青の魔剣士   作:フワワ

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依頼

人があまり近づかない裏路地、そこにはひとつの便利屋の事務所がある。だが便利屋とは名ばかりで、そこに普通の依頼を持ち込む普通の人間はいないし、受ける事もない。

 

その店の名はデビルメイクライ。

その名の通り、悪魔も泣き出すデビルハンターが住まう場所である。

 

 

 

 

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「国が経営している、悪魔関連の研究所の調査だと?」

 

燐は、面倒くさそうな態度を隠しもせずにその男に言う。デビルメイクライの事務所の中、そこには2人の人間がいた。一人はこの事務所の主である奥村燐。もう一人は、紳士の様な姿をした40代程の男性で、名をモリソンという。その名からわかる様に日本人ではない。彼は世界中を飛び回る情報屋のようなことをしており、悪魔に関しても理解がある。そんな彼だが、ここ最近は日本に留まり、燐のマネージャーの様なことをしている。というのも、元々燐にフリーの悪魔払いの仕事を勧めたのは彼なのだ。

悪魔を狩る男の噂を聞きつけ、誰よりも早く燐に接触して来て悪魔狩りの仕事を斡旋したのである。最初は燐も胡散くさがったが、彼の持ってくる仕事はどれも高額で、情報も正確だったため彼の仕事をこなす様になった。

それからというもの、彼は燐に多くの仕事を紹介しその仲介料で儲ける様になった。燐としても仕事が向こうから来てくれるのは大変助かるので、そのまま関係は続きかれこれ1年以上は立っている。

「そうだ、国のお偉いさんからの、直々のご指名だぞ。」

燐のその態度を見て苦笑しながらモリソンは言う。

「本来、その手の仕事は、騎士団の管轄だった筈だが。」

 

「騎士団に回せないから、お前に頼んでいるのさ。なんせその研究所は所謂、存在してはならない筈の物だからな。」

 

「フン、非合法の研究施設か。」

そう、この世界の悪魔関連の技術は基本的に騎士団が独占している。2000年以上に渡り勢力を拡大させ、様々な土着の悪魔払いを吸収し世界最大の祓魔組織となった正十字騎士団、その成り立ち故に、悪魔関連の知識も技術も騎士団の独占状態にある。それは悪魔に対抗し、世界の安寧を守る為でもあるのだが、それでも悪魔の力を利用したいと思う者は多い。だが、その知識も技術も騎士団しか持っていないし、そんな邪な目的の為に騎士団が知識も技術も渡す筈がない。

ならどうするか、答えは簡単だ。自分達でやれば良い。実際にそういった組織は多くは無いものの存在するのだ。

 

「その研究所では、一部の者が独断で悪魔を兵器として運用する為の研究がされていたらしい。当然、倫理なんてものは存在しない。新しい屍番犬(ナベリウス)を作る為に様々な動物や人間の死体を集めたり、その余りを使って(グール)を人工的に発生させたり、悪魔の魂を封印した魔具をつくろうとしたり、果てには生きた人間に無理矢理、強力な悪魔を憑依させようとしたり。まあ、最後の奴に関しては、被験体は全員死亡して成功しなかった様だが、それ以外ではそれなりの成果が出ていたらしい。」

 

屍番犬は古代の人々が悪魔に対抗する為に屍を繋ぎ合わせて造られた人工の悪魔だ。現在では新しい屍番犬(ナベリウス)の作成は騎士団によって禁忌とされている。

(グール)は、死体に憑依する下級悪魔で、強さ自体は大した事はなく通常の銃火器でも問題なく対処出来るだろう。しかし、屍系統の悪魔の体液は生物の皮膚を急速に壊死させ、早急に対処しなければ命に関わるほどだ。数を揃えれば十分に脅威となる。

 

「こんなものが騎士団にバレれば責任を問われ、上の人間のクビがいくつか飛ぶことになる。だが、さっきも言ったがこれは一部の者の独断だ。発覚したときは、それなりのパニックになったがすぐに責任者とその計画に加担した者達を騎士団に突き出そうとした。しかし、どういうことか、何度試しても一切の連絡がつかない。その研究所は、相当念入りに隠されていたから連絡手段は元々限られているし人里離れた場所にある。そこで、何人かの人間が赴いたんだが、すぐに音信不通になった。奴らは悪魔の兵器化にも一応成功している。その力で、人を殺したのではないか、と上層部も考えた。そこで、念には念を入れて国に所属する凄腕の悪魔払いを含めた完全武装の特殊部隊がその研究所を制圧することになってな。悪魔の憑依実験が成功していない以上、これだけの戦力があれば問題なく対処出来る、筈だった。」

