『見えた! 方位0―2―0、高度6000、距離は……48000!』
数分後、防空艦橋で双眼鏡を覗いていた見張り員妖精が接近する航空機を肉眼で捉え、報告する。
「機種は?」
『……機種は……っ! 彩雲です! 間違いありません!』
彩雲とは日本帝國海軍の偵察機、つまり水上レーダーに映っているのは日本艦隊であった。
思わぬ場所であるが、友好国の艦隊との遭遇は嬉しい限りであるはずだがシュヴァンフヴィードの表情は硬い。
「如何しますかかんちょー?」
「船務長、彩雲の通信を傍受できる?」
『……少々お待ちを…………周波数は解析…………完了しました……チャンネルは9です』
「ありがとう」
船務長が解析した周波数のチャンネルに無線機を合わせる。
ノイズの雑音が消え、微かに声が聞き取れる。
『こちら彩雲22。艦隊の前方30海里の海上に見たこともない戦艦がいる』
『見たこともない? それは深海棲艦なの?』
『いえ、そういう雰囲気では……船体は白銀、艦橋の形から大和型に近いですがそれよりでかいです』
『大和型よりも?!』
『指示を乞います――鳳翔』
『……わかりました。彩雲22は偵察を続行してください。けど無理をしないように。対空砲が来たら退避してくださいね』
『了解。むざむざ敵の対空砲火にやられるくらいならとんずらしますぜ、お艦』
『もう、お艦と呼ばない、作戦行動中よ』
『はっはっは。了解、通信終わり』
声はノイズの波の中に消え、シュヴァンフヴィードはチャンネルのスイッチを切る。
防空艦橋から、上空の彩雲は通信の通り高高度で自分たちの監視を継続しているとの報告が入る。
通信の内容から緊張が緩む副長たちだが、シュヴァンフヴィードの気を緩まなかった。
時同じく、南西の海域に艦隊がいた。
軽空母鳳翔を旗艦とした空母戦闘群である。旗艦の鳳翔を中心に、前衛に巡洋艦1、駆逐艦3。輪形陣を敷きながら北へと進路を取っていた。
「皆さん。たった今、偵察の彩雲22から通信がありました。前方30海里に不明の戦艦を発見、艦橋の形から大和型と推定されますが、それ以上に大きいそうです」
通信を開いた鳳翔は、全艦に向け彩雲がもたらした情報を共有する。
『新種深海棲艦じゃねぇのか?』
そう言うのは天龍型巡洋艦、一番艦の天龍。言葉遣いは荒いが、根はやさしくお節介な艦娘である。主に駆逐艦の司令塔として水雷戦隊を束ねているが、実のところはお守りをするのが仕事であったりする。
『大和型以上……そいつはиспуг(驚き)だ。味方なら頼もしいが……敵なら厄介だね』
淡々とした口調で言うのは、暁型駆逐艦2番艦の響。彼女は生前、戦争終結まで生き残った数少ない艦であり、3度の損傷を受けるも沈没しないことから「不死鳥」と形容された艦娘である。戦後は賠償艦としてソ連へ。そのため時々ロシア語を混ぜながら会話する癖がる。
この艦隊では鳳翔の防空任務に就いている。
『あわわわっ大変なのです!』
あたふたとした声の主は、暁型駆逐艦4番艦、電である。
真面目ではあるが気が弱く、おっちょこちょいな性格であり、よく他の艦娘とぶつかってしまう。
響と同じく鳳翔の防空任務に就いている。
『大丈夫よ電。偵察の彩雲が対空砲を受けてないのなら敵じゃないわ。きっと米国から来た艦娘よ!』
そう言いうのは暁型駆逐艦3番艦雷。活発的な性格でこの艦隊の駆逐艦の中ではお姉さん的な存在で天龍の補佐を請け負っていた。
彼女は、不明艦が偵察機を攻撃しないことから、敵でなく遥か大陸から来た艦娘でないかと言うが、敵の海域を単艦で航行していることからやや楽観的な見解であるが、慌てふためく電を落ち着かせようとしてのことだろう。
『単艦でか? は、ないな』
『その意見には同意だ。天龍の言う新種の可能性が高いな』
『ど、どうするのですか?』
『……そうね。戦艦級を相手にするには先手を打つのがいいけど、鳳翔さんはどう思う?』
「……もう少し……接近して目視距離で確認しましょう。通信で呼びかけて、もしも敵ならば作戦行動を中止して撤退します」
危険ではあるが全員「了解だ(なのです)(した)(よ)」と鳳翔の指示に従う。
25海里まで接近した鳳翔の艦隊は、彩雲が発見した不明艦の目視距離まで来た。鳳翔の見張り員は地平線に薄っすらと見えるシュヴァンフヴィードを発見した。
