タイトルの「1話」は無印の「1話」という意味です。
虫食いで書いていくので、タイトルの頭にその話の話数を入れる予定です。わかりづらくですみません。
19/03/08 修正
1話 キミのはじまり
広大でのどかな自然に目が行きがちだが、マサラタウンは海に面しているため、実は小さいながらも港が存在する。
近年ではめっきりポケモン以外の魚が取れず、以前までの漁業がやりづらくなって停船しているものもあまり見なくなったが、港であることに違いはない。
「ここまで乗せてもらってすまんな」
「なーに、旦那の頼みならお安い御用だよ」
そんな寂れた港に降りた赤い外套の少年――エミヤは、モーターボートの運転手に軽く頭を下げる。男は水泳ゴーグル越しでもわかる笑みを浮かべてサムズアップすると、そのまま港から離れ始めた。
「また何か情報が入ればお知らせするぜー!」
「有益な物であることを期待しておこう」
エミヤはボートが小さくなるまで見送り、それからくるりと後ろを振り返る。見えるのは田畑と木々、それからぽつりぽつりとある家くらいしかない。
正真正銘の田舎町。その空気を命一杯吸い込み、満足げな表情を浮かべた。
「……久し振りだな」
キミのはじまり
エミヤがこの世界の帰郷拠点としているオーキド研究所までの道を歩いていると、その玄関先が人だかりで随分と賑やかになっているのを見付けた。
はて、今日は一体何があったのやら。
平和で何もないが故に、事件の原因となりやすい研究所の過去を思い出しながら近付けば、人だかりの真ん中にて見知った少年たちが仲良さげに話しているのに気が付いた。そして片方の少年の手にはモンスターボールが握られて居り、それを見て今日が新人トレーナーの旅立ち日であることに思い至る。
「そうか、二人共もう十歳になるのか」
「「エミヤ!」」
思わず感心すると、気付いた少年たち――シゲルと何故か寝間着のままであるサトシが一緒になって振り返り、喜色の表情を浮かべる。
「帰ってたのか!」
「おかえり! エミヤ!」
「ただいま、二人共」
するりと出て来た「ただいま」に、自分のことながら苦笑いが溢れる。この世界で暮らして三年程となるが、随分と馴染んだものだ。
感傷に浸りながら、ウエストポーチに付けられた
「ところで、今日から旅立つのか?」
「そうさ! 出遅れ真っ最中のサァートシくんとは違って、優秀な僕はこれから一歩先にポケモンマスターになってくるよ!」
「の割には、もう昼近いが……いや、何でもない」
太陽を見上げ、ほぼ真上にある光に目を細める。
シゲルのことだ。サトシを揶揄うためにわざわざ遅刻して来た幼馴染みを待っていたのだろう。用意周到と言うか、律儀と言うか。
オーキドが実の孫よりもサトシを構うせいで、どうにもシゲルは幼馴染への当たりが強い。エミヤからすれば、そこからは嫉妬心が丸見えなのだが、生憎と周囲は気付いていないらしい。
その要因は、オーキドが決してシゲルを疎かにしていないからだが、それがまた関係を拗らせている。
(まあ、オーキドに非がないとは言い切れないのだが……)
気付いているならば、関係の修復をしてやればいいものの、エミヤはこれを本人たちが解決すべき問題として捉えていた。
家族関係や友人関係の解決は、時に他人の力も要るが、基本的には身内で済ませるべきものだ。部外者が無闇にしゃしゃり出るものではない。
と、指摘しかけた言葉を飲み込んだエミヤは、ムッとした顔をするシゲルへ話題を変えて問いかけた。
「もうポケモンを貰ったようだな」
「ま~ね~。ボクはポケモン研究家・オーキド博士の孫だからね。お爺様の名にかけて、それなりのポケモンは貰ったぜ」
「いいぞ~いいぞ~シ・ゲ・ル♪ がんばれがんばれシ・ゲ・ル♪」
シゲルの後ろに居るチアガールたちが、笑顔でポンポンを振りながら声援を送る。マサラタウンのチアガールと言えば、それはオーキドの兄が持つ選挙応援団のメンバーだろう。わざわざ借りて来たのか、それとも元々仲が良いため、駆け付けてくれたのか。
「ありがとう友よ! ガールフレンドよ! 私はきっとポケモンマスターになって、この町・マサラタウンの名前を世界中に広めてみせる! 見送りの皆さま御苦労様です! オーキドシゲル、ただ今よりポケモントレーナーの修業に行って参ります!!」
仰々しく宣言し、シゲルはチアガールたちと一緒にオープンカーに乗って走り去って行く。車での旅は確かに便利だが、メンテナンス代やら交通路が関わってくるため、その選択は人に寄りけりだ。その点で考えればオープンカーは選択外とも言えるが、何だかんだでちゃんとしているシゲルならどうにかするだろう。
住民たちと共にハーレムで旅立ったシゲルを見送り、エミヤは昔のシゲルを思い出していた。
(おかしい、サトシへの嫌味癖はともかくとしても、あそこまでキザではなかったはずだ……何処で教育を間違った?)
