モチつきぺったん殺ウサ事件   作:白井茶虎

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解決編

 

 

 ハンモックが風で揺れていた。穏やかな午後、ノンビは運命的必然によってお昼寝タイムだ。

 おやつの時間ごろ、ビューとおかしな風が吹き抜けて、ノンビはハンモックから落ちてしまった。

 焦らず迷わず、枕元に置いていた無線を手に取った。

 

「ばりばくんかめらー」

 

『おやおや、おはようございます。昼寝日和洗濯日和の晴天ですが、一睡もせず働き詰めた僕は、まさに警察官の鑑ですねぇ。ところでカメラは今確認しますね』

 

 部下君確認しなさい、と雑音が入った気がするが、空耳だろう。

 

『これは驚きましたねぇ~。ノンビさんの予想は、ノヌトラダムヌの予言の如く、ぴたりですね』

 

「やろ~」

 

 ごろリンと、無線片手に空を仰いだ。

 

『そして、裏付けの方はですねぇ……』

 

 部下君結果は、と雑音が入ったが、きっと風の秘め事だ。

 

『これまた、フスホヲデムナのよげんですかねぇ』

 

「やろ~」

 

 背中のひれひれを、ふるふると動かした。

 

「じゃー逮捕しといてな。よろしくやでー」

 

 そして、ハンモックに潜って二度寝を始める。

 

*****

 

「てゆーことで逮捕したで」

 

「刑事さん、一体何のつもりでしょう? 訴えますよ」

 

 と、取調室そのさんのドアがバクハツした。

 

「ノンビさんノンビさん犯ぐるみ捕まえたのーッ!?」

 

「すごいやろ~」

 

 外では、空焚がゼェハァと肩で息をしていた。

 

「あれ~、そのタンコブ、どしたん?」

 

「あ、これはうっかりお昼寝しちゃって、たぶん臼にぶつけたんやと思う」

 

「そ~か。きいつけや」

 

「えへへ……」

 

 てれてれとタンコブをなでて、はたと我に返った。

 

「で、このウサギが犯ぐるみ? えーっと」

 

 机にぽふっと手をのせているウサギは、今にも綿が出そうなはげウサギ。

 

「神主さん? はげ……あーっ! 第三のウサギッ!」

 

 ノンビが目撃した、神主のうさビトン。

 

「ぶっちゃけ犯ぐるみじゃね? さんやったんか。今回はそんな意外な犯ぐるみじゃなかったなぁ……」

 

「犯ぐるみ呼ばわりとは失礼な」

 

 神主が、ぽふっと机を叩いた。が、すぐに冷静に取り成す。

 

「根拠を聞かせてもらいますかな……」

 

 そう装っているが、よく見るとたらーっと汗が流れていた。

 

「うん。よぉ聞いといてや」

 

 聞き手の二匹は、緊張のまなざしでノンビを見つめた。

 

「見つめてるとこ悪いけど、こっちみて。ぽちっとなー」

 

 カッコつけて指を鳴らすと、天井に穴が開いてテレビが降ってきた。

 

「『聖なる臼』! こんなところに!」

 

「あ、私やん」

 

 体育館っぽい床に安置される臼、そして杵をかまえるちっちゃいカンガルーさん。

 

「たえるちゃんにはな、これ使って金色のおモチ作ってもうたん。これラスいちモチ米のビデオ」

 

 テレビ空焚は、モチをつき、こね始める。やがて速さは際限なく増していく。

 

「村の外の有袋類ごときが、何故……」

 

 杵は空気摩擦により、炎を帯びる。燃えないジョーブの木で作られた臼と杵は、炎の中でしっかりと形を保っていた。

 

「こんなことやってたんや。私すごい!」

 

 つき手と共に、臼が宙に浮く。熱を帯びたことによって、モチを中心に上昇気流が生まれたのだ。

 

「たえるちゃんやから、練習なしででけたけど。元は指定の振り付けで、普通のウサギさんがこんな力技するんやろな。たえるちゃんやからでけたけど」

 

 それが『聖なる舞』の正体。

 

「あとは振りやすい杵と、風作りやすい臼と、引っ張ってくれる粘度のモチ米のおかげやな」

 

 おモチたちは、尚も発光する。映像はガタガタと揺れ、容疑者は画面酔いした。

 

