Fate/Pocket Monsters   作:天むす

6 / 8

ピカチュウがピカピカしてます。

19/03/08 修正



2話-b さらば、ポケモンセンター

「『別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?』ですって。バカにしてくれるわね」

 ムサシは案外上手い口調真似を披露し、眉間に皺を寄せる。

 そこにはありありと不快感が現れていた。

「ならば、我らロケット団の恐ろしさをしかと受け止めよ!」

「そうだな、貴様ら相手なら、朝までと言わず昼まで持ちそうだ」

 向けられた薔薇に、エミヤは払うような仕草で返す。

 明らかに認識を改める気のないエミヤの態度は、ロケット団に行動を起こさせるきっかけとして十分だろう。

「後悔してももう遅いにゃ! お前ら、やってやるにゃ!」 

「ドガース〝ヘドロこうげき〟だ!」

「アーボは〝たいあたり〟よ!」

 喋るニャースが吠えると同時に、コジロウとムサシがポケモンへ指示を飛ばした。

 状況は二対一。不利な立場であるのは間違いなくエミヤの方であったが、ヘルガーに焦りの表情は全くと言っていい程に見られない。

 ただ真っ直ぐに、その凛々しい佇まいを崩さず、襲いかかって来る毒のヘドロとアーボを冷静に捉えている。そうしていられる理由は他でもない――傍にエミヤ(マスター)が居るからだ。

 だからこそ、エミヤはその期待に応えるために口を開く。

「ヘルガー、避けて〝めざめるパワー〟だ」

 ロケット団と比べれば平坦で落ち着きのある指示。それに従い、ヘルガーはすぐ傍まで迫っていたヘドロとアーボを、一つ跳ねるだけの軽い身のこなしで躱して見せた。そして身を翻し、アーボの無防備となっている背中へ〝めざめるパワー〟を命中させる。

 技の勢いにより床へ叩きつけられたアーボは、そのままカウンターへ滑るようにバウンドする。技の威力と床に叩きつけられた衝撃は、相当なダメージをアーボへ与えただろう。

 しかし、ポケモンはこの程度で倒れるような柔な生き物ではない。

 追撃しようと、押さえ付けるように襲いかかってきたヘルガーを紙一重で躱したアーボは、直ぐ様体勢を整え、広がったヘドロを避けてムサシの前まで後退していく。

 状況はバトル開始前と同じものへ戻ったが、先まであったロケット団の余裕が薄れている。たった一瞬の駆け引きで、彼らはエミヤがただの格好付けでないことを察したのだろう。

 ヘルガーはカウンターへと乗り上げると、フフンと得意気な顔をして見せた。その態度は「私のマスターは、アンタたちに負けないくらいに凄いんだから」と自慢するかのであり、そして相手を見下すような、絶対的自信の現れのようでもあった。

「チッ、なーんかあれムカつくわ」

「にゃーたちを明らかに蔑視しているのにゃ」

「ならばドガース! 〝えんまく〟で視界を塞げ!」

「ドガース」

 コジロウの指示により、煙幕が濃くなり視界が一層悪くなる。

 手を伸ばせば指先が見えぬだろう程のそれに、エミヤは口許を覆ってロケット団を睨み付けた。しかし、流石のエミヤも、この煙幕には太刀打ちできないず、後手に回る他なくなってしまった。

 英霊の力を持ってしても、エミヤは元々凡人である。語り継がれる英雄のような透視能力など、欠片も持ち合わせていない。合わせ、ヘルガーは犬型であるため鼻が利く方ではあるが、ドガースの煙幕はただの色の付いた煙ではなく、体内で生成される毒ガスである。その毒はヘルガーの鼻を麻痺させ、敵の補足が出来ない程の阻害効果をもたらしていた。

 故に、この環境はエミヤたちを圧倒的不利へ追いやっている。

 予想より頭が使えるらしいロケット団に、エミヤは警戒を強めた。

「気を緩めるな。必ず仕掛けてく―――」

「シャーボッ!」

「キャウ!?」

 エミヤが警告をしたその時、煙幕から飛び出して来たアーボがヘルガーに〝まきつく〟を仕掛けた。完全に不意を突かれたヘルガーは、太い胴により絞められる首からか細い声を上げ、カウンターの傍にあるパソコンを巻き込んで転がり落ちる。

