黒歴典〜悶えながら頑張る人〜   作:ぬー(旧名:菊の花の様に)

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第十二頁、私は一体何をやってるんでしょう…………

 

新部員が増えたあの日から一週間が経ちました。

 

放課後私は一人早く部室にきてしまったため、一人で考え事をしていました。

 

考えている内容とは、今の自分の悩みについてです。

 

私の悩みは、部活のことでもなく、部員のことでもなく、私にまつわる噂についてです。

 

なぜ今更になってそんなことが悩みなのか。

 

それは、今もなお着々と増えつつあるあだ名についてです。

 

前までのあだ名は、厨二溢れる実に小学生らしいあだ名でした。

 

まぁ、私も元厨二病のの身として、マジシャン、魔法使い、軌跡とか、そんな感じだったらまだ、大丈夫でした。

(悶えたのは言うまでもない)

 

でも、最近私につくあだ名は何かおかしいのです。

 

私は噂をめっぽう知っているわけでもないので、少ししか知りませんが、なんというのですかね。

 

なぜかBL系のあだ名が多いんですよ。

 

まぁ、他のは他で厨二あだ名が多いんですけどね…………

 

「マジシャン、ジェントルメン、禁断の愛、性別の壁を乗り越えた人、受けの人………………」

 

あれ、自分で言っておいて涙が…………

 

私は制服の袖で目元を拭います。

 

涙を拭うと、冷静になることができました。

 

冷静な頭で考えた結果、私は誰に聞いたわけではないですけど、思わず聞いてしまいました。

 

「ここ、小学校ですよね?」

 

案の定、誰も答えてくれないわけで、私の疑問は霧散しました。

 

それよりも、私が今考えなければいけないのは、私にまつわる噂の解消についてです。

 

私としては黒幕がいてその人を倒せばハイ終了、となるのが一番ベストですが、現実はそうではありませんよね。

 

まぁ、黒幕は分かっているんですがね。

 

倒そうにも、倒したビジョンが見えないので諦めました。

 

なぜか、なぜか、吉木さんには50節唱えて殺したとしても、死の淵から這い上がってきそうなんですよ。

 

あのイケメンフェイスを輝かせながら。

 

というか、なんで私が危険思想の持ち主(吉木さん)と同じ扱いを受けなければいけないんですか?

 

「はぁ…………」

 

私は一体何をやってるんでしょう…………

 

そう思いながら、私はため息をつくと、

 

「よっ、御門」

 

「やっほ〜、三鷹君」

 

「ふぁ〜」

 

新部員が入ってきました。

一人は爽やかイケメンフェイスで。

一人はにこやかな表情で元気よく。

一人はあくびをしながら。

 

この人たちは私の悩みの種です。

 

この人たちのせいで、私の人生はかなり非常識になりました。

 

そんな人たちだけど、なぜかその人たちを見た瞬間、私の口角は、自然と上がっていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三鷹、これの続きは?」

 

「あれですよ」

 

畳の端のところに座っていた三鷹は、部屋の奥にある畳のスペースで寝転がりながらマンガ本を読んでいる杉岡の質問に対して、ある方を指差す。

 

杉岡はその指の先を見ると、そこには机の上に数十冊の本をおいていた八木橋がいた。

本人はくるくる回る椅子に腰掛けながら本を読んでいた。

 

それを見た杉岡は、八木橋の机の上にある数十冊の本を見て、

 

「え、あれ全部続きじゃないよな。

 てっきり俺は次の巻でクライマックスだと…………」

 

「そうですよ」

 

三鷹の答えに迷いがなかったところから、おそらく本の持ち主は三鷹なのだろう。

 

「え、じゃあ、なんで…………」

 

「いや、八木橋さんは杉岡さんより先に貸して、読んでいたんですよ」

 

「てことは、まさか最終巻だけ返してもらってないってこと?」

 

「えぇ」

 

「えー」

 

杉岡は明らかに不満そう感じにして畳一畳の狭いスペースをゴロゴロする。

 

「でも」

 

「ん?」

 

三鷹はいつも通りの表情で話していたが、その表情はいつもの表情と少し違っていた。

 

おそらく世神しか気づけないであろうその表情は、あることを考えている時の表情だ。

 

そのあること、とは、

 

ろくでもない悪戯を考えることだ。

 

「八木橋さん、今日私に返すって言ってたんで、あの山の中にあるんじゃないですかね?」

 

そう言って八木橋の机の上ある数十冊の本を指差す。

 

「なら、八木橋に頼めば」

 

「懲りてないですね」

 

「うっ」

 