「まぶしーなぁ。じょーしょーきりゅーのせいで、嵐の中みたいなもんやで。こんなんなってたから、砂やらももぉやら、ボスヨクワカラナイ草やら引き寄せられたんや。すごい熱いから、殺菌消毒もばっちりやけど。ぼくもおモチの材料になりかけたんやーこわー」

 

 画面酔いより『御餅月之儀』が暴かれることで、胃綿がこみ上げてくる。

 

「そーゆー色んな材料とあっついあっついモチつきで、世にも不思議な金色のおモチができあがり~」

 

「わ~すご~い!」

 

「でな、問題の世紀の瞬間も撮れたん」

 

 一瞬黒いカタマリが、カメラを横切った。と思うと、揺れが収まった。

 

「……」

 

 傾いたカメラの真ん中で、空焚が目をバツにして倒れている。無事着地した臼から、金色の光が漏れていた。

 

「停止っとな。たえるちゃんやからタンコブで済んだけど」

 

 空焚の近くに、キロ豚ハンマーが落ちている。

 

「こりゃ痛かったなぁ。私やから大丈夫やけど」

 

 鍛えていないぬいぐるみなら、一撃だ。

 

「いたいでぇ~。――こーやってあらかじめキロ豚ハンマー仕掛けといて、儀式が止まるのを待っとく。風がやんだら、仕留めたか確認しがてらハンマー回収。ついでには~とに罪かぶせなあかんなぁ。まあこれは、撲殺じゃなくてナイフとかで脅すんが確実やな」

 

 撲殺を選んだのは、か弱い老ウサギを疑いの目からそらさせるためだ。

 

「デタラメな。こんな殺害方法、もしも万が一本当だとしても、ならば村ウサギ全員が容疑者ではないか!」

 

「証拠ならあるで」

 

 ノンビは一枚のぺらっとした紙を出した。大きな太文字で、『証拠』と書かれている。

 

「こんな台風で看板ぶつけるよりむつかしいの、大変やったやろなぁ。うん、犯うさは二つの条件があるで。一つは儀式の知識。韻は踏んでへんで。神主さんが筆頭候補やな」

 

「そんなもの、その気になれば誰にだって――」

 

「聞きいや。二つ目、ぱそこん。次あるか分からん、多くて年に一回のチャンス、実験なんかやってられんやろ。そこで数学さんの出番。ややっこしい弾道計算は、パソコンさんに任せるのが一番や」

 

「ウチに、ハイテク機器は……」

 

 抗弁が怪しくなってきた。

 

「いなか~な村で、ハイテク機器を持ってる家は一軒だけ。儀式中デイトレードしてたってゆーおたくくんンち。おたくくんは証言の通り取引記録残ってたから、真っ先に駆けつけてキロ豚ハンマー回収すんのはムリ。そのおたくくんは最近、神社にパソコン貸したっちゅうてたで」

 

「何だとっ!? 裏切りやがっ…………」

 

「はいアウトー! 逮捕します!」

 

 部屋の隅でじっとしていた空焚が、神主を縄でぐるぐる巻きにした。

 

「おこづかいもうたちゅうてたなぁ。じゅーよーさんこーウサギで連れてくるのと、発電所さんに問い合わせて最近パソコン使ったウサギ教えてもらうの、どっちもやらなあかん?」

 

 やるのは主に警察(もっと絞ればクーゼの部下)だが。

 神主・うさビトンは、がっくりと肩を落とし、項垂れた。

 罪を認めた彼は、動機についてこう語った。

 

「ヤツは村にいてはいけなかったんだ……我が村の儀式と伝統と風習と風紀と治安と田舎臭さを愚弄したのだ……」

 

「そんな嫌ってたんやったら、引越しさせるなり隔離なり他にもあるやろ」

 

「あかんやん。逮捕しますっ!」

 

 空焚はうさビトンの頭をはたいた。机にめり込んだ。

 後に、犯うさへの暴行と備品破壊についての始末書を書いたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノンビは、二つ隣の取調室で神主に罪を認めさせたと、うさハートに報告した。

 

「ってゆーことやでっ」

 

 うさハートはまだ、浮かない顔で小さくなっている。

 

「そーそー。神主さんにはゆい忘れたんやけど、『キロ豚ハンマー』秘密ききたい?」

 

「……」

 

「ノンビさん聞きたいですっ!」

 

 空焚が天井に穴をあけて突入してきた。始末書が増えたことは、誰も気にしていない。

 

