黒歴典〜悶えながら頑張る人〜 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
「いふぁいへふ、ふひほかはん(痛いです、杉岡さん)」
私の頬は杉岡さんに引っ張られていました。
私の体はよくよく考えると子供の体だったので、若さの関係上頬がよく伸びました。
「ふ、まだこれは俺の全力ではない!!
これが!!俺の!!全力だ!!」
だけど、杉岡さんには常識が通じなかったのか、頬にかかる力はいきなり強くなり、
「¥*〒=〆€☆・々〆^$!!!!」
私は自分でも意味の分からない叫びを発していました。
「はいそこまで」
八木橋さんが降臨しました。
そこで私の頬にかかっていた力は緩み、私は痛みから解放されました。
「なんなんですか、杉岡さん」
私は不満の感情と共に杉岡さんに言うと、
「いや、さっき騙されたから」
「何をですか」
薄々気づいていましたが、一応とぼけてみると、
「いや、人来るの分かってたでしょ?!」
「いいえ、全然分かりませんでしたよ」
「いや、絶対分かってた」
「いえいえ、全く分からなかったですよ」
「いやいやい「はぁ、なんでこう口喧嘩になるの…………」…………なんでもない」
八木橋さんの呟きと共に杉岡さんは静かになりました。
流石に壁にめり込むくらいの攻撃をされたらビビりますよね。
私は表情に出さずに心の中で杉岡さんザマァwwと思っていたら、なのはちゃんがオロオロしていたのに気づきました。
「あ、ごめんなさいね。
この2人仲いいんだか悪いんだがよく分からなくてね」
声をかけようと思っていましたが、八木橋さんに先手を取られてしまいました。
「わ、私からもすいません」
私は座った状態でなのはちゃんに頭を下げます。
「いや、全然迷惑じゃなかったですし、むしろ面白かったと言うか…………」
あわあわと手を降りながらフォローしてくれましたが、途中に何か気づいたのか、いきなり頭を下げました。
「それじゃあ、杉岡さん?ですか?
えっと、これからよろしくお願いします!!」
「いいぜ!!」
杉岡さんは即答でサムズアップしていました。
「それじゃあ、えっと…………」
なのはちゃんはポケットから可愛らしいメモ帳を取り出して、ペン借りますね、と言いながら私の机の上にあったペンを取り、数字の羅列を書いていました。
「これが私の携帯の番号になるので、今日中に一度かけてください。
そこで、これからの日程をお話しします」
なのはちゃんは立ち上がり、ぺこりと頭を下げて、教室を出ました。
「行っちゃったな」
杉岡さんは、なのはちゃんが出てしばらくしてから、口を開きました。
「じゃあ、後は杉岡さんに任せましたよ」
私は立ち上がり、帰りの準備に取り掛かろうかと思った時、
「で、俺なにするんだ?」
私は別にそんな驚きませんでしたが、興味本位で聞いてみました。
「ちなみに、どのくらい記憶がないとかそういうのではないですよね?」
「………………」
「どのくらい、記憶ありませんでしたか?」
「…………殴られてから、御門の後ろに立つまで……」
「ごめんなさい」
悪戯で記憶が抜けるって…………
このあと、寝る前に泣きながら部室の壁を直したのは、私と世神じいちゃんだけが知っています。
次の日、昼休み。
「御門さん!!お客さんだよ!!」
私はクラスで昼食をとろうとしていた矢先、クラスメイトの一人が私の事を呼びました。
「はいはい、だれですか?」
私は立ち上がり、ドアのそばに駆け足で行きます。
「いや、今日のお客さんはいつもより小さいかな?」
そう言って自分はお邪魔だよね、と言わんばかりにこの場を離れていきました。
「はぁ、まったく…………って、なのはちゃん」
私はため息をつきながら来客の方へと視線を向けると、そこにはいつもの笑顔がなく、頬を膨らましたなのはちゃんがいました。
