美城家の子供に転生!? 作:お菓子
失敗したー! まさか卯月が苦しんでたのに気づかなかったなんて。 くそ!何をやってるんだ僕は、ベテランだから大丈夫と様子も見に行かないで勝手に安心してた!
何年もアイドルやって色々な経験を積んでいるし、担当の武内Pもアイドルに逃げられたトラウマがないから大丈夫とか! いや過ぎてしまった事はしかたない、自己嫌悪はこの辺にして冷静に切り替えていこう、大切なのは卯月。
アニメでは未央と凛が復活の鍵だけど、この世界では卯月が圧倒的に上の先輩だ。 未央と卯月はそれなりに接点があるけど、凛とは殆ど接点がないだろう。
となると話を聞くべきは美嘉と美波さんだな、すぐに二人に事情を聞きに行く。
「お疲れ様、ユキさん」
「お疲れ様です、ユキ君」
二人とも表情が暗い、デビューからずっと友人だった卯月が苦しんでいるのだからな、今回の事は僕以上にショックだろう。
「お疲れ様、卯月のことはちひろさんから聞いたよ、些細なことでもいいから教えてくれるかな? 僕も少しでも卯月の力になりたいんだ」
「卯月なんだけど、最近悩んでたみたい。 仕事も上手くいかなくて、そしてレッスンにも来なくなってプロデューサーが電話したら、基礎レッスンをやり直したいから養成所でしばらくレッスンしたいって」
「その後、卯月ちゃんに私達から電話してもラインを送っても返事は来るんだけど大丈夫って言ってばかり、悩んでたのはわかってるのに何もできない。 デビューから長い間一緒にいるのに、私がもっとしっかりしていれば」
「なるほど、美嘉のせいでも美波さんのせいでもないからね。 アイドルの心を守るのはプロデューサーとスタッフ全員の仕事だから、勿論、特別顧問で先輩である僕もね」
このままじゃ美嘉と美波さんまで落ち込んでしまう、二人の心も守らないと。
「大丈夫、卯月のことは僕も全力を尽くすから、僕が本気で動くってことは346プロ全部が動くってことだからね、安心して七光りは伊達じゃない。 二人が心配して仕事をミスするようなことがあったら却って卯月を心配させるよ」
軽い笑いも入れ少しは効果があったようだ、顔に力が戻ってきた。
「それで、卯月は何を悩んでたかわかる?」
「詳しくは何も話してくれなかったからわからないけど、今から思えば346プロ大感謝祭が終わって、色々なアイドルが各方面にデビューして少したった頃だと思う」
「そうね、プロデューサーも少しづつ調子が悪くなっていってるのを気にして、小まめに声は掛けてたんだけど、卯月ちゃんは溜め込むタイプだったから…」
なるほど、大体見えてきたかな。 やっぱり無力感と焦燥感に苛んでるみたいだな、卯月はCランクのメジャーアイドル。
346プロの快進撃でランクDの一人前アイドルが各方面に進出して、美嘉と美波さんはBランクのスーパーアイドルだしな。焦るのも無理ないか。
「そういえば武内Pは? こんな事態ならもっと積極的に動いてるはずだと思うけど」
「プロデューサーは今度の日高さんとユキ君のライブの副責任者だから動けないみたい」
…しまった! 今までにないウルトラスーパービッグイベント、各部署のスタッフは充実してても責任者クラスが二人しかいなかったから離れないのか。
ヘタに責任者を多くして意思や考えの統一がはかれなくて、変な方向にいくのを恐れて、少数精鋭にしたツケがきたか。
今西部長なら、なんとか武内Pを卯月の元に行かせたいのに長時間は行かせられず。 武内Pも短時間では説得が上手くいかないのか。
武内Pは凄いジレンマだったろうな、卯月のことは大切だけど、イベント作りの時間が足りず会場を作るのに失敗しました。
なんてなったら、クビでは済まず346プロが潰れるレベルだからな、感情では動けなかったのだろう。
