モチつきぺったん殺ウサ事件   作:白井茶虎

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捜査編

 

 ××警察署、取調べ室そのに。

 

「で、何でお月見村に侵入したのですか」

 

「何回もゆってるやん。『のんき山』でおひるねしてたらびゅーってすんごい風ふいてごろごろ転がっちゃって、そしたらあそこについたんやよう」

 

「んなあほな………どんだけ凄い風!?」

 

「う~ん。今考えるとけっこうすごかったかも?」

 

「かもって……そーゆー問題なん!?」

 

 重要参考ぐるみそのにの取調べは一向に進まない。

 

「けどさ~、たえるちゃんも暇やなー。ぼくばっかにかまってていいん? そのいちってゆーのおるんやろ?」

 

「だって! ……ノンビさん連れてくるのに時間掛かったから他のけーじさんに……って、部外者のあなたには関係ありません!」

 

「そんなこと言っちゃって~結局ぼくに頼ることになることは解ってるから~」

 

「今回は重要参考ぐるみです! 絶対頼らんぞ!」

 

「前の前のまえくらいの時も犯ぐるみにされかかったけどバッチリ捜査させてくれたやん」

 

「前は前ですっ!」

 

「いや前の前のまえの前のマエやったっけ」

 

 空焚はそのうち泣き出したくなった。そこへ

 

「失礼しますぅ」

 

 取調べ室そのにに一匹のウサギが入って来た。

 

「ん~?」

 

「えっと誰やっけ」

 

「先輩、それにノンビさんまで酷いですぅ~。約二足出(やくぶそくで)ですぅ」

 

「あ、そう。でなに」

 

「クーゼさんが先輩とノンビさんを呼んでいるですぅ」

 

「んーじゃあ行こうか」

 

「案内するですぅ」

 

「あーいつもの事やからいいで~」

 

 そう言いながらノンビと約二足出は取調室を後にした。

 

「ちょっとーじゅーよーさんこーにんそのにさんー勝手に出ないでねー」

 

 空焚は置いてけぼりを食らっていた。

 

 

 

 鑑識室。

 

「今回の登場はかなり早いですねぇ」

 

「うん。ちょっとたえるちゃんに捕まっちゃって」

 

 そこでは既にノンビとクーゼが談笑していた。

 

「失礼しまーす」

 

 空焚、入室。

 

「ああ空焚さん遅かったですねぇ。では早速調査結果を」

 

「ストーップ!」

 

 空焚がいきなり制止をかけた。

 

「びっくりしたなあ」

 

「突然大声は出さないでほしいですねぇ」

 

 だが二匹は言動ほど驚いていない様子だ。

 

「あのクーゼさん」

 

「なんです?」

 

「あきらかに部外者が混じっているんですけど」

 

 横目でノンビを見ながら言う。

 

「もしかしてノンビさんのことですね? ノンビさんは僕が空焚さんと一緒に呼びましたから問題ありませんよ」

 

「大ありですッ!」

 

 大声で近くの机に乗っていたよくわからない実験器具らしき物が倒れた。

 

「ええ? どこですかねぇ?」

 

「ノンビさんは重要参考ぐるみつまりぶっちゃけ犯ぐるみっぽいぞなんです! そんなぬいぐるみに捜査協力させる警察ってなに!?」

 

「けどぼく探偵やからぁ、犯ぐるみじゃないってはじめっから決まってるで?」

 

「それこそぶっちゃけですねぇ」

 

「あ、そうやなあ」

 

 あはははは、と二匹はあくまでもなごやか。

 

「何があははで――」

 

「たえるちゃん」

 

 大声で反論をしようとした空焚をそれほど大きくない声で遮る。大きくなくとも、威圧的でなくても、その声を聞くと空焚は思わず黙ってしまう。その声でノンビは数々の事件の犯ぐるみたちを自供させてきた。

 

「そんなこだわってたら」

 

「……」

 

 その声が

 

「この話一生進まんで」

 

 犯ぐるみたちの捕まって堪るかという意志を挫けさせてきた。

 

 

 

「調査結果を報告しますねぇ」

 

 クーゼが鑑識室の面々を見渡す。

 

「まず『聖なる臼』と『聖なる杵』の材質ですが、学名ではpertinacia durus malleus、我らが国でジョーブと呼ばれる樹ですね。この樹は軽くて頑丈で燃えないというすごい性質で、乱獲の末に絶滅したとされる伝説の一品ですねぇ」