『前方に0―2―5に艦影補足。大きさから軽空母が1、巡洋艦1、駆逐艦3の航空戦闘群。旗は旭日旗が見えます』
見張り員の報告に「本当か」と副長が聞き返すと「本当です」とすぐに応答した。
その時、船務長から前方の艦船から通信を受けていると報告が入る。
「繋いでと」と船務長に指示をしたシュヴァンフヴィードの通信機に音声が送られる。
ノイズが交じりながら声は徐々に鮮明に聞こえてきた。
『前方の不明艦応答してください。こちらは日本帝國海軍単冠湾鎮守府第一艦隊空母戦闘群旗艦鳳翔です。貴艦の所属を答えてください。応答無き場合は、貴艦を深海棲艦とみなし、攻撃を加えます。繰り返します応答願います』
「こちらはウィルキア王国海軍近衛艦隊第一艦隊旗艦シュヴァンフヴィード。当艦に交戦の意思はない。母国に帰還中に際すため速やかに進路を譲られたし」
『……もう一度聞きます。どこの国の所属と言いました?』
「ウィルキア王国。貴艦の国、日本帝國とは同盟国のはずでは?」
『申し訳ありませんが存じ上げません。お国はどちらに?』
「オホーツク海、サハリン島より西の湾岸」
『その場所に国があることはありません。何かの間違いでは?』
冷や水を掛けられたように血の気が引き、シュヴァンフヴィードは額に手を当てる。
「かんちょー!? 大丈夫ですか!」
「…………ええ」
乱れる呼吸を整え、通信相手の鳳翔とか言う艦娘が母国――ウィルキア王国の存在を認知していないことを冷静に思案する。
工業が盛んなウィルキアは日本の近隣の国であり、友好国だ。
その存在自体を知らないことはありえない。
だとすれば、意図的に隠しているのか? 何のために?
「かんちょー……先方は何と言ってきたのですか?」
「……母国ウィルキアは存在しない……って」
「そんな……まさか?!」
流石の副長も声を上げ驚く。
可能性はあった。転生したからって元の世界とは限らない。航海中に過ぎったことではあったが、極力考えないようにはしていた。
でなければ……自分たちはどこに帰ればいいのわからなくなってしまう恐れがあった。危惧していたことが現実になってしまった。
「……どうしよう……母国が……ウィルキアが無いのなら……私はどこに向かう……どこに帰ればいいの……どこに……」
悲痛を帯びた、けれど消えてしまいそうな声に副長は息を飲む。
シュヴァンフヴィードは平静を保とうとするが動揺を隠すことはできないでいた。目的地を、生まれた故郷をなくしてしまった彼女は、自分の存在を示す唯一の証を失ったに他ならなく、精神に及ぼす傷は深かった。
目の前が歪み、瞳から溢れ出た雫は頬を伝い流れ落ちていた。
『どうしました? 応答してください』
「………………」
通信機から聞こえる鳳翔の声は聞こえ、空しく通り過ぎて行く。
「かんちょー! しっかりしてください!!」
叱責するような声が聞こえ、びくっとして振り向く。
「指揮する貴女がしっかりしなければ、我々は混乱の末にバラバラになります。お気持ちは察し致しますが、ここは冷静に…………冷静になって………ぐだざい……うぅ……」
「副長……ありがとう。心配かけてごめん」
泣きながらも支えてくれる副長の言葉で、シュヴァンフヴィードは冷静さを取り戻す。
そうだ私は彼女たちを艦長なのだ。どんなときも冷静な判断を下さなくてはいけない立場なのだ。自分だけが悲しいのではない。一部である彼女たちも同じように目的地と故郷を失ったのだから。
「こちらシュヴァンフヴィード。双方との認識の違いが大きいと思われる。詳しい情報を知る為に艦載機で貴艦への着艦を希望する」
『わかりました。こちらも貴女の事が知りたいです。着艦を許可します。お待ちしております』
通信を終え、エレベータの扉に向かう。
「副長、ちょっと行ってくる。艤装のことお願いね」
「はいっ!! お任せくださいっ!!」
エレベータに乗り込み、1階の通路を進んで格納庫まで歩いていく。
自分の中で鳳翔さんは艦娘の中でも1,2を争うくらい好きです。
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