三鷹が言った懲りない、というのは、この前の土曜日に、三鷹の家で八木橋、杉岡、三鷹が談笑している時に、「BLとか気持ち悪いよな」というセリフを杉岡が言ったことだ。

 

その後、杉岡は八木橋に反撃する間も与えられなくボコボコにされた。

 

 

「いや、きっとあの漫画はあっち系じゃないはずだ」

 

思い出したせいで額から冷や汗が流れる杉岡。

 

「でも、もしあの本がそっち系の本だったら?」

 

「見た瞬間、俺は吹き出して、それにキレて俺ボコボコ、だな」

 

「ですね」

 

前まで結構中の悪かった2人だが、それは、杉岡がBLいじりされている三鷹を見て、杉岡は三鷹の唯一の理解者となったからだ。

 

喧嘩は減らないが……

 

「それじゃあ、まず机の上にある本をばれないように拝借すればいいんじゃないですか?」

 

「そうだな、まず確かめないとな」

 

 

ここで本の背表紙を確認する、という術を取れなかったのは、八木橋はすべての本にカバーをかけていたのだ。

 

そのせいではたから見ても何を読んでいるのかが分からない。

 

 

「「……………………」」

 

 

そーっと手を伸ばす杉岡。

 

三鷹は笑いをこらえながら、なんとなくシリアスな雰囲気を醸し出す。

 

後1m……後50cm……後20cm……後10cm。

 

 

ガラガラガラ

 

そこで突然開くドア。

 

前のめりになっている杉岡は、いきなりのことに体を強張らせる。

 

当然、その結果は、

 

 

バババババババババァ

 

 

数十冊の本の津波が八木橋に流れた。

 

「あのー、御門先輩、少しお聞きしたいこと……」

 

来客、高町なのはは部屋の中を見て戦慄した。

 

 

壁に人が埋まっているのだ。

 

 

「え?え?え?」

 

高町なのはは動揺する。

それと同時にあたりを見渡すが、さらに高町なのはは動揺する。

 

誰一人としてこの状況に興味を示していないからだ。

 

三鷹はお茶を飲みながらほっこりしている。

 

八木橋はせっせと本を片付けている。

 

ソファに座っていた吉木に至っては、本を読んでいる最中に寝てしまったのか、顔に本をかぶせて眠っていた。

 

「あ、なのはちゃんですか、どうぞどうぞ、そこにかけてください」

 

三鷹はめりこんでいる杉岡を気にせずに、高町を、吉木が座っているソファの向かいのソファへ座るよう促す。

 

「え、でも…………」

 

「どうしたんですか?」

 

高町はもはや動揺では済まず、混乱していた。

 

明らかにこの部屋にはおかしい現象が起きているのに、それに誰一人としてツッコミをしないのだ。

 

「あ、いえ、なんでもないです」

 

高町はかなり頭がいい。

それは、成績はもちろんのこと、頭がきれる、という意味でも、だ。

 

だからこそ、なんとなく、空気を読んでしまった。

 

だが、

 

 

「うっ、あなたもなんですか……」

 

三鷹が泣き出した。

 

「えっ?!」

 

高町は三鷹が泣き出したことでさらに混乱してしまう。

 

もうなにがなんだか分からなくなってしまい、頭が回らなくなる。

 

そんな状況になろうとも、誰も何一つツッコミをしない。

 

少しして、泣き終えた三鷹は、口を開く。

 

「いや、ごめんなさいね。

 高町さんが普通なのかどうかを確かめていたんですよ」

 

「普通?」

 

「いや、高町さん魔法使えますよね。

 それで高町さんが非常識な光景に慣れてしまったのかどうか、確かめてみたんですよ」

 

「!!」

 

高町は混乱からかなり早めに復活したので、話を聞いていたが、高町は不思議に思う。

 

そして、高町はひそひそ声で三鷹に質問する。

 

「…言っていいんですか?魔法のこと?!…」

 

それに対して、三鷹は表情を崩さずに、

 

「あ、言うの忘れていましたよね。

 ここにいる人たち、全員何かしらの常識から外れています。

 魔法を使える人もいますからね」

 

その言葉に高町は唖然とする。

 

全員が?!

 

当然壁にめりこんでいる人はおそらく普通ではない人のが分かるが、八木橋と吉木はどう見ても普通の人だし、三鷹に至っては言うまでもないくらいに常識人だ。

 

でも、と高町は思う。

 

壁に人がめり込んでいるのに誰もツッコミをしない時点でこの人たちは普通と言えるのだろうか?

