ランドグリーズ、ラーズグリーズの2人と別れシュヴァンフヴィードは格納庫に向かい整備長から艤装性能を記した資料をもらい受け、艦長室――自室に入りまとめ直す作業に取り掛かる。室内は簡素なベッドに机があるだけで艦長室と言え、豪華さがないと思われるが客船でなく、戦う艦であるための性だろう。机に着くと資料を広げる。
ウィルキア王国が存在しないことと、艤装内の武装仕様でだいぶ驚いていたことからこの世界の艦娘の艤装の性能は自分がいた時代より数十年前の性能だと考えられる。
全ての性能を熟知されてしまうと拿捕され、隅々まで解体、残骸にされかねない。そうなってしまえば拠り所をなくしてしまうどころか日本帝國を敵にしなければならない。
ただでさえ、知らぬ世界に転生して祖国がないだけでなく、同盟国の国と矛を交えるのはシュヴァンフヴィードの望むことではない。
しかし、映像を見せてしまったことである程度の性能を提示しなければ不審がられる可能性もなきに非ずだ。
修正箇所は主に、一部搭載武装と機関に関するものである。
次世代試験戦艦であるシュヴァンフヴィードには後に超兵器リヴァイアサンに搭載された大型特殊弾頭ミサイル「グングニル」の試作型の特殊弾頭ミサイル「レーヴァテイン」が搭載されている。
これはいわゆるナパーム弾頭ミサイルであり、猛烈な化学反応を起こし、爆破点を中心とした広範囲を焼き尽くすものだ。
前世でも帝国派は紅海艦隊に使用し味方艦隊と基地を巻き込み全滅させた。まさに悪魔の兵器であるが廃棄してしまえばそれほど重要視するものでもない。
問題は2つ目の機関である。
シュヴァンフヴィードは表向き次世代戦艦の試作艦で通っているがその実、超兵器戦艦の性能実証艦という二つ名を帯びている。
その為、彼女の機関が小型ではあるが超兵器機関が内蔵されている。
この為、56センチ全面防御であるにも関わらず、40ノット近い高速を誇ると同時に莫大な電力を生み出し、重力電磁障壁を発生させることができるのである。
一通りまとめ上げたシュヴァンフヴィードは通信機で副長を呼び出す。
『こちら副長です。何でしょう?』
「ちょっと私の部屋に来てくれる?」
『今でありますか?』
「そう」
『分かりました。すぐにお伺いします』
副長を待つこと5分、扉が叩く音が3回鳴る。
「副長です。失礼します」
扉が開き、現れた副長は敬礼する。「入って」とシュヴァンフヴィードは促す。
「如何しましたかんちょー? 自室にお呼びになるなんて」
「ちょっとね。副長――貴女はこれで三島司令に提出したほうがいいと思う?」
シュヴァンフヴィードは書類を渡す。彼女を呼んだ理由は自分だけでなく、補佐官として、艤装を預かる者としての意見を聞きたかった為である。
「これは、艤装性能をまとめたものですね。大方の理由は察しましたが……」
「ふむふむ、なるほど」と読み終えた副長はシュヴァンフヴィードに視線を向ける。
「恐らくこれくらいなら大丈夫でしょう。万が一の為に砲雷長には「レーヴァテイン」の封印を進言しておきます。後は機関に関してはどうにもなりませんから新型ガスタービンにでもしておきましょう。幸いあれは煙を出しませんし。原子炉とか言うよりは説得力がありますからね」
「わかった」
「あとはですね――」
副長を交えて制作を再開。
互いに意見を出しながら提出する性能表を修正していく。
「重力電磁障壁装置は知られたけど、機密で何とか通ると思う」
「ならいいのですが、念のため資料を作っておきましょう。あって損するものでもありませんし。それから――」
制作は日をまたいで続き、朝方に完成した。
2人は睡魔に襲われ眠りに付き、目が覚めたのは昼を迎えてからだった。
正午、目覚めたシュヴァンフヴィードは昼食を食べ終えて、鎮守府の指令室に来ていた。大樹に性能をまとめた資料を渡すためだ。
3回ノックして「入れ」と中から声が聞こえたのを確認してから扉を開ける。
