境界線上の竜鎧   作:黒河白木

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長々と間を開けてしまい申し訳ありませんでした!

それもこれもブラック企業が悪いんです、はい
今後も細々と更新できるときにしていきますので、ご愛顧の事、よろしくお願い致します


ROBⅥ

 ネイトの視界の中央を鈴が歩いてくる。

 腰と髪の対物センサーのお陰か、その足取りは思ったよりも確りしており真っ直ぐに進んでいた。

 だが、

 

「…………え?」

 

 ネイトからすれば予想外。何度となく、鈴の向こうでこちらの様子を伺う皆へと目を向ける。

 無言で眼を逸らされた。

 いや、今回に関しては彼らに過失はない。鈴が自発的に出ていったのだ。そも、彼等が彼女を生け贄になどしない。仮に一人でもそんなことをすればリンチ確定である。

 

「えっと、あの、じ、自分で、決めた、の。話、き、聞いてたら、私かな、て」

 

 鈴本人からの説明、しかしネイトの混乱は熾烈を極めた。

 正直な話し、彼女は負けるつもりだったのだ。

 もとよりクラスメイト達に暴力を振るうのは彼女も不本意であった。

 割りと毒とか遠距離攻撃とか本気で勝ちにこられていた所は予想外だったが。とにかく、暴力を振るう気は無い。後で銀鎖が火を吹くかもしれないが。

 さてさて、この事態は予想外。けれどもとる選択肢は変わっていない。

 負けること。自分だって、ホライゾンを救いたいのだから。

 十年前のあの日、後悔したのがトーリで、無力さを味わったのが嵐だった。それは誰もが、武蔵に住むもの達が皆知っていることだ。

 そして梅組の面々も十二分に悲しんだ。それこそ、もっとも辛かったであろう二人に手を伸ばせない程に。

 トーリは喜美が引き戻した。ならば嵐は?

 彼は誰にすくい上げられたのか。

 答えとするなら誰にもすくわれていない。

 そして救われるよりも救うのだ。

 それはあまりにも損な生き方ではないか。

 ネイトは嵐を救いたい。それであらずとも、共にありたい。

 そんな覚悟でこの場にたった。

 とはいえ、その悶々とした気持ちを、梅組の良心である鈴に対してぶつけるなど出来る筈もない。

 とにかく、持ってきていたケースを橋の上に置く。当然、半人狼の腕力で持ち上げられていたモノを置けば、それ相応の振動が辺りに伝播するもの。

 音とは空気が振動して伝わるものだ。そして鈴はその振動に敏感である。

 

「あ…………」

 

 粛々と前に進んでいた彼女は音の振動に萎縮し、足がもつれてしまった。

 倒れる。

 反射的に梅組の面々が前へと足を踏み出すが間に合わない。

 常に皆を守るために前に出る男も今は木目に半分埋まった状態で全身に力を込めるが、間に合わない。

 

「ミ、トツ、ダイラ、さん!」

 

 声を聞いた。差し出された手、伸ばされた手。

 このままでは、優しい少女は倒れてしまい、怪我をするかもしれない。

 怖がりな少女が今、この瞬間、助けを求めている。

 自分は騎士だ。民を守ることこそ、その本懐。

 

「ご安心なさい」

 

 思考するよりも先に体が動いていた。

 それは流れるような動作。

 強者には強者の矜持があり、彼女の矜持はただ一つ。

 

 護ること

 

 それにつきる。

 負けようとしたのは、それによって救出側へ回り、友を救い守るため。

 その結果として騎士の階級を失い民になってもネイトは少しも後悔はしないことだろう。

 だが、それではダメなのだ。

 友を守るだけならば民でも良い。しかし、“武蔵”という一種の国を護るには民では足りない。武力、政治、それらに相対するなら民では足りないのだ。

 

「私は騎士ですわ。民を守る勇敢なる盾にして、傷つける者達を成敗する剣ですもの」

 