 

 空焚にはクーゼがとても喜んでいるように見えた。それと同時にとてもいやな予感がもやもやと渦巻き始める。

 

「『神が宿りし餅』ですが」

 

「ごくり」と誰かがつばを飲んだ。

 

「やはり、多くの不可解な点が見つかりましたね」

 

 鑑識室の面々の緊張が高まる。

 

「第一に、成分をいくら調べても金色になる理由が見つかりませんねぇ。まぁ、金色でなくともおいしすぎることには変わらないでしょうがね。次に空焚さんの撮ってきたモチの写真が――」

 

 空焚は、クーゼのある言葉が頭に引っかかっていた。

 

「成分……? 理由が見つからない? ……おいしすぎる……」

 

 その瞬間空焚はひらめいた。悟ってしまった。

 

「貴様、食いおったな!!」

 

「たえるちゃんキャラちゃう」

 

 空焚は真っ青になってクーゼに詰め寄る。

 

「ここ持ってきたら苦労したのにかなり強引でこれ以上のたたりのおばーちゃんがっ!」

 

 空焚は混乱している。

 

「落ち着いてくださいですぅ~!」

 

「いつも騒がしいなあ」

 

 後ろのほうで聞いていたウサギがなだめ、ノンビはあくまでのんびり。

 

「遺留品を食べないでって何回言わせれば満腹になるんですか……」

 

 もうお疲れの空焚。

 

「うちの署は貧乏ですからねぇ。餅の成分だとか木の種類を割り出すとか、ハイテク機器は一切無いのですよ。そしてそんじょそこら以上のハイテク機器より僕の舌のほうが遥かに精確ですね」

 

 クーゼ自慢げ。反省の色はないから諦めろ。

 

「諦めろって……ん? 木の種類? ……さては貴様食いおったな!」

 

「当たり前じゃないですか。言いましたよねぇ?」

 

「そっちはさすがにバレるって!」

 

 いつものお約束ケンカを既に聞き飽きたノンビは仕方なく話を戻す。

 

「で、たえるちゃんの写真がどしたん?」

 

「ノンビさんは見ていませんでしたねぇ。これがそうです」

 

 クーゼから手渡された写真には、無残なうさダバダの遺体、地面に散らばる杵、臼とその中で湯気を立てている金色のモチなどなどが写っていた。そして右下には撮影時間である6:18という文字が記されている。

 

「ばりばくん、このだ~ばだ~ってゆうウサギさんいつご臨終したん?」

 

「それがですねぇ、午前五時から三十分の間なんですねぇ。おかしいでしょう?」

 

「変やなぁ」

 

 はははと笑う二匹。

 

「先輩どこがおかしいか分かりますぅ?」

 

「私に聞くな」

 

 写真を覗いたが分からない二匹。

 

「もう、たえるちゃん鈍いな。おモチつき終わってから一時間くらいたってるのに湯気出てるやん」

 

「あ。ほんまや」

 

 なっとく。

 

「じゃあ、うさダバダ氏が死んだ後もモチつき続けてたってことですか?」

 

 いえいえ、と首を横に振るクーゼ。

 

「うさダバダさんが殺害された時に飛び散った綿くずは、モチの表面だけに付着していたのですねぇ」

 

「綿くずが表面に付いた後もモチつきしてたらおモチの中にもでるはずやん?」

 

 ほんの少し得意げなノンビ。

 

「なるほど……。いつまで経っても冷めない、なぜか金色の超おいしい『神が宿りし』おモチ、か。訳わからんな」

 

 空焚きがまとめ、

 

「ミステリーですぅ」

 

 後ろのぬいぐるみが頭を抱える。

 

「そうや。おモチって結局何入ってたん?」

 

「おや。すっかり忘れていましたねぇ」

 

 クーゼが机の上に散らばっていた紙をまとめて渡した。ノンビはふむふむと頷き、空焚が成分表を覗き見る。

 

「お月見村産モチ米、のど川上流の水。それにお月見村周辺の土?」

 

「そこからが問題ですねぇ」

 

 カメダケの胞子、ツルダケの胞子、オカダケの胞子、ももぉ、ボスヨクワカラナイ草の根、ボスヨクワカル草の葉、鉄、スギ花粉、稲花粉、路傍の石、エトセトラの花の蜜、エトセトラの……と延々と続いていき、最後に『米、水以外は極めて少量』と書かれていた。

 

