Fate/Pocket Monsters   作:天むす

7 / 8

アニメ原作の合間のお話です。
つまりオリジナルストーリーです。
ポフィン作ってます。

あとがきに大事なお知らせがあるので、できれば目を通して下さると助かります。



幕間 EMIYA’S キッチン

 クチバシティ。カントー地方でも一位二位を争う大都市であり、大きな港があるため国外からも人の行き交いが多い流通の街である――が、今回の舞台はここではない。

 その街が徐々に小さくなるのを眺めつつ、シンオウ地方行きのクルーズ客船内のレストランにて、エミヤとセレビィは昼食を楽しんで居た。

 バイキング形式で各種料理が取り揃えられているそれは、どれも目移りしてしまう程にエミヤたちの目を楽しませてくれる。その中からセレビィの興味を引いたものを、バランスを考えながら皿へ取ったエミヤは、珍しいものを見るようにセレビィを見て居た。

 この(一応)エミヤのポケモンである色違いのセレビィは、くどいようだが、とても人懐っこいとは言えない臆病な性格をしている。この二年半程は殆どモンスターボールの中で過ごし、人目がない時以外には逃げるように閉じ籠っていた。慣れているのは、トレーナーであるエミヤと、世話になっていたマサラタウンの人々くらいのもので、その性格は今も変わってはいない。

 しかし、それがどうだ。

 トキワシティでの一件以来、セレビィは何故だかボールへとは戻らず、常にエミヤの傍に寄り添っている。

 人見知りなのは相変わらずで、すぐにエミヤの背後へ隠れたりするが、それでも今までを思えば快挙とは言える変化だ。

 はてさて、一体何の心変わりか。人がとやかく言うものではない、と好きにさせていたエミヤだが、人心地付いたこともあり、そのワケを漸く訊ねてみることにした。

「君にしては珍しいことだな」

「ビ?」

「人目のある場で出ていることについてだ」

「ルビ。ルリルルルビィ~」

 身振り手振りで己の変化を伝えようとするセレビィに、エミヤは「なるほど」と律儀に頷く。

 英霊と言うものは得てしてそうなのか、世界に召し上げられた故か、言葉の壁が薄く、言語翻訳に困ることはない。もしかすると聖杯の恩恵によりそうであるだけで、本来は生前の知識に偏るのかもしれないが、生憎エミヤは聖杯戦争類での召喚以外では殆ど他人と関わることがないため、そうであると判断は下せない。そもそも、今回のエミヤは聖杯戦争に召喚されたサーヴァントでもないため、ますますその辺りの事情を窺い知ることはできないでいる。しかし、どちらにせよ、今のエミヤは言語に不足はなく、また何となくではあるが、ポケモンの言葉もわかる状態だった。

 これも霊基に負荷がかかった代償か、それとも時渡りのせいか、原因はわかっていないが、とりあえず困るわけではないため、ランクの低いスキルが付与された程度の認識で流している。

 そのポケモン語翻訳スキルによれば、セレビィの心変わりの一つは、サトシのピカチュウだそうだ。

「羨ましくなった?」

 と言うのも、サトシのピカチュウはボール嫌いなのもあり、常に外に出て過ごしている。それはつまりサトシ(トレーナー)と常時一緒に過ごすことであり、また同じ景色、同じ感触をリアルタイムで共有することができる。加えて何よりも、常に(・・)トレーナーと(・・・・・・)ベタベタできる(・・・・・・・)

 正に天才的発想!

 不幸か幸いか、エミヤでは後半の部分を聞き取ることができなかったようで、ご機嫌なセレビィに首を傾げていたが、とりあえずボールの外に出ていることがセレビィに何らかのメリットを与えていることは察したらしい。

 セレビィは幻のポケモンであるため、ハンターやら何やらに狙われやすく、本当ならボールの中に居てもらった方がエミヤにとっても守りやすいのだが……決して守り切れないワケではない。自分が気を付けていればいいだろう。

「おっとセレビィ。頬にソースが付いてしまっている。取ってやるからじっとしていたまえ」

 まあいいか、と好きにさせておくことにしたエミヤは、セレビィの頬に付いているソースを取ろうと、テーブルに置かれたペーパーナプキンに手を伸ばした。

 白いレース状の物を長方形に折り畳んだ上品なそれは、オーナーの細部までに及ぶこだわりを感じさせる。

 そこで、エミヤははたと気づく。

「………………………………凛のことばかり言っていられんな……」

 セレビィの頬を拭った後、いそいそと手持ち鞄の中身を確認したエミヤは、己が師より受け継いだらしい悪手に思わず天を仰いだ。

 何たる失態。

 これでは人のことばかり言っては居られないだろう。

 セレビィは打ち拉がれる己のマスターを不思議そうに眺め、それからその元凶を覗き見て……少し困ったような表情を作る。

 そこにはうっかり渡し忘れた届け物――サトシのトレーナーカードが入っていた。

 

