生憎とそれでも所々歯抜けしてしまっていたが、他の記録に比べれば十分多い。
この記録は一体、何時何処で手に入れたものなのか。大切な記憶すらほぼ擦り切れ、数えられる程度しか覚えていないものだから、持ち物の出典すらあやふやだ。
私は首を傾げながらも、その記録を見直すことにした。
何となく、思い出したい気分だったのだ。
19/03/08 修正
セレビィに満足するまで胸を貸し与えた後、エミヤは漸く膝を伸ばして立ち上がった。その動きに反応するように、周囲で何かが動く気配を感じられたが、こちらへ何かしらのアクションをしてくる様子はない。
一先ず安全を確信したところで、エミヤは困り顔となってセレビィと向かい合った。
「きっと君に悪気はなかったのだろうが、厄介なことをしてくれたな」
セレビィとの戯れで、時間は十分にあった。その間に一体何が起きたのか、事の分析へ当たっていると、どうやら自分は世界を一つ飛び越えてしまったこと、また霊基に負荷がかかっており、回復のために容姿が子どものものになっていること、それから原因不明の要因によって受肉していること、とこの三つに気が付いた。さらにこの分霊の身はアラヤとのパスが極めて細くなっており、あちらからの干渉がほぼ切れていると言える状態だった。
現状を見直し、ため息が出て来る。
「まったく…………なんでさぁ~……」
どうしてこうなった。
今までに類を見ない状況に、エミヤは頭を抱えたくなった、と言うより抱えて蹲って思わず昔の口癖を呟いていた。これが彼の大英雄たちならば、何のそので乗り越えたのだろうが、一応元一般人でおおよそ凡人なエミヤには簡単に受け入れられるものではない。
それでも冷静な部分で現状の解析を続けられる程度には、エミヤも修羅場を潜り抜けて来た英雄だ。
嘆いてばかり居ても、事態が解決するはずはない。一端には自業自得が含まれる。ならば仕方ない、と受け入れるのだ先だろう。エミヤは蹲ったまま、今度は今後について思考を働かせる。
パスの問題に関しては、受肉したおかげで魔力の生成が自身で問題なく行われているため、クリアと言えるだろう。そのため現界の維持に支障はなく、またもう少し回復できれば魔術も問題なく使えるようになりそうだ。外套類は体の縮小に合わせて裁縫し直されているため、服の心配も一応ない。
元の世界に戻る方法も、アラヤとのパスが僅かでも繋がったままであるならば、こちらも問題ない。この受肉体が朽ちれば、自ずと座へ引き戻されると考えられる。
問題自体は、一応目を瞑れる程度のものだ。気に入らない点を上げれば、
「ビィ~♪」
「……君は自由だな……」
エミヤの顔前へ、セレビィは木の実を持って覗き込んできた。どうやら蹲った原因を空腹からだと思ったらしい。
受肉した以上は食事も必要なため、エミヤはその心遣いを無下にすることなく受け取った。
木の実は掌サイズの赤い実であり、見た目的にはリンゴのようだった。しかし、この世界の食べ物が自分の世界の物と同じとは限らない。
「まあ、害があって死んでも、座に戻るだけだしな……」
怪訝な顔で、エミヤは木の実をかじった。
木の実は普通のリンゴだった。
間違いなくリンゴだ。
美味しかった。
「なんと! 色違いのセレビィとは珍しいの!」
「ビィッ!?」
セレビィによる厳選のなされたリンゴを楽しんでいたところ、その一人と一体の背後から老人の声がかけられた。
その声にセレビィは飛び上がるように驚き、手に持っていたかじりかけのリンゴを放り投げる。そして、そのまま慌てて無茶苦茶な方向へ飛び回り、最終的にエミヤの下肢を覆う外套の中へ隠れてしまった。余程驚いたらしい。セレビィの様を一通り目に納めたエミヤは、対し、気配で予見していたため、落ち着いた様子で第一住民へ目を向けた。セレビィの投げたリンゴは冷静なエミヤへ渡り、地面に落ちることなく収まっている。
さて、彼らの背後に居たのは、赤いシャツの上に白衣を纏った高齢の男だった。
ボックス型の肩掛け鞄を軽々と抱える男は、見るからに研究職であることが窺える。鍛えているようだが、戦闘向きではなく体力面を重視したもののようだ。鋼の目でそう検分し、エミヤは男を無害だと判断した。
(……しかし、どこかで見た……ような……?)