「せやろせやろ。打っても撃っても指うたへん秘密なんやけどなあ。実は秘密調査社員さんに注文した人のクセとか生活リズムとか迂闊さとか調べさせて、そのデータ使っておりじなるおーだーめいどを手作りしてんの。あなろぐーな黒豚企業なんやで~」

 

「へ~! 大量生産やと思ってました!」

 

 物知りなノンビに、尊敬のまなざしを向けた。

 

「やから警察がカチコミいけば、その顧客データも一瞬でとれんの。ブラックやし守秘義務ないから。しほーかいぼーで凶器の形状判明したら、それの持ち主も一瞬で判明するってことやな。でぇ、そのしほーかいぼーがまだなんは、死体喰いが鑑識のばりばくんの美学に反するからなん。こだわりの男やなぁ~。今、都会運んで科学ソーサしてくれてるからな。何が凶器なんか、ばっちり分かるで。あさってくらいに」

 

「証拠がバッチリなんですね!」

 

 ちなみに、舌オンリーの鑑識作業は、クーゼだけの特技だ。

 

「そーかもしれんし、逆かもしれんし」

 

「どういう意味ですか?」

 

「神主さんの『キロ豚ハンマー』のあとか、『聖なる杵』のあとか」

 

 うさハートが、ピクリと肩を震わせた。

 

「現場の近くにあった凶器候補は、綿くずついてた杵かハンマー。そのどっちかなぁ……」

 

「『聖なる杵』? それって私みたいに鍛えてへんとあかんやん。筋肉ウサギなんかあの村おらへんかったで」

 

 空焚はうさハートの腕をとり、数秒で百勝した。それは無視する。

 

「どっちやと思う? 杵と、ハンマー。たえるちゃんオダマリ」

 

 なおも口を挟もうとする空焚を制し、ノンビがうさハートの目を覗き込んだ。うさハートはノンビの圧力を少しでも逃がそうとしているのか、口をもぐもぐさせている。

 

「困るもんなー。『ハンマー』って答えたら、“きみの初めの証言”と食い違うし、やからって『杵』にしたら、自分が犯ぐるみってなるしぃ」

 

 ノンビは首をかしげながら、圧迫をどんどん強めていく。

 

「刑事さんは……どっちと、思ってるんですか?」

 

「ちょっときいてんのぼく。あと探偵さんやでー」

 

「探偵……だったんですか」

 

 うなだれたうさハート。探偵だから仕方がないのだ。

 

「僕は、――杵、だと……思います」

 

 神主から引き出した自白を聞いていなかったのか、と割り込みかけるが、ぐっと抑えた。空焚の足が床にめり込んだ。

 

「きみが犯ぐるみ?」

 

「僕が犯ぐるみです」

 

 空焚が発言を我慢して足に力を入れると、床に穴が空いて落ちていった。耳の先が消えるくらいで、鼻息で浮遊したが。

 

「そーかそーか。ぼくもそう思うで。じゃあ証拠な」

 

 机からでかでかと『証拠』と書かれた紙を取り出した。

 

「ちゃうかった」

 

 天井から紙束が降ってきた。空焚がのぞいて見ると、見たことのある鑑識資料だった。

 

「なになに? あ、これおモチの成分表やん」

 

 カメダケの胞子、ツルダケの胞子、オカダケの胞子、ももぉ、ボスヨクワカラナイ草の根、ボスヨクワカル草の葉、鉄、スギ花粉、稲花粉、路傍の石、エトセトラの花の蜜、エトセトラの……

 

「さて、みなさん。こん中で仲間外れはど~れだ」

 

 うさハートは眉間にしわを寄せた。

 

「……ももぉ?」

 

「ぷっぷ~。それは伏線じゃありませんでした~。正解は『鉄』で~す」

 

 なぜかとってもどや顔になっている。

 

「違いはお月見村とのんき山で、台風くらいの風で採取できるかやで。ほかの“材料”は見つけたけど、鉄だけはどこにも無かったん。ネタばらしすると、これが神主さんのしかけた『キロ豚ハンマー』の鉄粉で、『御餅月の儀』がトルネードモチツキダンスってわかったんやけど」

 

 最後に閉じられた資料には、『照合済み』とボンっと押印されていた。

 

「さぁこっからが問題なん。たえるちゃんが押収したパソコンのソフト使って、ばりばくんの部下さんにしみゅれーしょんさせたんやけどなぁ」

 