「えっと……ようこんなん食べてお腹壊……すわけないか」

 

 クーゼがおなかを壊したという事件は聞いたことがない。

 

「よくわかりましたねぇ。いずれも殺菌してあったんですね。もっとも消毒液は入ってはいませんでしたが」

 

 そういうわけじゃない、と言い返そうとしたが

 

「『神が宿りし餅』にモチ米と水以外の物が入っていたなんて、お月見村出身の僕でも全然知らなかったですぅ」

 

 と、後ろの方にいたぬいぐるみ――約二足出に遮られた。

 

「あれ、居たっけ?」

 

「先輩ひどいですぅ」

 

「そしてさりげなく重要発言してたような」

 

「お月見村出身やって」

 

「ええーー初めて聞いた」

 

 ノンビ、クーゼも頷く。

 

「先輩たちもノンビさんも知らなかったんですぅ!?」

 

 また頷く。

 

「お月見村のことで分からないことがあったらなんでも聞いてくださいですぅ」

 

 胸をそらす約二足出。

 

「じゃあぼくとばりばくんは探し物に行ってくるからたえるちゃんはどーにかして金色のおモチ作っといてな」

 

「は!? 何でおモチ!? マインドコントロールとか殺害方法とか他に調べることいくらでもあんのに!」

 

 ノンビに詰め寄る。

 

「たぶんおモチの作り方分かったら他もぜ~んぶわかるで」

 

 空焚には今のノンビが少し確信に満ちた顔をしている様に見えた。こうなったノンビは既に事件の核心に肉薄していることが多い。

 

「何がわかったんですか」

 

「へ? 何のこと? じゃーねー」

 

「では行ってきますねぇ」

 

 ノンビとクーゼはさっさと鑑識室を後にした。

 

「分かるわけないやん!!!」

 

 空焚の悲鳴はむなしく××警察署中に響き渡った。

 

*****

 

 取調べ室そのいち。空焚は困難な問題を後回しにして重要参考ぐるみうさハートの取調べをすることにした。

 

「用はノンビさんより先に事件解決すればいいってことでしょ」

 

「刑事さん……なんでしょう?」

 

「独り言ですから気にしないで下さい。では、あなたは自分がうさダバダ氏を殺害したと言いましたが、そのときの状況を出来るだけ詳しく話してください」

 

 うさハートがその言葉に戸惑った、或いは少し慌てたことを空焚は見逃さなかった。

 

「……あの」

 

 空焚は緊張して次の言葉を待つ。

 

「またですか?」

 

 ガクッ

 

「ええ。もう一度お願いします」

 

 うさハートは項垂れてぽつぽつと語り始めた。

「あいつは昔から……怖いもの知らずというのか空気読めない(KY)というのか……なんせ人がやらないことを平気でするやつだったんです。あの日もそうでした。神聖な『聖なる舞』の代わりにあろうことか………泥鰌掬いを躍ったんです」

 

「どじょうすくいかい!!」

 

 空焚、思わず立ち上がる。イスが扉をぶち破ってどこかへ消えた。うさハートはビクッと驚き固まってしまった。

 

「……」

 

「……失礼しました。続けてください」

 

 別のイスに座りなおす。

 

「えっと……泥鰌掬いを踊って、もちろん止めたんです。たたられるぞって。でも『たたりでもモチ神でも来るならこい!』って言って聞かなくて、仕方なく『御餅月之儀』を始めました」

 

「ちょっとまって。どじょうすくいでもおモチつき出来るのですか?」

 

 うさハートはきょとんとしている。

 

「そんなことも聞くのですか?」

 

「捜査の一環です。質問には答えてください」

 

 またうつむいて答える。

 

「一応ですが、出来なくはないです」

 

「そうですか。続けてください」

 

「……それで、『御餅月之儀』がラストスパートに差し掛かった時です。『聖なる舞』を踊っている最中、急に眠くなって……気づいたら……」

 

 見ると、うさハートはぼろぼろ涙をこぼしている。空焚は次の言葉を待った。

 

「……あいつが…死んでいました……」

 

 うさハートが泣き止むのをまって、空焚は切り出した。

 

「これからいくつか質問をします。まず一つ目。午前五時から三十分の間、つまりうさダバダ氏が殺害された時刻ですがあなたはどこで何をしていましたか?」

 

 うさハートは拍子抜けした。

 

「刑事さん……話、聞いてましたか?」

 

「事件がおきた時の定型句です。儀式の様なものですから答えてください」

 