「ヘルガー!?」

 エミヤは辛うじてその姿を視認した。

 何とか四肢で体を支えるヘルガーだが、その胴と首にはアーボが巻き付いている。

 黒い毛皮に浮くその毒々しい紫色。思わず、エミヤは煙幕の向こうを睨み付ける。

 俗に、蛇の締め付ける力は一〇〇キロを越えるという。九メートルを越えるものは五〇〇キロにも達するとされており、その力を持って豹やワニすら補食の対象とされる。ポケモンであるアーボにそれが参考になるかはわからないが、全長二メートルに六キロ程の蛇にしては小柄な種族だからと楽観視することはできない。何故ならば、アーボとエミヤの知る蛇との大きな違いは、この人の腹部程はあろう胴体の太さだ。まるで御伽噺に出てくるように蛇の怪物――いや、ポケモンは「モンスター」と言われている。ならば、彼らは《怪物》で間違いないだろう。

 その怪物が、エミヤの常識を越えた力を持っていてもおかしくはない。

「大丈夫かヘルガー!?」

 アーボを振り退かそうとするヘルガーだが、そこにエミヤの呼び掛けに応える余裕はない。

 苦しそうな声を漏らすその喉はアーボに容赦なく絞め上げられ、ついには膝を折ってしまった。

「はーい、ヘルガーちゃん確保ー」

「見たか! これが我らロケット団の恐ろしさよ!」

「これでボスもお喜びになるにゃ」

 用意周到というか、流石は悪事を働く者たち。

 何処かから取り出したガスマスクをしっかりと嵌めるロケット団は、煙幕の中から上がるヘルガーの悲鳴に満足気な表情を浮かべる。当然、煙幕とガスマスクに阻まれるエミヤにそれは確認できないが、その声だけはしっかりと届いていた。

 故に、一転して冷静な声が彼らへ向けられる。

「だから貴様らは小物だというのだ! ヘルガー〝カウンター〟だ!」

「グルルル、ガウ!」

 途端、ヘルガーの体が光り輝き、アーボを弾き飛ばした。

 アーボが自分たちの足元まで吹き飛ばされたことに、色めき立っていたロケット団は目を白黒させる。

 今ヘルガーが使った技〝カウンター〟は、物理攻撃をダメージ倍にして相手にも返すことのできるものだ。〝まきつく〟自体のダメージは低いが、予想していなかった反撃にロケット団の動きを怯ませるには十分の効果を発揮する。

 その隙をついたように、エミヤの腰に付いたボールからあるポケモンが飛び出して来た。それは小さな羽根を羽ばたかせ、淡い赤色の体をエミヤの前で踊らせる妖精――セレビィだ。

 セレビィは妖艶な微笑みをエミヤへ浮かべると、両手を広げて舞うように背を向けた。

「な、なんにゃ!?」

「何よこれ!?」

「うわあっ!?」

 すると、大気は嵐のように荒れ狂い出した。

 このロビーで唯一外への口が開いている天窓はあれど、無風状態であったその場に突如起こった暴風。それはロビー全体の煙幕を絡め取ると、まるで何かに押し出されるように天窓から外へと押し出された。

 いや、「まるで何か」と言うのも可笑しい。ロケット団はまだしも、エミヤたちにはそれを起こしたモノが誰であるのか、十分に承知しているのだから。

「あ、あれは!?」

 煙幕が晴れたロビー。そこにいつの間にか増えていたポケモンを見て、コジロウが狼狽える。

 暴風――〝サイコキネシス〟の犯人であるセレビィは、コジロウの反応を見て逃れるように顔を逸らすと、ヘルガーの乱れた毛並みを整え、麻痺した鼻を慰めるように撫でる。ヘルガーはそんなセレビィに甘えるように擦り寄っていた。

 その姿は仲の良い家族。種族は違えど、大きさは逆でも、エミヤにはそれが母と子どものように映った。そして、だからこそ、セレビィが飛び出して来た理由を察する。

「い、いきなり二体目を出すにゃんて卑怯にゃのにゃ!」

「フン、ならば貴様らこそが『卑怯者』と罵られるべきではないかね? だが安心しろ。二対一であることに変わりはない……と言うか、何故喋っている?」

 普通に流していたが、ここで漸くエミヤはニャースへツッコミを入れた。

 エスパータイプが人語を解してテレパシーで語りかけてくる例は、エミヤも覚えがある。覚えがある、がそれはエスパータイプに限った話。ニャースはノーマルタイプ。エスパータイプ技を覚えはすれど、喋ることができるようになる技はなかったはずだ。

