あんさんぶるガールズ!〜あんガルな日常〜   作:銀の鈴

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ゆきちゃんです。


第11話「熱い想い」

かえでと彼女の親友は、屋上でお弁当を広げていた。

 

「あら、あまり食が進んでいないようですが、体調でもお悪いのですか?」

 

かえでの親友――伊藤(いとう)さくらは、普段はモリモリとお弁当を頬張るかえでが、今日はお箸でつつくだけで一向に口に運ばないことに気付く。

 

「ううん、なんだか食欲がないだけよ。ゴメンね、心配かけちゃって」

 

「食欲がない……あの、かえでさん。風紀委員長として没収した菓子類をお食べになるのは「そんな事してないわよ!?」あら、そうなのですか? いつも食欲旺盛なかえでさんが食欲がないなどと仰るからてっきり。うふふ、わたしの早合点でしたわね…♪」

 

とんでもない濡れ衣を着せかけておいて、まったく悪びれない親友の様子にゲンナリするかえでだったが、そんなさくらだからこそ、鬼の風紀委員長とまで呼ばれるかえでの親友が務まっているのだろう。

 

かえでは無理矢理に気持ちを切り替えるとさくらに問いかける。

 

「さくらさん……どうして人は一人では生きられないのかしら?」

 

「かえでさん…?」

 

かえでの漠然とした問いかけに、さくらは怪訝な顔をみせる。

 

「ううん、本当はあたしも分かっているの」

 

「かえでさん…?」

 

かえでのらしくない物憂げな表情に、さくらは怪訝な顔をみせる。

 

「人は一人では生きられないんじゃない。一人では生きてはいけないのよ」

 

「かえでさん…?」

 

かえでのわけの分からない言葉に、さくらは怪訝な顔をみせる。

 

「ふふ、今ならママの気持ちが少しだけ分かる気がするわ」

 

「もぐもぐ…☆」

 

かえでのまったく要領を得ない話に、さくらは飽きたのでお弁当を食べた。

 

 

***

 

 

「こんな強敵がまだいたなんて…」

 

北川(きたがわ)ゆき”は、画面内で繰り広げられている一進一退の大激闘の様に、その血の滾りを抑えられなかった。

 

ゆきがいつものように馴染みのゲーセン内を巡回していると、彼女には及ばないもののこのゲーセン内で上位に位置する凄腕ゲーマー(女)が必死の形相でプレイしているのを発見した。

 

(彼女が苦戦するなんて珍しいわね)

 

ゆきは興味をそそられて画面を覗きに行く。そこでは巫女装束の少女が破魔札片手に美形の女性剣士に挑んでいた。

 

(女性剣士は彼女の持ちキャラだから、こっちの巫女さんが相手よね……これはっ!?)

 

女性剣士は凄まじい技のキレを見せている。ゆきを持ってしても苦戦は免れないだろう。

 

だが、ゆきを驚愕させたのは女性剣士の方ではなかった。

 

もう一人の巫女装束の少女の方だった。

 

巫女装束の少女はまるで生きているような躍動感を放ちながら、凛々しくそして可憐に画面内を舞っていた。

 

(巫女さんは非力な弱キャラなのに、強キャラの女性剣士相手に互角以上に戦うなんて)

 

対戦型格闘ゲームのキャラクターの性能は決して公平ではない。

 

そこには覆しようがない歴然とした性能差が存在していた。

 

キャラクター性能では下位に位置する巫女さんが、上位に位置する女性剣士に伍する。

 

それは、プレイするプレイヤーの腕の差を意味していた。

 

(でもこれは…腕の差だけじゃない気がするわ)

 

確かに技はピカイチだった。

 

連続技、避け、見切り、ガードキャンセルetc、その全てが高いレベルで完成されていた。

 

だがそれは女性剣士の方も同じだ。たしかに技量は巫女さんの方が上のように思えるが、その差は僅かだろう。

 

とてもではないが、キャラクターの性能差を覆せるほどの差には見えなかった。

 

(でも、現実にはその差を覆している。何がその不可能を可能としているの?)

 

ゆきがその秘密を見極めんと目を凝らして見つめる中、徐々に勝負の天秤は巫女さんの方へと傾いていく。

 

女性剣士のプレイヤーは激しい攻防に集中力を切らしたのか、操作ミスが目立つようになっていく。

 

それに対比して、巫女さんのプレイヤーには全くと言っていいほどにミスがなかった。

 

まるでその様は、巫女さんがミスをするなどあり得ない。と胸を張り高らかに宣言しているようだった。

 

(巫女さんが……勝ったわ)

 

終盤は、女性剣士のプレイヤーも意地をみせて追いすがったが、巫女さんのプレイヤーは最後まで崩れることはなかった。

 

その後は、巫女さんに挑戦する者が現れることもなく、巫女さんはエンディングを迎えた。

 

なぜか、ゆきも激しく興味を抱いたのに巫女さんに挑戦する気にはなれず、最後まで観戦に徹していた。

 

巫女さんのプレイヤーは、エンディングを最後まで見たあと、ネームを打ち込むと席を立つ。

 

その時、逆側から観戦していたゆきは初めて巫女さんのプレイヤーの姿を目にした。

 

(あの制服は君咲学院の……同じ学年なんだ)

 

偶然にもそのプレイヤーは、ゆきと同じ君咲学院の生徒だった

 

学年も同じだったため、対戦時以外では人見知りなゆきだったが、この時は臆することなく声をかけた。

 

「ねえ、どうしてあなた程のプレイヤーがあんな性能の低いキャラを使っているの?」

 

ゆきは疑問に思っていた。

 

このプレイヤーの腕があれば、もっと性能が上位の強キャラを使えば、先ほどの女性剣士にだってもっと楽に勝てたのに、と。

 

そんなゆきの疑問に巫女さんのプレイヤーは、同じ女であるゆきが思わずドキッとするほどに艶のある微笑を浮かべて答えを口にした。

 

「ふふ、キャラは性能で選ぶんじゃないよ。キャラはね――」

 

その後の言葉を、ゆきは一生忘れなかった。

 

 

「――愛で選ぶんだよ」

 

 

そう言い残すと彼女は颯爽と去っていった。

 

その後姿を見送りながらゆきは、心の中で彼女に礼を告げる。

 

(ありがとう。わたしに大事なものを思い出させてくれて)

 

長年、対戦を続ける中で、いつの間にかキャラを性能だけで選んでいたゆきは、かつての熱いキャラ愛を思い出していた。

 

(あの頃は性能なんかどうでもよかった。ただ、大好きなキャラと遊びたかっただけ)

 

少ないお小遣いを握りしめて、ゲーセンに通ったあの頃。

 

大好きな(キャラ)と無我夢中で戦い続けた日々。

 

その熱い日々が、今の自分を育ててくれた。

 

そんな大事な想いをいつの間にか忘れていた。

 

だけど、その熱い想いは決して失われることなく、ゆきの中で生きていたのだ。

 

ゆきはあの頃のようにドキドキする胸をおさえながら対戦台へと向かう。

 

再び、大好きなあの子(キャラ)と共に戦うために。

 

 

 

 

 

(でも、彼女のネームって変わっていたわね)

 

ふと、ゆきは巫女さんのプレイヤーが入力したネームを思い出した。

 

(あんなに長いネームは初めて見たわ)

 

ゆきには分からなかったが、巫女さんのプレイヤーネームには、彼女の溢れんばかりの愛が込められていた。

 

 

 

name.HAZIMEONEETYANDAISUKI

 

 

 

 

 

 

 

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