 困った困ったと、口をへの字に曲げる。

 

「あたるんはあたるんやけど、あたった後臼の中に入らんねん。百回やって百回ともちゅうてたん。でぇ、試しにだ~ばだ~に『どじょうすくい』さしてみたん。そしたら撲殺されへん代わりに、臼に入った。サイクロンモチットナーじゃあ殺うさは無理やってん」

 

 うさハートは、口をバツの字に引き結んでいる。

 

「けど真っ先に現場に着いた神主さんは“計画成功”って“殺うさ未遂を”自白してる。つまり――」

 

 ノンビが腕をぐるぐる回した。

 

「犯ぐるみはきみやで。きみの手で、トドメさしたん」

 

 ピンと、うさハートを指さした。

 

「そもそもきみ以外の犯うさ探してたんは、あの杵じゃあ撲殺ぼっくんでけへんからやったけど、常に例外はあるねん」

 

「私!? 犯カンガルー私ッ!?」

 

「ちゃうて。そんな不安やったらアリバイ証ぐるみでも探してきたらええやん」

 

 言われて、ビューンと天井の穴から鼻息発射した。

 

「例外はたえるちゃんもやけど。嵐おこして金色のおモチ作ってたきみらもなん。パッと見自殺じゃないしぃ……。きみはほかの村民みたいに、だ~ばだ~のKYっぷりに嫌気がさして、ちょうどとんかちも飛んできたし誰も見ていないからって殺し――」

 

「違うッ!」

 

 うさハートは、やっと否定した。

 

「僕は、僕たちは友達だったんだッ!」

 

「そーみたいやね」

 

「あいつはKYだったけど、身勝手でふざけてたけど、何言っても聞いてくれなかったんだけど、それでもいいやつだったんだ! 僕のことも、みんなのことも、村も儀式だって、全部嫌ってなかったんだ!」

 

「せやったんやろな」

 

「だから! 殺すなんて!」

 

「あり得るんやな~」

 

「ッ!」

 

 こぼしかけた涙は、声にならなかった。

 

「ぬいぐるみってふわふわやん。落としても踏んでも殴っても、たいてい大丈夫やん。けど強いってゆうのはちょい違うん。完全にダメージ無効化は出来てへんねん。いつか傷んで、ボロボロになってわたぶわーなん」

 

 突然始まった当たり前の話。

 

「忘れがちやけど、心も一緒やで。頭で思ってるほど強くないん。無理を重ねてたらいつかわたぶわ。聞かないふりしてた悪口とか、それを一理あるって思ってしまうきみ自身とか。上手に発散できてた?」

 

「……」

 

 うさハートは黙った。

 

「それでふってわいたトンカチ。儀式で誰も見てないしナゾの万能感。きみはどうした?」

 

「ああそうだ殺したッ!」

 

 うつむいて、叫んだ。

 

「全部全部嫌いだった! 好き勝手なうさダバダも、親切なふりのみんなも、古臭い村も! 儀式だって、あいつが無理やり出ようって! 違う! 流されて、流しきれなくて、何もできなくて誰かのせいにする僕が嫌いだッ!」

 

「ふーんそうなんかー」

 

 激しい運動のあとの様に、ぜいぜいとあえいでいる。そんな彼に、ノンビはのんびりと言葉をかけた。

 

「きみはきみが嫌いなんかぁ。ぼくはそんな嫌いじゃないけど」

 

 聞こえているだろうが、耳をピクリともさせない。

 

「きみ正直もんやもん。殺して、怖くて、後悔して、自首したんやろ?」

 

 たっぷり時間をかけて、小さくうなずいた。

 

「いくら後悔しても、殺した事実は消えへん。それは、きみが一番わかってる。どんなに時間がたっても罪悪感がついて来ると思う。きみはきみが嫌いでも、ぼくはそーゆーぬいぐるみは嫌いになられへんの」

 

 ノンビはがたがたと立って、たれた耳の先っぽをいじった。

 

「今まできみは我慢しかでけへん正直もんのウサギやったけど、今は正直に吐き出せたばり正直もんのウサギやで」

 

 ピッと軽く引っ張り、放してから出て行った。

 

*****

 

 ノンビとクーゼが、鑑識室で額を突き合わせている。

 

「謎が残りましたねぇ」

 

「そーやなぁ~」

 

「すぅ~すっすっす……バレては仕方ありませんですぅ。そうです、先輩をあわや撲殺させかけた犯ぐるみは――」

 