 興味津々ながら動揺の見て取れるエミヤの様子に、ニャースは俯いた。

「これには深く長ーいワケがあるのにゃ。それこそ一話分くらいにょ」

「二十四分か。それは中々に興味深いな……」

「そう、あれは映画を見たことが始まりにゃ―――」

「はーい、ネタバレはそこまで!」

「今はそれを語る時ではなーい!」

 話が逸れた所を、ムサシとコジロウが修正にかかる。

 彼らの言う通り、今はニャースの過去について馳せる時ではないだろう。ハッとなったエミヤとニャースは、再度互いへの警戒を強める。

 ニャースの過去編が気になる人は、カントー編第六十七話『ニャースのあいうえお』を御視聴下さい。

 それは捨て置き、気を取り直したエミヤに応えるように、ヘルガーに代わってセレビィが前へと進み出てきた。

 そこに怯えの表情は一切なく、明確な敵意が浮かび上がっている。

「セレビィ〝サイコキネ―――」

 さて、仕切り直しだ。

 エミヤがセレビィへ指示を出そうとした、その時。

「エミヤーーーー!!」

「ピィーカーー!!」

 サトシが、ロビーへと戻って来た。

 何故か、大量のピカチュウたちと一緒に。

 

 

 

 さらば、ポケモンセンター

 

 

 

 時は少し遡り、エミヤがロケット団の足止めをしていた頃、避難したサトシたちはモンスターボールの保管室まで来ていた。

 ジョーイはニビシティのポケモンセンターへ緊急連絡を取り、モンスターボールを転送して保護してもらえるように動いている。それを手伝うように、サトシとカスミも追っ手を警戒しつつ手伝っていた。

「うわあ、ピカチュウだ!」

「あんなに沢山! かわいい!」

 その途中で、ガラス窓で隔たれる隣室に、ピカチュウが数体居るのを発見した。

 ジョーイ曰く、自家発電用のでんきタイプポケモンとして待機しているピカチュウたちであり、停電時には彼らが場繋ぎを行ってくれるそうだ。それに感心していると、仕事もなくのんびりしていたピカチュウたちの一体が、不意にサトシたちの方を見上げてきた。

 そのピカチュウはとことこと窓へ近付き、縁を伝って隣室を覗き込んでくる。視線は、未だストレッチャーで眠るピカチュウへ向かっていた。

「……ピカチュウ……」

 連れられて、サトシも己のピカチュウを見る。

 治療は完了しているため、後は目を覚ますのみであるが、ロケット団の襲撃でも目を覚ます様子は見られなかった。

 それだけ疲労が蓄積されており、負担をかけたのだと、守れなかったのだと思うと、サトシの胸は心配とやるせなさで一杯になった。

 このまま目を覚まさなかったらどうしよう。

 せっかく仲良くなれたのに、もう一緒に居られないかもしれない。

 まだまだ、ピカチュウと一緒に沢山旅をして、沢山いろんなものを見たい。

 だって、オレたちの旅は始まったばかりなんだから―――!

「ちょっと! なんて顔してんのよ?!」

 落ち込んでいたサトシを奮い立たせたのは、カスミの声と熱だった。

 左の頬が熱い。

 見れば、今日で何度目になるだろう。険しい顔をしたカスミが、眉間に皺を寄せてサトシの頬を叩いた右手を握り締めていた。

「貴方がピカチュウのトレーナーでしょ。トレーナーが自分のポケモンを信じないでどうするの!」

「……でも」

「でももへちまもない! そんな不安そうな顔してたら、ピカチュウもおちおち休めないでしょう!」

「……うん。ありがとう」

 そうだ、オレがしっかりしなくちゃ!

