――アルフォンシーノ方面。
シュヴァンフヴィードが復活したベーリング海海域の名である。
小さな島々が列島のようにアメリカ西部海岸までつながっている。
この海域には小さな泊地と飛行場が点々と健在しており、深海棲艦の東部方面進行拠点となっている。
無論、彼女たちは知るはずもなく、敵の庭を何食わぬ顔で南下していた。
出発して12時間、シュヴァンフヴィードは艦橋内に居なかった。初の艤装操縦は負担が予想以上に掛かり、副長が休憩を具申したからである。操舵権を航海長に委ね休憩ついでに副長と共に艤装内の見回りをしようとしていた。
前艦橋のエレベーターでCICルームの階まで降る。
エレベーターが開くと、「関係者以外立ち入り禁止」と掲げられた扉が目の前に見えた。
室内に入ると、中には電子機器がそこらかしことあり、数人の妖精たちが神経を研ぎ澄まし計器を凝視している。
「だれ……かんけいしゃい…………かんちょー……」
「おじゃまします」
「……失礼……しました」
船務長は入室者がシュヴァンフヴィードと分かると、若干の驚きを見せて敬礼、それに合わせ室内の妖精も続いた。
「楽にして。船務長は変わったことはない?」
「……はい……水上……対空レーダー……ソナー……共に感……なし……です」
「そう……船務長」
「なんで……しょう……あっ!」
シュヴァンフヴィードの手が船務長の前髪をかき分けた。
呆気にとられていた船務長はかぁあっと顔を真っ赤にする。
「前髪を分けていた方が貴女には似合うわ。こんなにもかわいい顔をしている」
「か……わわわわわっ!???」
しゅううううっと擬音が聞こえるほど船務長は高揚した。
「それじゃ。みんながんばってね」
「「「はい!」」」
「副長、行こう」
「はい」
踵を返しシュヴァンフヴィードと副長はCICルームから出ると「船務長大丈夫でありますか?!」「ああ、なんて嬉しそうな顔して気絶してるんだろう……」「いいな、私もかんちょーに触れてほしいな~」と扉の閉まる直前に聞こえた。
エレベーターに再び乗り、1階の通路を進んでいるとどこからかいい匂いが漂ってくる。誘われる様に進むとそこは食堂であった。
「前菜の容易はいいかい! 」
「アイマムッ! できています!」
「ならメインの調理を手伝ってやりな! 下処理に時間をかけ過ぎて遅れている!」
「イエスマムッ!」
怒号と熱気を発しながら妖精たちは料理をしている。その一角に指示を出しながらも手を動かし、人一倍に調理をしているのが、我らが縁の下の力持ちの補給長である。
白シャツの上に調理用のエプロンを掛け、三角巾を巻いている。
入ってきた二人に気づいて声を掛けた。
「かんちょー殿! このような姿で失礼します」
手にした包丁を置き、敬礼するがすぐに調理に戻る。
「いい。こちらこそ仕事の邪魔をしてごめんなさい」
「とんでもない。こちらから出頭するのが規則ですが、この通り補給員総出で料理を作らないといけなく、それでも足りないくらいです。猫の手も借りたい状況ですよ」
話しながらも補給長の手は止まらない。
厨房を見渡しシュヴァンフヴィードは頷くとぐぅっと空腹を知らせる音がなった。
「…………」
恥ずかしそうに顔を反らすと補給長が吹き出した。
「あっはっは! 少々お待ちください、ただいま軽食を用意しますから」
「……いい」
拗ねたように断るが、
「はい、サンドイッチとコーヒーです。副長の分も用意しましたからお好きな席でお食べくださいな」
「……いいといった」
「かんちょー、貴女は万全でないといけません。だから今は食べて力をつけてください……それともあたしの飯が食べれないと言いますかい?」
びくっと食堂に居た全員の背筋に凍る。補給長はニコニコとしているが口元と目元が揺れている。
「……ありがとうございます。残さずに食べます」
