あんさんぶるガールズ!〜あんガルな日常〜   作:銀の鈴

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今回はこまっち先輩の登場です。


第5話「初めての人」

「あんた、ちょっと待ちなさい」

 

登校する生徒達で溢れかえる校門前で、趣味の厳しすぎる服装チェックを行なっていたかえでは、ヨロヨロと歩く転校生の姿に気付き呼び止める。

 

「その服装は何なの? ボタンを掛け違えているわよ」

 

かえでは不機嫌そうにしながら有無を言わさずに転校生のボタンを掛け直す。

 

「全く、最近は生徒会関連で忙しいみたいだけど、身嗜みぐらいしっかりしなきゃダメよ」

 

ボタンをかけ直したついでとばかりに、寝癖がついたままの髪を手櫛で直してあげながらかえでは生活態度について注意を促す。

 

「うん、分かってはいるんだけど、色々と忙しくてつい…」

 

転校生はばつが悪そうに言い訳をする。かえでは出来の悪い弟をもった姉ように溜息をつく。

 

「ハァ、仕方ないわね。ほら、ネクタイも曲がっているわよ」

 

「ありがとう、かえでさん」

 

小言を言われながらもどことなく嬉しそうな転校生。

 

そんな転校生を穏やかな表情で見つめながらかえでは、彼のネクタイを丁寧に締めなおす。

 

絶対にネクタイを直す振りをして、転校生の首を締めるつもりっす。そんな予想をしていた風紀委員の女子は、一向に苦しみださない転校生の様子に首を傾げていた。

 

 

***

 

 

放課後の体育館、バスケ部のレギュラー3人相手に一人の少女が試合をしていた。

 

3on3ではなく、3on1のハンディキャップ戦でありながら試合を終始圧倒していたのは一人の少女の方であった。

 

「甘いよ!」

 

個人技では少女に遠く及ばないことを理解しているレギュラー達は、数の有利を生かすためパス回しを多用するが、逆にパスを読まれ簡単にカットされてしまう。

 

「ふっ、はっ、そこっ!」

 

少女を阻止するため3人掛りで取り囲むが、彼女の緩急織り交ぜた巧みなドリブルにレギュラー達は翻弄される。

 

だが、3人組も伊達にバスケ部でレギュラーを張ってはいない。彼女達は少女の方が技量は上だと素直に認めている。

 

その上で、敢えて無謀に少女に対して突っ込んでいく。

 

時間差で突っ込んでくるレギュラー達を簡単に躱していく少女。

 

徐々に激しさを増していく中で、常にシュートコースを塞いでいたレギュラー達が疲れのためかシュートコースを空けてしまう。

 

「シュウッ! 『甘いわよ!』っ!?」

 

一瞬の隙を逃さず、シュートをした少女は直後に驚愕する。

 

ゴールを確信したシュートを容易く止められたからだ。そして、その驚愕のため一瞬みせた硬直の間にレギュラー達に逆にゴールを決められてしまう。

 

「うそ……負けた?」

 

レギュラー達は初めて少女に勝利して歓声をあげる。

 

そして、隙を見つけたと思い反射的にシュートをさせられた(・・・・・)少女――“小松(こまつ)ぼたん”は不思議そうにシュートをした自分の手を見つめていた。

 

「決まったと…思ったのに」

 

いつも通りなら決まっていたはずだった。

 

3on1というハンデがあっても、ぼたんとレギュラー達の力量差はそれ以上だったからだ。

 

生まれもった身体能力と運動センスのみで超高校級の実力をもつぼたんにとって、個人レベルの競い合いでの敗北は久しぶりのことだった。

 

「彼女達、別に技量は上がってなかったのに」

 

喜び合うレギュラーの女子達を見ながらぼたんは疑問に思った。

 

彼女達と自分との技量差は以前のままなのに何故負けたのか理解が出来なかった。いや、正確には違う。負けた理由は明らかあり、個人の技量で負けたのではなく、集団の戦術で負けたことは理解できた。

 

彼女達は無謀に突っ込んできたように見せかけてわざと隙を見せたのだ。そして、まんまとそれに乗せられた自分がシュートをしてしまいボールを奪われた。言ってしまえば単純な作戦だ。

 

だけど今までの彼女達では出来なかったことだった。

 

あくまでも普通の高校生レベルの彼女達が単純な作戦とはいえ、ぼたんに察することが出来ないレベルでの連携による戦術を駆使したことが信じられないのだ。

 

「そんな指導ができる人もいない筈なのに」

 

君咲学院バスケ部のレベルはそれなりだが、それは個人プレーに頼った面が大きかった。

 

それはバスケ部を指導をしている顧問がチームプレーよりも個人プレーに重点をおいているからだ。

 

これは顧問がチームプレーを軽視しているからではなく、高校の部活の場合は技量の個人差が大きいため、技量の低い部員に合わせたチームプレーの練習よりも各人の技量上昇を目的とした練習を多くし、将来的にバスケで上を目指している生徒とバスケは高校だけで終わるつもりの生徒、両方に配慮した結果だった。

 

そんな状況で自分がチームプレーで負けたのだ。ぼたんが疑問に思わないわけがなかった。

 

ぼたんが思案していると、一際大きい歓声が上がった。

 

歓声の方に目を向けると、ぼたんの目に信じられない光景が映った。

 

ワッショイ、ワッショイと自分に勝利したレギュラー達が見慣れない男子を胴上げしているのだ。

 

「あの子……もしかして、噂の転校生?」

 

ぼたんも噂には聞いていた。

 

来年からの共学化に向けて男子生徒一名が、転校生として君咲学院に来たことを。

 

その転校生がレギュラー達に胴上げされている。

 

「わけが分かんない」

 

意味不明な状況に首を傾げるぼたん。その彼女にブーンと着陸する風紀委員の女子……もとい、バスケ部の女子。

 

「こまっち先輩のおっぱいに着陸っす♪」

 

「 桃智さん、前にわたしの胸を揉まないでって言ったよね」

 

「実は転校生の先輩が、チームプレーをバスケ部の先輩達に指導してたっす!」

 

「桃智さん、わたしの胸に顔を埋めながら話さないでくれるかな」

 

「今回は敵側に回った形になったっすけど、転校生の先輩を嫌わないであげてほしいっす!」

 

「桃智さん!? わたしの服の中に手を入れっ…(ボグッ)『痛いっす』殴るよ?」

 

「殴ってから言わないでほしいっす」

 

バスケ部の女子こと“桃智(ももち)あすか”が殴られた頭をさすりながら言うには、転校生はスランプ中のバスケ部のレギュラー達に相談されて、彼女達の指導をしてあげたそうだ。

 

「転校生って、バスケ経験者なの?」

 

「まったくの素人っす♪」

 

ぼたんの問いに満面の笑みで答えるあすか。

 

「…他の球技の経験者とか?」

 

「昔から帰宅部のエースだったらしいっす♪」

 

ぼたんの問いにニコニコ笑顔で答えるあすか。

 

「……スポーツ理論に精通しているとか?」

 

「転校生の先輩は、努力と根性の人っす!!」

 

ぼたんの問いに胸を張って答えるあすか。

 

「……」

 

「あたしの師匠でもあるっす♪」

 

あすかの和かな答えに頭を抱えるぼたん。

 

「わ、わけが分かんない」

 

超高校級のただの助っ人、ぼたん。

 

普段は、わけの分からない規格外の存在だと他人から思われている彼女が、わけが分かんない。と初めて他人に対して思った瞬間だった。

 

 

 

 




こまっち先輩に着地したいです…☆
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