 

 

 幕間 EMIYA’S キッチン

 

 

 

「今日はポフィンを作ろうと思います」

「ビィ~イ!」

 やや濁りのある瞳をしたエミヤは、一人(正確にはセレビィも居るが)誰も居ない部屋で宣言する。

 場所はレストランから移り、乗客向けに公開されている自由利用の給湯室に来ている。

 しかし、ここは世界の違いのためか、この給湯室は二畳程のスペースにコンロ一つと水道が付いただけの、そんじょそこらにある給湯室ではない。

 エミヤが居るのは、十数名は入るであろう、ほぼ厨房のような給湯室だった。

 シンオウ地方にはポケモンコンテストなる、ポケモン自体の魅力を競う大会がある。それにより、ポケモンコーディネーターと呼ばれる職業が生まれ、彼らがポケモンのコンディション調整のために使用するポフィン、あるいはポロックと言うお菓子は、ポケモンコンテストに出る者にとって必要不可欠な必需品とされている。

 つまり、シンオウ地方行きであるこのクルーズ客船には、そういったコーディネーターがポフィンなどを自作できるスペースが設けられているのである。

 出発した船をわざわざ降りてサトシの元へ向かうことを諦めたエミヤは、シンオウ地方へ到着するまでの間、暇潰し兼気分転換がてらポケモン用のお菓子を作ることにしたらしい。

 淀みなく鍋やらヘラやらと道具を投影していくエミヤを脇に、セレビィはアシスタントとして木の実を用意する。

「さて、今回は何を作ろうか」

 手持ちの好みを思い出しながら、エミヤは先ず生地の作成に取りかかった。

 卵を壊して入れておいたボールへ、薄力粉とベーキングパウダーをふるいにかけ、粉をきめ細かくしたものを入れる。その後にモーモーミルクを少しずつ加えながら混ぜ合わせ、パサパサ感がなくなれば、次に味の決め手となる木の実を入れていく。

 因みに、エミヤの元居た世界常識的に、動物への過剰な塩分等は毒であるため、ポケモン用のお菓子であろうと、自作の際に砂糖やバターは使わないようにしている。

 一作目に入れるのは、辛さと渋みの強いマトマの実と、渋みと甘味があるブリーの実だ。

 マトマの実はまるでトマトのような真っ赤で刺々した形をしており、ブリーの実は小振りの葡萄のような濃い藍色をした木の実となっている。それらは小さな一口大に整えられ、セレビィによってボールの中へと加えられていく。実を壊さないよう、切るように混ぜれば、生地に紫色が浮かんできた。

 生地の出来映えに満足そうにエミヤは頷くと、次に鍋の置かれたコンロに火を付ける。

 鍋へヘラを使いながら余すことなく生地を入れれば、次に焦げ付かないようにゆっくりとかき混ぜ始めた。

 ポフィンの肝は生地の作成ではなく、仕上がり手前の火にかける工程とされている。

 焦げたり溢れれば、それだけ味が損なわれ、舌触りも悪くなる。

 全体に火が通るよう、しかし焦らずじっくり混ぜ、ヘラから伝わる触感と焼き加減の色味から完成を予測する。

 もうエミヤの瞳に、濁りは見られなかった。

 あるのは職人として、真摯にポフィンの向き合う情熱のみ。

 この三年、各所で出会った料理の担い手たち。彼らと繰り広げた熱い語らいは脳裏を過り、エミヤの背を押し上げる。

 目指す栄光の〝美味〟へと一歩踏み出して行く――だが、まだ手は届かない。

 当然だ。この世に完成された頂点の〝美味〟とは、存在せぬ幻他ならないのだから。

 〝味〟とは、それを口にし、感じた本人にしか得られぬもの。それに優越を付け、尚且つ順位付けするともなれば、それはもはや〝美味〟の追究ではなく〝神の舌〟を求めるようなもの。

 それは料理人のすることではない。料理人が求めるものではないのだ。

 料理人(彼ら)が求めるは、料理を楽しむ者たちのみ。

 料理を味わい、胃に納め、笑顔で「美味しい」と告げてくれること。そのなんと幸福なことか。

 故に、エミヤが求めるは、ただの〝美味〟でなく〝万人の美味〟である。

 忘れるな。イメージするのは常に最強の料理人(自分)だ。

 喩えそれが幻想であり、到底叶わぬ理想であろうと、その願いは―――決して、間違いなんかじゃないんだから……!