 サトシは自分でも両頬を叩き、不安を払拭する。

「友達になれたんだ。友達が頑張ってるのに、オレがくよくよしてちゃ情けないよな」

 先とは違う、強い意思の灯った瞳を見て、カスミはやれやれと肩を竦める。

 このエミヤの弟分だというトレーナーは、彼と比べて随分と未熟らしい。新人トレーナーらしいと言えばらしいが、これではこの先が不安だ。

 ポケモントレーナーはメジャーな職業であるが、同時に挫折者が多いことでも有名なものでもある。思うようにポケモンが育たない、バトルに勝てない、リーグに出られない、などと理由は様々で、諦めた元トレーナーたちの受け皿が不足していることが、実は少しだけ社会問題となっていたりもする。

 そんな脱落者の中にサトシが埋もれるのを、カスミは見たくないと思った。

 だって、彼はピカチュウを本気で心配していた。沢山傷付けて、あんな重症にさせて、トレーナー失格とすら言える程の状況にピカチュウを追い詰めたけれど、サトシはピカチュウを本当に心配して、早く元気になって欲しいと思っている。

 それは自分のポケモン(道具)だからとか、愛玩動物だからとか、そんな理由ではないことは見てわかる。

 サトシは、ピカチュウを『友達』だと呼んだ。

 ポケモンを対等な立場で見れるトレーナーが、この御時世どれだけ居るだろうか。サトシのようなトレーナーが珍しいわけではない。それでも、ポケモンをただの道具のように扱うトレーナーも確かにいる。

 カスミは、そんな奴等が嫌いだった。

 実家がジムであり、水中ショーをやっていることも合わせ、彼女は物心つく前からポケモンと生活してきた。そんなカスミにとってポケモンを単なる道具として見るなど論外だ。

 だから、サトシを励ました。

 頑張って欲しいから、諦めないで欲しいから、この新人トレーナーの尻を叩いてやった。

「まったく、心配で目が離せないんだから」

「ん? 何か言った?」

「なーんも」

 微笑みを浮かべるカスミに、サトシは首を傾げる。その様が何処かで見たような気がして、エミヤを思い起こさせたことに気付いたカスミは、ますます笑みを深くする。

 こう言う所は、兄貴分とそっくりらしい。

 将来彼の近くにいる女性は苦労しそうだ、と勘繰るカスミだが、当然そこに自分が含まれるとは思っても見ていなかった。

「ピカッ」

「ん?」

 気が付けば、隣室からピカチュウたちが大移動して来ていた。

 わざわざ扉まで回って来たようで、黄色い塊たちは団子になっていそいそとストレッチャーへよじ登っていく。

「な、何してんの?」

 害意は感じない。それどころかピカチュウを気遣っている様子が窺い知れるため、サトシもカスミもただそれを戸惑いつつ眺める。

 彼らの動揺に気付いたジョーイは、液晶画面から顔を上げて振り返る。

「もしかして、ピカチュウを心配して来てくれたのかしら?」

 よいしょ、よいしょ、どっこいしょ。

 みんなで協力し、最後の一体はジョーイが持ち上げて、全部のピカチュウがストレッチャーの上に乗り上げる。

 もうどれがサトシのピカチュウなのか。一応機器を装着しているのでわかるが、ここまでピカチュウのみが集まれば壮観である。

 つまり可愛い。

「ピカピカ?」

「ピーカピカ」

「ピチュピカカ」

 ピカチュウたちはピカチュウたちで、ピカチュウを囲みながらピカチュウ語で何やらピカチュウ同士で話し始める。もうピカチュウが並び過ぎてゲシュタルト崩壊しそうだ。

 サトシたちは当然何を話しているのかわからず、三人揃って首を傾げた。

「ピーーカーー!!!!」

「「ピーカー!!」」

 その時、一体のピカチュウの掛け声に呼応して、ピカチュウたちが一斉に放電を始めた。

「うわ!?」

「きゃあ!」

 眩しさに思わず顔を覆ったサトシたち。放電はすぐに止み、恐る恐るそこを覗けば、ぴょこん、と尻尾を立ち上げるピカチュウの姿があった。

 そのピカチュウは機器を頭に付け、体の至る所に掠り傷をこさえている。

「ピカチュウ!」

 それはサトシのピカチュウだった。

 駆け寄るサトシの声に反応して、ぴこぴこと忙しなく動いていた尻尾を下ろし、ピカチュウは振り返る。

「ピカピ!」

 サトシの姿を認めると、ピカチュウは喜色を浮かべてストレッチャーを蹴り、迎え入れてくれた胸へ飛び込んだ。

 サトシもピカチュウも、互いを離さないようにぎゅうぎゅうと抱き締め、その存在を確かめ合う。

 伝わる熱は、ぽかぽかとあたたかかった。

「よかった。もうすっかり元気になったみたいね」

「ところで、何がどうなったの?」

 カスミがストレッチャー上のピカチュウとサトシのピカチュウを交互に見れば、ジョーイが「もしかしたら」と答えてくれた。

「体の中の電気が空っぽだったのかもしれないわ。それで君のピカチュウは起き上がれるだけの力が出せなかったの。それをうちのピカチュウたちが充電してあげたんじゃないかしら?」

