そこまで思考が至り─────正純は首を横に振った。
確かにそうかもしれない。だが、同時に知っているのだ。
「それを是としない連中が居る」
自分の役割はそいつらの説得。もとい屈服。
それが大人たちの出した結論。子供の駄々には付き合えない。
と、余裕のある風な言い方にしてみたが結局は保身の意見だ。
確かに他者の命も握っているのだから迂闊な事は出来ないだろう。
正純としてもそれは理解出来る。が、それを自身の本心にしっかりと据えることは出来なかった。故に悶々と考え続ける。
「────直政」
「よう。何だいミトも一緒かい?」
「Jud.そう言う貴女方もこれから教導院ではしゃいでる方たちを諌めに行くのでしょう?」
集結する3人。
機関部、騎士階級、政治家。
何故だろうパーティとしてはアレなのだがこれから魔王に挑む勇者的な雰囲気がある。
敵だろうって?
バカ、筋肉ゴリラ、守銭奴、百合ップル、脳内ピンク、ズドン巫女、パシり忍者etc.etc.
これらを彼女たちは相手しなければならないのだ。どちらが手強いか。
「二人とも、どうしたいんだ?」
「あたしら機関部は武蔵が帰化しちまえばお払い箱だろうからね。確かめるのさ」
「私は騎士として知らなければならないことがあるんです」
「そう言う、正純はどうする気だ?随分と顔色が悪いように見えるさね」
「…………私は暫定議会派だ。主張は、無い」
それはどこか戒める様な口調だった。
それ以上の会話はなく3人は階段を登り、そして
「お、重い…………!」
「動けねぇ……!」
カーテンに巻かれたバカと俯せに倒れ全身に加重術式が施されピクリとも動けない筋肉達磨の姿を目にする事となる。
「…………何だいあんたらそのカーテンに巻かれたトーリみたいな塊と重力に叩き潰された蛙みたいな嵐みたいな物体は」
「ああ─────これは春巻と折檻だ」
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比較的マジメな態度で話し合いの場を儲ける筈がやはりギャグに飛んでしまうのは梅組クオリティというものか。
「違ぇーーーよ!!巻き寿司だから!海苔!……は白いからライスペーパーって事でファイナルアンサー!?」
「げ、激重……!も、モツが……!モツが、出る……!」
ビッタンビッタンとその場で跳ねる自称巻き寿司と最大クラスの武神が乗ることと同義以上の負荷を全身に掛けられ指先一つ動かないバカ。
「おい、ホントに大丈夫なのか?トーリはともかく嵐は…………顔が青いぞ?」
「問題ない。そこの春巻「巻き寿司だ!」…………はともかくそこの脳筋は押さえ付けておかないと一人で行きかねないんでな」
「んな……訳、ねぇだろ……!アレだ……!威力偵察……ってやつ!」
「それで鎧を纏っていくから止めたのだろう?」
「い、いや、奥の手使えば……!」
「戦争前に奥の手使うとかバカか貴様は。浅間、重しの追加だ、埋めてしまえ」
「待って……!?謝る!謝るから!それは何とぞご容赦ください!ゲピュッ!?」
必死の形相で顔をあげて懇願し、次の瞬間更なる加重で嵐は橋に体の前半分が埋まった。
「ワッハハハ!!!無様だなグルグルー!」
「べ、べべぇぼ……ババンベェバボ……!(て、てめぇも……変わんねぇだろ……!)」
五十歩百歩を地で行く二人を放置して、3人と一団は相対していた。
「ここで改めて自己紹介と行こう」
3人の内、中央の一人が手袋に包まれた手を挙げる。
「武蔵アリアダスト教導院副会長、本多・正純。そちらの臨時生徒総会を認めた上で、全校生徒への提案に来た。こちら、機関部代表の直政と、騎士階級代表のネイト・ミトツダイラも参考人として来てもらっている」
「元会計のシロジロ・ベルトーニだ。挨拶を受けよう。既に全生徒の暫定代表権は得ている。後は我々と相対で決定していい、とな」
言ってシロジロは後ろからなにかをひっ掴んで持ってくる。
「ばっ、シロ!まだ帯締めてねぇって!最初から脱げてたら面白くないだろ!?」
「やかましい。トーリ、金のために一応は貴様が必要なんだ。少しは働け“不可能男”。お前が権限さえ奪われてなければトップダウン制でこんな面倒な手続きなど踏まずに済んでるんだぞ。金も余計にかかっている」
「ちょっ、痛い痛い!うおっ!転ける!転けるって!?」
ジタバタと暴れるトーリにさしもの正純も頬が緩みそうになる。
それをどうにか抑え込んでシロジロへと問い掛けた。
「臨時生徒総会の議題は私の不信任決議で良いんだな?」
「Jud.。こちらを武蔵側、お前たちを聖連側として相対をもってこの場を決する」
「…………お前たちはそれが周りにどれだけの被害を被るか分かっているか?」
「このバカは知らんが。少なくとも、私はこの決定で利益が上回ると試算している」
言い切った。あの金の亡者であり守銭奴の教本のような男であるシロジロが確かに利益があると予想したのだ。
とはいえそれだけを理由にこの相対を終えることは出来ない。