 ほっとした様子で答える。

 

「『御餅月之儀』に参加して、村の中心の広場にいて、たぶんうさダバダを殺しました」

 

「そうですか。ではだれかうさダバダ氏に怨みつらみ妬み僻みその他これ系の感情を抱いていましたか?」

 

 またひょーしぬけ。

 

「刑事さん」

 

「『取調之儀』です」

 

「はい」

 

「どうぞ」

 

 うさハートは一度深呼吸をする。そして、答える。

 

「あいつ、変わり者でしたから、恨みとまではいかなくても嫌っているやつは結構いました。他の町とあまり交流がないので、枠をはみ出すやつは、その……嫌われるんです」

 

「そうですか。なるほど。あなた自身はうさダバダ氏のことをどう思っていましたか?」

 

 うさハートはまたぽろぽろ泣き出し、そのまま答える。

 

「友達です。あいつはあいつだし、僕もあまり他人付き合いが得意ではないので、お互い唯一の、だったのかもしれません」

 

「なるほど……」

 

 しばらく取調べ室そのいちに静寂が満ちる。やがて口を開いたのは空焚だった。

 

「実はあなたも嫌っていたんじゃないですか?」

 

「何を言うんですか」

 

 ずっとうつむいていたうさハートがゆっくりと前を向く。

 

「あなたもうさダバダ氏のKYっぷりに嫌気がさして、誰も見ていないからって殺したんじゃ――」

 

「そんな事する訳ありませんッ!」

 

 ついに激昂し立ち上がる。その勢いでイスが後ろに倒れた。

 

「……あ……えっと、すみません」

 

 が、すぐに謝り座りなおす。

 

「こちらこそ失礼なことを言って申し訳ありません」

 

 空焚がうさハートに向かって右手を差し出す。

 

「……?」

 

「仲直りの握手です」

 

 うさハートが空焚の手を握り

 

「いて」

 

 数秒後、綿が飛び出そうになるほど強く握られた。

 うさハートが声を出したところで手を引っ込め

 

「これで第一回取調べを終わります」

 

 そう言い椅子から立ち上がる。

 

「待って下さい」

 

「なんです?」

 

 うさハートはまたうつむく。

 

「僕、本当に何にも覚えてないんですけど、これからどうなるんでしょう」

 

「とりあえず捜査は続行されます。あなたが犯ぐるみだと裏づけが取れればおそらく精神鑑定に回されそっからは知らん」

 

 それだけを言い残し取調べ室そのいちから出て行った。

 

「なんだったんだ……?」

 

 うさハートの独り言だけが響く。

 

「取調べ、二回目だぞ………」

 

 

 

「脚力瞬発力握力そのたもろもろどれもウサギ平均。犯ぐるみは別にいると見たぁ!」

 

 空焚は廊下で一人叫んでいた。

 

「何ヲ叫ンデイル」

 

「びっくりしたあ! 署長お疲れ様です」

 

 天井にぶつかりながら体勢を整え敬礼をした。

 

「オ月見村ノ惨殺死体事件、ドウナッタ」

 

 彼女は××警察署署長綿死派獲羅威(ワタシハエライ)警視監。つまり××警察署の偉いさん。

 

「重要参考ぐるみそのいちの取調べの際、本人に気付かれないように身体検査を行った結果、遺体をあのような状態にすることは不可能だと断定できました」

 

 先ほど空焚はうさハートを怒らせたが、それはうさハートの身体能力を測るためにわざと興奮させたのだった。ちなみにこれはだいぶマエの事件の時にノンビが試した方法だった。

 

「ソウカ。ツマリハ捜査ハフリダシニ戻ッタトイウコトダナ。コンナ所デ何ヲシテイル。一刻モ早ク犯グルミヲ逮捕セヨ」

 

「承知いたしました!」

 

「イイカ、コレハ我ガ警察署及ビ警察組織ヘノ挑戦ダ。心セヨ」

 

「了解しましたですぅ」

 

 空焚は共に取調べにいたぬいぐるみと並んで敬礼をし、去っていく署長を見送る。

 

「先輩、これからどうしますぅ?」

 

「あれ、いたっけ」

 

「先輩、わざとですぅ?」

 

「さて、これからどうしよっか。そーや、もー一回現場に行こ」

 

「先輩聞いてないですぅ」

 

「げーんばひゃっかいけーじのきほんっ♪」

 

「置いて行かないで下さいですぅ~」

 