 その通り、とピカチュウたちが頷く。

「そっか。ありがとう、みんな」

「ピカピカ!」

「よかったわね」

「うん!」

 カスミに頷くサトシの腕から離れ、ストレッチャー上で体の動きを確認したピカチュウは、それから嬉しそうに周りのピカチュウたちと尻尾を合わせる。

 もうすっかり元通りのようだ。

「よーし! こうしちゃいられない! 行くぞピカチュウ!」

「ピッカ!」

「え?! 何処行くのよ!?」

「エミヤを助けに行くんだよ!」

「ええっ!?」

 元気になったなら是は急げ。

 ピカチュウと一緒に出口まで駆けるサトシは、カスミが止めるのも聞かずに保管室を飛び出して行く。その後を他のピカチュウたちも追いかけ、部屋にはカスミとジョーイの二人だけが取り残された。

 

「というワケで、助けに来たぞエミヤ!!」

「ピピカ、ピイカ!」

「「ピカピカチュー!!」」

「何がというワケか全然わからんがめっちゃ癒されるな!!」

 えっへん、と現れたサトシと大量のピカチュウたちに、エミヤは何度目かの混乱状態になった。

 さっきまでの殺伐とした空気は払拭され、技を中断したセレビィはどうしたもんかとエミヤの前でふよふよと浮いている。

 ロケット団もロケット団で、逃げたはずのトレーナーが大量のピカチュウを引き連れて堂々と戻って来たため、身構えて固くなっていたのから思わず脱力してしまう。

「なーんか、よくわかんないけど」

「鴨がネギ背負って来た感じ?」

「こうにゃったらあのピカチュウ全部頂くにゃ!」

「そうはさせるか!」

「ピカーチュ!」

「「ピカピカピカピカー!!」」

「「はにゃにゃにゃーー!?」」

 ロケット団が標的をサトシたちに移すと、ピカチュウたちが一斉にまた放電を始める。その電撃はロケット団へ向かって行き、ムサシとコジロウ、そしてアーボとドガースに直撃した。

 何とか難を逃れたニャースは、黒焦げになった彼らに情けないとため息を吐く。

「どいつもこいつも。にゃらば出番だにゃ。ネズミはにゃーの好物だにゃ!」

 ニャースは不敵に笑って近寄ってくる。その自信満々な様に、僅かに怯むサトシだが、ピカチュウが何やら声をかけてきた。

「ピッカ、ピカピカピカー」

「ぴかぴか?」

「ピッカ」

「ぴか、もっとぴか?」

「ピッカ!」

「もっとぴか! そうだ、ピカチュウっと」

「どんな会話だ」

 エミヤは弟分とピカチュウとの間で交わされる謎の会話に突っ込むが、聞こえないとばかりにスルーされてしまう。その肩を、セレビィはぽんっと一つ叩き、ヘルガーはお利口さんにも足元で待機する。

 エミヤは仕方ないとばかりに肩を落とした。いい所を取られる形ではあるが、エミヤたちの役目はもうお仕舞いらしい。

 サトシはピカチュウのリクエストに応え、今まで放置されていたカスミの丸焦げ自転車に跨がった。

 意外なことに、この自転車、まだ導線が生きていたようで、サトシがペダルを漕ぎ始めるとライトが点灯した。そのライトの上へ、ピカチュウは軽やかに乗り上げる。

「にゃんだ!?」

「ピカチュウがネズミだからってナメんなよ! オレのピカチュウの本当の力を見せてやる!」

「ピカピカ、ピカチュゥーー!!」

 自転車のライトから電気を吸収し、ピカチュウが電撃を放つ。

 それは今度こそニャースごとロケット団に命中し、その圧倒的な勢いにエミヤも思わず感嘆な声を上げてしまう。

「ぎゃにゃにゃにゃっ」

「はわわわわわわわっ」

「うわああああああっ」

「どがーーーーす!!!!」

 あまりの威力に、堪らずドガースは体内のガスを大量に吐き出した。

 そして電撃はそのガスに引火し――ポケモンセンターは吹っ飛んだのだった。

「あーらま、派手にやった……」

 その様子を、駆け付けて来たジューサーは眺める。

 人知れず、とある勘違いをした悪党共は、夜空の彼方へ飛んで行った。

 

