やはり彼に研究は向いていない   作:かんごりん

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目標

 「……二つ名ってあんな簡単に決まっていいのかよ」

 

 「んっ? 何か言いましたか?」

 

 「何でもねえよ」

 

 思わずボソッと漏らした独り言は目の前の女には聞こえなかったらしく、適当にごまかしておく。

 自分の二つ名が決まった経緯を思いだし、思わず苛立っていると、

 

 「随分と長い時間だんまりでしたねぇ? きし、一体、何を考えていたんですか?」

 

 と、《大博士(マグナムオーパス)》が聞いてきた。

 無視をしてもよかったが、その問いのなかに聞き逃せないある単語を聞いた俺は慌てて聞き返す。

 

 「ちょっと待て? お前今、長い時間って言ったか?」

 

 「ええ、それが何か?」

 

 俺は慌てて時計を確認するが、そこに書いてある時間を見て顔を青くした。

 パレートとの約束の時間まで残り十分もなかったのだ。

 ここからパレートの研究室(ラボ)まで中々に距離があるので、このままここでのんびりしていたら確実に間に合わない。

 俺がすぐさま出口へと向かおうとすると、

 

 「おや、どこかに急ぎのご用がおありで? きし、それは邪魔してしまいましたね。 それでは、またの機会に、きししし!」

 

 意外にも引き止められず、むしろ謝罪までされてしまった。

 俺がその異常事態に思わず足を止め、振り返ると、

 

 いつの間にかあの女の姿はなかった

 

 辺りを見渡すがやはり姿は見えず、時間が押していることを思い出し、疑問とモヤモヤを抱えたまま俺は購買を後にした。

 

 

             ★

 

 

 ーーー八幡が購買を出て行った後、

 

 自動販売機の陰から女が姿を現した。

 女は自動販売機で“MAXコーヒー”を買いながら、不気味に何かを呟いている。

 

 「きしし、《海宴の魔術師(エーギル)》。 本名は比企谷八幡。中学時代までは《星辰力(プラーナ)》すら持たなかった“ただの一般人”だったあなたがどうやって《魔術師(ダンテ)》の力まで手に入れたのか・・・・・・。 気になって仕方がありません! いつかその経緯詳しく調べさてもらいますよ、きし、きししし!」

 

 さも嬉しそうな笑みを浮かべながら、女、ヒルダ・ジェーン・ローランズはその場を去って行った。

 

 

 

              ★

 

 

 「ハア、ハア、ハア・・・」

 

 「どうした比企谷? お前ともあろうものがそんなに息を乱して」

 

 「・・・」

 

 何とか時間ぴったりに研究室に辿り着くことはできたが、走り過ぎたせいで今はまともに喋れもせず、ただ呼吸を整えることだけしか出来なくなっている。

 パレートもそんな俺を見て今は何を言っても無駄だと悟ったのか、デスクに置いてあった書類の整理を再開し始めた。

 しばらくして、

 

 「・・・ハア、よし。 悪いパレート、もう大丈夫だ」

 

 呼吸を落ち着かせて、ようやく喋れるようになった俺はパレートにそう話しかけると、パレートは書類の整理を止め、くるりと椅子を回転させてこちらを向いた。

 

 「そうか、では要件を・・・いや、聞く必要もないな。 比企谷がここに来るということは煌式武装の調整だろう?」

 

 どうやら一瞬で俺の目的が分かったのか、苦笑しながらパレートは俺に問いかけて来る。

 

 「ああ、そうだ。 お前が創った双剣型の煌式武装、あれ少し出力に違いがあったんだ」

 

 「・・・そうか、気を付けてはいたんだがな。 すまない不具合が生じなかったか?」

 

 俺がそう言うと、パレートは心底申し訳なさそうに聞いてきた。

 

 「いや、普通の奴ならまず気づかないレベルの誤差だ。 むしろあそこまで精巧に出来ているのは俺はすごいと思うぞ?」

 

 これは本当のことだ。

 出力に違いがあったと言っても片方がもう片方より威力が低かったというだけで、これも本当に些細な違いだ。

 

 だが、俺がそんなことを態々指摘するのには理由がある。

 

 パレートの目標は“誰が使っても強力な煌式武装”を創りだすこと。

 これは簡単に言ってしまえば誰が使っても同じ結果になる武器を作り出すということだ。

 

 ・・・だが、パレートには悪いが俺はこれは無理だと思っている

 

 もちろん、パレートに技術が足りないとかではない。

 まず、武道を少しでも嗜んでいる者なら分かるだろうが、根本的に不可能なのだ。

 遠距離系の煌式武装で戦っていた奴にいきなり近距離系の煌式武装を渡して戦え、と言っても全く戦うことができないだろう。

 

 もちろん、一部の例外(バケモノ)を除く

 

 誰にでも使えて強力な武器、それは正しい使い方をすれば自衛の術を持たなかった者には力を与え、心強い“武器”となるだろう。

 しかし、裏を返せば間違った使い方をすれば誰でも簡単に人を傷つけられる“凶器”にもなりえるという物だ。

 こんな無茶な目標を意地でも成し遂げようとする理由はパレートの過去に関することが起因しているらしいが、詳しいことは俺も知らない。

 知っている奴がいるとしたらそれこそエルネスタくらいだろう。

 

 「ふふっ、すまないな比企谷。 気を遣わしてしまって」

 

 俺がそう考えていると、パレートはそう言いながら自嘲気味に笑った。

 おそらく俺が言ったことをお世辞の類だと思ったのだろう。

 

 (他人にも厳しいが、自分にはもっと厳しいパレートは自分を卑下する癖があるからな)

 

 そう考えた俺は励ましてやろうと思い、心の底からパレートを褒めることにした。

 

 「そんなことはないぞ、俺はパレートが一番だ」

 

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