今の立場が悔しいだろうな、これで卯月がアイドルを辞めたらアニメ通り、魔法使いから無口な車輪になってしまう。 こんな修正力はいらない、僕が何とかしないと。
「美嘉と美波さん二人にお願いがあるんだけどいい?」
「勿論、何です?」
力強く頷く二人、頼もしいな。
「これから僕が説得に行くけど、成功したら暖かく迎えてあげて。 失敗したら次は一緒について来てほしい」
「今から私達もついて行っちゃ駄目なんですか?」
「うん、友達だから言いにくいこともあるだろうし、何よりも卯月の帰る場所であってほしい、だからまずは僕に任せて」
「……わかりました、ユキ君卯月をお願いします」
「ユキさん、卯月をお願い、駄目な時はすぐに教えてね」
「うん、任せといて」
サムズアップで笑顔で答える、不安にさせない様に自信ありげに答えながらドアを閉める。 さぁこれからだ。
まず武内Pに電話して、ちひろさんから卯月の件を聞いたこと、僕が介入する事を伝える。 そして卯月の件の連絡がなかったことをちゃんと注意する。
これは遅くなればなるほどまずい事態になる、最低でも電話するタイミングはイベント作りで動けないとわかったすぐに、僕あるいは会社に連絡すべきだった。
卯月の為に問題を大きくしたくなかったのだろうが、結果は失敗だ。 その辺りが心配でちひろさんも僕に連絡してきたのだろう。
「申し訳ありません、島村さんの事よろしくお願いします」
相変わらずいい声だ、いざとなれば346プロ全てを動かす旨を伝えた、これで安心してイベント作りに集中出来るだろう。
次に連絡するのは和久井さん、卯月さんの件は僕が教えたから大方把握している、説得成功後はカウンセラーの先生に見てもらえるよう手配をお願いする。
僕が失敗したら、次に美嘉と美波さん。 それでも失敗したら、武内Pを現場から外させて、代わりの補佐を今西部長につける。 混乱はあるだろうがそこは仕方ないと割り切る。
最後の手段は346プロアイドル全員で迎えに行こう。 ノリで強引に連れ帰ってカウンセラーの専門家に任す。
後は、静かに話し合える場所の確保とちょっとした小細工をお願いしておく。
さぁ卯月が居る養成所まで行きますか。
あっという間に養成所に着いた、その場で車を待っているように伝え中に入って行く。
レッスン場のドアをノックしてゆっくりと中に入っていくと、夕方の卯月しかいない部屋はとても寂しく見えた。
「やっ卯月、激励に来たよ。 養成所でレッスンしてるって聞いて驚いたよ、調子はどうだい?」
軽く手を上げ深刻な空気は出さない、笑顔でやさしく聞く。 卯月の心を傷つけたくない、焦らずゆっくりいこう。
「ユキさん…大丈夫です、順調ですよ」
表面上は少し元気がないけど、問題なく見える、それが問題なんだけど。
「そうか、なんか懐かしいね、ここで初めて卯月と出会ったこと覚えてる?」
「勿論ですよ、まだ養成所に入ってそんなに経ってないのに、プロデューサーさんとユキさんがいきなり来たんですから」
「あはは、そうだったね。 まだ346プロに全然アイドルがいなくて、各プロデューサーがスカウトの為に走回ってる時、僕は色々な養成所の紹介写真を片っ端から調べて卯月を見つけたんだよ」
「どうして私を選んだのですか、周りには他のみんなも沢山いたのに」
「写真を一目見てティンときた、そして実際に会ってみてティンときた理由は笑顔なんだってわかったよ。 思わず初対面なのに、抱きついてしまうほど」
笑うと笑い返してくれる、少しずつ心をほぐしていく。
「あの時はすごい驚いたんですよ、大きな男の人が来たと思ったら、横からユキさんに抱きつかれて「一緒に346プロでアイドルやりましょう!」ですもん」