「あの、御門先輩」
「な、なんでしょうか?」
私は恐る恐る聞いてみると、なのはちゃんは、周りの迷惑を考えたのか、怒鳴るような事はせずに、ひっそりとした声で(逆に怖かったですが)
「なんで、あの人は連絡をくれなかったんですか……」
「…………」
私は無言で杉岡さんへと念話(やっと自分からできるようになりました)をします。
『杉岡さん』
『ん?』
そこから聞こえてきたのは、呑気な声でした。
『あの、いま多分屋上で昼食中だと思うんですが、そんな事どうでもいいので、こちらの話を聞いてください』
とある日の部活で話の話題が『昼食どこで食べてる?』というのがあったので、杉岡さんの位置をなんとなく察することができました。
『まぁ、少しくらいだったら……』
『じゃあ、杉岡さん、私はたった一つ質問をしたいのです』
『おう、どんとこい、全力で答えてやるよ!!』
『全力で答える、という言葉の意味がよく分かりませんでしたが、面倒臭いんでスルーします。
それでは質問です。
あなたは昨日、何かを忘れました。
それは一体なんでしょう?』
『ない!!』
『電話、少女、魔法』
『いや、あった!!』
もはや即答だったので、私は杉岡さんに指令を下しました。
『じゃあ、一分以内に教室にきてください』
そう言って私は念話を切りました。
なのはちゃんは、私のことを呆然と見つめていました。
「ん?どうしたんですか?」
「え、今、もしかして、念話……」
最後のフレーズだけ妙に小さかったのは、当然ですね。
「えぇ、私の特技みたいなものですよ」
「え、じゃあ、御門先輩も、魔h「いいえ、違います、断じて違います、決して違います」……まぁ、そうですよね」
なのはちやんは胸をなでおろしました。
「あっ、来ましたね」
「……本当ですね」
私が杉岡さんを見つけると、なのはちゃんもその後にすぐ見つけたようでした。
走って来る杉岡さんはものの見事に人の間を潜り抜け、私たちのところまで残り2mくらいのところで、ジャンプして、
「どうもすいませんでした!!」
華麗に土下座を決めました。
「ふぇっ、えっ、あの……」
対してなのはちゃんは、いきなり年上の人に土下座された事や、ジャンピング土下座を決められた事にオロオロしていました。
「まぁ、杉岡さん、顔を上げてください。
周りの人がかなり困惑しているので」
「あ、あぁ、そうだな。
あと、本当にすまなかった」
そこまで大げさではなかったが、杉岡さんは立ち上がり、腰を曲げて謝った。
なんで私には謝る、という選択肢がなくて、なのはちゃんに対しては謝る、の一択しかないんですか?、と私は内心イライラしながらも、表情には出さずに、なのはちゃんに目配せをします。
「あ、あの、私そんな謝らなくていいんですよ。
幸い、昨日は特に何もなかったので」
そこでまた杉岡さんは謝ろうとしていたので、私は二人の間に入って、
「じゃあ、今日の放課後、また、という事で」
「はい、分かりました」
「…………」
なのはちゃんは私の頼みに素直に頷きましたが、杉岡さんからは、絶対こいつ腹減ってんだな、という視線が送られてきます。
まぁ、嘘ではないですが…………
「それじゃあ、また」
私はこの場を離れて教室の自分の席に戻ります。
そこには、
「よっ、御門」
吉木さんがいました。
その日の夜遅く。
「なぁ、俺っていつからこんなファンタジーにダイブしてたんだろう……」
「知らないですよ」
「うん、確かに」
私とユーノ君は杉岡さんの呟きに適当に返しました。
今日、私は少し不機嫌でした。
それは、昨日杉岡さんが電話をしてくれると言ったのに、全く電話がこなかったからです。
おかげで今日は少し寝不足です。
「じゃあ、始めようか」
