司令官の大樹は連れてくる艦娘がいると宿舎に向かい、シュヴァンフヴィードは大樹の傍らにいた艦娘、大淀に案内され応接室に通された。
何人も付ける長いテーブル、壁は豪華な装飾が施され、カーテンに至っても高級感がある。
椅子に座り待つこと10分、大樹は4人の艦娘を伴って入ってきた。
その中に、鳳翔の姿が見受けられたが、泣いていたのか目が充血している。
シュヴァンフヴィードは起立した。
「お待たせしてすまない」
「いえ、こちらこそお忙しい身でありながら時間を割いていただき感謝します」
「客人を粗末に扱ってしまったら帝國軍人の面目が潰れる。ましてこんな美人を蔑ろにする奴はナンセンスだ」
「はあ……」
「掛けてくれ」と促され椅子に腰を下ろす。大樹はシュヴァンフヴィードの対面に座り、4人の艦娘はそれぞれ左右に座る。
大樹は顔の前で手を組み、唇に宛がう。まるで値踏みをされているようだとシュヴァンフヴィードは感じた。
「私はこの単冠湾鎮守府の司令官、三島大樹、階級は少将を拝命している。まずは、敵艦隊を殲滅してくれたことに感謝する。ありがとう」
「礼を言われることではありません。偶然遭遇して戦端が開いただけですから」
「それでも、だ。少なからず私たちは多くの人材と艤装を失ったからな。それで君の所在だが、ここに来る前に鳳翔に少し聞いた。なんでも存在しない国の戦艦らしいね」
「はい。私の祖国ウィルキア王国は択捉島より西のオホーツク海近隣を領土にした海洋国家です。主に工業を主体として、造船業は世界でも1、2ぐらいでした」
大樹は納得したように頷く。艦娘の艤装は生前の船体が基礎になっている。シュヴァンフヴィードの艤装を一目見ただけでも、造船業が秀でた国の物だとわかるからだ。
「祖先はアイスランドから新大陸に渡ったデーン系部族の1つ、ヴィルク族。長く帝政ロシアの支配下でしたが19世紀末のクリミア戦争を期に、欧州各国の援助を受け独立しました。再侵攻の時には隣国の日本と共同して向かい撃ち撃退します。それから欧州大戦で共和制ドイツを援助し建立。それ以来、イギリス、ドイツ共和国、日本帝國は同盟国でした。しかし、ある日クーデターが起きました。私はクーデター派の旗艦として就役しましたが、私のより巨力な艦が建造されたことにより、入渠していました。クーデター派はその勢いに乗り世界に宣戦布告、世界を巻き込みながら戦い約1年で戦争はクーデター派の負けで終わりました。それからは近衛旗艦として就役し、10数年後にベーリング海にて撃沈されました。それがウィルキア王国と私の軌跡です」
「……なるほど」
突拍子ないことだがシュヴァンフヴィードの言っていることに嘘が含まれているとも思えない。しかし、大樹の中では微かに深海棲艦ではないかという疑心がぬぐえないでいた。
ここに来る前に見せた、底知れぬもの含んだ緋色の瞳が大樹にそう思わせていたからだ。
「うちからも質問ええ?」
挙手したのはこの鎮守府古参艦娘の龍驤。その容姿は先の駆逐艦の子のように小柄ではあるが鳳翔の同じ軽空母である。
「どうぞ」
「ほな、質問するで。鳳翔が追っとった艦隊全滅させたんだってな? 単艦でどうやったんか気になってんねん」
「私の艤装には対艦ミサイルが装備されています」
「み、みさいる?」
聞きなれない言葉に龍驤は目をパチクリさせる。
「日本名では誘導墳進弾と言います。私に搭載されているのは水上レーダー内が射程で約80キロ、ですが偵察機からのレーザー誘導しますと100キロは超えます」
「ひゃ、100キロ?! なんちゅうもんもってんよ!」
「それで艦載機を発艦させた空母を3本で撃沈。残る駆逐艦と戦艦は主砲と両用砲で殲滅しました」
呆気にとられたように場の空気は静まり返る。
「はぁ~ぶっ飛んでるなきみぃ……」
「私からもいいか?」
「どうぞ」
次に挙手をしたのは戦艦の長門だ。彼女は鎮守府の第1戦隊であり、その強気な性格と先見性から艦隊の旗艦を任せられている。
「話を聞くに、すでに敵艦載機は発艦し終えているように聞こえたが?」
「はい、艦載機は発艦して向かってきました。約30機ほど」
「それにしては艤装がきれいすぎる。例の誘導墳進弾で撃墜したのか?」
「いえ、ミサイルには限りがあり、高価なものですからこの程度の規模の航空機群に使用しません」