通算すると半年間程しか一緒に過ごしていないため、そこまで育児に関わったとは言えないが、エミヤの中ではシゲルもサトシも完全に自分の弟感覚になっていた。まあ、本人たちもそれを否定しないため、間違った認識ではなかったりするが。
「ん? サトシくんじゃないか。それにエミヤも。戻っておったのか」
「ああ、たった今な」
「オーキド博士! オレのポケモンは!?」
「坊やのポケモン?」
わざとらしく登場し、わざとらしくサトシの言葉に首を傾げるオーキド。
最後の新人トレーナーがなかなか姿を見せに来ないため、様子を見に出て来たのだろう。
「オレのポケモン!」
「そういや、今日の予定は四人と聞いていたが……だが坊や、パジャマで修行に行くのか?」
「パジャマは邪魔! ボヤボヤして遅刻したけど坊やじゃありません。オレ十歳の少年です! とにかく! オレにもポケモンを!」
エミヤは二人のやり取りを眺め、一人頷いて確信を抱いた。シゲルは間違いなくオーキドの孫である、と。
なんて思いながら、オーキド研究所内へと移動しつつ面白いやり取りをする友人二人に、エミヤはこっそりと笑った。
「オレずっと迷ってたけど、もう決めました。ゼニガメ! オレのポケモンは君に決めた! ……あれ?」
如何にも、な雰囲気で並ぶ三つのモンスターボール。その一つの口を開くサトシだったが、中には何も入っていない。遅刻しなかった他のトレーナーが既に選んだようだ。
ならばフシギダネを! と別のボールを開けるも、そちらも時間通りに来たトレーナーが既に持って行った後で、最後のヒトカゲも同じような結果であり、呆れた顔をするオーキドの前でサトシは肩を落とした。
「通勤電車もポケモンも一秒の遅れが人生を変える」
「じゃあ、オレはポケモンなしで出かけるんですか?」
「博士、貴方までサトシを虐めてやるな」
暗に、他のポケモンを用意してあるのだろう? とエミヤが問えば、オーキドがムッとした顔を、サトシがぱっと花咲く笑顔を浮かべる。
オーキドには彼なりのシナリオがあるのだろうが、サトシもエミヤにとっては可愛い弟分だ。久々に会ったのに、あまり落ち込んだ顔ばかりは見たくはない。
そもそも、新人トレーナーが四人居る時点で、予め四体のポケモンを用意するのが当たり前だ。カントーではほのおタイプのヒトカゲ、くさタイプのフシギダネ、みずタイプのゼニガメが贈られるのが通例であり、多くのトレーナーを見送って来たオーキドがそんなミスをするとは思えない。
「うむ、たしかに……もう1匹居るには居るんじゃが……」
「それを下さい!」
「この残りポケモンには、ちと問題があってな」
「オレが遅刻したことにも問題があります!」
悔しそうなオーキドと勝ち誇った笑みを浮かべるエミヤを脇に、サトシがずずいっとオーキドへ近寄る。
反省も後悔もするが、くよくよしないのがサトシのいい所だろう。
「ならばっ!」
オーキドは元々置かれていたモンスターボールたちとは別の場所から、新しいボールを取り出す。稲妻のマークの付いたそれは、一目ででんきタイプのポケモンが入っていることを知らせていた。
「ピカチュウ」
「可愛い! 最高じゃないですか!」
愛らしく鳴いて出て来たのは、電気ネズミポケモンのピカチュウだった。
この辺りではトキワの森に生息する小型ポケモンであり、全身を黄色い毛で覆い、ウサギのようなピンと伸びた耳、それからギザギザの尻尾と両頬にある赤い電気袋が特徴的だ。これでもネズミである。
ビジュアル的には、他の三体とあまり変わりのない可愛いらしいポケモンだ。
だが……、
「そかな?」
「おい、オーキド……ピカチュウは……」
「そうですよ! ピカチュウ、よろしく!」
「ピカ!」
「ぬわわっ!?」
突然、眩い光が目の前を染め上げる。
ピカチュウが抱き上げたサトシに対し、放電したのだ。その様子を見ていたエミヤは、あちゃーと額を抑える。
ピカチュウは愛らしい見た目でトレーナーたちを魅了するが、実はとっても恥ずかしがり屋で人馴れしにくいポケモンだったりする。
つまり、新人トレーナー向きではないポケモンなのだ。
慌ただしく旅立って行ったサトシを見送り、改めて住民たちと久方振りの挨拶をした後、エミヤは研究室へと戻って勝手知ったる棚からティーセットを取り出た。そして沸いたお湯でカップとポットを温め、土産として持ち寄った茶葉と砂時計、それから立ち寄ったクチバシティで買ったワッフルと有り合わせで作ったサンドイッチを持って研究室へ向かった。
「エミヤの茶も久々じゃな」
「前に戻ったのはカロスへ行く前だったか」
既にソファーで待機していたオーキドの前にワッフルとサンドイッチを置き、その向かい側にエミヤも腰を下ろす。そして逆さにされて砂を落とす時計をテーブルに置くと、ウエストポーチからUSBメモリを取り出した。