 後ろの方で約二足出が何事かごちゃごちゃしているが、いつものことだ。

 

「なぜおモチが金色か、ですねぇ」

 

「だ~ばだ~がなんで焼死せいへんかったかやなぁ」

 

「僕ですぅ!」

 

 別々の答えになって、二匹は顔を見合わせた。

 

「あーそれもあったな~」

 

「ノンビさんのそれについては、おモチについても同様ですかね。シミュレーション結果100%炭になりましたからねぇ~。まあそんな謎は僕の舌の力に比べればミジンコですがね」

 

「やっぱりぐーたらマインドコントロールのせいやで絶対」

 

「マインドコントロールは確かモチの神とやらですねえ。モチの神など僕の守護神の足元にも及びませんがむしろ僕がGOD!!!」

 

「ばりばくんっておもろいな~」

 

 HAHAHAHAHA!

 

「何を笑っているのですぅ! 犯ぐるみにまでなったのに、なぜ無視するのですぅ……?」

 

「そーいえばまた脱獄してるな。はよお帰り」

 

「君が空焚刑事を手にかけようとするなど、毎度のことじゃないですかねぇ」

 

 必死の表情で訴える元刑事の脱獄犯約二足出にそれだけ答えて、再び額を突き合わせる。

 

「ところでノンビさん。犯ぐるみの彼を最後まで追い詰めたのですねぇ。彼の最初の自白のままモチ神マインドコントロールで通さなかった理由を是非聞きたいですね」

 

 別にいいやん、とこぼしながらも、ごろリンしながら口を開く。

 

「本人しっかりしてたから、せーしんかんてーはまず引っかからんやろ。やったらはじめっから“偽犯ぐるみいるくせにほんまのことゆってた”ってした方がいいやん」

 

「匠のさりげない気遣いですねぇ~。どうです、僕の部下になりませんかね?」

 

「ど~しよ~。いっつも悩むんやけどな~」

 

「ではこの空焚さん特製金色のおモチの残りを――」

 

 出した途端口に放り込んだ。

 

「おやおや、食べてしまいました。おいしいからいけないのですね」

 

「あ~食べられた~。一口も食べてへんのに~」

 

 じたばたじたばた、ぽふぽふぽふ。

 

「では詫び代わりに、来年の『御餅月之儀』に警察権限で乗り込みましょうねぇ」

 

「いいなぁ……」

 

 来年のことに思いをはせると、なんだか眠くなる。ノンビはそのまますやすやと夕寝に入った。

 

 

 

 無数の穴で風通りの良い取調室から、声が消えた。ためるばかりだった涙が、今になってどんどん溢れてくる。

 どたどたどた。向こうから騒音が走ってきて、彼女の形にまた穴が増えた。

 

「アリバイ証ぐるみ見つけたー! あの時間饅頭プロテイン買ってたわ! ありがとう購買部のおばちゃん! ノンビさーんあれノンビさんおらん」

 

 うっかり穴の上に立ってしまったが、空焚にとって空気床を乗りこなすなど他愛無い。

 

「うさハートさん、ノンビさん知りませんか? ……あれ、泣いてる」

 

 ぽっけから水玉模様のハンカチを出して、ぐいぐいぬぐった。うっかりはげそうになった。

 これはいつものだな、と察した。

 

「あなたが犯ぐるみですか?」

 

「……そうです」

 

 お月見村で同じ質問をした時と、印象が違った。これがいつものだ。

 

「じゃあ逮捕します」

 

「お願いします」

 

 縄でぐるぐる巻きにしながら、アリバイ証ぐるみ探し中に聞いた情報を、何の気なしに伝えた。

 

「そうそう、うさダバダ氏は三日後正式に生き返ります。おモチだったので後遺症は残るそうですが」

 

 ぬいぐるみの“ケガ”は、焼失でもない限りたいてい治るものだ。後遺症は残るが。

 

「あ、ありがとうございます――!」

 

「私じゃなくてお医者さんに――ああもう、ティッシュの方がいいですか!?」

 

 ミイラ化できる量のトイレットペーパーやらスポーツタオルやらを机に積み上げる。

 うさハートはありがとう、ありがとうと言い続けるが、声が涙でぐちゃぐちゃになって、音としては伝えられなかった。

 

 

 

                おわり。

 

 

 

 

 




次回・未定!
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