 空焚は警察署を後にした。

 

*****

 

 探し物をすると言ってどこかへ消えたノンビは

 

「オカダケあったでー」

 

 のんき山にて、無線を片手に泥だらけになっていた。

 

『こちらはエトセトラの草が大量発生していますねぇ。これで後はコレとソレとアレとドレでしたかねぇ』

 

 手に持つ、同じく泥だらけのメモに目を通す。

 

「そうやなあ。そろそろ合流する?」

 

『ソレがいいですねぇ』

 

「ぢゃ、『蒙昧の辻』で」

 

 山の斜面を、後ろで控えていた台車に乗って滑り降りていった。

 ジェットコースター並みの速さで滑り降りる台車はその勢いで斜面を登り、登りきった先にあったのは断崖絶壁。

 

「青春じゃーんぷ」

 

 ノンビは崖を跳び越え向こう側へと着陸。台車はそのまま谷底へ落ちていった。

 樹をクッション代わりにし、泥一滴付けずに着地した。着けばそこは蒙昧の辻。

 

「早かったですねえ」

 

 クーゼも既に着いていた。

 

「谷底でボスヨクワカラナイ草(参考画像

【挿絵表示】

)と戦ってる部下さんにぼくのパーレーダヴィットそん号拾っといてーって言っといて」

 

「わかりましたねぇ」

 

 無線に向かってノンビの台車を回収するように、と業務連絡を入れる。無線からは

 

『それどころじゃないッス! ひいいぃぃぃ――!』

 

 と、聞こえてきた。

 

「うんこれでよし。あっ、ももぉおった」

 

 ノンビが指差す先に小さな羽根虫。

 

「いましたねぇ。となると残りはアレと、ボスヨクワカル草(参考画像

【挿絵表示】

)ですね……」

 

 二匹は顔を曇らせる。

 

「今は護衛役の空焚さんがいませんからねぇ」

 

 ボスヨクワカル草の獰猛さに引けをとらない空焚がいないので、二匹でボスがいると思われるヨクワカル草の群生地へ行くのは危険なのだ。

 

「ちょうど葉が生え変わるころやもんなあ」

 

「ではこっちも部下に任せますね。これで万事解決、ノルマクリアですねぇ」

 

「よかったよかった」

 

 早速部下に通達したクーゼ。やはり悲鳴が響くのだが、それを聞こえないふりなのか聞こえていない又は聞かないのが二匹である。

 

「部下さん優秀で連れてきたかいあったなあ」

 

「自慢の部下ですねぇ」

 

「次行こか」

 

 蒙昧の辻から伸びる道をいく二匹。道しるべには『この先お月見村』と書かれている。

 

*****

 

 野を駆け山跳び十分後。

 

「着いたぞー! 記録三分更新!」

 

 空焚はお月見村に舞い戻った。早速聞き込みをするのだが

 

「家にいました」

 

「家で寝てました」

 

「家でデイトレードして百二十九万六千五十二ヱン稼ぎました」

 

「ぱそこん持ってんの? じゃあ押収します」

 

「あ、流れ星に――」

 

 と有力な証言どころかアリバイまで全員皆無だ。事件が起きた時外出禁止令が出されていたので『家にいた』が普通である。

 

「うさハートは体力的に犯ぐるみじゃない。犯うさは別にいるッ!」

 

 キラーンと虚空に向かって指差し叫んだ。

 

「犯ぐるみは被害者をおモチ状態に出来る豪腕の持ち主。こうなったら……よし、一匹一匹調べるぞ!」

 

 この村は過疎化が進んでいるのでウサ口は少ない。全てのウサギを調べるのは不可能でなかった。まずは村の若いもんが住むエリアへ突撃した。

 

「こんにちは。私と腕相撲しましょう」

 

「ハァ!?」

 

「いきますよ」

 

「いてててて!」

 

 をひたすら繰り返した。

 

「う~ん……みんなひ弱やなあ。いやいやいや、まだお年寄りがいる。そうや! 村の八割を占めるお年寄りの中に一匹くらいグレートがいるに間違いない!」

 

 空焚は現在百八歳で五百年前も百八歳の若々しい身体を持つ、何でもかんでもバリバリ喰う傑物を知っている。お月見村にも凄いお年寄りが居るかもしれないと踏んで、今度こそ片っ端から民家を回った。

 

「こんにちは。私と腕相撲しましょう」

 

「ほぇ?」

 

「いきますよ」

 

「おんやぁ、めんこいお嬢ちゃんがワシの手を握っていてててて」

 

 結局グレート傑物は現れなかった。

 

「むぅぅ、どういう事? これぞまさに不可能犯罪」

 

 脳裏にクーゼの『空焚さんみたいな例外を除くとすると』とのセリフが蘇った。

 

「私みたいな例外? じゃあ犯ぐるみ私? えぇ~!?」

 

 頭の中がグルグルし、目が回り身体がふらつく。

 

(私がモチかツキかグウタラかにマインドコントロールされたん!?)