 見上げてくる鈴に優しく笑みを返し、ネイトはそう語る。

 

「だから、安心なさい。私が全てから護ってみせますから」

 

 鈴を見て、そして未だにめり込む嵐へと視線を送る。

 

 ─────今度こそ貴方も

 

 

 ▽▲■▲▽

 

 

 相対2戦目。これは実質的に、ネイトの勝ちとなるだろう。

 しかし、勝敗はどうであれ、彼女は、そして武蔵の騎士階級は教導院の元へと降りた。

 つまりは聖連派と教導院の戦績は一対一なのだが、その本質は教導院側へと傾いている形となる。

 だが、一人残った正純には負けた、といったような雰囲気はない。

 中立をとらねばならないオリオトライはそんな教え子に苦笑いする。彼女は、正純の立場をある程度理解するがゆえに、そのあり方を不憫に思っていた。

 少なくとも、嵐のお陰と言うべきか、最低限の交流は持てるようになったクラスメイトとの相対に何も思っていないとは、考えられない。

 

(立場、ね・・・・・・)

 

 オリオトライは、聖連側から教導院側へと目を向ける。

 ワイワイガヤガヤと実に緊張感にかけるそんな空気だ。

 

(あんたは分かってるのかしらねぇ)

 

 その中でも目立つのは、やはり未だに半分埋まった白黒頭だろう。

 準バハムート級航空都市艦〔武蔵〕には一切の武装が認められてはいない。

 その中で唯一、“兵器”をもつ五十嵐・嵐という少年は異質なのだ。

 何せその兵器は彼しか使えず、更にはこの極東に置いても重要な文化物の側面も兼ね備えているのだから。

 歴史書には、その他にも複数の兵器が存在したと記されているが、現存し尚且つ使用可能なのは嵐のもつそれだけ。取り上げることもできない。

 そして、これから先、武蔵が戦場という道を進むことによって、もっとも傷付くのも彼だと、オリオトライは思っている。

 戦争ならば、先陣を切り、そして殿を務める。

 10年前のあの日より、五十嵐・嵐という男が目指したのは死んでも何かを護り抜くという事のみなのだから。

 この相対で直政が危惧し、ネイトが新たに誓いをたてる要因となった、危うさ。

 彼は気付くべきなのだ。彼が護ろうとする者たちは、そこまで柔ではないことを。そして、彼自身もまた、守られる対象なのだということを。

 

「それじゃ、最後の相対戦始めるわよ。代表者は前に出なさい!」

 

 思考を振り切りオリオトライは叫ぶ。

 状況はどうあれ、少なくとも点差は同点。これで勝負が決まる。

 

「お!最後はやっぱり俺だよな!秘技『あ~れ~、お代漢さまぁ~』!」

 

 シーツでグルグル巻きであったトーリが回転しながら前へと出てくる。そのはしっこは、ウルキアガと点蔵の二人が踏むことで止められていた。

 

「なあ、点蔵。拙僧こんな重石のような扱いには遺憾の意を覚えるぞ」

「それは自分もで御座るよウッキー殿。これはもうトーリ殿のお宝を頂戴せねばならんで御座る。主にR-元服モノとか!」

 

 そんな馬鹿な会話があったとかなかったとか。ついでに周りの女性陣が冷めた目を向けていることに二人は気付かなかった。

 さて、コロコロと転がるトーリ。彼曰く、今の自分はライスペーパーロールだったらしく、そして具であったらしい。

 具が外皮を抜ければどうなるか、ご想像は簡単であるだろう。

 

「オエップ・・・・・・気持ち悪・・・・・・」

 

 トーリは口許を抑えて立ち上がる。───────────全裸で。

 

「な、ななななな!?」

 

 前に立つ正純は顔を真っ赤にして両手で顔を被ってしまった。

 いや、まあ、うん。同性であれ何であれ、全裸をいきなり見せられれば、そりゃ誰だって戸惑うわな。下手すればトラウマものである。

 