ポキポキと指を鳴らす杉岡さんの目の前には、杉岡さんと同じくらいの黒い人間がいました。
「オラァ!!」
そして、杉岡さんは普通ではあり得ないくらい飛び上がり、黒い人間に襲いかかっていきました。
「じゃあ、なのは、久しぶりだとは思うけど、封印の準備を」
「うん、わかった」
私はレイジングハートに魔力を込めて行く。
そこで思い出されたのは、杉岡さんのジャンピング土下座。
思わず集中が途切れそうになってしまったけど、なんとか持ち直す。
あの時は、どうして杉岡さんが電話をししてくれなかったのか不思議だったので、お昼に御門先輩のところへ行きました。
すると、御門先輩は念話を使って杉岡さんの事を呼び出しました。
でも、私はそれより、御門先輩が念話を使える事に対して驚きを隠せませんでした。
杉岡さんは、常に魔力がだだ漏れだったし、魔力を操作して遊んでたみたいだから、念話とかが使えるのは分かったけど。
唯一あの部活の中である意味異質な人間。
周りの人は、キャラ……じゃなくて存在感が強かったけど、唯一その中で普通、な人だった御門先輩。
まぁ、危ない事はしなさそうだし、ちょっぴり失礼だけど、御門先輩強そうに見えないし、話しやすいから、あの部活の人たちの中では一番好きかな。
私がそんな事を考えているうちに、封印魔法の準備は終わった。
『杉岡さん、準備、終わりました』
『ラァストスパート!!』
私が念話で伝えると、杉岡さんはハイテンションのようでした。
実際、杉岡さんの方を見てみると、そこには傷だらけで黒い人間に立ち向かって行く姿がありました。
でも、どう見ても杉岡さんが劣勢なのは火を見るよりも明らかでした。
そこで、私は御門先輩から言われた事を思い出して、再度杉岡さんに呼びかけます。
『じゃあ、あと十秒で行きます。
10、9、8『え、まだ終わ』7……』
私は杉岡さんの停止も聞かずにカウントダウンを進めて行きます。
これは、御門先輩に、「杉岡さんが調子乗り始めてたら、力ずくで止めておいてください」と言われていたからです。
『6、5、4、3『あ〜!!もう、分かったよ!!』…2、1』
そして、私は、久しく忘れていた封印の呪文を唱える。
「リリカル!!マジカル!!
封印すべきは、忌まわしき器!!
ジュエルシード!!
ジュエルシード、封印!!」
……………………………………
「いいですか!!もうあんな危ない事しないでくださいよ!!
今回は無事だったから良かったものを…………」
「すいません…………」
「はぁ、本当ですよ…………」
私はため息をつくと、杉岡さんは正座の姿勢から立ち上がり、私に質問した。
「なぁ、なんで高町はこんな危ない事してんだ?」
「へ?」
私は突然の質問に変な声を出してしまったが、
「えっと、私がこんな事をする理由ですか…………
…………それは、ユーノ君のためですよ。
まぁ、私が強引に手伝ったところもありますけど…………」
「ふぅーん、人のため、か」
私はなんとなくこのまま話が終わるのはちょっと気まずいな、と思ったので、
「じゃあ、私も聞きますけど、なんで杉岡さんはこんな事をするんですか?」
私が質問すると、杉岡さんはちょっと考えてから、
「俺が、手の届く範囲で人を助けたい、って思ってるかな」
「すごいですね…………」
私は心底思った。
だって、私と同じくらいの年なのにそんなすごい事を考えていることにだ。
「部長はあんなんだけど、部活の名前が『今日から弱い者を助ける』だからな」
「御門先輩は弱そうだけど、杉岡さんよりはすごいですよ…………多分……」
うん、きっとそうだよ、きっと…………
私がそう思っていると、杉岡さんははははっ、と笑った後、
「それが、KY部だからな」
私の新たな人生の第十三頁、って、あれ?私の出番は?
次回『第十四頁、いやいやいやいや、違いますって』