 

 空焚が犯ぐるみなら刑事としてやはり自首しなければならない。混乱する頭の中に一匹の顔がちらつく。

 

(ごめんね……わたし殺ウサしちゃったかも)

 

「たえるちゃんなに回ってんの?」

 

 耳にはっきりと、今際の際に思い浮かべた一匹の声が聞こえた。

 

「ノンビさん……」

 

「やっぱり凄いなぁ。ぐりぐりして竜巻できてたで」

 

「どーしょ。犯ぐるみ私かも……」

 

「たえるちゃん変なことゆってる」

 

 ノンビに被害者をあのような有様にする怪力の持ち主は村におらず、もしかしたら自分がマインドコントロールされてうさダバダを殺したのではないかと告白した。

 

「……」

 

 ノンビはいきなりの告白に口をポカーンと開けた。

 

「たえるちゃん変なことゆってる」

 

 言葉を繰り返した。

 

「『聖なる杵』でウサギをはじめとする方々を撲殺するのは不可能なので、凶器は別の何かという捜査方針で皆さん動いていますねぇ」

 

「凶器は別の何か? ……クーゼさん! いたんですか」

 

「僕をどっかの影薄すうすうぬいぐるみと一緒にしないで欲しいですねぇ」

 

 クーゼはいつもの満面の笑みを浮かべ非難した。

 

「それは悪う御座いました。別の何かだったら、どんなのであの悲惨なおモチを作り出せるのですか?」

 

「撲殺は殺害難易度ランキング不動の一位ですからねぇ」

 

 ウサギをはじめとするこの世界の生き物たちの身体は非常にやわらかい素材なので、普通でも殴って殺すには相当の力が必要なのだ。

 

「あれですとねぇ……市販の物に例えると『キロ豚ハンマー』なら可能ですかねぇ」

 

「キロトンハンマー? 一tあるハンマーですか?」

 

「いえいえ、ユニークな形のとんかちですね。『豚勝(トンカツ)社』の社長が家路につく途中に閃いたアイデア商品ですね」

 

 あれを使うと釘を打つとき絶対に指を打たないと、クーゼはさも自分が造ったかのように自慢げに言う。ちなみに『豚勝社』の社長はブタなので、空焚と同じ有袋類の茶色いぬいぐるみのクーゼは、グレート傑物だがアイデア社長ではない。

 

「……それで、釘は打つけど手は打たないふしぎとんかちなら撲殺が可能なのですか?」

 

「いえ、『キロ豚ハンマー』はただの例えですねぇ」

 

「もうちょっと分かりやすい例えは無いんですか!?」

 

「空焚さんが普段バーベル代わりに使う建物解体用とんかち一つならいけそうですねぇ」

 

 空焚はまた回転を始める。

 

「ああ……やっぱり犯カンガルー私? ノンビさ~ん――あれれ? ノンビさんは?」

 

 ふと気がつくと、ここにいるのは空焚とクーゼの二匹だけだった。

 

「ノンビさんなら『キロ豚ハンマー』の話題辺りでそちらへ行きましたねぇ」

 

 クーゼは空焚の背後の路地を指した。

 

「何で言ってくれへんかったん!」

 

 空焚は砂埃を立てて路地へ消えた。

 

 

 

 にんじん通りにて。空焚がやっと発見した時ノンビは。

 

「zzz」

 

「またかいッ!!」

 

 地べたに倒れてぐっすりお休み中であった。

 

「すぅ、はぁ、――」

 

 とりあえず、まずは大声で起こそうと深呼吸。

 

(今だ――)

 

「あ。たえるちゃんおはよー」

 

 ずっしんっ!

