黒歴典〜悶えながら頑張る人〜 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
「魔法使いの世界の警察……」
なのはちゃんの話をおおかた聞き、簡潔に管理局というものをこの世界でもわかりやすいように言うと、そうなるのだと私は思いました。
まぁ、私は前世を合わせ、悪いことなどとは無縁の人生を歩んできたので、警察というものとあまり関わったことがありません。
なのはちゃん主観でわかりにくいですが、聞いた話の内容を簡潔にまとめると、
・今回のジュエルシード騒動は魔法使いの世界に関することであり、これは私たちが受け持つ。
・なのはちゃんは一方的に巻き込まれただけとの一般人であるから、これ以上は介入して欲しくない。
・ただし、なのはちゃんの魔法の才能は、魔法使いの世界でも極めて稀有なもので、なのはちゃんがやりたいというのならば、今回の事件に限り魔法を使用して、手伝いをしてもいい。
という感じでした。
こんな小さいなのはちゃんにいきなり決断しろというのも難しいので、一日の猶予を与えるから、それまでに考えてきてください、と言われたらしいのです。
私は部室のソファの背もたれによりかかり、小さく息を吸い、
「はぁ……」
「やっぱり、ご迷惑ですよね」
どうやら聞こえていたようで、私のその反応に対して、ははは、と慣れていないのであろう作り笑いを私に見せてくるなのはちゃん。
一応、この部室にいるのは私となのはちゃんの二人です。
魔法の話ということで、みなさんにはもう帰ってもらいました。
高杉さんは、自分も話に混ぜてもらえなかったことにイライラしていたようでした。
まぁ、高杉さんの話によると、ちょっと脅したというようなことをきいたので、そのせいではないかと思いますが。
ところで、なのはちゃんが今日来たのは、その手伝うか手伝わないかの決断に迷っているのではないのです。
それは、
「私……御門三鷹のこれからの方針、ですか」
「はい。
私よりも、更に魔法使いの才能があると思ったし、人がいればそれだけ早く事件が解決するから、手伝って欲しいです」
なのはちゃんは、真剣な眼差しでこちらを見つめてきます。
「えー…………」
「でも、最初にいっていたとおり、三鷹さんは人前に出たくないみたいですし、やっぱり、私たちの方も黙っておいた方がいいですよね」
「あ、いや、そういうことではないんですけど……」
手伝いたくない理由としては、上げればキリがないのですが、私は少し冷静に考え、吉木君から逃げている時にやった、逆転の発想、というものをしてみました。
なぜ1日という期間をなのはちゃんに与えたのではなく、
1日もなのはちゃんに猶予を挙げなければならない必要性を考えてみました。
そうすると、常識人である私の目の前に、答えが見えたのです。
それは私が常識人だった故に出せた結論なのだろうと、私は思いましたが。
そう、なのはちゃんに1日の猶予を与えられた理由は、率直に、
危ない目に遭わせたくない。
そういう意思の表れだったのです。
管理局が事件を受け持とうとするのはなのはちゃんを関わらさせないために。
なのはちゃんに対してわざと時間を与えたのは、しっかり考えて、納得してやめて欲しかったから。
そして、やるとしても、自分たちの監視下に置くことで、危ない目には合わせない、という考えがあったのでしょう。
しかし、私はそれを悟ってなお、その選択は間違っていると思いました。
いや、私だからこそ、間違っていると思いました。
なぜなら、この子は世界の中心であるといっても過言ではないからです。
前回のあの騒動。
今思い返してみれば、あのふたりだったら、怪我を負ったとしても、死にはしないのでは?と思い始めたのです。
だって、あとから考えると、あの状況で助かるのは、もし、この世界を物語だったとするならば、一番熱いシーンでしょう。
だからこそ、私という異物が入ることによって、物語が改変するのを避けたい、そう思っていたのです。
「あの、なんていうか、その、管理局っていうのがいまいち実感がわかないし、まだ完璧に信頼するには値しないと思ったので、ちょっと」
「てことは、三鷹さんは手伝ってくれるんですか?!」
私の嘘に対して、バンっ、となのはちゃんは目の前のテーブルを叩きながら立ち上がり、顔をこちらに近づけてきました。
私は最初、断ろうとしました。
首を横に振る、その直前に、
『いいのか?』
「あー……、はい」
私はその声を聞いて、思わず頷いてしまいました。
世神じいちゃんの声を聞こえた気がして。
なぜだろうか、答えてしまったのです。
「ふぅ、よかったぁ」
なのはちゃんはホッとした様子で座り直しました。
それに対して私は、心の中で、
(まぁ、今更行ったことを取り消すのは人としてだめなので、引き受けましょう。
それに、ここはKY部であり、今日から弱いものを助ける部活なのです。
別にこれに首を突っ込むのは部活の意思に即しているだけであり、私が何を考えようとも部活の意思を尊重するのが普通なのです。
そうです、私は常識人です。
だからこそ、だからこそ……)
と必死に言い訳をしていました。
おそらくですけど、ここから先のことに、惰性で手を出していると、迷惑になってしまうし、私の身がもたないと思ったからです。
そう、どこかの熱血バカのように、全力で、私はこのなのはちゃんを助ける、私は誓いました。
「とりあえず、私は今からちょっと管理局というものがどういうものなのか調べてきます。
おそらく一時間くらいで終わるでしょうから、それまで待っていてください」
まずは情報を仕入れることが先決です。
情報はあるのと無いのとでは、大違いだからです。
「はい、わかりました……って、どうやって調べるんですか?」
なのはちゃんは私がやる気になったことにキョトンとしていました。
はは、それは勿論、
「まぁ、企業秘密ってことで」
私は口元に指を一本たて、優しく微笑む。
なのはちゃんはその私の行動に何を思ったのか、可愛らしい笑顔で返事をしてくれました。
「じゃあ、私は少し家を出るので、なのはちゃんはここで待っていてください」
あ、あとマンガ本とかは適当に読んでいてもいいですよ、と付け加え、私は部室をあとにします。
…………と、その前に。
私は部室から少し離れている人気のない場所で、
「さような、らっ!!!!」
ゴンっ
聞いた人には分かる本当に痛いときの音が壁から発せられる。
「ふぅ、行きましょうか」
私は赤くなったおでこをさすりながら、念話を世神じいちゃんに繋ぎます。
「なんですか、内緒って……」
あー、恥ずかしい。
『あー、こちら三鷹です、世神じいちゃんはいらっしゃいますでしょうか』
『いえ、今は留守ですのじゃ』
『ぶざけてないで会話しましょう、会話』
『で、管理局のことじゃったかな』
『さすが無駄スペック、仕事が早いですね』
『えーと、管理局、管理局……あ、あったぞ。
あー、これは複雑じゃな』
『で、一体管理局というのはどういう存在なんですか?』
『良くも悪くも警察じゃな』
『そうですか…………』
『お、今ので察したとは、今回は本気のようじゃな』
『えぇ、やるからには全力で。
私はそんなバカで子供じみたことを忘れていたんですよ。
改めて年月の恐ろしさを感じましたね。
まぁでも、今は幸いにも子供なので、子供らしく、全力で行きたいと思います』
『…………本当に、いいのか?』
『ふふふ、あろうことが神様が一人間を心配するんですか。
…………もしもの時は、頼みますよ』
私の新たな人生の第二十頁、吉木君と比べれば、勝てそうな気がしてきました。
三鷹君が本気を出しました。
次回『第二十一頁、あ、いましたね、そんな人』