 

「しかし、そうはならなかったか。」

 

「ああ、突入した特殊部隊はなんと全滅。突入する前、事前の報告によれば研究所は完全に閉ざされていて中から外には誰も出てきた様子がなかったらしい。周辺でも悪魔による被害の報告は無く、悪魔の封じ込めは出来ていた。問題はその後、突入してしばらくは悪魔にも人にも遭遇しなかった。施設内の探索を進めていると、隠されていた地下への入り口を発見したそうだ。その地下もかなり広大なものだったらしい。その地下に降りたという報告を外で待機していた隊員が通信機で聞いた直後、その通信機から悲鳴と銃声の音が聞こえしばらくするとなにも聞こえなくなった。そこで隊員全員のバイタルサインも消失。誰一人戻らなかった。」

 

「隠されていた広大な地下空間か・・・。 それだけの規模の施設、運営する為に必要な物を、一部の者の独断で用意出来るとは思えんが。」

施設が巨大になれば、それだけ必要な人員、物資、費用も多くなる。聞けばかなりの規模の施設だったらしく、その施設を運営する為には、かなりの額が必要だった筈だ。一部の人間だけで、それらを準備出来るとは思えない。となると、

 

「裏で繋がっている奴らがいた。それもかなり大規模な組織ではないか、ってのが共通の見解だ。

まあ、はっきり言って今回の話はかなりキナ臭い。俺も色々調べてみたが、余りに情報が少なかった。

今の話以上の情報がどこにも存在しない。さっきはああいったが、この仕事は本来、お前が言った通り騎士団に依頼すべきことだ。事態が此処まで膨れ上がってしまった以上、一刻も早く騎士団に助力を乞うのが当たり前だ。もはや、責任云々などと言っている場合では無くな。しかしなぜか、お前に名指しで依頼が来た。その意味を理解した上で、この依頼を受けるかどうか決めてくれ。」

 

モリソンは真剣な顔で燐の青い瞳を見つめる。

燐はその話を聞き終え、しばらく思考した後に答えを出す。

 

「いいだろう。その依頼、受けてやる。」

 

 

 

 

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というわけで、件の研究所にまでやって来た。

ふむ、聞いた話通り中から外に何かが出て来た様子がない。

というのも、この研究所の周りは巨大な壁が円の様に取り囲みその壁の上には電気ワイヤーが取り付けられている。見た限り、この設計は外から中に入れないためというより、中から外に出さないためのものだろう。

そんな巨大な外壁には一つしか扉がない。人間一人が通るのがやっとだろうという大きさだ。どうやら物資の運搬は、空輸か何かで行なっていたらしい。外壁にはそれを持ち運べるだけの広さがある入り口は存在しないし、そもそも周囲が閉ざされていて、トラックなど車両事態が近づける様な場所じゃない。

その唯一の完全に閉ざされている頑丈そうな扉も専用のカードキーが無ければ開閉出来ないもので、その扉も特に壊された様子はない。それは、外壁も同じだ。

 

「行くか。」

 

俺は、モリソンからもらったカードキーを使い扉を開け研究所内に侵入する。今のところ悪魔の気配は感じない。しかし、施設の中は微かだが腐臭と血の匂いが漂っている。

だが、この研究所の一階は特に何もない。いたって普通の研究施設だ。

 

いや、なさすぎる。人がいないせいか、多少汚れているが全く荒れていないのだ。

 

(一体、此処で何があった?)