30機の編隊をこの程度と称す、シュヴァンフヴィードに長門は目を見開く。
「この程度……ではどうやって無傷で撃墜したんだ?」
「私の主砲51センチ50口径砲の弾種に3式弾に類似したものがあります。それを使用しました」
「51センチ50口径?! そんなものを積んでいるのか!」
「はい。そこから逃れた敵は両用砲で撃墜しました。弾頭は近接信管を組み込んでいるため、命中せずとも爆風で機体を破壊します」
「近接信管?! 貴艦の対空砲弾は全てそれなのか?!」
「全てではありませんが、大体と思ってくれていいと思います」
規格外のであるとは予想していたが、まさかここまで規格外とは。
同じ戦艦艦娘でありながらその戦闘力は自分たちを遥かに凌駕するのかと長門は尊敬と畏怖を混ぜた瞳でシュヴァンフヴィードを見る。
「まさかそれ程とは……君の祖国ウィルキア王国は随分進んだ技術先進国のようだね」
「そうでもありません。この技術は世界でも多くの姉妹たちに実装されました」
「つまりは貴女だけでなく、他の艦も装備されていたのですか?!」
「その通りです」
淡々と答えるシュヴァンフヴィードに鳳翔も流石に驚きを隠せなかった。
生前、未完成の兵器、発展した兵器を搭載されたシュヴァンフヴィードは最早、自分たちとは違う存在のように感じられた。
「……………」
「なるほど。確かに君は私たちの知っている艦娘とは違うようだ。しかし、帰順する場所はないならこれからどうするつまりだ?」
「その点は鳳翔さんの提案で貴軍に助力したいと思っています」
「それはありがたいが申し出だ。しかし、私たちは君が知っている日本帝國軍ではない。それでもいいのかね?」
「例え、私のいた世界と今ある世界が違っても、同盟国の惨状を傍観しては祖国のウィルキア近衛艦隊旗艦の名折れです。どうか貴軍に協力させていただきたい」
軍帽を取り、シュヴァンフヴィードは深々と頭を下げる。
「わかった。こちらとしても戦力が増すことに異論はない。君は客人艦娘として向かい入れよう」
「ありがとうございます、三島閣下」
立ち上がり、シュヴァンフヴィードは敬礼をした。
「さて、諸君はどう思う?」
シュヴァンフヴィードが応接室から退室し、残った4人に大樹は問う。
「うちは向かい入れるのに賛成やな。今の戦力じゃどのみち次の襲撃に耐えられるか怪しいしな」
「同感だ。航空戦闘群を単艦で殲滅できる戦力があるのなら鬼に金棒、十分な戦力増強になる」
「本当にそうでしょうか?」
シュヴァンフヴィードを迎えることに賛成な長門と龍驤に水を差したのは鳳翔だ。
「なんや鳳翔、なんか心配があるん?」
「確かに戦力の増強は今の私たちにとって嬉しいことです。私もここで会う前に、話も直接しています。けど……あの瞳が、時折恐ろしく感じられます」
鳳翔は俯きながら言う。大樹も同じ考えであった。あの緋色の瞳はどこか魅了しるようで、冷酷さを合わせ待つように思えていた。
「もしもあの方の言うことが本当なら……私たちは懐に制御が聞かない猛獣を引き込むことになりかねないのでは、と思うのです」
「考えすぎちゃうの? 現に深海棲艦を倒したんやろ」
「本当にそうか?」
それは今まで口を開かず、シュヴァンフヴィードに若干の警戒心を寄せていた艦娘の木曽であった。
「深海棲艦を殲滅した場所を鳳翔さんは見たのか?」
「いえ……彼女がそう言いました」
「なら俺はあいつを信じることはできない。言葉巧みにこちらに紛れ込んだ深海棲艦側の密偵と取るべきだ」
「……確かに木曽の意見にも一理あるな」
長門は頷く。「それは考えすぎちゃうの?」と龍驤は楽観的に取るが、鳳翔も大樹も木曽の意見を真っ向から否定する根拠が見つからなかった。
「諸君の見解はわかった。しかし、現状は窮しているのも事実だ。彼女が信用に足るかどうかは置いといて、立て直すまでの戦力が我々には必要なのだ。彼女の説明に虚偽があったとも思えない以上、危険ではあるが彼女を受け入れよう」
「賛成!」
「司令官の決定だ。意義はない」
「私もありません」
「……………」
3人は大樹の決定に肯定するが、木曽だけは納得することができなかった。
奴は何か隠している。そう確信があったからだ。
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