室内では大樹が執務机で書類と睨めっこしており、隣には大淀が束になった書類を持っている。恐らく、襲撃によりものなのだろう。
「うん? シュヴァンフヴィード、君か」
「失礼します三島少将。艤装の性能をまとめた書類を提出しに伺いました」
敬礼して、執務机に座っている大樹に書類を渡す。
途端、大樹と大淀は目を丸くしてシュヴァンフヴィードを見る。
「これが……君の性能なのか?」
「信じられません」
「信じられないと思いますが、真実です」
「これなら多く見積もって3個戦隊以上の戦力を有しているのか。君が敵じゃないことを喜ばしいよ」
流石のつわものの大樹でも背筋が凍る気がした。一目見た時に感じた畏怖はまぎれもない真実であったからだ。
ならばと、大樹の中にある軍人としての性が、目の前の怪物艦娘の戦いぶりを拝みたいという衝動に駆られる。がそれを自制心フル活動で抑制する。ならば……。
「シュヴァンフヴィード。貴官に頼みがある」
「なんでしょうか?」
「君の艤装に、私を乗せてはくれないか?」
「司令官?!」
隣で驚く大淀をよそに、大樹は真っすぐとシュヴァンフヴィードを見つめる。
「それは……艤装内を見て回りたいと?」
「いや、そんな無粋なものじゃない。我ながら幼稚だと思うが、好奇心とでもいう類のものだよ。あの艤装に乗ってみた……ただそれだけだ」
「ダメかな」と無邪気な子供の様に瞳を輝かせる大樹に大淀は額に手をつき深いため息を吐く。
自分は彼の指揮下の艦娘ではないので断ることはできるが……いい歳をした大人がイエスと言ってくれるだろうと期待している瞳が、シュヴァンフヴィードを断れづらくしでいた。
「わかりました。艦橋内だけと約束してくれるのなら」
「わかった。約束しよう」
シュヴァンフヴィードからは見えないが、机の下の手はしっかりと握られ、ガッツポーズを取っていた。
「それと自分の妖精たちを上陸する許可を頂けませんか」
「理由は?」
「艤装内の妖精の中には整備士が十数人います。私たちを受け入れてくれたことへのお礼とまでは言えませんが、艤装の修復作業の手伝いが出来れば幸いかと。炊事の人手も必要になるようならこちらも手配いたします」
「そう言ってくれるのなら助かるよ。こちらは工廠とドックをフル活動しているが人手が足りない状況だ。工廠には私から言っておくよ。技術人だけでなく、交流を兼ねて全員の上陸を許可するよ」
「ありがとうございます。では私は上陸の準備と指揮をしますので失礼致します」
シュヴァンフヴィードは敬礼して司令室を退出した。
「上陸許可を出してよろしいのですか?」
「大淀は反対か?」
「いえ、司令がお決めになったことに意義はありませんが少々優遇ではありませんか?」
「確かにそうかもしれないが、これを読んでしまってはそうも言ってられないよ。間違えても敵にはしたくないし、多少の待遇は良くしないとな」
ふう、と息を吐き、手にした書類を机に置くと深く椅子に座り込む。
「本当に……とんでもない娘が来てしまったものだ」
大樹から上陸許可を受け取ると、桟橋ではすでにシュヴァンフヴィードの艤装からの内火艇数隻が接岸していた。
整備員だけでなく、全員の上陸を許可してくれ為、シュヴァンフヴィードは妖精たちに1日交代の方眩上陸を言い渡した。
まずは整備長をはじめとした技術人と、仮設炊事を行うために補給長含む数人を先に上陸させた。
「整備長たちは入渠した艤装の修復作業を行うために工廠に。補給長は仮設炊事所を立てて配膳の用意をして。三島少将の許可はすでに下りています。私たちを受け入れてくれた恩を返すように全力で答えて」
「「了解です!!」」
すぐさま内火艇から荷を下ろして、妖精たちはそれぞれの仕事に取り掛かった。
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