「フッ、完成だ」

 平皿の上に飾られた、紫に色付くポフィン。

 それをドヤ顔&カッコイイポーズでセレビィに披露するエミヤの、その背中のなんと逞しいことか。とても小学校上級生、あるいは中学一年生程度の見た目とは思えない気迫!

 これが彼の騎士王を射止める腕を持つ男というものなのか!

 調理実習三年間無敗記録は伊達じゃない!

「ふむ、悪くない出来だな」

「ルリルリル~♪」

 ポフィンを一つつまみ、その味と舌触りを確かめれば、エミヤの食べかけを一口食べたセレビィも頷いた。

 同時刻、客室に置かれたモンスターボールがカタカタと揺れたのは、はたして気のせいか。

 そんなことを当然知らないエミヤは、ポフィンの検分を続ける。

 外はさっくり、中はしっとりとしたそのポフィンは、形の残ったフルーツの食感もあり、なかなかに舌を楽しませてくれる。甘さも後を引かず控えめで、ミルクティーに合うだろう。またはブランデーを加えて焼き、ストレートを合わせるのもいい。

 ナナカマド研究所への土産に、人用にマフィンを焼いて行こう。そう予定を組み立てながら、エミヤは次の木の実を手に取った。

「さあ、次はモモンの実で作ろうか」

「ルルビ~!」

 

 ところで、クルーズ客船の給湯室は解放されているため、エミヤ以外の利用者が居ることは不思議でも珍しいことでもない――ということは、当然誰もが知っていることだろう。

「あら? あれは……」

 そのため、何かしらの用事でそこへ立ち寄った彼女が、貸し切りのような給湯室でポフィンを作り続けるエミヤを見付けたことは必然的な結果であった。

 何が楽しいのか、鼻で歌いながら珍しいポケモンと一緒に調理するエミヤを、彼女はそっと見守るように入り口から眺める。

 その人は美しい女性であった。

 黒のコートに毛先にまで手入れの行き届いたブロンドのロングヘア。微笑ましいものでも見たかのように細められた瞳は銀で、まるで黒曜石を思わせる。

「へー、こっち戻ってたのね」

 焼き上がったポフィンを食べさせ合いっこし、それぞれ笑みを浮かべる彼ら。

 女性も嬉しそうに顔を綻ばせ、そこで一歩部屋へと踏み入った。

「久し振り、エミヤくん。少しみない間に大きくなったわね」

「! 貴女は!」

 声をかけられたエミヤとセレビィは、顔を上げて目を見開いた。

 給湯室へ入って来たのは他でもない。シンオウ地方にて長年頂に座り続けるチャンピオン――シロナだった。





 幕間としてはこれで終わりです。この後、二人はお茶会したりバトルしたりしてシンオウ地方に向かいます。ちゃんちゃん。
 その内二人の過去編とか書けたらいいなー(何時だ)

 今回の言い訳コーナー!
 前回は完全にトレーナーカードの存在を忘れてしまってスミマセン。一体エミヤは何のために雨の中を走ったのやら。
 一応プロットには書いてあったんですけどね、あのですね、私めプロットはあらすじ程度にしか書かない人で(というかほぼ脳内プロット)基本直書き派な者でして……ピカピカ書いてたら忘れ去ってました。すみません。
 プロットとかちゃんと書くとですね、それに満足して本編書かない危険があるんですよね。よくある、ネタと設定を練って書き上げたら満足しちまったぜってやつです。なので、今後もまともなプロットなく書いていくので、あれれ~おかしいぞ~なことが多々あり、お見苦しいと思いますが、そういった時は優しく(優しく)指摘してください。
 天むすは心が硝子だぞ☆

 次回! 届け物を済ませてカントーへ戻ったエミヤの前に、怪しげな四人組(?)家族が現れる! 一体サトなにコ一行なのか!? ええいっお嬢様には執事は付き物だろうが!!
 てなわけで、次回は女装回になりますので、苦手な方は注意して下さい。あとエリカ→エミヤ描写を入れる予定です。ネタバレだけど注意が必要な回だからワンクッション大事! 大事だから赤字にしときます!

 と、大々的に次回予告しましたが、すみません。国試の追い込みで暫く忙しくなるため、次回の投稿日時は未定です(いつものことやけど)でも注意大切だからめっちゃ直ぐ投稿するみたいにあとがきに書きました。
 一応来年の春までには投稿する予定ではいます。失踪はしないように努めます。はい。
 そしてそして、大変お礼が遅れましたが、気が付けば三桁ものお気に入り、本当にありがとうございます。よくて二桁程度だと思っていたので、とても驚きました。
 読者の皆様全員を楽しませることはできませんが、精一杯書いていきたいと思います。
 

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