「いやー、あの時は不審者扱いされるし、警察を呼ぶ一歩手前まで行ったし、すごかったな」
「当然ですよ、隣でプロデューサーさんが土下座しながら説明してなかったら、警察呼ばれてましたよ」
「だねー、武内Pに感謝。 なかなか刺激的な出会いだったよ」
「クスッ、そうですね」
顔を下げて空気が変わった、話してくれるのかな。
「…ユキさん、養成所にいた皆はアイドルを諦めて辞めてました」
「……」
「私、アイドルになったの、早かったのかもしれません。 何年もアイドルをして、やっとわかりました」
「場所変えようか。 ここで、いくらレッスンしても今の卯月じゃ、成長しないよ」
強引だけど、手を引いて車まで移動、乗り込んだらすぐに予定の場所へ車は出発する。 後は着くまでゆっくり夕日を眺める。
とりあえず、養成所から出ることは成功したな。
「どこまで行くのですか、346プロですか?」
不安そうな顔で卯月が聞いてきた。
「いや、346プロじゃないよ。 僕が思う卯月のアイドル始まりの場所さ」
車での移動はすぐに終わる、到着した場所は
「ミシロヤングホールですか」
「そう、346プロにアイドルが集まったから、番組は終わっちゃったけど、卯月がアイドルデビューしてから初めて歌った場所、そして初めてテレビに出た場所だよ。 さぁ中に入ろう」
ここまで来れば逃げはしないだろうけど、念のため手を引いて移動、正面玄関は閉まってるので警備員さんの居る裏口から中へ、着いた先は収録が行われていたステージ。
「懐かしいって程、時間は経ってないけど、どう?」
「嬉しいです、番組が終わって、もうここには来れないかもしれないと思ってたので」
ステージから、見る客席はなんか特別な感じがする。
「ここで合格して、初めてデビューした未央やなつきち達のダンス試験の時、346プロでは笑顔が大事みたいな事を言ったの覚えてるかな」
「……」
「卯月はアイドルになるのが早かったっていうけど、卯月の笑顔に惹かれて346プロのアイドルになった子もいるよ、卯月に憧れたから346プロに来てくれたんだ。 僕だって卯月の笑顔に救われたこともあるよ」
「うそです」
「本当さ、ランクBまでは順調だったけど、ランクAには何年もずっと行けなかったの知ってるだろ。
怖かったよ、楓さんに川島さん、美嘉に美波さん、そして卯月。 追いつかれるんじゃないか、先頭が僕で失望してるんじゃないかと」
「……」
「そんな暗い考えも卯月の笑顔を見たらホッとする、嫌な力が抜けてまだ大丈夫だって思える。 卯月は346プロにも僕にも必要だよ」
「…それでも、私はもう限界まで来たんです。 美嘉ちゃんはカリスマって言われて人気があるし、美波さんは楓さんに負けない歌姫って言われてるし、二人は先に行って、私だけ置いて行かれたのが怖くて、追いつきたくて」
「新しく入ってきた皆も凄くて、歌だけじゃなくて演技もできるし、バラエティでも活躍して、キラキラしてる、私…もう、どうしたいいのかわからなくて」
これが今の卯月の心か、口は挟まない、ただ黙って受け止めよう。
「それでも私レッスン好きだから。 もっともっとレッスンしなきゃって頑張ってたら、卯月は完成してきたってトレーナーさんに言われて、完成したなら、次はどうすればいいのか、またわからなくなって」
「346プロのベテラン組って言われてるのに、ユキさんにもプロデューサーさんにもいい所は笑顔って、結局私には笑顔しかなくて、笑うなんて誰にでもできるもん…何にも無い、私には何にも…ぐすっ、わぁぁぁ うわぁー」
泣きじゃくる卯月、見てると心が痛くなる。