 吸った息をおかしな具合に吐き出してしまい、空焚は地面に激突した。

 

「なんか忙しいなぁ」

 

「寝てるんでしたらそのまま寝といて下さい!」

 

「そーゆーのってゴム体ってゆうんやで」

 

「漢字違いますからッ!」

 

「ようわかったなあえらいえらい」

 

 棒読みセリフを口にしながら空焚の頭を撫でるノンビ。話を半ば強引に打ち切り、言う。

 

「あのなぁ。ぼくすごい事思い出してん」

 

「……(ごくり)」

 

 長い付き合いの空焚だからこそ分かる、ノンビののんびりした真剣モードの口調だ。

 

「犯うさ見たかも」

 

「……」

「……」

 

 彼らの間に沈黙が降り立った。

 

「……ッえええぇぇぇ~~ッ!!!!」

 

 空焚の叫び声は

 

「空焚カ。捜査ハドレダケ進ンダノダ」

 

 お月見村からのんき山を越えて××警察署にまで届いたとされる。

 

 

 

 ノンビは空焚の最早音兵器となった声を、耳を塞いでやり過ごした。

 

「たえるちゃんこわいー」

 

「……いつ、どこで、だれが、なにをしている所を見たのですか」

 

 本当ならなぜそんな大切なことを忘れていたのか問い詰めたいところだが、今はノンビ真剣モードだ。なので引き摺らずに放り投げた。

 

「え~と。今朝、ここで、ウサギさんが、走ってる所を見たで」

 

「もうちょっと詳しく」

 

「……どれくらい?」

 

「可能な限り」

 

「……」

 

「……」

 

 ノンビは大きく息を吸い込み、空焚はおなかのぽっけからメモ用紙と鉛筆を取り出し身構えた。

 

「昨日からのんき山で屋外キャンプをしてたぼくは午前五時二分くらいに突然吹いたすんごい風に吹き飛ばされてのんき山斜面を滑空してお月見村に空から侵入した後ここにんじん通りに落ちたら風が止んでその十八秒後午前五時四分三十一秒つまりだ~ばだ~が死んだ時間くらいにのんき山方面から広場に向かって身長二十二cm六mmのハゲたウサギが一匹時速八m十九cmで走ってくのを見たで」

 

「相変わらず数字だけは正確ですね。さすがほーむれす」

 

 主に時計の無い屋外で活動しているノンビは、太陽位置や、影の長さと角度から測ったかのように正確な時間及び長さを知ることが出来る。

 

「いっつもゆってるけど、ぼくにもお家あるで」

 

「えっどこ!? ……じゃなくて、それは確かですか?」

 

 ノンビは腕を組み困ったような表情を顔に出した。

 

「すんごい風吹いた時間はぼくもねてて秒まで分からんかったし、ここに落ちた時はぐるぐる目ぇ回ってたからちょびっとずれてるかも」

 

「数字はともかくハゲたウサギが向こうに走ってったのは確かなんですね!?」

 

「うん。しっかりハゲてたで」

 

 うさハートもうさダバダもふさふさの若いウサギだ。それが意味するのは。

 

「は~ととだ~ばだ~の他にも外にウサギさんいたって事やん」

 

「第三のウサギ……ですか」

 

 いるはずの無い者に目撃された、いるはずの無いウサギ。そいつめっちゃ怪しいやん。ぶっちゃけ犯ぐるみじゃね? と空焚はまだ見ぬ第三のウサギの替わりに虚空を睨み、そう思った。

 

 

 

 第三のウサギを探すことになったのだが。

 

「たえるちゃんは金色おモチづくりやで」

 

 ふわふわした拳でガンと拒まれる空焚。

 

「わ、私も――!」

 

「だめ。だってたえるちゃん、メンわれてるやん」

 

「あ……そうか」

 

「やからぼくとばりばくんで探すから、金色のひみつ解明しといて。『聖なる臼』と『聖なる杵』とたえるちゃんやったらたぶん出来るで」

 

 つむじをぽんぽん叩かれた。二人の身長差の都合上、肩を叩くわけにはいかないのである。

 

「うん。私頑張ります!」

 

「えらいえらい。ついでにのんき山の谷底にパーレーダヴィットそん号とばりばくんの部下さんおると思うから、拾といてな」

 

「分かりました。いってらっしゃ~い!」

 

 警察に命令すんなと一瞬腹の底で思ったが、訳の分からん強引な流れに浚われてしまった。

 

「……ってノンビさんも面割れてるやんッ!!」

 

 気付いても遅い。ノンビは既に消え失せている。こういう時は途轍もなく素早いのがノンビなのだ。

 

*****

 