 

「…………なんとなく分かってきました」

 

「ですよね。

 しかも、なのはちゃんが非常識な光景に慣れてしまったらしいのが分かって、心配になってきましたところです」

 

「いや、別に慣れているというわけではないんですけど…………」

 

「それで、今日は何のご用件が?」

 

「私の話聞いてます?」

 

高町は三鷹とのやり取りに少しの違和感を感じた。

 

「えぇ、聞いていますよ」

 

だが、いつも通りの三鷹の受け答えに高町は思い違いだろう、と思い三鷹の質問の答えを考える。

 

 

たが、高町は知らない。

 

三鷹の頭の中では今も『なのはちゃんを常識人に戻す』計画が着々と立てられていた事を。

 

 

「えっと、今日はお願いがあってきたんです」

 

「お願い?」

 

三鷹は思い当たる節がないので、聞き返す。

 

「はい。

 ちょっとした人探しなんですけど」

 

「うーーーーん。

 その探している人、というのは誰ですか?」

 

三鷹の中ではある程度、高町が探している人、は予想できていたのだが、一応聞いてみる。

 

「御門先輩の知らない人じゃないですよ。

 この前話してくれた魔法を使える友人を会わせて欲しいんです」

 

「………………やっぱり」

 

「やっぱり?」

 

高町は三鷹のセリフに疑問を覚える。

 

高町は三鷹の言ったやっぱり、が予想通りになった時に言うやっぱり、ではなく、まるで自分に面倒事が降りかかった時に言うやっぱり、に聞こえたのだ。

 

「いや、なんでもないですよ。

 ただ、探す必要はないですね、その人」

 

「?」

 

高町は意味が分からなかったのか、首を傾げる。

 

「なのはちゃんが探してる人、今この場にいるんですよ」

 

「えっ!!」

 

高町は驚いたが、すぐに気づく。

あ、そういえばここに普通な人はいないんだった、と。

 

「まぁ、教えるだけじゃつまらないですから、一つお遊びをしてみましょうか」

 

「お遊び?」

 

「えぇ、ルールは簡単です。

 なのはちゃんが、この中にいるなのはちゃんの探している人、を当ててみてください」

 

「むーーーー、教えてくださいよ」

 

高町は頬を膨らませて不機嫌そうにする。

 

「いや、別に意地悪しているわけじゃないですよ。

 私も、この頃この人たちの所業にツッコミをしていたから、私もちょっと加わってみたくなったんですよ」

 

「はぁ、そうですか」

 

高町は半ば諦めた感じでため息をつく。

 

「じゃあ、時間は三分です。

 その間にこの四人の中から一人選んで見てください」

 

時計を指す三鷹。

長針が10の少し先をさしているので、現在から三分後には、長針は丁度11のところを指す。

 

「うーーーーーーん」

 

高町は考える。

 

(ここにいる人たちって全員何かしらのすごい能力を持ってるんだよね。

 

てことは、今のところ魔法が使えそうな人は4人。

 

…………でも、御門先輩、嘘ついたよね。

 

明らかに御門先輩は普通の人だよね。

 

もうこれは殆ど確信に近いよ。

 

じゃあ、残りは三人。

 

このなかから魔法を使える人を探せなんて…………)

 

 

あっ、と閃いた高町。

 

「御門先輩、私、分かっちゃったの」

 

ふっふっふっ、と勝利を確信した悪役みたいな笑い方をする高町。

 

それに対して三鷹は余裕綽々、といったかんじで、

 

「おぉ、それはすごいですね。

 ま、当たったら、の話ですけどね」

 

「絶対当たってるもん」

 

「そう不機嫌にしないでくださいよ。

 答えはちゃんと教えるので、気兼ねなく答えてください」

 

「それじゃあ、答えちゃうよ。

 答えちゃいますよ」

 

高町はニヤニヤしながら言うが、三鷹はいつも通りの表情でまっすぐ高町を見ている。

 

その様子にまた不機嫌になったのか、高町少し強めに答える。

 

「答えは、あそこの壁に埋まっている人なの!!」

 

ビシッ、と音が出るような感じで高町は杉岡を指差す。

 

 

その答えに三鷹は驚いた顔をした後、

 

「素晴らしい、正解です!!」

 

立ち上がって拍手をした。

 

 

高町はその答えと三鷹の表情を見て胸を張る。

 

 

 

 

だが、高町は見えなかったのだ。

 

 

三鷹の口角が、不気味なくらいつり上がっていたことに。

 

 

 

 

 

 

私の新たな人生の第十二頁、友人が、壁に埋まりました。




次回『第十三頁、それがKY部だからな』
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