やさしく頭を触って、僕の体に引き寄せる。 抵抗はなく包み込むようにやさしく抱きしめる、少しでも痛みを癒すように。
……どれだけ抱きしめていたかわからない、僕の胸の辺りは卯月の暖かい涙で濡れている。
「ぐすっ、うぅ」
落ち着いたみたいだな、頭を撫でてそっと離れる、そしてハンカチを渡す。
「えへ、ありがとうございます」
少し恥ずかしそうにはにかんでいる。
「卯月、僕の歌を聞いてくれるかな?」
「歌ですか?」
「そう、舞さんとのライブで歌う内の一つさ」
客席までエスコートして座ってもらう、思いっきり泣いてスッキリしたのか表情も穏やかになってる。
「一人だけの為に歌うのは初めてだけど、聞いて下さい{あら〇}スマ〇ル」
和久井さんに用意してもらった、ちょっとした小細工、多分今も何処かで見てるのだろう。いいタイミングで音楽が鳴る。
後ろのモニターにはライブで使う予定の映像と歌詞が映る。
笑顔がどれだけ素晴らしいかと伝えたい、卯月だけの最高のスマイルで卯月の世界が広がれと。
たった一曲、歌い終わるのはあっという間だった。 拍手をくれる卯月に少しだけ恥ずかしくなる、テレながら卯月の横に座り。
「曲になるぐらい笑顔は凄いんだよ、346プロにはひまわりみたいな笑顔のアイドルもいれば、ドヤ顔な笑顔のアイドルも色々いるけど、346プロで笑顔の二つ名は卯月だけだよ、少なくてもファンの間ではそう見られてる」
「もし、一人でいるのが怖いならユニットを作ろう、他の仲間と一緒に成長していけば良い」
「ユニットですか」
キョトンとしながら答えてる、以外に好感触かな。
「トレーナーに完成されとか言われたのだって、小学生の頃からレッスンしてた僕は、アイドルにデビューした時に、既にカンストしてると言われてたね(ドヤッ)」
「でも、それは今の状態で完成されてるってだけだよ、そこから限界突破? プルスウルトラ? まぁ、言い方は色々あるけど、自分の殻を破って成長出来るんだよ。 僕がランクBからランクAになれたのもそこだし」
「ユキさんはどういう風に殻を破ったんですか?」
真剣な表情、眼に力も入ってきたな。
「僕は自分が曲に負けてることを知っていたからね、曲に相応しいアイドルになろうとダンスの角度を少しずつ変えてみたり、目線から表情と色々試したよ。
そして最後に自分だけのスタイルが決まったんだ、今までのはモノマネみたいなものかな」
「自分だけのスタイルですか」
「そう、鏡で見てもいいし自分を録画してもいい、完成してるなら基礎はできてるはず、後は卯月だけのスタイルだよ。 そして笑顔がわからなくなったら仲間と一緒にいればいい、それが卯月だけの笑顔だよ」
「道はあるし、仲間もいる。戻ろう346プロへ」
手を伸ばして、卯月が自分から手を握るのを待つ。
「……はいっ!」
手を掴んで一歩踏み出す、やっと本当の笑顔が見れた。
外に出れば、もう暗くなっていた。 急いで車へ向かうと運転手は和久井さんになっていた、やっぱり見てたらしい、「やったわね」と目で会話してきたので、笑顔で返す。
車の中で新曲やユニットの話をしていたら、あっという間に346プロへ到着していた。
武内Pに一言挨拶しようと部屋に移動したら、美嘉と美波さんが待っていた、どうやら和久井さんが連絡してたらしい。
「心配かけてごめんなさい、わたし…」
「おかえりなさい、卯月ちゃん」
「良かったわ、帰って来てくれて」
頭を下げて謝る卯月を二人が力いっぱい抱きしめてる。
武内Pとちひろさんの方を向いたら、頭を下げる武内Pと微笑んでるちひろさんがいる、とりあえず笑顔でガッツポーズで返す。
和久井さんは黙って肩に手を置いてくれた。
卯月・美嘉・美波さん三人で笑いあってる姿を見て、安心した、これなら大丈夫だと。