 ノンビは刑事であるクーゼと、地道な聞き込みを開始した。空焚の調査資料を確保した上だが。

 

「ハゲてませんでしたねぇ~。僕もですが」

 

「ハゲてへんかったなぁ~。ばりばくんもやけど」

 

 そして、聞き込みついでに向かっていた、にんじん通りのどん詰まりに到着する。

 

「テンポーですねぇ~」

 

 通りをまたがえる巨大な鳥居に、『お月見村神社』と仰々しい看板がはまっている。

 

「たのもーぽいっとちゃりんがらがらぱんぱんぽん」

 

 賽銭箱に十ヱン入れて、鈴を鳴らすノンビ。

 

「おやおや……刑事さん、解決祈願でもなされましたか?」

 

 と、社務所から、ウサギがよたよたと歩いて来る。

 

「お願いだれかにゆったらあかんのやでー」

 

「それは失礼」

 

「ここの神主さんですかねぇ~。ちなみに僕は器の広い男なので願い事の一つや二つ聞かせてあげてもよいのですが、生憎今回は祈願も何もしていませんから困りましたねぇ~」

 

「ええ、神主のうさビトンと申します」

 

 ノンビはクーゼとうさビトンの会話を耳に流しながら、遠い地で頑張る空焚に言葉をかける。

 

(たえるちゃん……神主さんはっげはげやで。わたわた~)

 

 

 

「むっ。微弱な電磁波?」

 

 警察署の道場で、空焚は稲妻のように振り返った。

 

「きのせーやんな」

 

 ど真ん中には『聖なる臼』と真っ白なモチ米。ぶっちゃけやることが無いので、空焚は金色のおモチの秘密を探っていた。

 

「えーっと、次はボスヨクワカル草の歯やから……」

 

 ぽけっとから、クーゼの部下を救出するついでに収穫したボスヨクワカル草 を出した。根っこから引きちぎられた今も、元気に噛みつこうと頑張っている。問答無用で臼に放り込んだ。

 

「丸ごと入れていいやんな。大は小を兼ねるやもん!」

 

 そして飛び出てくる前にぺったんぺったん。

 

「ぺったぺったおっいしっいおーもちーにな~れ♪」

 

 一分後、臼の中には鮮やかな黄緑色の物体が出来上がっていた。

 

「……。次はももぉか」

 

 剥がし取って一飲みで消化した。

 

「あれれ? モチ米、後ひとつき分やん」

 

 背後に積まれていた炊き立てモチ米も、釜を残して全部空焚の腹の中だ。

 

「いっぱい食べちゃった……太ってノンビさんに笑われたらどうしよ……」

 

 ふわふわのおなかをなでるが、運動すればいいだけだと杵をかまえる。

 

「今までのパターンからすると……ももぉ入れても黒なるだけやん」

 

 自分の学習能力の高さに、思わず笑みがこぼれた。

 

「じゃあどーやったら金色になるんやろ――えーい、つきながら考えよー!」

 

 ぺったんぺったん。最後だから特別心を込めて。ぺったんぺったん。

 

(この臼と杵、つきやすいなぁ。さすが『せーなる』……)

 

 ぺったんぺったん。臼はモチ米がくっ付きにくく、杵は空気抵抗が極小だ。返し手不在の一人モチつきでも、これといったやりにくさは感じない。ぺったんぺったんぺったんぺったん。

 

「おモチつきってたのしいなぁっ!」

 

 ぺったんぺったんぺったんぺったん。空焚はもう無我夢中だ。目には木目の床も、ビルヂングデストラクションハンマーも、鉄骨の壁も映らない。ぺったんぺったんぺったんぺったん。ぺったんぺったん。

 

「ぺったんぺったんぺったんぺったん」

 

 ぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったんぺったん

 

 ボフッ!

 

 

 

 倒れた空焚の横には、キロ豚ハンマーが落ちている。うっすらと、綿くずがこびりついている。

 

「計算通りですぅ」

 

 一匹のウサギが、黒い微笑みを口の端に乗せている。

 

「所詮先輩も、こうなればただのぬいぐるみですぅ」

 

 ピクリともしない空焚を、つんつんするウサギ。忍び笑いが、どんどん外に漏れる。

 

「残念でなりません、先輩は知りすぎたのですぅ……すぅっすっすっすっす~」

 

 『聖なる臼』では、つき立てほやほやのおモチが、おいしそうなにおいと湯気を出している。

 それは、黄金色に輝いていた。

 

 

 

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