オーキドはさっそくとサンドイッチに伸ばした手を止め、代わりにそのメモリを受け取る。
人差し指程度の大きさであるそれは、黒地に赤いコイキングのシルエットが浮かぶデザインとなっており、エミヤのお手製であったりする。世界に一つだけのメモリだ。
「カロスで暗躍しているフレア団とか言う輩のメンバーリストだ。一部だが、裏も取れている。まあ、ボランティアでできる範囲なんてたかが知れているが、あとは貴方から根回ししておいてくれ」
「……まったく、これをボランティアと言う君が末恐ろしいな」
オーキドの言葉に肩を竦める。
世界を見て廻ることを目的に宛もなく旅をしていたエミヤだが、お人好しな彼が各地で起こる事件を黙って見ているわけもなく……下調べ程度ではあるが、オーキドを通して情報提供をしていた。
エミヤは別にこの世界の悪党たちを全て倒そうだとか、捕まえようだとかは考えていない。それはこの世界の人たちがやることであり、異邦人であるエミヤがやるべきことでも、やっていいのとでもないだろう。提供した情報を信じるか信じないか、信じたならばその上でどう行動していくのか、後のことは彼らに任せるべきことだ。
と、ついこの間ボッコボコにしてきたことを忘れ去り、六つのモンスターボールもオーキドへ渡す。
一つ以外、旅立つ際には不要とした五つのボールには、それぞれ全てに住民ができていた。それを認めて嬉しそうに頬を緩めるオーキドとは対照的に、エミヤはやや気まずげに落ち切る砂を見る。
「……捕まえたわけではない……」
「素敵な出会いがあったようじゃな」
「…………」
無言でポットをかき混ぜ、カップへと紅茶を注ぐエミヤは答えない。オーキドはそれでも構わなかった。
この友人がモンスターボールを使った。そこから導かれる結果が大事なのだ。
「さて、帰って来て早々じゃが、今後はどうするつもりじゃ? 流石の君も長旅で疲れたじゃろう?」
「ああ……と答えたいが、残念だがプラターヌ博士から頼まれ事がある。明日にでもナナカマド博士の元へ届け物をしに出る予定だ」
「ああ、噂のアレか?」
「らしいな。まったく、私はデリバードではないのだが……」
運搬業者のようなことをするグローバルなデザインをしたポケモンを思い出し、エミヤは重いため息を吐く。それだけ周囲からの信頼が厚い証拠なのだが、本人ばかりがそれを知らないようで、己の幸運の低さを嘆く友人を眺めたオーキドは、受け取ったポケモンたちを回復装置にかけようとした――ところで、気が付いた。
「あ、」
「ん?」
装置の前で不自然に固まったオーキド。
エミヤからはその顔色を窺うことはできないか、小刻みに震える体がただ事でないことを伝えてくる。
どうしたのかとエミヤは首を傾げ、ゆっくりとこちらへ振り返った友人の顔を仰ぎ見た。
「……トレーナーカードを、渡し忘れておった……」
「…………一応訊こう。誰にだ?」
「サトシに、じゃ」
「…………そうか……」
「…………」
オーキドの〝むごんのうったえ〟▼
「ぐっ」
エミヤは〝たえる〟をつかった!▼
「……すまん、届けてくれんか?」
オーキドの〝ストレートないらい〟▼
「…………了解した……」
効果は抜群だ!▼
エミヤは、サトシのトレーナーカードを手に入れた!▼
「流石はワシの友人じゃ!」
「……はぁーー……」
肩を落とすエミヤを心配してか、装置に置かれたモンスターボールの幾つかが揺れる。
デリバードの看板を放棄して早々、自分で拾いに行くお人好しなエミヤであった。
時間ができたので、とりあえず少しだけ……(本当に少しですまない)
シゲルが『初めてのゲット』でオーキドを「おじいちゃん」呼び名なのは仕様です。成長して「お爺様」呼びになったとか、実は大人なシゲルっぽいなって思います(作文)
同じようにエミヤの「オーキド」呼びと「博士」呼びの使い分けも何となく基準があります。何となくだけど。
トレーナーカードが出てきたのはルビサファ時代でしたが、アニポケの時系列と時間の流れが意味不明過ぎるので、最新版の設定を意識しながらの全部統一気味にしています。自分でもふわっふわな世界観です。
手持ち募集についてですが、『ミュウツーの逆襲』を書くつもりなので、そこで一度ほぼ全てのポケモンを出す予定です。なので、書く目処が立てば募集をそこで切る予定でいます。明確な日時はまた決まりましたら掲示する予定です。
思った以上に沢山の方々が案を出して下さり、とても驚きました。全てを選ぶことはできませんが、じっくり考えさせて頂きます。
次回の投稿は秋頃を予定しています。
あと、映画『キミにきめた!』を是非見てください。懐かしさで終始感動せざるを得ない、世代必見の作品でした!