 

不気味な静けさが漂う中、事前にモリソンに言われた通りの場所へ向かい地下へ行くためのエレベーターに乗り、その扉が開いた瞬間だった。

 

「これはヒドイな。」

 

今までとは比較にならない、強烈な腐臭と血の匂い。

途中で気づいていたが、かなりの数の悪魔が地下を我が物顔で徘徊していた。そのほとんどが屍だか、その屍の服装が問題だった。

 

「なるほど、この研究所の職員も利用されていただけだったか。」

 

そこにいた屍は様々な種類がいたが、その中に研究所の職員らしき服を着た個体がいたのだ。

屍は死体に憑依する悪魔だ。生きた人間には憑依しない。

しかもその屍は職員がなったと思わしきものだけ欠損が激しかった。あちこちに銃で撃たれたと思わしき傷もあれば切られた様な傷もある。最初は自分で作った悪魔を手懐けられずに殺されたのかとも思ったがそうではない。あれは人間によってつけられたものだ。

そんな風に観察していたら、屍達がこちらに這い寄って来た。どうやら俺に気付いたらしい。さて、仕事をするとしますか。

 

 

 

 

 

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「ノロすぎるな。」

 

屍達は人間を見た途端、すぐさま襲い掛かろうと燐の元へ行こうとする、しかし燐が刀の鯉口を切った途端、その姿が残像を残して消える。その次の瞬間には屍達のはるか後方で、カチンという音が響いた。その音を聞いた途端に屍達の体がバラバラに崩れ落ちる。

 

『疾走居合』

 

燐は高速で駆け抜けながら周囲の敵へ向けて斬撃を放った。その凄まじい速度に動きが遅い屍が反応出来るはずもなく、なすすべなく切り刻まれる。燐はそれを見ることなく駆け抜ける。すると前方から、屍とは違う悪魔が近づいて来た。屍番犬だ。恐らく新しく作られた個体だろう、かなりグロテスクな、複数の人間をつなぎ合わせた様な肉塊のような姿をしたものが十数体、かなりの速さで近づいてくる。地下には、視界の確保に困らない程度の明かりがあるがそれでも全体的に薄暗い。そのせいか、屍番犬は活性化しているようだ。

それを見た燐は炎を込めた倶利伽羅を抜き放つ。

 

「死ぬがいい。」

 

繰り出される技は『次元斬』、それを4回。一撃目で自分にいち早く飛びかかって来た1体を、二撃目で一体目の後ろに並びながら迫って来た6体を、三撃目でその死体を飛び越えて来た4体を、そして、四撃目で何が起きたのか分からず、動きを止めてしまった、1体を、合計12体をすぐさま片付け、その間に周りから這い出て来た屍達に幻影剣を飛ばし始末する。

通路を進むと、また新たな屍番犬が現れる。

今度は比較的人間に近い構造をしている。それが7体、

たかが7体、燐の敵ではない。内一体が、腕を思い切り振りかぶり殴りつけてくるが、燐はそれをかわしながら居合切りを放ち、両断する。

残り2体が挟み込むように襲いかかって来たが、それをあえてギリギリまで引きつけてかわす。

かわした瞬間、2体の頭がぶつかった瞬間にその2体の首を同時に跳ねた。

残りの4体の内一体に幻影剣を飛ばして突き刺す。

その痛みからか叫び声を上げるも、『エアトリック』炎を足に込めることにより可能となる超高速移動で眼前に現れた燐に真っ二つに両断される。

残り三体が同時に背後から襲ってくるが、それをバック宙でかわしながら切り裂き三体纏めて排除する。

 

その直後、通路の奥からまた新たな屍と屍番犬が現れる。それも比較的広い通路を埋め尽くすほどの数だ、軽く見積もって百体以上はいる。

 

「くだらん。」

 

そんな悪魔達の頭上に無数の幻影剣が現れる。

『五月雨幻影剣』

数多の幻影剣が絨毯爆撃の如く降り注ぐ。

そんな爆撃から運良く生き延びた数体の屍番犬が燐に凄まじい速度て駆け寄るも、燐が連続で放った次元斬に近づく事も出来ずに切り殺される。奥から新たにやって来た悪魔の群れには疾走居合を繰り出し、一気に始末した。

 

あれだけいた悪魔が、一瞬で皆殺しにされていた。

死体から、青い炎が燃え盛る。

 

だがそんなものはどうでもいい。

再び燐は駆け抜ける。自身に備わった、悪魔を探知する能力、それが知らせる今までの悪魔とは比べ物にならない気配の元へ向かって。

自然と口角を上げながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




りん(リアルバイオハザードだぜ、ヒャッハー)

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