「ちょ、待って・・・・・・うっぷ」

「お、おい、顔が真っ青だぞ?吐くなよ?フリじゃないからな?」

「へへっ、分かってるって、セージュン。本気で逝くから、安心しろよ」

「字が違うだろう!?というか、諦めてるのか!?」

 

 ~しばらくお待ちください~

 

「―――ふぃー、さっぱりしたぜ」

 

 この数分の間に桶が友達となったトーリは清々しい表情を浮かべていた。

 対照的に、正純並びに梅組の面々は白い目を彼へと向けている。

 何故だろう、僅か数分で彼は味方の大半を失うはめになっていた。

 

「んじゃ、いっちょ始めようぜ!俺、バカだけどさ!」

「そうだね。皆知ってるよ、トーリ。バカ筆頭だもんね。でも、良いの?聖連側は正純決定だけど、アリアダスト教導院側ー?」

 

 一応、立会人であるオリオトライが問う。

 

「まあ、こんなのでも代表で御座るし。バカで御座るが」

「然り。仮にも総長兼生徒会長を立てるのは道理だろう。拙僧もバカだとは思うが」

「バカはバカなりに使い道がある。取り引きでも思わぬ視点をもたらしたりな」

「もー、シロ君。バカバカ言っちゃ可愛そうだよ。ちょっと頭が残念って言わなきゃ」

「ハイディ、それって結局抉ってません?」

「愚弟が馬鹿なんて今に始まったことじゃないじゃない。でしょ?白黒お馬鹿」

「げ、現在進行形で、埋まってる俺に話を振るな…………!」

 

 他にも色々上がった中での一部抜粋なのだが、まあ、酷い。

 主にマイナス方面で信頼が厚いとは正にこの事。

 相手方の正純も流石に同情した。最も、自身も同意見ではあったのだが。

 

「く、くそぅ!ここまで信頼が厚いと泣けてくるぜ!」

「その割りに恍惚としてるじゃない、トーリ。なに?まさか新しい扉でも開けちゃったの?」

「おいおい先生。流石に俺も蔑まれて喜んだりしねぇよ!………………ゾクゾクするだけだし」

「「「扉開きかけてるじゃねぇか!!」」」

 

 これぞ、梅組クオリティ。あんなにも緊迫していた状況が欠片も残ってはいない。

 周りから飛んでくる野次やら何やら、兎に角何故だかアウェーのトーリ。

 

「うるせぇ!もう、俺が代表だ!総長命令で、生徒会長命令だ!俺だってやれるとこみせてやんよ!」

 

 不可能男の叫びが木霊する。

 

「腕っぷしでも、何でも、かかってこいよセージュン!やってやるぜ!」

「あ、いや、腕力沙汰にはしないからな?」

「え、そうなのか?」

「ああ。私も、戦闘系じゃないし。けど、一応護身術とかもしてるから、その、トーリが不利だろう?」

 

 申し訳なさそうに言う正純だが、それは正しかったりする。

 仮に、トーリが殴りかかればひっくり返された事だろう。

 

「先生、相対は討論のみに限定してください」

「ディベート形式ね。先攻後攻はどうするのかしら?」

「じゃん拳で!それから、助言ありにしてくれよ!俺、バカだから難しい話は無理だしな!」

「「「威張る所じゃねぇよ!」」」

 

 周りの突っ込みも程ほどに、じゃん拳は行われ、勝ったのはトーリだった。

 

「それじゃあ…………先攻で!長いの面倒だしチャッチャッと決めようぜ!」

「バカか貴様は!?いや、バカだったな、この大バカ者め!商談であれ何であれ、言葉を交わすならばまずは相手の出方を見るべきだろうが!」

 

 シロジロに突っ込まれるものの、トーリは動じない。

 どうやら勝算は、あるらしい。

 

「よし、行くぞ!!―――――――やっぱり、ホライゾン助けに行くの止めね?」

 

 そして投下したのは爆弾であった。


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