 その翌朝。

 昨夜の騒動が嘘のような、鳥ポケモンの陽気な囀ずりに包まれるトキワシティだが、その中心にあるポケモンセンターは、それはそれは無惨な姿となっていた。

 その無惨な中で、唯一無事であったパソコンで連絡をとる女性たちの姿がある――ジョーイとジューサーだ。

『トキワシティのポケモンは、無事回収したわ』

「ありがとう姉さん。二人とピカチュウはニビシティに向かったわ。でも、その手前にはトキワの森が……」

「大丈夫よ。あの子たちならトキワの森くらい」

「そうね、きっとね!」

 そんな和やかな会話をする彼女たちへ、そっと近付く少年。

「報告は無事終わりましたか?」

「ええ、片付けを手伝ってくれてありがとう、エミヤくん」

「手伝ってくれて助かるわ。ありがとね、エミヤくん」

「いえいえ、これくらい。弟の仕出かした不始末は、兄が拭うものですから。それより、少し休憩しましょう」

 エミヤは瓦礫を退かして作ったスペースに設けられた、何処かから引っ張り出してきた――勿論投影した――お茶会席を指さし、暖かい紅茶の入ったポットを揺らして片目を瞑る。

 随分とやり慣れているらしいその仕草は、気障ったらしいにも関わらず少年に違和感をもたらさない。

「徹夜で疲れたでしょう? お茶にしませんか?」

「ルルビィ~」

 一足先に用意された朝食を摘まむセレビィは、朝焼けに落ちそうな頬を照らさせる。

 そのあまりに可愛らしい、しかし不似合いな光景に、ジョーイとジューサーは互いに顔を見合わせるが、すぐに笑みを浮かべて足を動かす。

「そうね、ちょっと疲れたわ」

「わーい、久々にまともな朝食よー!」

 サトシたち同様、先を急ぐのはエミヤも一緒だが、それは困っている人を置いてまでのものではない。

 ジョーイたちのカップに紅茶を注ぎ、エミヤは焼き立てのパイを切り分けた。断面からはトマトソースとチーズが溢れ、食欲を刺激する香りが広がる。

 わっと上がった歓声。それを満足げに耳にするエミヤは、瓦礫の影に隠すように置いたオーブンを風に浚わせた。

 





ヘルガー ♀
 あく/ほのお
 ゆうかん
 物音に敏感
 もらいび
 カウンター、きしかいせい、オーバーヒート、めざめるパワー
 はぐれ卵から孵ったデルビルが進化したもの。最初に見たエミヤとセレビィを親と思っており、かなりのマザコ……ファザコンポケモンとなっている。エミヤが一から育てたのもあり、とても優秀な忠犬であるが、同時に正義感が強く、一匹突っ走ってはエミヤをヒヤヒヤさせている。

セレビィ以外の手持ち一番手はヘルガーになりました。原作では敵対していましたが、本作では仲良しさんです(かわいいね)
勿論♀ですよ(やったね!)
思っていた設定と違ったらごめんなさい。技も少し変更しています。

今回初めてバトルを書きましたが、これが難しい難しい。読み返してなんだこれ? となりましたね。
最初は計算もする予定でしたが、よくよく考えてみればアニポケに個体値とか何だと言ったものが正確に反映されているのか? されてねえな! となり、清く諦めました(ごめんなさい)

どうでもいいですが、ネロ祭記念ガチャは無事に爆死しました。
☆4礼装一枚のみです(つらい)
フレPですら礼装出ません(どういうこっちゃねん)
そしてAUO以降は全くクリアできませんが、精一杯走りたいと思います(宣誓)

17/9/12(ガチでうっかりエミヤがサトシを追いかけて来た目的を忘れていたので、気付いてもスルーして下さい。次話以降に反映させます)

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