周りでも少し離れているがこちらの動向を伺う者達も多数居ることであるし、短絡的な解決は成せないのだ。
「ならば相対を始めようか。互いに3人の代表をたて、2勝先取した時点で決着とする。聖連側が勝てばホライゾンの自害を認めて、武蔵の譲渡をする。武蔵側が勝てば────」
「ホライゾンの救出へと向かう。それでいい。相対の方法は、戦闘も交渉も、他の勝負であろうと、何でもありだ。どんな方法であれ聖連側は“刃向かうことの無意味”を知らせ、武蔵側は“抗う方法があること”示せばいい」
シロジロの言葉に正純は頷いた。
「ならば一番手は───」
「────一番手はあたしが貰うよ」
正純が問う前に直政が半歩前へと出ていた。
「あたしら機関部はどちらかと言えばそっち側さ。何せ武蔵が委譲しちまえば職を失うしね。けど────」
直政は拳を握る。
「何の力もなくて、それこそたった一人におんぶに抱っこで戦争を挑むってんなら、看過できないんだよ」
彼女が見据えるのは未だに突っ伏して体が半分埋まったままの白黒頭だ。
「各国が持つ戦闘力の内、戦場の代表格ってのは何だい?航空艦?機竜?機動殻?それとも騎士?否、機関部としてはこう言いたいさ。────そうじゃない、と」
握った拳を掲げ、口の端から紫煙を空へと燻らせる。
「泰造爺!寄越しておくれ!!」
「任せておけよ!」
いつの間にか階段の下に集まっていた作業服姿の一団。
彼等は直政と同じく左手を掲げており、その前には鉄色の表示枠が浮かぶ。
『射出許可』
「接続!!!!」
直政と、彼等の握り拳が表示枠に叩きつけられた。
歪に歪み光となって砕ける表示枠。同時に中央前艦武蔵野の機関部から凄まじい勢いで何かが空へと飛んだ。
既に空高く舞い、視線で追おうともハッキリとは分からない。点として捉えるのみだ。
「あたしの走狗はちょっと特殊でね。まあ、少し考えれば分かるだろうけど。その答えをちょっとした社会見学で教えてやるさね」
そしてソレはやって来た。
風を大量に巻き込み、着地衝撃緩和の鳥居型紋章に轟音をたてて着地し、仁王立ちする赤と黒のカラーリング衣装を纏った女性型の鉄巨人。
重武神だった。
「“地摺朱雀”。あたしが地上にいた頃に武神の破片やらの寄せ集め。出自は、戦闘系だから機関部の重武神作業班の中でも勝てるヤツぁいない」
そう言い直政が右手を掲げれば呼応するように武神の目に光が宿った。
「さて、武神とサシでやれる人間なんてそれこそ英雄クラス────それこそ向こうの立花・宗茂や教皇総長という八大竜王や、ガリレオクラスだろ。こっちで言うならミトがそうかね?だけど聖連に刃向かうならそのレベルの奴が居なけりゃ話になら無い。どうだい?コイツとやれるヤツは居るかい?」
直政の声に誰もが口をつぐむ。そんな中で響いた軋む音。
一斉にそちらを見れば
「おっし……!俺が、やろうか……!」
先ほどまで加重に潰されていた嵐が立ち上り不敵に笑んでいた。とはいえ未だに加重は解かれていない。その蟀谷には青筋が浮かび、袖をまくった両腕含めて全身が膨れるほどに力を込めて漸くその場に立つ限りだ。
「て、事で智、そろそろ俺の術式解いたり…………」
「?」
「いや、何でイイ笑顔で首傾げるんだよ……!?ここは俺が出る流れだろ!?」
「落ち着け筋肉バカ。貴様が出ればこの相対は意味が無くなる」
シロジロは頭痛いという風にため息をつき再び口を開く。
「直政の言葉を忘れたか?“一人におんぶに抱っこ”というのは貴様の事だ」
「いや、でもよ…………」
「まあカッカするなよグルグル。大丈夫だって。お前の代わりにシロが行くから」
「え?」
皆が首をかしげ、そしてその言葉を理解すると同時に慌てた様子で点蔵が一団より飛び出してきた。
「ト、トーリ殿!?ぶっちゃけ勢い全開でこっち潰しに来てる直政殿に商人全開のベルトーニ殿はどうかと思うで御座るよ!いったいどんな思惑があっての事で御座るか!?」
「ああ、分かってるだろ点蔵─────私怨だ」
「さ、最悪!この人最悪で御座るよ!?まだ、嵐殿におんぶに抱っこの方が幾分かましに御座る!!」
「だってこの鬼畜商人、ことあるごとに俺にひどいこと言うじゃん?たまにはひどい目に遭うのも仕方ないよね!」
「ほう、つまり勝てば、私の言動は正当化出来るということか」
「あれ?オマエ何かスッゲェやる気になってね?」
「しょ、正気かシロジロ……!俺が出た方が……!」
「リスクは大きいが此の分リターンも大きいのでな。機関部の信頼と我々が武神相手に戦える証明が買えるのなら、この相対は安いものだ。更にバカをバカに出来る特典までついてくる」
シロジロは二人の肩を叩いて前へと歩みでて直政の正面五メートル程の場所で止まった。
「直政、術式による契約のために、ハイディの仲介支援を用いる。文句はないな?」
「Jud.。商人で会計なあんたが武神相手にどう立ち回るのかお手並み拝見さね」
直政は飛び上がり、地摺朱雀が差し出した左腕へと跳躍。
「────派手に行くよ!!!」
腰を回した武神の拳が振るわれ辺りに激震として衝撃が駆け抜ける。