「かんちょーと同じく」
「そうかい。食べ終えた食器は返却口に置いといてくださいな」
スタスタスタと逃げるようにテーブルに着く。
「補給長こわい」
「気が強いでありますが、いい妖精でありますよ」
片言になりながらサンドイッチを食しているシュヴァンフヴィードに副長は苦笑。
小腹を満たしたところに
『かんちょー……水上レーダーに感あり……数は…………6……前方0―1―0……距離約70……です』
船務長からの通信が届くと同時にシュヴァンフヴィードの脳内に情報が送られてきた。網膜に投影されたレーダーに光点が表示されている。
「副長、どう思う?」
「情報が少ないです。敵にしろ味方にしろ今は、無人偵察機を送り、偵察をしてみてはいかがでしょうか?」
「そうね。そうしようか」
敵、と聞きシュヴァンフヴィードは考え込む。
艤装との接続時に送られてきた情報には敵と識別する存在のデータが存在した。
――深海棲艦。
突如として全世界の海域に出現した生物の呼称である。
その全てが軍艦と生物を混ぜた異形としか言えない姿かたちをしている。大きさは駆逐艦クラスから大型の戦艦クラスまでさまざまであり、近年は艦娘型深海棲艦が確認されていた。
そして深海棲艦が現れた時期に呼応して艦娘も世界に顕現していた。
その事実からシュヴァンフヴィードは思うのだ、深海棲艦とはいったい何なのかと。
その考えはいったん頭の隅の方の追いやり、無線機のチャンネルを合わせる。呼び出すのは航空機長だ。
「航空機長、無人偵察機を反応のあった海域に飛ばして」
『直ちに準備出来次第発艦させます』
「お願いね」
『はっ!』
通信を終えると、残っているサンドイッチとコーヒーを口の中に放り込み、二人は艦橋に急いで戻る。
シュヴァンフヴィードの艤装には少数ながらの艦載機が搭載されている。
その一つに無人偵察機メーヴェがある。
全長は7メートル。全幅13メートル。航続距離約3000キロメートル。上昇限界高度は8000メートル。無線操縦により艤装内に居ながら安全に偵察行動が可能である無人航空機だ。
搭載兵装は皆無で前部にセンサーが搭載さており、高高度からの敵艦隊、敵地偵察に特化してある。シュヴァンフヴィードに搭載されているメーヴェの機体色は迷彩効果を踏まえた白い機体色になっている。
「整備長、メーヴェを飛ばすぞ。準備を頼む」
「まかせとけ航空機長。野郎ども仕事だ! ちんたらしてるとかんちょー殿の信頼を失う、全力を尽くせ!!」
「「「「おう!!」」」」
蜘蛛の子を散らすように整備長と整備員妖精は作業に取り掛かる。
「エレベーター降ろします」
警報が格納庫に鳴り響き、天井の一角が沈み込む。このエレベーターを使い艤装外へ運び出す。
降り終えたエレベーターにメーヴェを人力で押し乗せ、備え付けのカタパルトへの固定作業に入る。整備員の手つきは慣れたもので、メーヴェは3分と掛からずに固定された。
「カタパルトへの固定作業を終了しました整備長!」
「よし、上げろ!」
警報を鳴らしながらエレベーターは無人偵察機を乗せ上昇していく。
『準備完了したぞ、航空機長。あとは任せる』
「おう! センサー員準備はいいか?」
無人機操縦室に居る航空機長は後ろのセンサー員の顔をのぞき込む。
「システムチェック、センサーの起動を確認。感度良好。CICとのデータリンク確認。グリーンライト、いつでもどうぞ」
「了解。エンジン始動」
甲板に到達するとカタパルトに設置されたメーヴェの後部レシプロエンジンが唸りを上げる。
「メーヴェⅠ発艦準備良し」
『了解メーヴェⅠ発艦』
「発艦!」
メーヴェはカタパルトから緩やかに飛び立つと水上レーダーの反応があった海域の空へ旋回し速度と高度を上げて行った。
感想誤字脱字なんでも待って居ます。