「……君は、」
はて、何処で見ただろうか? 首を傾げたエミヤを見て、男は驚いたような表情をつくる。だか直ぐに首を振ってそれを払拭すると、近付いても構わないか、と訊ねてきた。
エミヤは外套下のセレビィを確認し、頷いて応えた。いくら弱体化していようと、たかだか人間一人に遅れはとらない。何かあっても対処できるだろう、と判断していた。
「初めまして、じゃな。ワシはオーキドと言う。マサラタウンでポケットモンスターの研究をしている博士じゃ。君はエミヤくんだね?」
「……何故私のことを知っている?」
告げてもいない名前を言い当てられ、エミヤは問いに問いで返した。
「なーに、何もおかしなことではない」
エミヤの反応を予想していたのだろう。オーキドは茶目っ気あるウインクをする。悪意は感じられない様に、エミヤは警戒せず――構えを取らずとも対処できるだろうと思わせる程に、オーキドは敵意を感じさせず、またそう言った姿勢ではなかった――オーキドの言葉を待った。
「君にとっては未来で、ワシにとっては過去で、エミヤはワシの友人なのじゃよ」
Fate/Pocket Monsters
ポケットモンスターの世界へようこそ
「その子は『セレビィ』と呼ばれる個体での、時渡りポケモンと呼ばれる幻の生き物じゃ。普通は黄緑色なのじゃが、君のは所謂『色違い』とされる希少な個体だ」
「セレビィ?」
「ル!」
「森の守り神とも平和の象徴とも言われておる。セレビィが現れれば緑が生い茂る、という言い伝えからじゃの」
オーキドの説明に、エミヤは漸くなるほど、と頷いた。
時渡りをする前、セレビィは焼け野原を緑豊かな森へと戻して見せた。あれはセレビィの能力から起きた奇跡だったのだ。抑止力が働かなかったのは、それを能力として認められた存在であるためだろう。だからエミヤを連れて世界を飛び越えることもできた。
疑問は残るが、絶対に有り得ない仮説ではない。一応は納得したエミヤの腕の中で、セレビィは御満悦な鼻唄を歌っていた。
「ワシも若い頃に時渡りに巻き込まれてな、その時に君たちに出会ったのじゃ。同じ境遇のワシを気にかけてくれて、君の事情もその時に聴いたよ」
オーキドの説明に、エミヤはなるほど、と頷く。話しそうだ、と己のことながらに思ったのだ。
きっと当時のオーキドは、突然知らない場所に放り出されて不安だったはずだ。そんな不安定な子どもをこのお人好しが放っておくか。いや、するはずがない。
ぽろっと自分も時渡りをしたこと、加えて言っても支障がないから、と世界まで飛んでしまったことを話しそうだ。
「身寄りも何もなかろう? 是非ワシの所に来るといい。ワシと君の仲じゃ。遠慮は要らんぞ」
「さっき会ったばかりの人間に言う言葉ではないぞ」
「言ったじゃろ? エミヤはワシの友人だよ」
歩きながら話していると、エミヤたちは一通りの整備がされた道に抜けた。その上には一台のジープオープンが停まっており、オーキドはそれに乗り込むとエンジンを回した。
「立ち話もなんじゃ。一先ずワシの家まで行こう。答えはそこでじっくり考えるといい」
「実質同じだろう……」
と言いながらも、エミヤは助手席に乗り込んだ。
エミヤがシートベルトをしてセレビィを抱え直すと、オーキドは地区版の地図を渡した。
「今居るのがこのトキワの森で、ワシの家があるのはこのトキワシティを越えたマサラタウンじゃ。大体時間にして二時間くらいかかるな」
大きく切り取られた土地の上をオーキドの指がなぞり、それをエミヤとセレビィの目が追う。
地図は日本の関東地方とよく似ており、当て嵌めるとおおよそ東京から神奈川へ下る動きだった。
まじまじと地図を眺めるエミヤの横で、オーキドはアクセルを踏んだ。ジープの加速に連れ、森の景色が後ろへ流れて行く。
不意に、エミヤの視界に黄色いものが掠めた。
厭に興味を引くそれを見ようと振り返る、が捉えられたのは草むらから生える黄色いギザギザしたものだけだった。
やはり見覚えがある。この世界に来てから引っかかる疑問を残し、エミヤはトキワの森を去った。
オーキド邸は、一言で言えばだだっ広い所だった。
自宅と研究所が一緒になっており、風車がトレードマークな建物はやや大きい程度の物だったが、何よりも敷地面積が広い。研究所の向こうに見える山々全てがオーキドの持ち物であり、世界中の研究所で一番広いかもしれないと言う。
オーキドはポケモン研究の第一人者であり、世界中で注目される博士だった。故に研究に適した環境を求めたその熱心さが施設に表れており、訪れる者へありありと知せていた。
「…………」
エミヤは絶句していた。
別に予想以上にオーキド邸が大きく、オーキド自身も凄い人物であることが原因ではない。この研究所の庭に居るものに唖然とせざるを得なかったのだ。
窓から見える景色には、大きな花を背負う恐竜や舌の長いピンクの生き物、果てに岩の塊の蛇などと、見たこともない生物が和やかに過ごしていた。キメラでもゴーレムでもない。全くの一個とした新生物が、当たり前のように存在している。
窓にへばり付いて食い入るように生物たちを見つめるエミヤの前に、見覚えのある黄色が入り込んで来た。
ウサギのような長い耳に、ギザギザの尻尾。頬にはそれぞれ赤い丸が浮かび、時たまそこでバチバチと電流が走っている。
それを見て漸くやっと、エミヤはこの世界を理解し、引っかかっていた疑問の答えに辿り着いた。通りで既視感を覚えるはずだ、と。そしてよく覚えていた、と自分を褒めたい気分にもなる。
これがエミヤではなく世話焼きな後輩の義兄であれば、セレビィを見た時点で気付いたことだろう。いや、あのワカメでなくとも、電子ゲームに触れたことのある者であれば大抵が、少なくともオーキドと出会えば辿り着けない方がおかしい。
「そうじゃ、まだ言っておらなんだな」
来客用のテーブルに緑茶を用意しながら、オーキドはエミヤに不敵な笑みを浮かべた。それは面白がるようで、イタズラの種明かしをする子どものような表情であった。
「ポケットモンスターの世界へようこそ」
ここはポケットモンスター、縮めて『ポケモン』と呼ばれる生き物たちが、時にペットとして、または勝負の手段として、人と共存する別世界である。
思いの外早く次話ができてしまった……(盛り上がりに欠ける&短いけど)。
でもまだ連載に移せるような状況でないので、このまま短編に置いておきます。→一応連載にしてしまった……。
エミヤの手持ちは募集しているので、良ければ活動報告のアンケートに上げて下さると助かります。ついでに技構成や特性などもあれば、とても助かります。
まあ、集まらなければ集まらないで自分で考えますが……その場合は私の好み全開になってしまう(ギルガルドとかメタグロスとかマリルリとかヌオーとか……)